SE-M100の写真
Technics  SE-M100
DIGITAL STRAIGHT AMPLIFIER ¥83,600

1988年にテクニクス(現パナソニック)が発売したDAC内蔵型アンプ。CDプレーヤーの発売により
デジタルオーディオの時代が到来して5年,当時,多くの技術者がD/Aコンバーターをアンプと直結
した構成を理想と考え,D/Aコンバーター内蔵型アンプを開発していました。 1986年にALPINE/
LUXMANが発売したLV-109以 来,デジタル時代のアンプとして,DAC(D/Aコンバーター)を内蔵し
たアンプが各社から発売され,DACとアンプの関係をどうするか,いろいろな模索が行われていました。
そういった中で,従来のDAC内蔵型プリメインアンプとは違ったテクニクスのアプローチを示したのが
SE-M100でした。

SE-M100は,その型番は同社のパワーアンプに付けられる「SE-**」というもので,その名称の付
け方の通り,DAC内蔵型のパワーアンプといえる形になっていました。従来のDAC内蔵型アンプでは
プリメインアンプでもパワーアンプでも,パワーアンプ部の増幅度は20〜40dBであるため,DACの出
力をダイレクトに入れるとゲインが不足することになり,その分はアナログ系路で増幅されることになっ
ていました。
SE-M100で新たに採用された「デジタル・ダイレクトドライブ方式」では,通常の12倍程度の高出力の
DACを搭載し,その出力をアナログ増幅の経 路を全く通さずに電圧増幅1(0dB)のパワーアンプに直
接接続するというもので,DACの出力電圧= スピーカー端子電圧というもので,DAC内蔵のメリットを
最大限に発揮させようとするものでした。
電圧増幅1(0dB)のパワーアンプは,電圧増幅を行わないため,ノイズレベルが小さいことをはじめ,
すぐれた伝送特性が実現できますが,通常のアンプをNFBで単純に増幅度1にすると動作が不安定に
なるため実現が難しくなります。これを,テクニクス自慢の「classAA方式」により実現していました。 こ
の「classAA方式」は,出力インピーダ ンスが無限大の電流ドライブアンプと出力インピーダンスが0の
電圧コントロールアンプをパラレルにつなぎ, 電流供給から開放された電圧コントロールアンプが入力
信号に忠実に電圧コントロールし,スピーカー 駆動に必要な電流は電流ドライブアンプから存分に供給
されるというある種理想的な動作方式となって いました。その結果,スピーカーによる負荷インピーダンス
変動にも電流/電圧の位相ズレのない安定した 伝送・増幅特性を得るというものでした。そして,この
「classAA」とフローティング電源の組み合わせにより,「0dBアンプ」の安定動作とボリュームミニ マム時
に100Wに対し−140dBという極低ノイズレベルを実現していました。さらに,パワーアンプの増幅度が
1であるため,SN比がDAC部で決まることになり,実使用時にはボリュームを絞って信号レベルが下が
るとノイズレベルも下がり,小音量時にもSN比が低下しないというすぐれた特徴を持っていました。
また,このボリュームは,I/V変換回路の変換率を可変して音量調整を行うもので,一般のボリュームよ
り大電流が流れることになるため,新開発の低歪率エレメントの採用により,歪を10倍以上改善した素
子を使用したものでした。

DAC部には,新開発の4DACリニア20bitシステムが搭載されていました。これは,Lch/Rchそ れぞれ
の正信号用,負信号用に合計4つのDAC配置したもので,各成分を個別に変換したうえで,リニアリティ
のよい部分だけを完全結合させることで,ゼロクロス歪みの問題等を解消し,微小信号のすぐれた再現
性を実現していました。また,高精度20bit8倍オーバーサンプリングデジタルフィルターが搭載され, 20
bitの高分解能動作を実現していました。

