SL-P999の写真
Technics SL-P999
COMPACT DISC PLAYER ¥69,800

1988年にテクニクスが発売したCDプレーヤー。これより後MASH・1ビット方式に移行していくテクニクスが
マルチビット方式として高性能を追求した最後の世代にあたる1台で,コストパフォーマンスと完成度の高い
実力機でした。

SL-P999の最大の特徴は,マルチビット機として当時最も先進的な内容を持つD/A変換部を持っていたこと
でした。前モデルにあたるSL-P990(¥89,800) が4DAC・18ビット変換システムであったのに対して,さら
に進んで,「4DAC・リニア20ビットシステム」を搭載していました。
この「4DAC・リニア20ビットシステム」は,Lch,Rchそれぞれに正信号用のD/Aコンバーター,負信号用の
D/Aコンバーター,計4個のD/Aコンバーターを搭載していました。この4つのD/Aコンバーターで各成分を個
別にD/A変換したうえで差動アンプで合成し,高性能4DACプロセッサLSIの高精度コントロールで,正信号,
負信号の判別,切換動作を行い,リニアリティのよい部分だけを合成することでゼロクロス点の段差によるいわ
ゆるゼロクロス歪みの問題を原理的に解消したものでした。
デジタルフィルターには20ビット8倍オーバーサンプリングデジタルフィルターを搭載し,低次のアナログ・ローパ
スフィルターの使用を可能としていました。その結果,ローパスフィルターを構成する素子や半導体による悪影響
が抑えられていました。
「4DAC・リニア20ビットシステム」では,ゼロクロス歪みを解消するだけでなく,入力レベルに関係なく,つねに20
ビット動作を実現し8倍オーバーサンプリングデジタルフィルターの20ビット高分解能とあいまって微少信号の再
現能力を向上させていました。

さらに,D/Aコンバーターのビット切換時に生じるグリッチノイズを除去するデグリッチ回路(サンプルホールド回
路)を,微少信号時(−12dB以下)にはサンプルモードに固定することにより,微少信号再生の妨げとなる,デグ
リッチ回路自体から生じるスイッチングノイズの問題を解消し,高SN比を実現していました。
サンプルホールド回路,バッファアンプ,ヘッドホンアンプには,同社のプリメインアンプ,セパレートアンプで開発
された「classAA方式」が採用されていました。これは,電圧コントロールと電流ドライブを2つの異なるアンプで分
担し,負荷変動が波形再生に及ぼす影響を防ぐもので,低歪みの忠実な波形伝送を実現していました。

ディスクのキズ等によるエラー訂正方式として「8サンプル直線補間」が採用されていました。一般に信号処理LSI
では,エラー量が増加するに従って,信号処理を誤り訂正→平均値補間→前値ホールドの順で移行してエラーの
訂正,補間が行われます。SL-P999で採用された「8サンプル直線補間」では,データー誤りが連続8個以内であ
れば,前値ホールドに移行することなく直線補間によりノイズ発生を防止し,高音質を維持するというものでした。

電源部には,「ディスクリート・ローノイズアクティブサーボ電源」が搭載されていました。これは,電流変動の大きな
サーボ回路やデジタル回路と,電源電圧の変動に対してデリケートなDACを含むアナログ回路との電源における
独立化と双方の安定化を図ったもので,オーディオ電源の低雑音化,低インピーダンス化,高リップルリジェクション
を実現し,電源電圧の微少変動も忠実にフィードバックして,DACの動作による電源電圧の変動を極小に抑えてい
ました。この結果,DACには非常に安定した電源を供給することが可能となり,DACやオーディオ回路の性能を十
分に発揮させる電源部となっていました。

パーツの面でも検討されたものが使われていました。整流回路にはファースト・リカバリー・ダイオードと大容量オー
ディオ用電解コンデンサが使用され,整流ノイズが低減されていました。オーディオ用グランドラインにはLch・Rch
独立BUSバーが配置され,低インピーダンス化が図られていました。抵抗には,非磁性体キャップを用いた新開発
高音質炭素皮膜抵抗が,コンデンサには高音質電解コンデンサが使用され,音質をパーツの面から支えていました。

光学デッキ部には,高精度リニアモーター採用の,「ハイスピード・リニアアクセスシステム」が搭載され,マイクロコン
ピューターを駆使した制御システムにより,高速アクセス,優れた操作フィーリング,高い耐久性・静粛性を実現して
いました。ピックアップには,1ビーム方式を採用し,CCFレンズには独自の非球面一体成型ガラスレンズを採用し
優れた信号読み取り能力と信頼性を実現していました。

光学デッキ部

サーボ系統から音質への悪影響を生じる振動に対する対策として,無共振・無振動をめざした筐体の設計がされて
いました。外部からの振動に対して,メタルシャーシベース,TNRC(テクニクス・ノンレゾナンス・コンパウンド)ベース
などの異種素材からなる多層構造ベースが採用されていました。振動を熱エネルギーに変換して高い防振性を獲得
していました。
また,脚部には大型インシュレーターを搭載し,振動を遮断するとともに,光学デッキはシャーシからダブルフローティ
ングする多重インシュレーター構成として,大幅な振動減衰を実現していました。

