PIONEER S-LH5
2WAY SPEAKER SYSTEM ¥65,000
1996年に,パイオニアが発売したスピーカーシステム。パイオニアは,もともとスピーカーからスタートしたブランド
で,歴史的にも多くの名機を生み出し,様々なタイプのスピーカーシステムを製品化してきました。また,1975年
より,デジタルレコーディング時代を見通した,プロ用に向けたブランドTAD(Technical Audio Devicds)を誕生さ
せ,海外で高い評価を得るまでになりました。そうした技術やノウハウを生かし,高感度なデジタル再生をテーマとし
て,比較的手頃なサイズ,価格で登場させたモデルがS-LH5でした。

基本的には,2ウェイのバスレフ形スピーカーシステムですが,トゥイーターにコンプレッションドライバー+ホーン,
ウーファーには新開発の独自のユニットを搭載するなど,非常に個性的で特徴的なスピーカーシステムとなっていま
した。そして,その設計のベースにはプロユースのTADの技術やノウハウが生かされていました。



ウーファーは,22cm口径で,新開発のリニアパワーユニットが搭載されていました。このリニアパワーユニットの最
大の特徴は,エッジレススピーカーであることでした。通常のスピーカーユニットでは,振動板とフレームをつなぐ形
でエッジがあり,磁気回路の駆動によって振幅する振動板の正確な動きを支える働きをしていました。しかし,逆に
振動板の振幅域がエッジの可動する範囲内に制限され,また振動板とともにエッジも振動することによる歪みや,バ
ッフル面からの振動の伝達など音質面にデメリットも存在していました。そこで,S-LH5では,独自の技術によりエッ
ジレス構造を実現していました。具体的な構造としては,フロントフレームに連続して筒状のフレームがマグネットの
方向に伸びており,振動板とフレームの隙間が1mmほどで,隙間の長さが15mmほどあり,その隙間を空気がわず
かに通過できるようになっており,バスレフダクトの一部としても働くようになっていました。このフレームの隙間にあ
たる部分は,空気の乱流が起こらないように,丁寧な切削加工が施され,滑らかな仕上げとされていました。こうした
エッジレスのリニアパワー方式により,(1)エッジに起因する不要な放射音や振動板の歪みの問題が解消される,
(2)コーンの振幅域が大幅に拡大され,耐入力のアップが実現される,(3)エッジから解放されたことによりリニアリ
ティが向上する,などのメリットがあるということでした。
振動板は,TADの1601系の振動板の技術を生かしたもので,パルプコーンをベースに,表面に高分子フィルムを
ラミネートし,その上に制振のための塗装がなされ,熱処理が加えられたというもので,自然で張りのある音が実現
されていました。駆動系のボイスコイルは,エッジワイズ巻きのロングボイスコイルが採用され,ストロークが充分に
確保され,ダンパーは,ダブルダンパーが採用されていました。



トゥイーターは,AFAST-SZホーンと称したホーン型が採用されていました。ドーム型に比べ,リスナー側に音場が
広がる傾向があるホーン型とすることで,リスナーが音に包まれるような音を求めた設計となっていました。ホーンの
形状は,全方向の指向性を均一化した丸形のホーンが採用されていました。直接音と間接音の比率を適正にする
ことで,四角いホーンほどストレートなモニター調にならない,耳あたりの良さを求めていました。AFAST-SZホーン
の名の通り,上部には,TADでも採用されているAFAST(Accoustical Filter Assited System Tuning)技術が
採用されていました。AFASTは,ホーン壁部に笛のような穴がいくつも空けられた音響管を設けたもので,特殊な形
状で,ホーンのfoである1/4波長にチューニングした音響管を設けることで,ホーンの共振を吸収し,いわゆるホー
ン臭い音を解消していました。そして,SZはSpread Zoneの略で,ホーンの円錐状の領域を離散的に広がる形状と
することで,ホーン中央部と側壁部の音速を調整し,全帯域にホーンロードがしっかりかかった音の再生を実現してい
ました。ホーンの開口部のサイズは,ウーファーと合わせることで,指向特性の連続性やエネルギー的,位相的なつ
ながり,なめらかさを高めていました。
ホーンの後部に配されたリアコンプレッションドライバーは,TAD系のドライバーのノウハウを元に新設計されたもの
で,精密に調整された2.5スリットのフェイジングプラグが採用され,バックカバーも,強烈な音圧による共振を抑える
ため,プラスチック系ではなく,アルミダイカストが使用されていました。ダイアフラムは純アルミニウム製で,エッジ部
はチタンという構造となっていました。エッジ部と同じ素材のチタンのダイアフラムではなく,あえてアルミニウムにした
のは,ハイ寄りになりやすいチタンに比べ,アルミニウムの方が中音域まで充実した音をねらえるためでした。逆に
エッジにチタンを使用したのは,バネ定数がすぐれていたためで,熱処理により内部歪みを取り除いたチタンが使用
されていました。また,ダイアフラムとボビンが一体構造であるため,ダイヤフラムはアルマイト処理が施され,ボビン
に直接巻かれたボイスコイルは,エッジワイズ巻きが採用され,変換ロスを抑えていました。磁気回路にはフェライト
マグネットながら,磁束密度の高いものが搭載されていました。