SE-M100の内部

パワーアンプ部は,2石シングルプッシュプルのシンプルな回路で,L/Rを独立させたツインモノラル構成
で左右に分離されて配置されていました。そして,中央部に厳重にシールドしたデジタル部が架橋構造で
置かれ,フロントパネル部にプリアンプが置かれたT型配置となっていました。これらの配置の結果,パワー
アンプ部の大電流に起因するL/R間の相互干渉を極小化し,終段の0dBアンプがノイズからの影響が抑
えられ良好なチャンネルセパレーション,SN比が確保されていました。

SE-M100のパーツ

電源部は,クラス1・OFC線を使用した大型の電源トランスをL/R独立で搭載し,1.6mm厚の高剛性 シャー
シとトランス底面の5mm厚インシュレーターラバーの採用により,磁気輻射,機械振動が極小に抑えられてい
ました。電解コンデンサーには,ハイスピードEX電解コンデンサーがL/R各2個ずつ搭載されていました。 この
EX電解コンデンサーは,バイオテクノロジーの応用により電解液の不純物によるわずかな歪をも解消し,電
極箔は低歪率エッチング,厚み均一化,新皮膜形成法が採用されたもので,表面には電着塗装も行われた
特性が大きく改善された素子でした。
また,内部配線をはじめ,電源トランスの巻線,各パーツのリード線に至るまで,高純度OCC線材が厳選して
使用されていました。

デジタル系は入力が光2系統,同軸2系統が備えられ,出力が同軸1系統が備えられていました。また,アナロ
グ系は,VARIABLE(可変)/FIXED(固定)が各1系統の2系統備えられていました。このアナロ グ入力は通常
のプリメインアンプと同じ増幅度を持ち,45dBの増幅度を持つフラットアンプを経て0dBパワーアンプに 入る構
成となっていました。このため,通常のプリメインアンプとも,パワーアンプとも異なるタイプのアンプとなっ ており
テクニクスのデジタル時代のアンプへのひとつの模索の形であったと考えられるでしょう。事実,デジタル入力 時
の聴感上のSN比の高さは当時群を抜いたものがあり,CDのデジタル出力などから驚くほど静けさのある繊細
で透明なクラスを超えた音が聴かれたものでした。

SH-S100の写真
Technics SH-S100
AUDIO VIDEO SELECTOR ¥45,000

テクニクスは,SE-M100との組み合わせを前提としたAVセレクターSH-S100を同時に発売し,多様な使い
方ができることを提案していました。
このSH-S100は,セレクターの名の通り,いわゆるプリアンプではなく,プリアンプとしての増幅度は持たない
ため,プリメインアンプ並の増幅度を持つSE-M100と接続することで,適切な増幅度が得られるものとなって
いました。

SH-S100のリアパネル

SH-S100には,オーディオ入力5系統(CD,aux,tape,DAT,ext)が備えられ,AV入力も5系統(tuner
BS,VDP,VTR1,VTR2)が備えられており,テープデッキ類(VCR含む)は最大5台まで接続が可能でし
た。ビデオ系には,S-VHSの専用端子を,入力3系統(VDP,VTR1,VTR2),出力3系統(VDP,VTR1
MONITOR TV)を装備していました。
AVセレクターとしては通常無いボリュームコントロール,バランスコントロールも装備され,音量調整,ソース
切換ができるリモートコントロールも付属し,SE-M100との組み合わせで,多彩な機能を持つプリメインアン
プとしてだけでなく,AVシステムのセンターとしても使えるようになっていました。

SE-M100によるシステム例
SE-M100+SH-S100の写真

以上のように,SE-M100は,テクニクスがデジタルオーディオ時代の新しいアンプの姿の提案として発売
した意欲作で,特にデジタル入力での純度の高い音はすばらしいものがありました。また,セレクターを用い
ることで多機能を実現するなど,ある意味非常に合理的な設計にもなっていました。そして,ここで開発され
た技術的アプローチは,後のSU-V900,SU-MA10等のハイコスト パフォーマンスの実力派・重量級プリ
メインアンプに生かされていきました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



