Technics SL-P1000
COMPACT DISC PLAYER ¥125,000
1987年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したCDプレーヤー。前年の1986年に発売したデスク
トップ型CDプレーヤー・
SL-P1200の技術を継承し,幅430mmの通常のコンポーネントのスタイルに
まとめたといえる内容を持った1台で,技術的にはその間の新たなものも投入されていました。
SL-P1000では,テクニクス自慢の「
classAA方式」を,サンプルホールド回路,バッファアンプ,ヘッド
ホンアンプの3つの回路のL/Rそれぞれ計6カ所に採用していました。「classAA方式」は,アメリカのス
レッショルドが開発した「
STASIS方式」によく似た方式で,電圧制御と電流供給を2つの異なるアンプが
分担し,電圧制御アンプは事実上無負荷の状態で動作し,変化する接続負荷に対してもアンプ全体とし
て強力なドライブ能力と正確な波形伝送が得られるという方式で,強力なドライブ能力と正確な波形伝送
を実現していました。
D/AコンバーターはL/R独立のデュアルコンバーターで,スイッチングを不要とし,L/Rの厳密な同時変
換により位相差の問題解決を図っていました。さらに,サンプルホールド回路に「classAA回路」を導入す
ることによりD/Aコンバーター出力を電流モードで動作させ,D/A変換を高速化して,高域における歪率
や分解能の改善が実現されていました。デジタルフィルタは演算精度の高い96次デジタルフィルタに7次
の高精度アナログフィルタを組み合わせた「スパー・クリーン・デジタルフィルタ」が搭載されていました。
SL-P1000は,SL-P1200同様に強力な電源部が搭載されていました。。電源トランスは,デジタル系
とオーディオ系それぞれに専用のトランスを搭載した2トランス方式が採用され,デジタル回路系やサー
ボ回路のノイズが,オーディオ系に混入することを抑えていました。さらに,オーディオ系専用トランスの2
次巻線も,Lch,Rch,ヘッドホンアンプの3系統に分離し,オーディオ回路内における相互干渉も抑えて
いました。整流回路には,ファースト・リカバリ・ダイオードと大容量オーディオ用電解コンデンサを使用し
て整流ノイズを低減し,大入力時にも安定した電源供給を可能としていました。
さらに,オーディオ回路側でも,回路基板をシャーシ内のシールド構造の中に配置して,他の回路系や電
源トランスからの干渉を排除し,ラインアウト端子も,シールド構造のピンジャックと,シールド効果の高い
同軸ケーブルによる配線を使用して,ノイズや音質への悪影響を排除していました。
そして,SL-P1200には装備されていなかった光/電気,2系統のデジタル出力も装備されていました。
また,SL-P1000では,オーディオ回路用の電源に,新たに「ローノイズ・アクティブサーボ電源」を採用
していました。これは,コントロールアンプ
SU-A200で開発された定電圧電源で,温度安定性に優れた
電源専用の定電圧ICと高周波特性に優れた広帯域ICを組み合わせて帰還回路を形成しカーバッテリー
をもしのぐ高い電圧安定性と,低域から高域まで広い周波数にわたるローノイズ(従来比20dB以上低減)
を実現したものでした。
筐体全体の共振対策・振動対策もしっかり行われていました。ベース部には,SL-P1200でも使用されて
いた,金属シャーシベース,特殊ダンピングゴム,TNRC(テクニクスノンレゾナンズ・コンパウンド)の異なる
3種類の素材からなる3層のベースを採用し,高い強度と十分な重量を確保し,振動エネルギーを熱エネル
ギーに変換するTNRCの働きにより,優れた制振効果も持たせていました。また,キャビネット天板には特
殊デッドニングゴムを使用して防振性を高めていました。設置台から伝わる床振動に対しては,4つの大型
インシュレーターと,光学デッキのフローティングによるダブルインシュレーター構成で振動を抑えていました。
その他,内部の震動源である2つの電源トランスには,ゴムによるフローティングが施され,トランスの振動
が他に伝わることを抑えていました。
オーディオ回路のパーツ類は,銅箔スチロールコンデンサ,オーディオ用電解コンデンサ,OFCリード線と非
磁性体キャップを使用したオーディオ用抵抗など,高品質なものが全面的に採用されていました。
ピックアップには,レーザー光の利用効率が高く,再生信号のSN比を大きく改善した1ビーム方式が採用さ
れ,さらに,アルミダイキャストベース,温度変化や湿度の変化に強いガラスレンズ,位相差方式トラッキング
サーボなどの採用により,高い再生能力と耐久性が確保されていました。ピックアップを移動させるトラバース
メカニズムは,駆動部に高精度リニアモーターが採用され,曲間の移動を約0.9秒にまで短縮していました。
選曲機能として特徴的であったのは,フロントパネルにSL-P1200以来のサーチダイヤルが装備されていた
ことでした。このサーチダイヤルを指先で回すことにより,正逆両方向に微細に頭出しが可能になっていまし
た。1回転あたりの再生速度は,約1秒(slow)と約30秒(fast)が選べ,最小で3フレーム(1/25秒)単位の
精密なアクセスが可能となっていました。
基本的な選曲機能として,20曲ランダムプログラム,ボタンによる2スピードマニュアルサーチ,1曲/全曲/プ
ログラム曲リピート,A-B間リピートなどの選曲機能が装備されていました。その他,イントロ部分のみを順次
再生するプログラマブル・ミュージックスキャンが装備されていました。1曲あたりの再生時間は,1〜99秒ま
で自由に設定可能となっていました。また,曲の始めで自動的にポーズ状態になるオートポーズや,プログラ
ム曲間を約4秒開けて演奏するオートスペース,収録時間をあらかじめ設定することで,プログラムしていくご
とに,テープ録音可能残り時間を表示するプリセット・エディティング機能など,テープ編集向けの機能が装備
されていました。
FLディスプレイは,デジタルの時間表示に加え,20曲までのミュージック・マトリックス・ディスプレイ(ソニーで
いうところのミュージックカレンダー表示)も装備されていました。また,リモコンでも操作可能な2dBステップで
−12dBまで音量を絞れるデジタルアッテネーターが装備され,その減衰量の表示も装備されていました。
以上のように,SL-P1000は,テクニクスらしい,技術的な完成度の高いCDプレーヤーで,優れた機能性と
音質を両立させた1台でした。重厚さよりも,繊細さクリアさをもった,歪み感のきわめて少ない音は,テクニク
スの個性をしっかり感じさせるものでした。