Technics SE-A3
STEREO DC POWER AMPLIFIER ¥300,000

1979年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したパワーアンプ。1977年に,超弩級機SE-A1,SU-A2を
発売したテクニクスが,超高価格のパワーアンプSE-A1(¥1,000,000)の弟機として,SU-A4とのペアを
想定し,より手頃な高級機として開発・発売したのがSE-A3でした。

SE-A3は,テクニクス自慢のニュークラスAアンプの最上級機でした。「ニュークラスA方式」は,「シンクロバイ
アス回路」を核としたスイッチング歪みを解消した一種のノンスイッチング方式で,+側の信号が入ったときは増
幅作用を停止している−側の出力段に,−側の信号に対しては+側の出力段に一定のバイアス電流を与え,
出力段を信号の有無にかかわらず常時起動状態にしておき,トランジスタをノンカットオフとする可変バイアス方
式でした。さらに,信号経路とバイアス電流が独立しているため,出力トランジスタが常に適切な動作点をキープ
し,波形を切換える高速応答ダイオードが理想の二乗特性に近い合成伝達特性をもつことで,クロスオーバー
歪も解消されていました。

入力から出力まで,信号経路には一切コンデンサーを介在させていないDCアンプ構成となっており,すぐれた
伝送特性が実現されていました。
初段は,温度特性の揃ったワンチップデュアルFETの差動増幅器にブートストラップカスコードとカレントミラー
負荷をプラスした構成になっていました。DCアンプの問題点に揚げられるDCドリフトは,デュアルFETによって
−10℃〜+50℃において±10mV以下に抑えられていました。
この初段に続いて,差動増幅ダブルカスコード,カレントミラー負荷の電圧増幅段,2段A級のSEPPドライバー
段,シンクロバイアス回路,SLPT2パラレルプッシュプルのPPドライバー,DLPT4パラレルプッシュプルの出力
段という全体の回路構成となっていました。
こうした回路構成により,すぐれた裸特性が確保され,出力200W+200W時,0.002%以下という低歪率が
実現されていました。


ドライバー段に使用されたSLPTは,(スーパー・リニア・パワートランジスタ)のことで,高周波特性に優れた小
信号用トランジスタを200個集積したのに等しいというもので,100MHzオーダーの高域再生限界と小電流時
から大電流時まで極めてリニアに高い増幅率を誇り,超高域にいたるまでの低歪みを実現した素子でした。
出力段の出力トランジスターとして使用されたDLPTは,(デュアル・リニア・パワートランジスタ)のことで,Hi-fT
のSLPTをNPN,PNPの2石ワンパックにしたツイン構造により,ペアトランジスタとして特性がよく揃っている
だけでなく,大きな熱容量,安定な高出力が可能となっていました。また,対称構造でエミッタ抵抗が分散して
いないため,出力段から出る電流波形が,最終的にA級動作の波形と同じになるような特性が実現され,特に
高域特性が大きく改善されていました。
内部の抵抗はすべて選別された金属皮膜抵抗を使用して,低雑音,低歪化が図られ,信頼性が高められてい
ました。
また,出力段と電源部を一体化し,電磁誘導を防ぐ,コンセントレーテッドパワーブロックが採用され,内部構造
上の一つの特徴となっていました。さらに,大電流を扱う出力ラインとプラス・マイナスの電源ラインには3層構造
のブスラインが使用され,電磁誘導によるループの発生を極小化していました。

電源部は,2つのパワートランスを搭載しており,左右完全独立のモノラルコンストラクションとなっていました。
これにより,電源部を介しての左右チャンネル間の干渉が排除されていました。
電解コンデンサーは,新開発の低インピーダンススーパーオーディオキャパシタ(容量22,000μF)を片チャン
ネルあたり2個,計4個搭載していました。このコンデンサーは,扁平な低インダクタンスのコンデンサーを4個
パラレルに接続し樹脂ケースの中に封入したもので,従来型に比べて,中域で7dB,1MHzで12dBもインピー
ダンスが改善されていました。さらに,電圧増幅段へは,定電流バッファ付き定電圧電源による電圧供給となっ
ており,ノイズが抑えられていました。

超弩級機SE-A1以来,テクニクスのパワーアンプには,フロントパネルに大型の針式パワーメーターが装備さ
れていました。テクニクスブラックともいえる独特の色のパネルに乳白色の大型メーターは,この後のテクニクス
のパワーアンプを印象づけるものとなっていきました。このメーターは,0.0001Wからフルパワーまでをメーター
レンジ切換なしで表示できるようになっており,アタックタイム50μsと正確なパワー表示が実現されていました。
実際,SE-A3のパワーメーターは,レンジの関係もあり,最も元気に動くタイプのメーターだったと思います。
スピーカー端子は2系統あり,フロントパネルのスイッチでA,B,A+Bに切り換えることができるようになってい
ました。

以上のように,SE-A3は,テクニクスのラインナップの中でも。超弩級機SE-A1につぐ大型のパワーアンプとし
て,しっかりと物量と技術が投入され,すぐれた物理特性が確保されていました。繊細さも感じる外観デザインと
は異なり,中低域の豊かな厚みのある再生音をもち,力強さのあるパワーアンプでした。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




メカニズム,趣味性・・・オーディオを
知りぬいた男たちの
エグゼクティブセパレートシステム
A3,A4

スイッチング歪,クロスオーバー歪を
解消したテクニクス独自の
ニュークラスAアンプの頂点に立つ
ステレオパワーアンプ。



●SE-A3主な定格●

実効出力 200W+200W(20Hz〜20kHz,8Ω,0.002%)
全高調波歪率 0.001%(20Hz〜20kHz,定格出力−3dB
TIM 測定不能
出力帯域幅 5Hz〜100kHz(T.H.D.0.007%)
周波数特性 DC〜20kHz(+0,−0.1dB)
DC〜300kHz(+0,−3dB)
SN比(IHF-A) 123dB
残留雑音 150μV
ダンピングファクタ 120(8Ω)
負荷インピーダンス main or remote:4Ω〜16Ω
main and remote:8Ω〜16Ω
入力感度/インピーダンス 1V/47kΩ
メータ特性
指示範囲 0.0001W〜300W(8Ω),−60dB〜+5dB
指示精度 ±1dB(−40dB未満,10Hz〜10kHz)
±1dB(−40dB以上,10Hz〜20kHz)
アタックタイム 50μs
リカバリータイム 750msec(0dB→−20dB)
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 560W
外形寸法 430W×208H×507Dmm
重量 35.2kg
※本ページに掲載したSE-A3の写真,仕様表等は1980年4月のTechnics
 のカタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じ
 られていますのでご注意ください。

  
 
 
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