Technics SL-Z1000
CD PLAYER UNIT ¥400,000
SH-X1000
DIGITAL PROCESSER ¥400,0001989年にテクニクスが発売したセパレート型CDプレーヤー。セパレート型CDプレーヤーはソニー,アキュフェーズ
ローディーの各社がいち早く出していましたが,それに次いでテクニクスが出したセパレート型モデルの力作がこの
SL-Z1000とSH-X1000のペアでした。CDドライブユニットSL-Z1000は,堂々たる筐体が示すように徹底して制振構造がとられ,全体の重量は20kgに
達していました。天板は3mm厚のアルミ板で広い面積に制振材を張って制振処理が施されていました。サイドウッド
パネルは1枚約900gのものが左右に配されていました。フロントパネルは8mm厚のアルミ製で,リブ入りの強靱な
構造となっていました。CDドライブメカや電源部等を支えるシャーシは2mm厚のフレームが配された剛体構造となっ
ていました。CDドライブメカが中央に配置されたセンターマウント構造で,CDドライブ部を中心に,電源部等が左右
対称に配置されて,重量バランスの良いつくりとされていました。基板は安定した回路動作を実現するガラスエポキ
シ基板が搭載されていました。
電源部は,サーボ系とデジタル系それぞれに独立した大型の電源トランスを持つセパレート構成で,振動源となりや
すい電源トランスは,専用ケースに特殊樹脂で充填封入され,硬化ゴムでフローティングした上でシャーシにマウント
された制振構造がとられていました。フィルターコンデンサーも左右に2本ずつ計4本が搭載されていました。ピックアップ駆動部はリニアモーター式で,高精度なガタつきのない構造とマグネット吸引方式により,耐震性を高め
つつ高速でスムーズな動きを実現していました。光デッキ部は4点等荷重により水平に支えられ,かつフローティング
されて耐振性を高めていました。光デッキ部全体には長期間の性能維持のために高精度・高剛性のアルミダイカスト
が採用されていました。CDのローディングは速度制御された静かでスムーズな動きが確保され,メカニズムの摩擦
力のバラツキや温度変化による負荷変動にも常に一定した動きで作動するようになっていました。また,ディスクを駆
動するスピンドル部も適切で細やかな加速制御がされ,ディスクのローディングから再生までスムーズで迅速な動作
を実現していました。デジタルプロセッサー(D/Aコンバーター部)SH-X1000は,SL-Z1000と同じく重量20kgの堂々たる筐体を持ち
筐体の構造等は共通しており,こちらもしっかりした振動対策が図られていました。
電源部は,デジタル用,アナログ用それぞれ専用の大型トランスと7個のフィルターコンデンサーを搭載した強力なも
ので,回路動作による電源電圧変動を抑えるために「アクティブシャント電源」を採用していました。
パーツの面でも,最上級機らしく,ガラスエポキシ基板,オーディオ用PXSコンデンサー,など厳選された搭載されて
いました。最大の特徴としては,DACとしてMASHを搭載していたことでした。MASHは,NTTと松下電器が共同開発したもの
で,ビットストリーム方式とともに,1ビットD/Aコンバーターの代表的な方式の1つで,現在でも広く使われている方式
です。MASHは(Multi Stage Noise Shaping)の略で,独自の多段ノイズシェーピング回路を指すことばです。
MASH方式の1ビットD/Aコンバーターでは,デジタルフィルターが16ビットデジタルデータをオーバーサンプリングし,
折り返し成分を可聴域外の高域周波数帯に追いやり,MASHにより多段のノイズシェーピング(超高域に量子化ノイズ
を集中させる)が行われ,可聴帯域内の優れたSN比と精度を実現したものでした。MASHは多段のノイズシェーピング
を安定してかけることを可能にした技術でした。MASH内では,その後1ビットD/AコンバーターによりPWM(Pulse
Width Modulation)変換が行われ,多段のフィードバックやフィードフォワードが行われた後ローパスフィルターを通す
だけでアナログ信号に変換できるというもので,微少信号に対して強さを持つというものでした。従来のマルチビットに対
して,時間軸の正確さにより精度を出すという,当時全く新しい発想のD/Aコンバーターといわれていました。
SH-X1000に搭載されたMASHは第3世代にあたり,当時最高級のもので,MASHチップには24ビット8倍オーバー
サンプリングのデジタルフィルターが内蔵され,MASH・1ビットDACとL/R独立のPWMチップという3チップ構成として,
PWMチップへのデジタルノイズの飛び込みを防止し,チャンネルセパレーションの向上が図られ,理論Dレンジ123dB
を実現していました。SH-X1000では,デジタルオーディオインタフェースの伝送系で発生する音を濁らせるクロックジッターを防ぐために,
「ジッターフリーインタフェィス」が搭載されていました。これは,デジタルデータを高性能DSP(Digital Signal Proc
-essor)を介して1.5Mビットの大容量RAMに蓄積し,送り出し側のクロックから独立してクォーツによる高精度クロ
ックでRAMから読み出し,終段のデジタルフィルター+MASHチップにデジタルデータを転送することで,ジッターを
