SS-R10
3WAY SPEAKER SYSTEM ¥1,500,000(1台)
1996年に,ソニーが発売したスピーカーシステム。ソニーとしてはSS-GR1以来の高級スピーカーシステム
で,ソニーのような大手メーカーとしてはきわめて珍しい(というより前例のない)エレクトロスタティック・スピー
カーシステムでした。

エレクトロスタティック型は静電型,コンデンサー型などとも呼ばれ,超軽量な振動膜が静電応力によって振幅
する構造となっており,分割振動が無く,低歪,平坦な位相,高速応答を実現できるなど,スピーカー技術者に
とってもある意味理想の方式といわれています。高音域用ユニットとしては古くから製品が作られていましたが,
全帯域をエレクトロスタティック型で再生するフルカバーシステムとなると,難しい面もあり,これまでもQUAD
MARTIN LOGANなど,海外のメーカーを中心にいくつかのブランドに限られ,少数派となっていました。そし
て,国内ではスタックスがすぐれた製品を作っていました。そんなエレクトロスタティック型(ソニー自身はコンデ
ンサー型と称していました。)のフルカバーシステムに,大メーカーであるソニーが挑戦し,ユニットの基礎研究
から数え,6年間の歳月をかけて研究し,完成させたのがSS-R10でした。

エレクトロスタティック型では,1ユニットでフルレンジをカバーすることも可能で,1ユニット構成のシステムが
主流ですが,振幅の大きな低音域の再生に問題が生じたり,そうした低音域の再生に主眼を置くために高音
域の再生にしわ寄せがくるという問題点がありました。特に,高域再生においては,平面波であるがゆえに,指
向性がレーザー光線のようにビーム状になり左右のスピーカーの正面中央から少しでも聞き手がずれたり頭を
動かすと音像が結ばなくなるなどの現象も大きな問題点としてありました。
そこで,SS-R10は,高域の指向性をビーム状から脱却させ,極力リスニングエリアを広げるために,3ウェイ
構成をとっていました。ユニット構成は,上下に2ユニットずつ配した3ウェイの6ユニット構成に見えますが,実
際には8ユニットという構成で,ウーファーに4ユニット,スコーカーに2ユニット,そして,トゥイーターに2ユニット
となっていました。ウーファーが4ユニット構成になっているのは,上下とも2組のユニットが組み合わされている
ためで,こうすることでウーファーとしてのドライブ能力を高め,量感のある低音を実現しようとしたものでした。



ユニットの振動膜は,家庭用ラップフィルムの1/10の重さしかない厚さ6μmで,振動膜の前後の空気層の
実効的な質量と比較しても充分に軽く,全面駆動により際立ってすぐれた音の分解能を可能にしていました。
ユニット1枚の高さは500mmで共通となっており,ユニット1枚の幅は,ウーファーが270mm,スコーカーが
70mm,トゥイーターが25mmで,一般的なユニットの3ウェイスピーカーシステムと水平方向の指向性パター
ンは近いものとなっていました。振動膜の表面には,導電性ポリマーを化学的に形成する加工がされており,
振動膜の母体は透明であるが,加工後も淡く色をまといつつも透明なものとなっていました。振動膜を挟む
穴の開いた電極の母体は真鍮で,その表面を絶縁のためのエポキシが包んだ形になっていました。

エレクトロスタティック型スピーカーには,エンクロージャーが必要でないため,エンクロージャーの影響を受け
ず原理的に素直な音質が実現できます。反面,ほとんどただのパネルという形状のため,強度がとれにくく,
たわみが生じる可能性があったり,振動の基点の強度が弱くなるなどの弱点がありました。
そこで,SS-R10ではパネルの強度を飛躍的に高めていました。パネル部は,米松を6センチ厚の合板にし
たものを使用し,ねじりやたわみに強いきわめて強固なものとし,聴感上のS/N比も大きく上がっていました。
6cmという厚みは,ユニットに厚みに対してかなりの厚みになるため,開口部の凹みが大きくなり,空洞の共
振等,音の拡がりへの影響の可能性も出てくるため,角を滑らかに削り取るなど念入りに加工されていました。
また,フレームにあたる米松製パネルは,響きの良さから選ばれたということでした。



