Technics SB-M10000
4WAY 12UNIT SPEAKER SYSTEM ¥2,300,000
1995年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したスピーカーシステム。テクニクスの歴代スピーカーの中でも最大
級で最高級機ともいえるスピーカーシステムで,テクニクスが長年培ってきたスピーカー技術を投入して開発した高
性能スピーカーシステムでした。

SB-M10000は,4ウェイのフロア型で,12ものユニットをもつ大型のシステムでした。パッシブラジエター付ケルト
ン型ウーファーとドーム型スーパーグラファイトトゥイーターの採用により,20Hz~100kHz(-10dB)という広帯域
再生を実現していました。基本的には,60Hz~100kHzをカバーする3ウェイの上下に20Hz~60Hzを再生する
スーパーウーファーを組み合わせたような形のスピーカーシステムでした。

スピーカーの低域再生においては,代表的な方式として密閉型とバスレフ型がありますが,基本的な特性としてそれ
ぞれに一長一短の部分があります。密閉型は低域まで周波数特性を伸ばせるものの,早くからレスポンスが低下し
てしまいまうのに対しバスレフ型は十分な低域レスポンスが得られる反面急激はカットオフに見舞われるという特性
があります。これらの2つの方式の良い点を組み合わせた特性を持たせる方式として,ケルトン方式を採用し,複雑
に絡み合う変数の制御をこなしながら研究し完成させたのがSB-M10000の低域再生を担当するスーパーウー
ファー部でした。
ケルトン方式は,キャビネットを2つの部屋に仕切り,内側の仕切り板にドライブスピーカーユニット,外側のバッフル
板にパッシブラジエターを配し,ドライブスピーカーユニットの前の空気とパッシブラジエターとの共鳴効果により低音
域の拡大と量感の向上を図るものでした。
さらに,SB-M10000では,重低音まで再生する際に問題となる,低域でのキャビネットの振動レベルを1/30に
低減する「デュアルダイナミックドライブ方式」を採用していました。スピーカーの振動板が振動して音を発生する際に
同時に磁気回路に対して反作用を与え,これがフレームを介してキャビネットに伝わり,音質に悪影響を及ぼす振動
反作用力を打ち消すために,精密なコンピュータシミュレーションにより開発したのが「デュアルダイナミックドライブ
(D.D.D.)方式」でした。2組のパッシブラジエター付ケルトン型のウーファー部を前後逆向きに配し,一体化させて同
相でドライブすることで,キャビネット自体の不要音や床への振動伝達が抑えられ,低音再生のクオリティを向上さ
せていました。そのため,スーパーウーファー部の背面から見てもパッシブラジエターが付いていました。




スーパーウーファー部は,27cmコーン型のパッシブラジエターが2つと22cmコーン型ウーファー(ドライブスピー
カーユニット)2つの計4つのユニットから構成され,これが上下2組搭載されていました。両ユニットとも振動板には
テクニクス自慢のマイカ振動板よりもさらに内部損失を高めたパルプとアラミド繊維混合によるマイカ複合振動板を
採用していました。



また,エッジ部には,音の歪を低減する「プッシュプルエッジ」が採用されていました。従来の凸状または凹状だけ
のエッジでは,振幅したときの前後の空気排除量がアンバランスなため,歪の原因となっていました。「プッシュプ
ルエッジ」は,凸状部分と凹状部分が交互に6分割に配置された独自のエッジ形状で,前後の空気排気量が等し
く,歪を低減し,大入力時にも安定した再生が可能となっていました。パッシブラジエターのエッジはブチルゴム製
ドライブスピーカーユニットはウレタン製でした。
ドライブスピーカーユニットの磁気回路には,磁場解析により磁気回路プレートの最適形状を求め,磁束密度分布
が均一で,かつ有効磁束範囲非常に広い「リニア磁気回路」を開発し,搭載していました。これは,独特な形状の
垂直翼型フランジを内周に持つプレートを新開発したもので,これにより,ボイスコイルが常に均一磁界中で動作
し,歪の発生を抑えていました。さらに,ダンパーサスペンションに,フェノール樹脂を混紡したカイノール繊維(=ノ
ボロイド繊維:フェノール樹脂を繊維化した3次元構造の高性能繊維)を用いた,伸び縮みの直線性にすぐれたカ
イノールダンパーを採用していました。



上下のスーパーウーファー部に挟まれた3ウェイ部は,18cm口径×2のミッドローと6cm口径のミッドハイ,そし
て2.5cm口径のトゥイーターから構成されていました。
18cm口径のミッドローユニットは、コーン型で,ウーファー部と同じくマイカ複合振動板が採用され,これに漆をコー
ティングして不要な振動を抑制し,自然な響きを確保していました。光沢のある表面の仕上がりは工芸品的味わい
もある美しいものでした。さらに,この振動板は,振動解析により振動板外周部に高内部損失材が配置された新開
発のピークレス振動板としていました。一般的に,高い周波数になると振動板は一体的に振動することができずに
変形が激しくなり,振動板内周部と外周部が別々に振動を始め,音圧周波数特性にピークやディップなどの乱れを
生じたり,振動板が部分的に過大に振幅することによる歪を発生してしまいます。ピークレス振動板は,こうした高
域共振による振動板の変形を抑制し,ピーク音や歪の発生を低減していました。また,エッジ部には,ウーファー部
と同様にプッシュプルエッジが採用され,ダンパーにも同様にカイノールダンパーが採用されていました。