エンクロージャーは,バスレフ型で,2本の大きなバスレフポートがバッフル面のほぼ中央付近に設けられていました。
表面の仕上げはペアウッド(梨の木)仕上げで,淡色の木目調の上品な色合いでした。バッフル板+側板+裏板,天
板,底板と,それぞれに応じてそれぞれ異なる3種類の木材が使用されていましたが,表面の仕上げは裏板も同一の
仕上げになっていました。フロントバッフルは,当時多かったラウンドバッフルではなく,バッフル面の周辺に額縁がつ
いた比較的おとなしいデザインでしたが,額縁部分はテーパー状となっており,ある程度のラウンド効果ももたせてい
たようです。こうしたデザインは,モニター調のユニットを搭載しながらも,インテリアに比較的溶け込みやすくするねら
いがあったそうです。
低音を反射する斜めの反射板が特徴的な専用のスピーカースタンドCP-LH5(¥35,000)が別売で用意され,サイ
ズ,デザインともマッチングがとられていました。

ネットワークは,新開発の空芯コイルを直接基板に取り付けたタイプのもので,ウーファー用とトゥイーター用は分散配
置されていました。ウーファーは単純なLCによる-12dBのハイカットで,トゥイーターは,-12dBのローカットとLCを
並列に接続した補正回路がはいった24dBクロスとなっていました。厳選されたコンデンサーや特殊撚り構造の配線材
など音質への配慮が行われていました。
裏板には,高域レベルを可変するアッテネーターが装備され,INCREASE(増加),NORMAL(通常),DECREASE
(減少)の3ポジションが選択できるようになっていました。
スピーカー端子は,バナナプラグも接続できる大型の金メッキ端子が装備されていました。

以上のように,S-LH5は,TADの技術やノウハウを生かした比較的手頃なサイズのスピーカーシステムで,エッジレス
ウーファー,ホーン型トゥイーターなど,特徴的なユニットを搭載しながら,モニター調の音ではなく,耳障りのきつい音
を出さない,音楽をリラックスして聴ける音に仕上げられていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



上質にして純粋なる響きは,
音楽への思いを呼びさます。

より豊かな音楽性を求めて,
進化するHiFiサウンドのために生まれた
パイオニア独自のエッジレス構造,
リニアパワー・テクノロジー。

◎スピーカー駆動の理想を追求した
 リニアパワーのエッジレス構造。
◎振動板のみのピュアなサウンドが
 クリアな音を実現。
◎再生音の広帯域,広ダイナミックレンジ化に
 対応した卓越したリニアリティ。
◎エッジに制限されない自由な振幅が
 すぐれたパワーハンドリングを実現。

深く豊かに,そしてクリアに奏でる。
リニアパワー&ホーンの絶妙なバランスに酔う。

◎口径22cmリニアパワーユニットが,クリアな中高域の
 再現性と低音域でのパワーリニアリティを実現。
◎新開発,AFAST-SZホーントゥイーターの
 明確な音像定位と心地よい音場の広がり。

