Technics SE-A3MK2
STEREO DC POWER AMPLIFIER ¥500,000
1982年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したパワーアンプ。テクニクスは1977年に,セパレートアンプ
の超弩級機SE-A1,SU-A2を発売し,1979年にはその弟機としてSE-A3SU-A4のペアをより手頃な高
級機として発売しました。そして,SE-A3の後継機として発売されたパワーアンプがSE-A3MK2でした。

SE-A3の最大の特徴は,「コンピュータドライブ・ニュークラスA方式」の採用でした。前モデルのSE-A3では,
「シンクロバイアス回路」を核としたスイッチング歪みを解消した一種のノンスイッチング方式「ニュークラスA」を
搭載していました。これをさらに改良したのが「コンピュータドライブ・ニュークラスA方式」でした。ノンスイッチン
グを実現するために,出力トランジスタをノンカットオフとする可変バイアス方式では,出力トランジスターの+側
-側のつながりをスムーズにさせ,クロスオーバー歪が最少となるように,トランジスターに適切なアイドリング
電流を流す必要があります。このアイドリング電流が大きすぎても,小さすぎてもクロスオーバー歪が発生する
ため,高忠実度再生のためには,いかなる再生状態においてもこのアイドリング電流が常に最適ポイントに保
たれる必要があります。
しかし,このアイドリング電流は,バイアス電圧量と温度の変動によってそれ自体も変動してしまうもので,歪の
原因となってしまうことになります。音楽信号再生時には,信号の変化に応じ急激な温度変化(自己発熱)を繰
り返しているため,アイドリング電流の変動も起きてしまいます。したがって,アイドリング電流を最適ポイントに
保つためには,この温度変化を検出し,それを補償するようにバイアス回路のバイアス電圧量を変化させてや
る必要があります。そのため,従来のアンプでは,出力トランジスターの近辺にサーミスタなどの感熱素子を配
し検出を行っていました。しかし,この方法では,出力トランジスターと感熱素子の間に大きな熱容量の放熱器が
あるため,温度変化が熱素子に伝わるまでのタイムラグ(2~3秒)があり,温度補償が適切に行えずアイドリン
グ電流の変動によるクロスオーバー歪が生じていました。



こうした過渡的・動的な歪・トランジェントクロスオーバー歪を抑えるために,「コンピュータードライブ回路」におい
ては,出力トランジスターの上部に設置した温度センサーからの情報に加え,音楽信号そのものを検知する信号
センサーからインプットされる情報をもとに,マイクロコンピュータが出力トランジスターの瞬時瞬時の温度動作状
態を算出し,アイドリング電流が最適値となるためのバイスを出力情報としてバイアス回路へリアルタイムに出力
するようになっていました。こうした方式により,音楽信号の変化に対しても,出力トランジスターは常に最適なア
イドリング電流でドライブされ,トランジェントクロスオーバー歪も抑えられ,極限の低歪を実現していました。

「コンピュータドライブ・ニュークラスA方式」のベースとなった「シンクロバイアス回路」は,通常B級・AB級で交互
に休止してしまう出力トランジスターに,休止サイクルに同期して一定バイアスを供給する回路で,出力段を常に
能動状態において,この休止に起因するスイッチング歪を解消していました。さらに,信号経路とバイアス電流を
独立させており,クロスオーバー歪も大きく低減し,高効率でA級動作の音質を実現し,さらに,上述の「コンピュー
タードライブ方式」により,実使用状態でのさらなる低歪みを実現していました。

さらに,「リニアフィードバック回路」も継承されていました。これは,1980年に開発され,プリメインアンプSU-V7
に初搭載されたもので,歪み改善のNFBを当時の多くの他メーカーのように否定するのではなく,積極的に生か
していこうとするものでした。NFBループ内に無限大増幅を可能とするような独立した帰還回路を形成し,理論値
として歪みゼロを実現しようとするもので,具体的には,電圧増幅部にPFB(同相帰還)をかけ,ゲインを発振手
前まで大きくとり,そこに大量のNFBをかけて歪みを大きく低減(可聴域の加減では無限に近く,上限の20kHz
でも40dB以上)し,ダンピングファクターも大きく取れるという方式でした。

出力段,電源部など大電流を扱うセクションからの電磁輻射は,特に高域の歪の原因となるため,出力段と電源
部を巧妙な構成で一体化した「コンセントレーテッドパワーブロック」を採用していました。このコンストラクションは
シャーシやカバーなどにシールド効果の高い磁性体を使用できるため,外部誘導をも抑える効果が得られ,実際
に設置した状況の利点も大きなものがありました。