選曲等の機能は多彩に搭載されていました。フロントパネル上には大型のシャトルサーチダイヤルが装備され,ダイ
ヤルの角度により,1/8倍速から76倍速まで,正逆両方向によりそれぞれ4段階のスピードでシャトルサーチができ
るようになっており,希望の箇所を探したり,細かいフレーズを頭出ししたりするなどの操作性を高めていました。
サーチダイヤル以外に20キーも装備され,20キーによるダイレクトアクセス,32ステップランダムプログラムも装備さ
れていました。
また,ポーズ状態でポーズ位置のフレーズ音を出しながら繰り返し再生(narrow約0.2秒間,wide約1秒間)する「ウ
インドウ繰り返し再生機能」も装備されていました。

CDからテープへの録音・編集に便利な機能も充実していました。テープの長さ(90分・60分・46分)を選ぶだけで,テ
ープのA面,B面に録音できる曲番・曲数・残り時間を瞬時に自動計算し,セミデュアル・ミュージックマトリックスディスプ
レイに同時表示するという「エディットガイド」を装備していました。さらにテープの長さは,20キーを使って1分から99分
まで自由に設定できるようになっており,オートスペースのON/OFFも設定できるようになっていました。また,1枚目の
ディスクから録音したテープの残り部分に,他のディスクから録音できる曲番・曲数・残り時間を自動計算して表示し,複
数枚のディスクから録音するとき便利な「ディスクリンク機能」も装備していました。
さらに,ディスク全曲,あるいはプログラム曲のピークレベルを自動検出した後,ピーク点の前後約3秒,計約6秒を繰り
返し再生する,デッキ側での録音レベル設定を容易に行うための「オートピークサーチ」を装備していました。任意の2点
(A→B)区間の高精度ピークサーチが可能な「ABピークサーチ」も装備していました。

以上のように,SL-P999は,D/Aコンバーター,操作系などテクニクスらしく高い技術を感じさせる1台で,中級機ながら
優れた機能と音質を実現した実力機でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



4DACリニア20bitシステムが,
微妙な音のニュアンスまで再現。

@圧倒的な分解能を誇る4DACリニア20bitシステム。
A多層構造ベースをはじめとする無振動・無共振設計。
Bローノイズ・アクティブサーボ電源採用。


 ◎微少信号の再現能力を大幅に向上
  4DACリニア20bitシステム

  ●L/R独立4DAC構成によるノンゼロクロス動作。
  ●高分解能20bit8倍オーバーサンプリングデジタルフィルタ。
  ●高分解能20bit動作を実現した4DACシステム。

 ◎微少信号にも高S/Nを実現した
  サイレント・デグリッチ回路
 ◎圧倒的な高解像度と低歪を実現
  classAAオーディオ回路
 ◎ディスクのキズや汚れにも,高音質を
  維持する8サンプル直線補間
 ◎安定した電源供給を実現する
  ローノイズ・アクティブサーボ電源
 ◎デジタル光リンクシステムに対応
  光デジタル出力装備
 ◎高音質にさらに磨きをかける
  厳選されたオーディオパーツ
 ◎多層構造ベース,多重インシュレータ
  構成による無振動・無共振設計
 ◎高速かつ高信頼性を誇る
  新開発光学デッキ
 ◎オートピークサーチ搭載
  先進のエディット機能

  ●ディスクリンク機能。
  ●オートピークサーチ。

 ◎前後とも4段階のスピードで
  サーチできるシャトルサーチ機能

  ●ウインドウ繰り返し再生機能。
  ●Lch/Rch独立デジタルレベルメータ/プレイング
   ポジション切換式ディスプレイ。
  ●20キーによるダイレクトアクセス。
  ●32ステップ・ランダムプログラム
  ●ランダムプレイ。マイコンが演奏曲順
   を自動設定して,演奏スタート
  ●ノーマル/ランダム,2モードのタイマープレイ機能。
  ●オートキュー
  ●4モード切換え方式の時間表示
  ●リピート
  ●ABリピート
  ●ディスプレイON/OFF機能。



●SPCIFICATION●

チャンネル数
2チャンネル(ステレオ)
出力電圧
2.5Vrms(0dB,EIAJ)
周波数特性
2Hz〜20,000Hz±0.3dB(EIAJ)
ダイナミックレンジ
100dB以上(EIAJ)
SN比
113dB以上(EIAJ)
全高調波歪率
0.0023%以下(1kHz,EIAJ)
高調波歪率
0.0013%以下(1kHz,0dB)
チャンネルセパレーション
110dB以上(EIAJ)
ワウ・フラッタ
測定限界以下(EIAJ)
デジタルフィルタ
8fs20ビットデジタルフィルタ
誤り訂正方式
テクニクス・ニュースーパー・デコーディング・アルゴリズム
(8サンプル直線補完機能付き)
トラバース
ハイスピードリニアアクセスシステム
電源
AC100V 50/60Hz
消費電力
12W
ヘッドホン出力レベル
60mW/32Ω(可変)
外形寸法
430W×338D×126.5Hmm
重量
6kg

※本ページに掲載したSL-P999の写真・仕様表等は1988年11月
 のTechnicsのカタログより抜粋したもので,松下電器産業株式会
 社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載,
 引用等をすることは法律で禁じられていますので,ご注意ください。

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