SE-M100

デジタル・ダイレクトドライブ
(D.D.D.)方式採用。
高SNデジタルストレートアンプ

(1)デジタル・ダイレクトドライブ方式&
 0dBパワーアンプによる高S/N比。
(2)4DACリニア20bitシステムが,
 微小信号の再現能力を大幅に向上。
(3)ツインモノラル構成。
 チャンネル間の相互干渉を抑制。


◎DAC搭載アンプの理想を追求した
 デジタル・ダイレクトドライブ方式
◎独自の”クラスAA”の技術が生んだ
 0dBパワーアンプ
◎小音量時においても高S/N比
 4DACリニア20bitシステム
◎L/Rチャンネル間の相互干渉を
 抑えるツインモノラル構成
◎徹底した性能解析と試聴による
 オーディオ専用高音質パーツ

●L/R完全独立構成の大型電源トランス。
●電解コンデンサ。
●音量ボリューム
●OCC線材

◎デジタル光リンク対応
 2系統の光デジタル入力端子

●同軸の入力/出力端各1系統装備。



SH-S100

音量ボリューム&リモコン装備。
ピュアAVシステムのためのAVセレクタ

(1)オーディオ5系統,AV5系統の
 豊富な入力端子
(2)音量調節も手もとで行える
 多機能リモコン標準装備。
(3)音声と映像を自由に組み合わせできる
 BGV機能


◎デッキ5台の接続も可能
 豊富な入力端子群

●オーディオ系/AV系独立のインプット/
 レコーディングセレクタ。

◎システムの音量調節を一括して
 行える音量ボリウム装備。
◎ソース切換も手もとで行える
 ワイヤレスリモコン
◎音声と映像を自由に
 組み合わせできるBGV機能

●ミューティングボタン
●バランス調整ツマミ
●モノラル/ステレオモード切り換え



●SPECIFICATIONS●




●SE-M100●

実効出力
100W+100W
(20Hz〜20kHz,6Ω,0.007%)
90W+90W
(20Hz〜20kHz,8Ω,0.005%)
全高調波歪率
0.003%
(パワーアンプ部,20Hz〜20kHz,定格出力−3dB,8Ω)
周波数特性
2Hz〜20kHz,0.3dB
(デジタル入力時)
SN比
112dB(EIAJ)
負荷インピーダンス
AorB:4〜16Ω
A+B:8〜16Ω
バイワイヤリング時:4〜16Ω
入力感度/入力インピーダンス
150mV/33kΩ(アナログ入力)
電源
AC100V,50/60Hz
消費電力
235W
外形寸法
CD430W×158H×403Dmm
重量
15.5kg




●SH-S100●

オーディオ部
周波数特性
(CD,aux,tape,DAT,TV/tuner,BS,VDP/CDV,VTR2,VTR1)
0.8Hz〜150kHz(+0dB,−3dB)
20Hz〜20kHz(+0dB,−0.2dB)
入力感度/入力インピーダンス
(CD,aux,tape,DAT,TV/tuner,BS,VDP/CDV,VTR2,VTR1)
150mV/22kΩ
定格出力電圧
150mV
最大許容入力
7V
ビデオ部
定格入力レベル/入力インピーダンス
(TV/tuner,BS,VDP/CDV,VTR2,VTR1)
1Vp-p/75Ω
定格出力レベル/出力インピーダンス
(TVout,VTR2out,VTR1out)
1Vp-p/75Ω
Sビデオ部
定格入力レベル/入力インピーダンス
(VDP/CDV,VTR2,VTR1)
輝度信号1Vp-p/75Ω
定格出力レベル/出力インピーダンス
(VTR1,TVout)
輝度信号1Vp-p/75Ω
色差信号0.285Vp-p/75Ω
消費電力
11W
電源
AC100V,50/60Hz
外形寸法
430W×103H×287Dmm
重量
4.1kg


※本 ページに掲載したSE-M100,SH-S100の写真,仕様
 表等は,1989年4月の Technicsのカタログより抜粋したも
 ので,パナソニック株式会 社に著作権があります。したがって,
 これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。 
                                          
 

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