Technics SL-P2000
COMPACT DISC PLAYER ¥200,000
1992年に松下電器がテクニクスブランドで発売したCDプレーヤー。同社はNTTと1ビットD/A
コンバーターMASHを開発したメーカーで,デジタル技術において高いレベルを持っていました。
そんな松下が発売した一体型CDプレーヤーの最上級機にあたるモデルがSL-P2000でした。
D/Aコンバーターとして,同社自慢のMASH方式の最新型「S-アドバンストMASH1ビットDAC」
を搭載していました。
MASHは,1ビットD/Aコンバーターの代表的な技術の1つで,現在でも広く使われている方式で
す。MASHは(Multi Stage Noise Shaping)の略で,独自の多段ノイズシェーピング回路を
指すことばです。MASH方式の1ビットD/Aコンバーターでは,デジタルフィルターが16 ビットデ
ジタルデータをオーバーサンプリングし,折り返し成分を可聴域外の高域周波数帯に追いやり,
MASHにより多段のノイズシェーピング(超高域に量子化ノイズを集中させる)が行われ,可聴帯
域内の優れたSN比と精度を実現したものでした。MASHは多段のノイズシェーピングを安定して
かけることを可能にした技術でした。MASH内では,その後1ビットD/AコンバーターによりPWM
(Pulse Width Modulation)変換が行われ,多段のフィードバックやフィードフォワードが行われ
た後ローパスフィルターを通すだけでアナログ信号に変換できるというもので,微少信号に対し て
強さを持つといわれています。
「S-アドバンストMASH」は第3世代のMASHの後期のもので,新技術のアクティブフィードバック
(一種のサーボ技術)とアダプティブ局部量子化器(より高精度な特性を持つ量子化器)の採用に
より,従来のMASHの3次から進んで4次のノイズシェイピングとなり,64倍オーバーサンプリン
グとあわせ,145dBもの理論ダイナミックレンジを可能としていました。
PWM変換部では,クロック信号を水晶発振器からダイレクトに伝送してより精度の高い変換を確
保していました。基本波発振水晶には33MHzのものを搭載し,従来のオーバートーン発振水晶よ
りも一段とジッターの少ないクロック信号が得られるようになっていました。DACは8DAC構成で,
これを1チップに納め,差動回路で高調波を打ち消し,高SN比,低歪,高リニアリティーを確保し
ていました。また,差動回路には,高精度インスツルメンテーション回路構成(工業用、計測用とし
て広く用いられている差動増幅回路,反転入力と非反転入力が対称につくられているので、対称
性がよく,微少信号に対する特性に優れる)を高度にトリミングしたものが採用されていました。
SL-P2000では,MASH部LSIが1つ,L/R独立でのPWM出力LSIが2つという3チップという
構成でオーディオ回路として相互干渉等の面から理想的な構成となっていました。
電源回路には,「バーチャル・バッテリー・オペレーション回路」が採用されていました。これは,同社
のアンプにも搭載されているもので,MOS FETの特性を利用してAC電源やデジタル回路からの
ノイズをカットする働きをさせるものでした。電源回路の基準電位発生回路からの電流を一旦コンデ
ンサーに蓄えておき,音楽再生時には,基準電位発生回路を切り離して,コンデンサーからFET素
子のゲートに電圧を供給する方式となっていました。これにより,バッテリー駆動に近い電源品位を
実現していました。
電源トランスには,円形断面を持ちコイルの緊密な巻き付けがなされリーケージフラックス(磁束漏
れ)が少なく高効率な電源供給が可能なRコア・トランスが搭載され,新開発のMASTERシリーズ大
型アルミ電解コンデンサとともに,高品位な電源部が構成されていました。
SL-P2000では,外部振動による悪影響を抑えるためにT.H.C.B.(テクニクス・ハイブリッド・コンスト
ラクション・ベース)を採用したキャビネット構造がとられていました。THCBは,鋼板シャーシと硬質
ラバーによる防振ベースによる多層構造で優れた振動減衰特性をもち,このTHCBを4つの大型イ
ンシュレーターが支える構造となっていました。光デッキ部は,重量バランスの良い中央部に配置さ
れ,シリコンゲル封入のインシュレーターによってフローティングされたダブルインシュレータとなって
いました。
ローディングメカニズムは,
SL-Z1000の技術の流れをくむSL1を搭
載し,ディスクトレイには,振
動減衰特性に優れたT.N.R.C(Technics Non Resonance Compound・・・BMCと金属の複
合構造)が採用されていました。また,アーム駆動には,独自のスイング・アーム駆動方式が採用さ
れていました。
サーボ系には,ディスクの状態に合わせてフォーカス,トラッキング,トラバースの各サーボ量を最適
にコントロールし,安定したサーボ特性によりデジタル信号での時間軸でのゆらぎやサーボ電流のリ
ップルを抑制したデジタル・サーボを受け継ぎ,さらにサーボ駆動電流をグランドに流さない構成とした
デジタル・サーボU・システムを採用していました。この構成により,グランド電位の変動が抑えられ,より
クリアで定位の安定した音を実現していました。
ラインアウト回路(アナログアンプ部)には,同社自慢の
classAA回路を搭載し,さらにカップリングコ
ンデンサーを排したストレートDCアンプ回路としていました。
出力端子は金メッキのRCAピン出力端子とバランス出力端子,デジタル系としては,光出力端子を
搭載していました。
以上のように,SL-P2000は,テクニクスブランドらしく高い技術水準を生かした高性能なCDプレー
ヤーで,温かみのある歪み感の極めて少ない音は,テクニクスらしさが表現されていました。そして,
残念なことにテクニクスブランド最後の高級CDプレーヤーとなってしまったのでした。