DENON
SC-880
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥54,800
1988年にデンオン(現デノン)が発売したスピーカーシステム。前年発売の
SC-R88Zのモデ
ルチェ
ンジ版ともいえるスピーカーシステムで,エンクロージャーが木目調に変わるなど外観のイメージはソ
フトになっていましたが,内容は技術が継承され,引き続きしっかり物量が投入されたものでした。
ウーファーは,32cm口径で,クロスカーボンを使用したコーン型が引き続き搭載されていました。バ
インダーおより成型技法をさらに改善し,より剛性を高めたニュークロスカーボン振動板が採用されて
いました。ウーファーを駆動する磁気回路には,直径145mmのストロンチウムマグネットが使用され
ダイナミックレンジが拡大されていました。
スコーカーは,12cm口径のコーン型で,ウーファー同様にクロスカーボンが使用されていました。バ
インダーの改良で内部損失を高め,分割振動を低減し,ハイスピードダンパーの採用によりレスポン
スを高めていました。
トゥイーターは,2.5cm口径のハードドーム型で,SC-R88と同様に,振動板には硬質ジュラルミン
箔表面にボロン加工物とチタン酸化物をプラズマジェット法で熔着した「ニューαボロン」が採用されて
いました。
ウーファーは,フレームから延びる8本の肉厚のアルミダイキャスト製ステー(支柱)に,マグネットを
太いボルトで固定し,ボイスコイルの振動支点を明確にした「NEWスーパーバスマウント」が採用さ
れていました。
全ユニットに,肉厚のフレームを採用し,剛性を向上させるとともに,形状を円形とすることで表面積
を抑え,共振等による余分な音の発生を排除していました。バッフル板への取付には,ツインブレー
ドスクリューが用いられ,動心部(磁気回路)に近い位置で固定することで,磁気回路の振動を低減し
ていました。さらに,ウーファーではエッジからの音の反射の低減とフレーム共振の制動,スコーカー
トゥイーターでは防護金属ネットとフレームの共振を制動していました。このような取付方法により,バッ
フル面に取付ネジが目立たない外観になり,外観上のイメージも変わっていました。
エンクロージャーは,ポーラスセラミックを天板に設置したD.A.S.構造が引き続き採用され,トゥイーター
をバッフル板の中に埋め込むR.M.M.構造も引き続き採用されていました。
SC-880における最大の改良点,変更点はネットワーク周りで,新たに「ダイレクトドライブ・サーキット」
が搭載されていました。これは,通常ネットワーク回路でアンプとウーファーの間に挿入されているチョー
クコイルを排し,代えてBLOC(Big Laminated Orient Coil)を採用したもので,直流抵抗による低
音エネルギーの損失を抑え,ウーファーのダンピングファクターを3倍以上に向上させたというものでした。
さらに,このコイルは外部磁界の影響を受けにくい閉磁気回路型を採用し,重量も10倍以上で振動しに
くい構造となっているなど,音質劣化の要因を低減していました。
ネットワーク自体は,ウーファー用とスコーカー/トゥイーター用に完全に分割された構造で,オーディオ専
用電解コンデンサー,無酸素銅線,金メッキ端子などパーツごとの品質に配慮されていました。接続も
ハンダではなく圧着接続が採用されていました。
スピーカーターミナルは,ウーファー用とスコーカー/トゥイーター用の2つの端子を持った「バイ・ワイヤリ
ング・ターミナル」をこのクラスのスピーカーではじめて搭載していました。
以上のように,SC−880は,SC-R88,SC-R88Zの後継機として,しっかり物量と技術が投入され
完成度とコストパフォーマンスの高い1台となっていました。明るく開放的でクリアな音は魅力あるもの
でした。