RAMに蓄積するため,読み出し時にはジッターが原理的にゼロになるというものでした。RAM使用量が大きいとき,
やや時間的ズレの発生が起こりますが,RAM使用量にNARROW/WIDEの2種を設け,ソースの周波数偏差の大
小で選択できるようになっていました。
また,入力ソースの周波数偏差が極端に悪い場合には,「上記のジッタフリーモード」ではなく独自の「デジタルPLL
モード」で動作するようになっていました。このモードでは,DSPに入力されたデジタル信号のVCO(Voltage Contro
-lled Oscillator=電圧制御発振器)からのクロックとの位相差をRAMを用いて検出し,約10secの周期の位相差出
力でVCOをコントロールするようになっていました。この結果,このモードでも,ジッターが可聴帯域外へ追いやられ,
ロックレンジを広げ,発振精度の高いクロックの生成が可能となっていました。
SH-X1000では,さらに,ローパスフィルターの位相まわりから生じる群遅延歪みを抑えるためにDSPを活用し,後
段のローパスフィルターの逆特性をもつ位相補正を行い,全体のリニアフェイズを実現していました。
また,従来アナログ回路で行われていたディエンファシス処理をDSPで処理するデジタルディエンファシスが採用され
回路のシンプル化が図られていました。以上のように,SL-Z1000とSH-X1000のペアはテクニクス初のセパレート型CDプレーヤーであるとともに,プレス
テージモデルとして,80万円でも安いと思わせるほどしっかりした作りで,きめが細かく力強い音を実現した力作でし
た。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎据置きCDプレーヤーの基本性能を
追求。徹底制振構造のSL-Z1000
●高剛性で,堅牢なシャーシ構造。
●シンメトリー構成により,最適な重量
バランスを実現し,耐振性を向上。
●大型TNRCインシュレータ&制振鋼板採用の床板。
◎機構だけでなくトラバース自体も制振。
耐振動リニアトラバース
●マグネット吸引式耐振動リニアトラバース。
●4点等荷重フローティング光デッキ。
●速度制御ソフトローディング。
●ディスク対応スピンドル加速制御。
◎多機能リモコン標準装備。
様々な操作が手元でOK◎MASH・1ビットDAC搭載の
デジタルプロセッサSH-X1000
◎クォーツ制御でデータを転送,
ジッターフリーインタフェイス
◎入力ソースの周波数偏差が大きい
場合は,高精度デジタルPLLが動作
◎群遅延歪とS/N悪化を排除,
DSPによるデジタル信号処理
●ローパスフィルタの位相まわりから生じる群遅延歪を
抑えるため,高性能DSPを採用。
●従来アナログ回路で行われていたディエンファシスを
DSPで処理するデジタルディエンファシス。
●デジタル用,アナログ用に余裕ある電源トランスを
それぞれ専用として搭載。
●アクティブシャント電源採用。
●ガラスエポキシ基板,オーディオ用PXSコンデンサ他
厳選パーツ使用。
デジタル出力 | EIAJ標準デジタルオーディオインターフェースフォーマット/光2系統 |
標本化周波数 | 44.1kHz |
誤り訂正方式 | テクニクス・ニュースーパーでコーディングアルゴリズム(8サンプル直線補完機能付き) |
ピックアップ | 非球面ガラスレンズ使用ファンフォーカス1ビーム |
トラバース方式 | ハイスピードリニアモータシステム |
スピンドルモーター方式 | 高トルクブラシレスDDスピンドルモータ |
電源・消費電力 | AC100V 50/60Hz・13W |
外形寸法 | W484×H139×D419mm |
重量 | 20kg |
●SH-X1000の主な定格●
チャンネル数 | 2チャンネル(ステレオ) |
出力電圧 | アンバランス:2.5Vrms(EIAJ)
バランス:2.5Vrms |
周波数特性 | 2〜20,000Hz±0.2dB |
ダイナミックレンジ | 98dB以上(EIAJ) |
S/N比 | |
全高調波歪率 | 0.0018%以下(EIAJ) |
高調波歪率 | 0.0008%以下(EIAJ) |
チャンネルセパレーション | 110dB以上(EIAJ) |
デジタルフィルタ | 24ビット高分解能出力8倍オーバーサンプリング |
D/Aコンバータ | 64fsツインPWM方式8DACシステム |
出力インピーダンス | アンバランス:600Ω
バランス:600Ω |
デジタル入力 | EIAJ標準デジタルオーディオインターフェイスフォーマット
光3系統 サンプリング周波数:32.0kHz±0.1%,44.1kHz±0.1%,48kHz±0.1% |
デジタル出力 | EIAJ標準デジタルオーディオインターフェイスフォーマット
光1系統 |
オーディオ出力 | アンバランス出力1系統,バランス出力1系統 |
電源・消費電力 | AC100V 50/60Hz・20W |
外形寸法 | 484W×139H×419Dmm |
重量 | 20kg |
※本ページに掲載したSL-Z1000とSH- X1000の写真・仕様表等
は1990年6月のPanasonic/Technicsのカタロ グより抜粋したもの
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