marantz SD-930 Uboat93
DIGITAL MONITOR CASSETTE DECK ¥150,0001983年にマランツが発売したカセットデッキ。マランツはカセットデッキの分野ではあまりオーディオ
ファンに広く認知されるブランドではありませんが,倍速録音再生のカセットデッキ等,実は個性的な
カセットデッキを作っていたブランドでした。SD-930は,ナカミチ以外で唯一再生ヘッドの自動アジ
マス調整機構を備えたカセットデッキで,当時も非常にレアな1台でした。SD-930に搭載されたアジマス調整機構は「MAAC」と呼ばれ,MRANTZ AUTO AZIMUTH
CONTROLの略でした。MAAC用に開発されたPRP-93型ヘッドは,録音ヘッドRH-93と再生ヘ
ッドPH-93型をコンビネーションヘッドとして搭載したもので,再生ヘッドPH-93は,片チャンネルを
2スリットに分割し,L1・L2,R1・R2の4スリットヘッドでした。ギャップ幅は0.7μを高い工作精度
で実現し,L1とL2,R1とR2の位相比較を行い,アジマスエラーを正確に検知する機能をもっていま
した。また,録音ヘッドRH-93は,4μという録音ヘッドとして最適なギャップ幅に設定されていまし
た。
MAACヘッドが再生する4つの信号は,独自開発された専用1チップICの中で,クリティカルな位相比
較,パルス変換,データ処理が行われ,電圧によって変形する性質を利用したアジマス調整用のピエ
ゾ(圧電セラミック素子)アクチュエーターにコントロール信号に応じた電圧として送られ,3/100秒以
内の動作時間でアジマス調整が行われるようになっていました。また,アジマスエラー量はリアルタイ
ムでインジケーターに表示されるようになっていました。ナカミチのNAACに近い複雑で高度な仕組み
をマランツが実現し搭載していたことは,あまり広く知られてはいませんが,非常に注目すべきことで,
マランツの優れたデッキ技術を示していました。走行系は,キャプスタン駆動に204極102パルス全周積分型パルスサーボDDモーターを搭載し,ワ
ウ・フラッター0.025%の高精度な回転を実現していました。さらに,ミクロンオーダーの精度を誇る2
重シャーシ構造BLACCK高精度メカニズムを採用し,スムーズなテープ走行を実現していました。
また,カセット装着時には自動的にテープのたるみをとる「Auto Slack Tape up機能」がついてい
ました。
その他,音質に関わる機能として,個々のテープに対して自動的にチューニングをとる「Compu-Bias
システム」が搭載されていました。これは,マイコン制御により,各チャンネルについてバイアス,レベル
イコライザ(7kHz,15kHz)の調整を32ステップで自動設定し,約10秒で調整が完了するというもの
でした。レベルとイコライザについては,3回繰り返して追い込み調整が行われる仕組みになっていまし
た。1種類のテープに対して片chあたり4データ,計8データで記録されるようになっていました。工場
出荷時にメモリーされるノーマル・クローム・メタルの3種類24データと各テープポジションに1メモリー
のユーザーメモリーが装備されていました。これら合計6メモリー48データはバッテリーバックアップに
よって保持されるようになっていました。NRシステムとして,ドルビーB/Cに加え,CD時代の広大なミックレンジへの対応としてdbxも搭載さ
れ,30dB以上のノイズ低減効果が得られるようになっていました。
その他,便利な機能として,前後30曲に及ぶ飛び越し選曲機構「QMS」が搭載されていました。また,
全曲リピート,1曲リピートも思いのままのリピート機能も装備されていました。以上のように,SD-930は,ナカミチ以外で唯一再生ヘッドの自動マジマス調整機構を搭載したデッキ
で,CD時代の幕開けとともに,カセットデッキでもブランドイメージを確立しようとしたマランツの意気込
みが込められたような意欲作でした。15万円という価格も,その中身を考えると戦略価格ともいえるもの
だったと思います。ナカミチのNAACほど有名にはなりませんでしたが,レアな名機の1つではないでし
ょうか。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
マークした標的は,逃さない。
MAAC アジマスエラー
高精度4スリット位相検知,応答時間3/100秒,
リアルタイム表示フェイズインジケーター・・・すべて世界初
デジタル時代のオートアジマスコントロール
◎MAAC(Marantz Auto Azimath Control)はMAAC,Compu-Bias,dbx
すべてのアジマスエラーを解決
◎世界初,高精度にアジマスエラーを検知する
4スリット構成MAACヘッド
◎高い信頼性を獲得した1チップMAAC専用IC
◎世界最高速”3/100秒”で応答する
”ピエゾ”アクチュエイタードライブ
◎世界初,アジマスエラーを目視できる
MAACフェイズインジケーター
◎テープサウンドが生きかえる,MAAC搭載
◎Compu-Biasシステムが最高の録音を約束
◎すべてのNRシステムにフル対応
●ダイナミックレンジ30dB改善,デジタルに最適な”dbx”
●BタイプとCタイプ,万全なドルビーNR
◎優れた音質を支える新開発高性能走行メカニズム
◎前後30曲自動選曲,クイックミュージックセンサー(QMS)
◎自由自在のリピート
◎自動テープたるみ防止機能
(Auto Slack Tape up機能)
◎すべてのモードから動作する,トータルシャットオフ機構
◎使い勝手を高める各種装備
トラック型式 | 4トラック2チャンネルステレオ |
録音方式 | 交流バイアス方式 |
ヘッド | 録音ヘッド×1,再生ヘッド×1,消去ヘッド×1 |
モーター | キャプスタンDDモーター×1
リールモーター×1 |
ワウ・フラッター | 0.025%W・RMS,±0.05%W・peak(EIAJ) |
周波数特性 | メタル 20Hz〜20kHz±3dB(メタル) |
SN比 | 55dB(EIAJ/ピーク録音レベル聴感補正)
85dB(dbx ON) 75dB(ドルビーC ON) 65dB(ドルビーB ON) |
入力端子 | マイク:0.3mV(600Ω)
ライン:70mV(50kΩ) |
出力端子 | ライン:0.7V(2kΩ)
ヘッドホーン:0.6mW(8Ω) |
電源 | 100V AC 50/60Hz |
消費電力 | 35W |
外形寸法・重量 | 416W×120H×300Dmm・7.5kg |
最大外形寸法 | 416W×130H×310Dmm |
※本ページに掲載したSD-930の写真,仕様表等は1983年
のmarantzのカタログより抜粋したもので,日本マランツ株式
会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断
で転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意
ください。
★メニューにもどる
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。