電源部は,各チャンネルごとに400VAのトランスと105V,22,000μFの大容量電解コンデンサー×2を搭載
した強力なものでした。電源トランスは,テクニクス伝統の特殊レジン封入タイプとして機械的振動を抑え,S/N比
を向上させていました。また,2電源トランスによるL・R完全独立のモノラル・コンストラクションとなっており,電源
部を介して起こる左右チャンネル間の干渉を排除していました。電圧増幅段へは,定電流バッファ付定電圧電源
により電源を供給し,電源に起因するノイズを除去していました。

出力段は,4段ダーリントン構成で,終段はPc(コレクタ損失)200Wの高耐圧トランジスターを4パラレル接続で
使用し,片チャンネルあたりPc1.6kWという,300W+300Wの出力に対して余裕十分な構成となっていまし
た。
さらに,SE-A3MK2には,負荷インピーダンス自動検出回路が搭載されていました。接続したスピーカーの合成
インピーダンスを電源ON直後直ちに検出し,トランス巻線のハイボルテージタップもしくはローボルテージタップの
いずれかを自動的に選択するようになっており,8Ω負荷時も4Ω負荷時も300W+300の出力になるように自
己制御するようになっていました。この検出回路は,スピーカーのリレーON後にスピーカー切換スイッチを操作し
た際も一瞬スピーカーへの出力をOFFする間に再び負荷検出を行うようになっており,常に安定したアンプ動作
を実現する巧妙なものとなっていました。

コンピュータドライブのために搭載したマイクロコンピュータの制御能力は,保護回路にも活用され,万が一のDC
漏れやスピーカー端子のショート,アンプ内の異常な温度上昇などをコンピュータが瞬時に判断し,直ちにスピー
カーへの信号を遮断するように指示する安全設計となっていました。
フロントパネルには,大型の針式パワーメーターが装備されていました。テクニクスブラックと称された独特の色の
パネルに乳白色の大型メーターは,テクニクスのパワーアンプを印象づけるもので,0.0001Wから1kWまでを
メーターレンジ切換なしで表示できるようになっており,アタックタイム50μs,20kHzの正弦波1波にも追随する
精度の高い設計で,正確なパワー表示が実現されていました。さらに,フロントパネル右下部にコンピュータドライ
ブモニターが設けられ,電源ON後約20秒間で最適アイドリング電流になるまでを標示するようになっていました。

以上のように,SE-A3MK2は,前モデルSE-A3をベースに,回路面を含めて強化が図られ,より強力なパワー
アンプとして完成されていました。価格面でも20万円もアップしていましたが,300W+300Wという,当時の国産
パワーアンプの中でも大出力を誇る1台となっていました。大出力の力強さだけでなくしなやかで歪み感のない音
は,物理特性の高さも感じさせる音となっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



300W+300W(T.H.D.0.002%)の
低歪・ハイパワー
DA時代の必然性が生んだ
ハイ・クオリティパワーアンプ

◎DA時代にこそふさわしい
 ハイ・フィデリティ パワーアンプ
◎理論値歪ゼロ,可聴域の歪を極限まで
 低減したリニアフィードバック回路
◎スイッチング歪,クロスオーバー歪を
 解消したシンクロバイアス回路
◎電磁誘導による高域歪を解消した
 コンセントレーテッドパワーブロック
◎大型トランス,大容量コンデンサを
 おしげもなく投入した強力電源回路
◎終段に高耐圧トランジスタを4パラ使用
 4段ダーリントン構成の強力出力段
◎負荷インピーダンス自動検出
 8Ω/4Ωで300W+300Wを保証
◎コンピュータコントロールによる
 純電子式保護回路を装備
◎高級セパレートアンプに相応しい瞬時
 応答の高精度ピークパワーメータ装備




●SE-A3MK2主な定格●

●アンプ部
実効出力 300W+300W(20Hz~20kHz,8Ω,0.002%)
300W+300W(20Hz~20kHz,4Ω,0.003%)
全高調波歪率(定格出力-3dB) 0.0003%(1kHz)
0.001%(20Hz~20kHz)
TIM 測定不能
出力帯域幅 5Hz~100kHz(T.H.D.0.007%,8Ω)
周波数特性 DC~20kHz(+0,-0.1dB)
DC~300kHz(+0,-3dB)
SN比 125dB/1V,以上
残留雑音 0.15mV以下
ダンピングファクタ 120(8Ω)
負荷インピーダンス AorB:4Ω~16Ω
AandB:8Ω~16Ω
入力感度/インピーダンス 1V/47kΩ
●メータ部
メータ指示範囲 0.0001W~1kW(8Ω),-60dB~+5dB
指示精度 ±1dB(-40dB未満,10Hz~10kHz)
±1dB(-40dB以上,10Hz~20kHz)
アタックタイム 50μsec
リカバリータイム 750msec(0dB→-20dB)
●総合 
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 485W
外形寸法 430W×208H×507Dmm
重量 39kg

※本ページに掲載したSE-A3MK2の写真,仕様表等は1983年1月の
 Technicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に著作
 権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

  
 
 
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