●独自の丸型ホーン形状が可能にした豊かな音楽性
●新開発の高効率設計リアコンプレッションドライバー搭載

◎各種の高品質パーツ採用のネットワーク。
●淡色木目調6面仕上げ,ファインチューニングエンクロージャー
●バナナプラグも接続可能な大型金メッキ入力端子を装備




●仕様●

型式
位相反転式ブックシェルフ型
スピーカー
ウーファー:22cmコーン型(リニアパワー方式)
トゥイーター:3cmコンプレッションドライバー+AFAST-SZホーン
インピーダンス
6Ω
再生周波数帯域
33Hz~30,000Hz
出力音圧レベル
90dB/W(1m)
最大入力
160W(EIAJ)
クロスオーバー周波数
1,200Hz
外形寸法
370W×575H×328Dmm
重量
19.2kg


PIONEER S-LH5a
2WAY SPEAKER SYSTEM ¥68,000
1998年に,S-LH5aにモデルチェンジされました。ユニット方式,基本構造など継承され,各部に改良,見直しが
行われていました。



ウーファーでは,コーン紙最外周のリング材質と発泡倍率の見直しが行われ,軽量化と高感度化,周波数特性の
フラット化が図られていました。エッジワイズボイスコイルも密度を上げて磁気効率が高められていました。アルミ
ダイキャスト製のフレームの材質も,色が金色がかっていることから分かるように,強度等の面で見直しが行われ
ていました。


トゥイーターでは,リアコンプレッションドライバーの改良が行われ,磁気キャップに磁性流体を入れることで,ボイ
スコイル下部の空洞共振の悪影響を排除していました。

エンクロージャーも改良が施され,強度が高められていました。背面の入力端子は,バイワイヤリング接続対応
の大型金メッキ入力端子に改められていました。また,高域レベルのアッテネーターは,CLEAR&RICH,CLEAR
RICHの3ポジションとなり,サウンドコントロールスイッチと名称も改められていました。

以上のように,S-LH5aは,前モデルS-LH5をベースに細部に見直しが図られたもので,音の面では,クリアさが
増していたものの,耳あたりの良さも失わない方向でバランスがとられていました。その意味で,リラックスして音楽
を聴かせるという個性はそのまま生かされていたものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



TADの系譜ならではの感動。
音楽への思い,さらに高まる。

”Clear&Rich”コンセプトを実現する
リニアパワー&ホーンテクノロジー。

◎正確さと豊かさを追求する
 リニアパワー&ホーンテクノロジー。
◎振動板のみのクリアな音質を再現する
 エッジレス構造のリニアパワーユニット。
◎明確な音像定位と心地よい音の広がり,
 AFAST-SZホーン。
◎この音はゆずれない。正確さと豊かさを
 追求するリニアパワー&ホーン。

さらに熟成を進めたクリア&リッチ。
リニアパワー&ホーンは新たな高まりへ。

●セッティング環境に合わせてCLEAR&RICH,CLEAR,RICHの
 3ポジションから好みの音質を選べるサウンドコントロールスイッチ
●厳選された高品質ネットワーク用パーツ
●淡色木目調6面仕上げ,ファインチューニングエンクロージャー
●バイワイヤリング接続前提の大型金メッキ入力端子
●特殊撚り構造の芯線を持つバイワイヤリング用スピーカーケーブルを2本付属




●仕様●

型式
位相反転式ブックシェルフ型
スピーカー
ウーファー:22cmコーン型(リニアパワー方式)
トゥイーター:3cmコンプレッションドライバー+AFAST-SZホーン
インピーダンス
4Ω
再生周波数帯域
33Hz~30,000Hz
出力音圧レベル
90dB/W(1m)
最大入力
160W(EIAJ)
クロスオーバー周波数
1,200Hz
外形寸法
370W×575H×327Dmm
重量
19.2kg
※ 本ページに掲載したS-LH5,S-LH5aの写真・仕様表等は
 1996年11月,1998年8月のPIONEERのカタログより抜粋
 したもので,パイオニア株式会社に著作権があります。したが
 って,これらの写真等を無断で転載,引用等をすることは法律
 で禁じられていますので,ご注意ください。

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