6cm口径のミッドハイユニットは,ドーム型で,振動板にはピュアマイカを使用していました。天然素材である マイ
カ(雲母)は,軽量でアルミニウムの約3倍の曲げ剛性を持ち,適度な内部損失を持つなど振動板素材として優れ
た特性を持つもので,天然マイカを微細化し,金型で振動板の形状に加熱硬化成形したものを振動板として使用し
ていました。チタンよりも大きな比弾性率,内部損失を持ち,幅広いピストンモーション帯域を実現していました。ま
た,ミッドローユニットと同様にピークレス振動板で,本漆コーティングが施され,カイノールダンパーが採用されて
いました。ボイスコイルは純アルミの平角線をエッジワイズ巻きしたものが搭載されていました。



2.5cm口径のトゥイーターは,ドーム型で,振動板には,素材内部まで美しく整列した結晶構造を実現し,マイカに
匹敵する軽量さ,内部損失の高さ,ダイヤモンドをはるかに凌ぐ比弾性率,音速値が18,800m/sec.と高音速の
スーパーグラファイトを採用し,ピークレス振動板とすることで歪の無い超ワイドレンジの高音再生を可能にしてい
ました。
トゥイーターユニットの磁気回路には,ネオジウム,ボロン,鉄を主成分とする磁気エネルギーの非常に強いネオジ
ウムマグネットを採用し,磁場解析を用いた形状最適化により,従来のこのクラスの口径では困難であった20000
ガウス(2テスラ)という非常に高い磁束密度を達成し,音圧レベルを高めるとともに歪の低減を実現していました。



キャビネットはデュアルダイナミックドライブ方式のウーファーを上下に配置し,回析反射を抑えたトールボーイ型で,
多層コーティングの塗装を施すとともに各ユニット相互の振動伝播を排除する高剛性2分割構造を採用することで
音場感を改善していました。



ネットワークには,物理特性にすぐれ,聴感的にも十分に聴きこんだ高品位パーツを厳選して使用していました。
チョークコイルは,LC-OFC線材を用い,珪素鋼板コアタイプとフェライトコアタイプを使い分け,部品配置にも
チョークコイルへの誘導電圧を受けないように配慮していました。コンデンサーは,音響用大型電解タイプ,高品
位ポリエステルタイプを用途に応じて使い分けていました。その他,ネットワーク素子間の結線は圧着スリーブに
よる直接結線で,異種金属の介在による伝送ロスや歪を低減していました。内部配線にもLC-OFCメルトーン
(日立電線製)を採用するなど,高純度伝送と不要音の低減に徹底していました。
入力端子は,極太コードはもちろん4mmプラグの使用もできる切削真鍮材に金メッキを施し,ウーファー部に
上下で2組,ミッドローに1組,中高域に1組を装備していました。付属のショートコードを用いればバイワイヤリ
ング接続が可能で,また,2台のパワーアンプを使えば部屋の大きさに合わせてウーファー部と中高域のバラ
ンスを調整できるようになっていました。

以上のように,SB-M10000は,テクニクスが持てる技術力を惜しみなく投入し,ユニットからキャビネット構造
など各部に高度な技術を感じさせる1台となっていました。その超ワイドレンジでありながら,恐ろしく歪み感や癖
のない音は,まさにテクニクスの音で,性能を突き詰めた本物を感じさせる音でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



4ウェイ12ユニットが生み出す,
至上の音楽空間。

◎超低音域までフラットレスポンスを実現した
 独自のデュアルダイナミックドライブ
◎ボイスコイルストロークのリニアリティ
 を徹底追求したリニア磁気回路
◎対称エッジを採用し,その排出空気歪
 にまでメスを入れたミッドロー
◎ピュアマイカ・オーバルドーム型振動板
 を採用したミッドハイ
◎可聴域をはるかに低歪再生するスーパー
 グラファイトドームツイーター

●多層塗り光沢突板仕上げ,回析反射
 を抑え,空間での音像定位を高める
 トールボーイエンクロージャー。
●滑らかなパワーレスポンス。
●厳選された高音質パーツを使用。




●SB-M10000の主な定格●

形式  ケルトン型4ウェイ12スピーカーシステム 
使用スピーカー  27cmパッシブラジエター×4
22cmドライブスピーカーユニット×4
18cm複合マイカミッドロー×2
6cmピュアマイカドーム型ミッドハイ
2.5cmスーパーグラファイトドーム型ツイーター 
再生周波数帯域 20Hz~100kHz(-10dB) 
クロスオーバー周波数  60Hz,600Hz,3.5kHz, 
出力音圧レベル  87dB 
最大許容入力  300W(DIN),600W(MUSIC) 
インピーダンス  4Ω 
外形寸法  486W×1575H×575Dmm(ネット付) 
重量  160kg 
※本ページに掲載したSB-M10000の写真,仕様表等は1995年2月
 のTechnicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に
 著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等
 をすることは法律で禁じられていますのでご注意ください。

                        
 

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