SANSUI
SP-V100
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥46,000
1981年に,サンスイが発売したスピーカーシステム。サンスイは,オーソドックスながらしっかりした作りのスピーカー
システムをつくるブランドとして知られていました。また当時,JBLの輸入代理店でもあり,組子格子の美しいスピーカー
システムを作っていたり,JBLのユニットを使用したスピーカーシステムを出していたこともあるなど,JBLをイメージさ
せるスピーカーシステムのブランドでもありました。しかし,1970年代半ばより激化していったスピーカーユニットの新
素材競争の中,オーソドックスなパルプコーンユニット主体であったサンスイのスピーカーは,人気のあるアンプに比べ
て目立たない存在となっていました。そうした中,サンスイが新素材を導入した自社開発ユニットを搭載して送り出した
スピーカーシステムがSP-V100でした。
サンスイは,1970年代より,新素材ユニットとして結晶マイカ(雲母)に注目し,研究を続けていました。結晶マイカは
メタル高分子材料の一種ですが,同じメタル系材料のアルミニウム,チタン,ボロン化チタンなどと比較してもヤング率
密度の低さ(=軽さ),音速など,すぐれた物性を持っていますが,その加工においては,石片を薄くスライスしてスピー
カーの形状に仕上げるようなもので,非常に成形性が悪いという弱点を持っていました。また,メタル系材料の例に漏
れず,内部損失が低い(=共振や癖がのりやすい)という特性も持っていました。サンスイは,3年の歳月をかけた研
究の末,非メタル高分子材料であるポリプロピレンを混合させることで,より理想的な振動板としようとする「バイクリス
タル振動板」を開発したということでした。ポリプロピレンは,非メタル系材料として内部損失が最大級で,軽量である
反面,剛性において紙コーンよりも低く,ソフトトーンになりがちであるという素材でした。「バイクリスタル振動板」は,こ
のポリプロピレンに,十分な剛性をもつなどすぐれた物性をもつ結晶マイカを混合することで,両者の良さを生かそうと
するものでした。2つの結晶体を強く結合させるためにカーボンを加えるなど,独自に開発した特殊な成形技術により
振動板形状にしたもので,ミクロ的には,ポリプロピレン結晶とマイカ結晶が重なり合うような結晶構造となっており,2
つの結晶体が互いに長所を生かし合い,単一素材では得られない良好な素材特性が実現されていました。具体的に
は,(1)剛性が紙,ポリプロピレン(オレフィン系)に比べ,2〜3倍高い。(2)紙に比べて内部損失が2倍ほど大きい。
(3)非メタル高分子材料の中で音速は10〜20%速い。(4)質量は,ポリプロピレンと同等である。などのすぐれた特長
を備え,ワイドでフラットなレスポンス,パワーリニアリティ,すぐれた過渡応答特性をもつ振動板となっていました。
ウーファーは,27cm口径のコーン型で,バイクリスタル振動板が搭載されていました。コーンには,マイクロコルゲー
ションが施され,より高い剛性が確保されていました。磁気回路は,磁束密度10,500ガウスの大型ストロンチウム
フェライトマグネットが採用され,T型ポールの採用などにより歪みを大幅に低減していました。フレームは強固なアル
ミダイキャストフレームが採用され,バッフルに高い剛性で固定されていました。また,ダンパーも音質的に吟味された
動特性にすぐれたハイスピード・ダンパーが採用されていました。
ミッドレンジは,13cmのコーン型で,こちらもバイクリスタル振動板が搭載されていました。ミッドレンジでは,振動の
伝達ロスを極小にするため,一体成型によるバイクリスタル振動板となっていました。磁気回路には,大きな磁束密度
12,000ガウスのフェライトマグネットとT型ポールが採用され,ウーファー同様に,強固なアルミダイキャストフレーム
により,バッフルにガッチリと固定されていました。
トゥイーターは,2.5cm口径のハードドーム型で,新開発のクロムスパッタリング(真空中に不活性ガスを導入しなが
ら,ドーム基材と被膜となるクロムの間に,直流高電圧を印加し,イオン化した不活性ガスをクロムに衝突させ,はじき
飛ばされたクロムをドーム基材に成膜させる乾式メッキ法)による3層構造の蒸着振動板が採用され,高剛性と軽質量
化が実現されていました。磁気回路には,磁束密度15,000ガウスの強力なマグネットが搭載されていました。
ネットワークは,オーソドックスな並列型12dB/cotのネットワークで,ミッドレンジ用,トゥイーター用のインダクタンスに
は,無酸素銅を採用するなど,音質的に素材の吟味もなされていました。
キャビネットは。正面バッフル,背面バッフルには,20mm厚の高密度音響ボードが使用され,その他のボードも高密
度音響ボードが使用され,各部に補強が施された,内容積43.5リットルの堅牢なキャビネットでした。正面バッフル上
のユニット配置は音像定位,音場感を考慮した左右対称配置とされていました。
以上のように,SP-V100は,価格的にもエントリーモデルに近い中級機ながら,技術的にも作りの上でも,非常に力
の入った設計となっており,ややじゃじゃ馬ながら,エネルギー感のある元気な音を聴かせる1台となっていました。