Victor S-777
2WAY SPEAKER SYSTEM ¥119,000(受注生産)
1976年にビクターが発売した2ウェイのフロア型スピーカーシステム。同軸型のユニットが特徴的なスピーカーシ
ステムで,バックローディングホーンなど様々なタイプのスピーカーを手がけていた当時のビクターの,スピーカー
対するチャレンジ精神が,この1台にも現れていました。
S-777の最大の特徴は,上述したようにコアキシャルユニットの採用でした。「フェイズ・リンク・コアキシャル・スピ
ーカー」と称するもので,位相をしっかりと考慮した設計が特徴でした。2つ以上のスピーカーユニットが同軸上に
配置されたコアキシャル・スピーカーは,音の放射位置が揃うため音像のまとまりが良く,しかもマルチウェイなら
ではのワイドレンジな特性を持たせることができるなど,多くのメリットがあり,実際,1950年代,1960年代には
数多くのコアキシャル・スピーカー・ユニットが作られていました。反面,ウーファーとトゥイーターなど同軸に配置さ
れたユニット間の干渉の問題がありました。特に,相互の干渉や混変調によってクロスオーバー周波数付近で,
音の乱れが生じやすいといわれています。当時,ビクターはコンピューターを駆使して,パルス・トレイン法,フェイ
ズ・モアレ伝送パターン測定法などの最新の測定法,解析法を用いて音の放射波形を映像化するなどして,コア
キシャル・スピーカーの解析を行い,ユニットの位置関係を精密に調整すれば,干渉のない波形合成ができること
を立証し,位相を合わせた「フェイズ・リンク・コアキシャル・スピーカー」の開発を行っていきました。
ウーファーは,30cmのコーン型で,アメリカ・ホーレー社製の軽量でヤング率の高いコーン紙を採用していま
した。トゥイーターは,アルミ製のエクスポーネンシャル・ホーン(断面が円形または楕円形のホーン)をもつコ
ンプレッションタイプのものが搭載されていました。ダイアフラムは,アルミニウム合金を使用し,機械歪みの
少ないビクター独自のエア成型法で精密に加工されたものが搭載されていました。ホーン開口部には,ドリッ
プ(水滴)形イコライザーが通常のスロートイコライザーに対向した位置に設けられ,音像を前進させる働きに
より,ホーンの奥から音が聞こえる現象やホーン臭さを抑え,指向特性を改善していました。
エンクロージャーは,バスレフ型で,フロントバッフルが後方へ5度傾斜した形状となっていました。これは,通
常の聴取位置に対してもっとも適当な角度を人間工学的に割りだして設定されたもので,この形状により,エ
ンクロージャー内部の平行面が減ることで,定在波による周波数特性の乱れを防ぐ効果ももたらしていました。
ネットワークも,強力なパワー入力に対応した,低損失・高耐入力のものが搭載されていました。
以上のように,S-777は,コアキシャルスピーカーという,個性的なユニットを搭載したスピーカーシステムと
して,メーカー製らしい完成度を見せていました。音像の定位がよく,まとまりの良い音は独自の魅力を持っ
ていました。また,一部を除いて同一ともいえるユニットを搭載したスタジオ用モニタースピーカーS-3000
(¥138,000)も発売されました。くっきりと音像を描き出すという音の傾向は似ていましたが,S-777の方
が低音がやや豊かに響き,音楽観賞用をねらった音ともいえました。