Aurex SS-810
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥125,000
1975年に,オーレックス(東芝)が発売したスピーカーシステム。東芝は,1973年に,オーディオブランドとして
オーレックスを立ち上げ,オーディオ業界に本格参入しました。オーレックスは,家電系メーカーのオーディオブラ
ンドとして最後発でしたが,東芝は,オーディオ研究所を立ち上げるなど,力の入れようは凄いものがありました。
スピーカーにおいても,独自の技術を開発したり,新技術を導入したり,物量を投入したりと,個性的なモデルを展
開していきました。そんなオーレックスブランド初期の最上級機にあたる機種がSS-810でした。
SS-810は,基本的には,3ウェイのバスレフ型システムで,各ユニットにカーボンを軸とした新素材,新技術を投
入し,エンクロージャーも一般的に多く使われるパーティクルボードではなく,合板製で,美しい木目仕上げで,左
右対称設計となっており型番の上でも,SS-810NL(左),SS-810NR(右)となっていました。
ウーファーは,30cm口径で,見た目でも分かるとおり,センターキャップの目立たないコンケーブ形という独特の
形状をしていました。センターキャップを凹型として,センターキャップ自体も振動板の一部と活用することで,クロ
スオーバー付近のあばれを少なく抑え,極端なピーク,ディップを低減した素直な特性と,高い輻射効率を実現し
たオーレックス独自の振動板形状でした。コーン素材としては,パルプに高弾性の炭素繊維を混ぜ合わせたカー
ボンファイバー混抄コーンが採用されていました。軽さと強さを両方持ち合わせた炭素繊維(チップ状)を一定の比
率でパルプに混ぜるとパルプだけの場合より剛性が増し,しかも重くならずに軽い振動板となり,振動板としての
高い性能や可能性を確保し,クリアーな低域を実現していました。振動板を支えるエッジは,曲率半径の異なる2
種類のΩ型形状のエッジを交互に組み合わせた形をした独自のラジアルエッジ構造が採用され,エッジでの分割
振動も抑えられていました。ダンパーも二重構造になっており大振幅にも高い直線性が確保され,磁気回路は,
センターポールに後部と貫通する空気穴がある有孔ポールが採用されていました。以上のような構造,素材等が
あいまって,クロスオーバー(600Hz)の4倍の周波数まで多重共振峰を生じないというすぐれた特性が実現され
ていました。
スコーカーは,5cm口径のドーム型で,新開発のCFRP(カーボン繊維強化プラスチック)振動板を採用していまし
た。CFRP振動板は,カーボンファイバーのもつ高弾性とプラスチックの適度な内部損失を兼ね備え,ハードドーム
のシャープな立ち上がりとソフトドームの耳あたりの良さ,両方をもつ新しい振動板でした。エッジは,ダブルエッジ
構造が採用されていました。
トゥイーターは,3cm口径のドーム型で,スコーカー同様にCFRP振動板が採用されていました。エッジは,振動板
を粘弾性体(ウレタンゴム)で支えるサポートエッジ構造が採用されていました。
スコーカーとトゥイーターには,それぞれ連続可変のレベルコントロールが装備されていました。
エンクロージャーは,内容積95リットルに及ぶ大型のもので,スピーカーシステムとして総重量も36kgに達する大
型のスピーカーシステムとなっていました。エンクロージャーの型式は,変形バスレフトもいうべきプレッシャー・バラ
ンス方式というものでした。これは,バスレフ型でありながら,密閉型に近い効果をもつもので,バスレフのポートか
らは,可聴帯域外の不要振動だけを逃すことで,内圧のバランスを保つように設計されており,密閉型のこもり感や
バスレフ型のブーミー感を抑える効果がありました。
背面の入力端子は,通常のネットワークを通して3ウェイユニットにつながるフルレンジ端子の他に,各ユニット別の
マルチアンプ・ダイレクト駆動端子も装備されていました。
以上のように,SS-810は,各部の作り,ユニット等の技術面で見て,相当の力作の1台で,音の方も,大型のエン
クロージャーにも支えられ,スケール感のある堂々たる再生音を実現していました。独特のウーファーユニットの外
観ゆえか,オーレックスらしい個性的なデザインも目を引いたものでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
カーボンファイバーで統一した
30cmウーハー・3ウェイ。
◎カーボン繊維混抄30cmコンケーブ・ウーハー
◎CFRP振動板のスコーカー,ツィーター
◎左右対称ユニット配置のキャビネット
◎マルチアンプ・ダイレクト駆動端子を装備
●SS-810L(R)の規格●
形式 | 3ウェイ・プレッシャーバランス方式 (内容積95リットル) |
インピーダンス | 8Ω |
許容入力 | 定格50W,最大100W |
再生周波数範囲 | 20〜30,000Hz(SPL−20dB) |
最低共振周波数 | 50Hz |
出力音圧レベル | 90dB/W・1m |
クロスオーバー周波数 | 600Hz,5,000Hz |
外形寸法 | 410W×770H×430Dmm |
重量 | 36kg |
使用スピーカー | ウーハー:30cmラジアルエッジ・CFコンケーブ スコーカ:5cmダブルエッジ・CFRPドーム ツィーター:3cmサポートエッジ・CFRPドーム |
レベルコントロール | 高域,中域各連続可変 |
※本ページに掲載したSS-810の写真,仕様表等は1976年10月
のAurexのカタログより抜粋したもので,東芝株式会社に著作権が
あります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等をする
ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。
現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。