Technics 80T(ST-8080)
FM/AM STEREO TUNER ¥50,000
1976年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したFM/AMチューナー。プリメインアンプ80A(SU-8080)
とのペアを想定したチューナーで,プリメインアンプの80A同様に,基本特性を高める方向で,テクニクスらし
い正攻法での技術的追求が行われたチューナーでした。
フロントエンドは,高周波特性のすぐれたデュアルゲートジャンクションFET2石による2段増幅とFM4連バリ
コンがRF段に搭載されていました。実用感度は10.3dBf(75Ω),0.9μV(旧IHF),SN比50dB感度では
37.2dBf(75Ω),20μV(旧IHF),イメージ妨害比80dB,IF妨害比95dB,スプリアス妨害比90dBという
特性で,高感度と高い妨害排除能力を実現していました。
受信安定度に最も影響する局部発振回路には,高周波低雑音トランジスタや新開発のアルミコア入り発振コ
イルを用いるとともに,湿度などの影響を受けやすい部分を空中配線して,高安定度の局部発振回路として
いました。
IF段は,選択素子に群遅延特性を重視した4共振素子型のセラミックフィルタを4個搭載していました。このう
ち3個は広帯域のもの,1個を狭帯域のものとして,巧みに組み合わせて使用していました。増幅素子には,
ICを2個使って,安定度が高くリミッタ特性のすぐれた差動増幅器を5段設けていました。これらにより,85dB
という高選択度と,0.15%(100%変調・モノ)という低歪率を両立させていました。
検波段には,オーソドックスなクオドラチュア検波回路がIC化されて搭載され,安定した特性が確保されていま
した。
MPX復調回路には,副搬送波発生器にPLL(Phase Locked Loop)を採用していました。80TのPLLは,
電圧制御発振器で76kHzの信号を発振し,1/2分周で38kHzを,さらにその1/2分周で19kHzを得て,パ
イロット信号との位相差を検出し,発振周波数も位相も,常にパイロット信号に一致させる純電子式回路構成
のICが搭載されていました。温度や湿度の変化に強く,長期にわたって安定なスイッチング信号を供給でき,
1kHzで45dB,10kHzで35dB以上というすぐれたセパレーション特性を実現していました。
80Tには,MPX回路でステレオ復調に使った19kHzのパイロット信号の除去のために,ローパスフィルターで
はなく,電子回路でキャンセルするパイロット信号キャンセル回路が搭載されていました。さらに,この回路を実
用状態では問題にならない程度まで抑えられている38kHzのサブキャリアのキャンセルにも働かせるようになっ
ていました。これにより,20Hz~18kHz(+0.2dB,-0.8dB)と広帯域を実現しつつ,位相の回転も極少に
抑えられていました。
機能的には,当時のチューナーとしてオーソドックスながら必要な機能がしっかり搭載されていました。同調離調
時のポップノイズの発生を抑えるFMミューティング回路は,出力段に挿入したリードリレーと,クオドラチュア検
波用のICに内蔵したミューティングを併用した二重のミューティング回路となっていました。セパレーションを調整
してステレオ受信時のSN比の改善を図るMPXハイブレンド,440Hzサイン波,50%変調相当の信号を出力
するRECレベルチェックなどの機能も搭載されていました。シグナルメーターは,クオドラチュア検波回路の働き
で,62.5dBfまでリニアに指示できる電界強度比例型の正確なシグナルメーターとセンターチューニングメーター
が搭載されていました。
出力は,可変出力端子に加え,固定出力端子も装備されていました。さらにマルチパス出力端子も装備されて
いました。
AM部は,ICで構成され,IF回路には選択度特性のよいセラミックフィルタが使用され,Qの高いフェライトバー
アンテナが搭載され,SN比20dB感度30μV,選択度25dBを確保していました。
以上のように,80Tは,テクニクスらしいオーソドックスで理詰めな設計により,安定した性能が実現されてい
ました。音質と感度のバランスのとれた使いやすいチューナーでした。80Aとのバランスのとられた,パネルの
上部にコントロールスイッチ類を集中的にレイアウトし,下部に6mm厚のガラスを大きくはめ込んだデザインも
個性的で,当時斬新さをもつものでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
音楽信号から何ものも取り去らず
何ものも付け加えない
忠実な波形伝送の理想に,
いままた大きく近づきました。
Pilot Signal Cancel
f特20Hz~18kHz(+0.2~-0.8dB)
◎FM4連バリコン・高周波2段増幅
0.9μV(75Ω)の高感度フロントエンド
◎新開発のコイルを用い空中配線化
安定受信を約束する局発回路です
◎85dBの高選択度とすぐれた音質を
両立させた群遅延特性重視のIF段
◎PLL・ICを採用したMPX復調回路
45dB(1kHz)のすぐれた分離度
◎パイロット信号キャンセル回路による
18kHzまですばらしくフラットなf特
◎AM放送もすぐれた音質で受信
高感度・高選択度のAM回路です
◎離調時のポップノイズを押えた
2重のFMミューティング回路です
◎弱電界ステレオ受信を低雑音に・・・
MPXハイブレンドスイッチ装備
◎電界強度チェックも可能・・・62.5dBf
までリニアなシグナルメータ
◎FMエアチェックのレベル設定が
手軽なRECレベルチェックスイッチ
受信周波数 | 76~90MHz |
実用感度 | 0.9μV(75Ω),10.3dBf(新IHF) |
S/N50dB感度 | mono:1.8μV(75Ω),16.3dBf(新IHF) stereo:20μV(75Ω),37.2dBf(新IHF) |
高調波歪率(100%変調) |
mono:0.15% stereo:0.3% |
S/N(IHF) | mono:75dB |
周波数特性 | variable:20Hz~18kHz(+0.2,-0.8dB) fixed :20Hz~15kHz(+0.2,-0.8dB) |
実効選択度 | 85dB |
キャプチュアレシオ(IHF) | 1.0dB |
イメージ妨害比(83MHz) | 80dB |
IF妨害比(83MHz) | 95dB |
スプリアス妨害比(83MHz) | 90dB |
AM抑圧比 | 55dB |
ステレオセパレーション | 45dB(1kHz),35dB(10kHz) |
リークキャリア | variable:65dB(19kHz) fixed :70dB(19kHz,38kHz) |
受信周波数 |
525~1605kHz |
感度(S/N 20dB) |
30μV |
選択度 |
25dB |
イメージ妨害比(1000kHz) |
45dB |
IF妨害比(1000kHz) |
40dB |
出力 |
variable:0~1.4V fixed :0.6V |
録音レベルチェック出力 | 440Hz,50%変調成分 |
消費電力 |
12W |
電源 | AC100V,50/60Hz |
外形寸法 |
450W×140H×367Dmm |
重量 |
6.5kg |
※本ページに掲載した80T(ST-8080)の写真,仕様表等は1976年
11月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック株式会
社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載,引
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