marantz SM-5
STEREO POWER AMPLIFIER ¥520,000
1994年に,マランツが発売したパワーアンプ。1953年にスタートしたアメリカのオーディオブランドでしたが,
日本での生産拠点であったスタンダード工業が名称を変えて日本マランツとなり,マランツは国産ブランドと
して完全に定着していきました。セパレートアンプでも名をはせた名門・マランツブランドを受け継いだ日本マ
ランツでしたが,1980年代半ば以降はセパレートアンプの分野の新製品は出していませんでした。そんなマ
ランツから久々に登場した本格的セパレートアンプのパワーアンプがSM-5でした。

当時,マランツはアンプのリファレンス用としてB&Wの801シリーズを使っていました。B&W801は,世界
のスタジオでも多く使われていたスピーカーシステムで,非常に性能がよい反面,うまく鳴らし切るのは難しい
というもので,マランツ自身1993年よりB&Wの代理店となっていましたが,自社アンプで鳴らしてみると,低
域がモコモコになったりしてうまく鳴らし切れなかったといわれています。そんなB&Wの性能や素性をよく知っ
ていたマランツが久しぶりに本格的なパワーアンプを開発するにあたり,こういうスピーカーもしっかり鳴らし切
れるものを作ろうとしたのは当然のことでした。

SM-5の設計にあたり,低インピーダンスでたっぷりと電流を流しこんでやれるアンプをめざしたため,大きな
トランスやコンデンサーによる強力な電源部を搭載した規模の大きなアンプとなることが必要となりました。しか
し,SM-5の設計には,ひとつ制約がありました。アンプの骨格となる銅メッキのシャーシのレイアウトはすでに
決まっており,それに合わせてレイアウトする必要がありました。



このシャーシは,亜鉛ダイキャスト製の堅牢なもので,これに銅メッキが施されていました。このダイキャスト
シャーシは,1988年のプリメインアンプPM-95を開発したときにつくったもので,これ以降の高級プリメイ
ンアンプに使われてきたものでした。通常多く使われる鉄板折り曲げシャーシに対して音質的に大きくメリッ
トがあるということでの採用でした。しかし,コストの関係から,アンプのシャーシにダイキャストシャーシが用
いられることは少なく,鋳物系でも砂型鋳物を用いる程度でした。この亜鉛ダイキャストシャーシの製造には,
専用の精密な金型(ダイス)が必要であり,PM-95開発の際にも相当のコストがかかっており,アンプごと
に次々と金型を作るというわけにはいきません。特に,SM-5のような高級機の場合には,生産数も限られ
ており,不可能でした。そこで,マランツの財産ともいうべきPM-95以来の亜鉛ダイキャストシャーシを用い,
そのレイアウト上の制約の上に作り上げていったそうです。そこで,大型のスピーカーも鳴らし切れるという
性能を追求した大出力のパワーアンプでありながら,非常にぎりぎりのところでほどよい大きさに収めた設計
になっていることが大きな特徴でした。音質上の大きなメリットを持つ亜鉛ダイキャストシャーシをベースにもっ
てくるということがある意味歯止めとなっていたともいえました。そして,性能を追求したパワーアンプには純A
級動作という選択肢もありますが,効率が悪く,電源部をはじめ,アンプ全体が非常に大型化する,温度上昇
による各部への影響(特に部品の劣化など耐久性の問題)があるなどを考慮して,ほどよい大きさ,長時間に
わたる性能維持ということにも配慮してAB級アンプとして設計されていました。



電源トランスは,径,底面積を変えずに高さを2センチほど高くし,容量は20%ほど増やしていました。電圧
を下げて,大電流のとれる太い巻線の大きなトランスとしていました。電圧が下がったことによってケミコンの
耐圧もそれだけ低くすることができるようになりましたが,ケミコンのケースは逆に大きくして,容量をあまり欲
張らずに,耐圧が下がった分,音質上有利な低倍の箔に変えていました。このケミコンの中の電極箔はその
表面のしわを多くすれば表面積を大きくし,容量がたくさんとれることになるため,当時の多くのケミコンの場
合そうしたものが一般的でしたが,SM-5の音質対策ケミコンでは,むかしのケミコンのように,電極箔のし
わで容量をかせぐのではなく,大きくつくることによって大容量を得ていました。