エレクトロスタティック型スピーカーの発音原理は,電極と振動膜とにバイアス電圧をかけ,そのうえで電極に
トランスによって昇圧された音楽信号を流すと,電極の電圧が変化し,振動膜を動かすことになるというもので
振動膜の前後にある電極が,振動膜を挟んでプッシュプル動作で振動膜を駆動することで正確で繊細な音の
再生が可能となっていました。2枚の電極に振動膜が挟まれた状態が,コンデンサーの構造そのものであるこ
とから,日本ではコンデンサー型とも呼ばれ,ソニー自身もSS-R10をコンデンサー型スピーカーシステムと称
していました。
こうした動作原理であるため,エレクトロスタティック型は電源が必要で,本体後部についたボックスの内部に
は,電源トランス,保護回路,バイアス回路,信号トランスが内蔵されていました。電源トランスは,ウーファー
用,スコーカー用,トゥイーター用独立で3個搭載されており,歪み感が少ないためついパワーを入れがちにな
りやすいエレクトロスタティック型ゆえ,トゥイーターにのみ保護回路が内蔵されていました。フロント面下部の
通常緑のLEDが保護回路が動作すると赤に変わるようになっていました。バイアス回路は,ウーファー,スコー
カー,トゥイーター,それぞれ独立で,スコーカー用,トゥイーター用は基板を共有し,ウーファー用は専用基板
になっていました。音楽信号を昇圧する信号トランスも容量的に充分余裕を持った大型のものがそれぞれ独
立で搭載されていました。基板はガラスエポキシ基板で,各部品を付けた後,信号トランスも含めてエポキシ
樹脂を充填して密閉した構造になっていました。これは高電圧を扱う回路やパーツをホコリや湿気から隔離し
防振するためでした。



ネットワーク回路は,高電圧部の影響を排除するために,本体とは別ボックスとされていました。パーツは高品
質なものが厳選され,負荷抵抗は耐入力を上げるため大型のものが採用され,フィルムコンデンサーも大容
量のものが採用されるなど,各パーツ類はいきおい大型のものになり,相互干渉させないように余裕をもって
配置するため,ネットワークボックスも非常に大きなものとなっていました。ネットワークボックスと本体とを接続
する付属ケーブルは,接続コネクターに,PA用のパワーアンプとスピーカーの接続に使用されるスピコンが使
用され,信頼性を高めていました。

以上のように,SS-R10は,ソニー初の,そして唯一のエレクトロスタティック型のフルカバーシステムとして,
高い完成度を実現していました。それまで存在していた同方式のスピーカーシステムに比べ,正攻法で高い技
術レベルをもって完成したシステムとなっていました。それまでのものと比べ使いやすさは高められていたとは
いえ,音圧レベルが80dB/W/mと低く,パワーアンプもある程度以上のものが必要とされ,ドライブ感や迫力
を求めると難しさはあるものの,晴れ晴れと澄みきった音場感や繊細で歪み感のない音は独自の魅力をもつ
もので,こうしたスピーカーを大メーカーであるソニーが作ったこともある意味驚異的であったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



名演奏に接したときの感動にも似た心の解放感。
フルコンデンサー型,SS-R10。
あくまでも上質のリアリティを求めた
細部にわたる入念な作り込みが,
その存在を忘れさせるような
自然な音場空間を生み出します。

◎全帯域でコンデンサー型ユニットを使用した
 3ウェイ構成のスピーカーシステム
◎2重構造のウーファーにより
 低域も量感豊かに再現できます
◎極薄の振動膜が生み出す優れた音の分解能
◎キャビネット・レスによる素直な音質
◎細部にわたって高音質優先設計




●SS-R10の主な仕様●

システム  3ウェイ 8スピーカーユニット パネル型 フルレンジインプット 
ユニット  オールコンデンサーユニット
ウーファー:270×500mm 4ユニット(2重使用)
ミッドレンジ:70×500mm 2ユニット
トゥイーター:25×500mm 2ユニット 
定格インピーダンス  4Ω 
実効周波数帯域  35~40,000Hz(-10dB) 
クロスオーバー周波数  600Hz 4,000Hz 
定格入力  50W(8Ω) 
最大入力  100W(8Ω) 
出力音圧レベル  80dB/W/m(2.83V) 
推奨アンプ  100~200W(8Ω) 
電源  AC100V 50/60Hz 
消費電力 20W 
大きさ  本体:805W×1,545H×525Dmm
   (グリル,電源コード突起含む)
パネル部厚み150mm(グリル含む) ※グリル着脱可能
ネットワークボックス:785W×230H×290Dmm
   (専用中継ケーブル突起含む) 
質量  本体:約76kg(グリル含む)
ネットワークボックス:約18kg 
付属品  スパイク,本体・ネットワーク間の中継ケーブル,
電源ケーブル(プラグアダプター付き) 
外形寸法図   
※ 本ページに掲載したSS-R10の写真・仕様表等は,1996年6月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権
 があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引用等を
 することは法律で禁じられていますので ご注意ください。

★メニューにもどる        
 

★スピーカーのページ9にもどる
 
 

現在もご使用中の方,また,かつて使っていた方。あるいは,思い出や印象のある方
そのほか,ご意見ご感想などをお寄せください。


メールはこちらへk-nisi@niji.or.jp
inserted by FC2 system