Technics
SL-15
Quartz D.D. FULL AUTOMATIC PLAYER
SYSTEM
¥150,000
1980年に,テクニクス(松下電器=現パナソニック)が発売したプレーヤーシステム。前年の1979年11月
に,DD(ダイレクト・ドライブ)プレーヤー10周年モデルとして
SL-10を発売した同社が,1年
後に発売した上
級機がSL-15でした。ほぼ同じ筐体ながら,より多機能を実現していました。
SL-15は,基本的な構成等はSL-10と同じで,直径30cmのLPレコードを再生するアナログプレーヤーとし
ては限界の大きさ(小ささ)を実現していたジャケットサイズ(31.5cm×31.5cm)の筐体を特徴としていま
した。
このサイズを実現した最大の技術的特徴は,リニアトラッキングアームの採用でした。これをフタの部分に取
り付けて一体化した構造で,頑丈なダイカスト製のフタを閉じると優れた耐ハウリング性能を誇りました。
リニアトラッキングアームの走路は高精度のスライド軸受け,アーム軸受けには,4点支持のジンバルサポー
トを採用していました。トーンアームは,回転軸の中心に重心位置が一致する独特のダイナミックバランス方
式になっていて,プレーヤーを厳密に水平に置かなくても,正常な再生ができました。たとえ斜めにしても垂直
に置いても,逆さまにしても正常に再生できる驚異的な構造でした。
ターンテーブルはもちろんD・Dで,ターンテーブルとモーターのローターを一体化した独自の一体構造になって
いました。FGサーボによるクォーツロックで,ワウ・フラッター0.025%,SN比78dB,回転数偏差0.002%
以内の高い回転精度を誇りました。
SL-15は,SL-10同様,ボタン操作だけで演奏開始,演奏終了,アーム送り等のコントロールができる電子
制御フルオートプレーヤーですが,さらに進んでプログラム自動選曲機構が搭載されていました。上部キャビ
ネットに1から10までのキーが装備され,キーを押した順に応じて自動選曲ができるようになっていました。
プログラミングすれば,各キーの横のLEDが点灯し,演奏中は曲番表示のLEDが点滅して,何曲目が演奏
中かが分かるようになっていました。また,レコードの曲数を自動的に読み取り,その数以上のプログラム
キーを押してもプログラムしない設計となっていました。プログラムの解除もストップキーによる全解除の他
一度プログラムした曲番キーを再度押すと1曲単位での解除もできるようになっていました。リピートキーを
押せば,プログラムした曲を繰り返し演奏するリピート機能や,プログラムした曲を順に演奏中に,曲番を
押すことで先に演奏できるとびこし頭出し機能,プログラムした曲を演奏中にLEDが点滅している現曲の曲
番のキーを再度押すことでその曲の最初に戻る曲間頭出し機能,プログラムした曲を演奏中にその曲の音
溝の範囲内でアームを前進,後退させる指定曲間サーチ機能なども装備され,後のCDプレーヤーに近い
便利な機能性が実現されていました。
カートリッジは,独自のプラグイン方式を採用していました。これは,リード線を用いずに直接アームにカートリ
ッジを差し込み,固定ネジでロックするシンプルな構造で,がたつきが無く細かな調整が不要な便利なもので
した。これはT4P規格という独自の規格に適合したカートリッジしか使えないのが弱点ですが,当時,各社か
らこの規格のカートリッジが発売されていきました。
SL-10がMC型カートリッジ・310MCを標準装備していたのに対し,SL-15では,MM型の205CMK3が
装備されていました。205CMK3は,軽量・高剛性のボロン製カンチレバーを採用し,振動系にヨーク部を持
つ独自のブリッジヨーク構造が開発・採用されていました。そして,精密鏡面研磨
HPF(ホットプレスフェライト)
コアが全ての磁気回路に採用され,約70kHzまでの伝達特性が実現されていました。同時に,HPF磁気回
路はL・R完全分離,対称配列が実現され,チャンネル間アンバランスによる特性の乱れも抑えられていまし
た。ダンパーにはテクニクス独自のTTDD(Technics Temperature Defense Damper)が採用され,周
囲の温度変化によるトレース性能の劣化が極小に抑えられていました。カンチレバーの根元には,円板状マグ
ネットが配され,円板状ダンパーを介してサスペンションワイヤで支持パイプに結合する,独自のワンポイントサ
スペンション構造が採用されていました。以上のような凝った作りと仕組みを持った205CMK3は,5Hz〜80kHz
という再生周波数範囲と20Hz〜15kHz±05dBというフラットな周波数特性を実現した完成度の高い高性能な
カートリッジでした。(単売で¥30,000の定価でした。)この205CMK3は,1972年発売の205Cの3世代目
のモデルにあたり,その後MK4までモデルチェンジを行い,名機として評価を受けていきました。
以上のように,SL-15は,名機SL-10をベースに自動選曲機構を装備してさらに多機能化を図るとともに,カー
トリッジの方でも,音質的に独自の魅力を持たせるなど,また別の個性を持った使いやすく完成度の高いプレー
ヤーシステムでした。