こうした電源部に支えられたSM-5の全体の構成は,入力アッテネーター→バッファーアンプ→パワーアンプ
初段→出力段となっていました。
レベルコントロールのための入力アッテネーターは,2つ搭載され,1dBステップ21ポイントL・R別々で,精密
な2連のスイッチ式で,プラスアンプとマイナスアンプ用のアッテネーターを,L・Rに1個ずつという構成になっ
ていました。
バッファーアンプは,L・R各2個,合計4個の「HDAM」が搭載されていました。ここで使用されている「HDAM」
は,従来型の2層に対して4層とし,銅シールドケースには金メッキが加えられた「NEW HDAM」で,1層目は
その上にデュアルのチップFETも含めてトランジスター6石,ダイオードが2石,抵抗が10本というディスクリート
部品を並べ,ロボットによって半田付けされていました。2層目は,完全なグランドでシールド板にもなっていまし
た。3層目は,プラスマイナスの2ライン,4層目も完全なグランドでシールド板にもなっており,まるで測定器用
のシールドルームのような構造になっていました。
SM-5のシャーシは,前述のようにプリメインアンプ用として開発されたものだけに,プリアンプ部分を搭載する
ために,パワーアンプ部分と電磁的にシールドされるように考えられたスペース(右側の黒いふたの部分)があ
りました。ここに前段のバッファーを全部入れて,シールド性を高めていました。



パワーアンプの初段には,L・R各1個,合計2個の「HDAM」が搭載され,SM-5全体では,6個の「HDAM」
が使われていました。
出力段は,通常のバイポーラトランジスターでしたが,LAPTといわれる,マルチエミッター化によって,オーディ
オ専用として必要な高域の遮断周波数を高い周波数(通常5~20MHzのところを50~60MHz)に改善した
大型のトランジスターによるパラレルプッシュプル構成がとられていました。
SM-5のような大出力の大型のアンプでは,たくさんのトランジスターを並列(パラレル)にたくさんつかうことが
多く,また,理論通り均等に各トランジスターに電流が流れれば高域特性もよくなります。しかし,実際の出力段
では,たくさんの電流が流れるトランジスターもあれば,ほとんど流れないトランジスターもあるなどというように
アンバランスが起こることもよくあり,必ずしも並列数が多いことが有利とはいえなくなります。もう一つ,並列に
たくさんトランジスターを使えば使うほど,エミッター抵抗を入れないと安定に動作しないため,並列個数が少な
ければ,その抵抗値を低くすることができ,それによって瞬間的に大きな電流供給が確保しやすくなります。こ
ういったことから,マランツは,あえて並列(パラレル)数を2つに抑えた設計としていました。
このように,2パラレルながら,SM-5は,電圧を非常に低くして,その分だけ電流容量を大きくとった設計になっ
ていました。出力値も8Ωで100W×2,4Ωで200W×2と理論値に近いもの(さすがに2Ωで400Wというわ
けにはいかなかったようですが・・)となっており,さらにBTLでは,8Ωで400Wのモノラルパワーアンプとして使
え,BTLも4Ωまで保証され,700Wほどの出力が得られるようになっていました。



さらに,SM-5は,ペアとなるSC-5との組み合わせで使う際には,SC-5の電源部bb-5と接続することで,バッ
テリー駆動ができるようになっており,DC入力が設けられていました。といっても,これだけのパワーアンプ全体
をバッテリー駆動することは難しいため,入力バッファアンプとパワーアンプ初段をバッテリーによるDC駆動がで
きるようになっていました。
また,bb-5には,SM-5用のDC出力が2系統装備されており,SM-5をBTL駆動でモノラルアンプとして使用
する際にも対応していました。こうしたDC駆動に対応するためもあり,SM-5の電圧は非常に低く設定され,出
力段は電流容量をたっぷりとるという基本設計になっていたようです。そして,実際にDC駆動をした際の音は,
音の澄みきり方が大きく異なり,独自の魅力を発揮していました。

以上のように,SM-5は,マランツが10年以上の月日を経て久しぶりに発売した本格的パワーアンプだけに,
各部に高度な技術と物量がしっかりと投入され,バッテリー駆動対応などの新しさとオーソドックスに高度に煮詰
められた面との組み合わせが見事に両立していました。そして,特にSC-5と組み合わせた際のクリーンな音は
印象的なものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



どんなスピーカーに出会っても,余裕を崩さない
音楽再生への主導権を握って放さない,
DCクリーン電源対応のステレオ・パワーアンプ。

◎低インピーダンスドライブ設計。
◎bb-5によるDCクリーンドライブが可能。
◎新開発の「NEW HDAM」(金メッキ仕様)を採用。
◎余裕をもってドライブする出力段。
◎低インピーダンス電源を採用。
◎シャーシ構造,接続部にも高い信頼性を確保。




●主な仕様●

定格出力(20Hz~20kHz) 100W×2/8Ω,200W×2/4Ω
400W×1/8Ω(BTL) 
全高調波歪率  0.005% 
周波数特性  10Hz~100kHz+0dB,-1dB 
入力感度/インピーダンス  1.5V/10kΩ 
SN比(Aカーブ)  120dB 
消費電力  500W(電気用品取締法) 
最大外形寸法  454W×201H×450Dmm 
重量  33.0kg 
※本ページに掲載したSM-5の写真,仕様表等は1995年10月の
 marantzのカタログより抜粋したもので,D&Mホールディングス
 に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・
 引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

  
 
 
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