CEC
ST930
FG-SERVO BELT DRIVE PLAYER SYSTEM
¥135,000(ストレートアーム付)
¥135,000(S字アーム付)
¥112,000(アームレス,SME製トーンアーム対応)
1989年にCECが発売したプレーヤーシステム。CD全盛時代にあって,ベルトドライブプレーヤーの雄
CECが発売した本格的なベルトドライブプレーヤーシステムで,当時ベルトドライブプレーヤーの分野で
は海外製が主流となっていましたが,そんな海外製に負けない性能と高いコストパフォーマンスを実現し
た1台でした。
CECは1954年,中央電機の名で創立されたブランドで,フォノモーター,アナログプレーヤーのメーカー
としてコストパフォーマンスにすぐれたアイドラードライブ,ベルトドライブの製品で人気を博していました。
その後輸出に中心を置いていたため,国内ではなじみが薄い時期もありました。また,OEMメーカーとし
て,国内外の他社ブランドのシステムステレオのプレーヤー等にもその製品が多く供給されていたメーカー
でもありました。
その後,三洋電機傘下に入り,レーザーピックアップ部の隠れた大メーカー三洋メディアテック,三洋オプ
トロニクスのもとで,CECブランドとして生き続け,2001年再び三洋電機傘下から独立したブランドとなっ
ています。ベルトドライブ式CDトランスポートをはじめ,アンプなどの分野でも独自の個性を持った製品を
出しているブランドとして現在活躍中であるのは周知の通りです。
ST930は,アナログプレーヤー,特にベルトドライブプレーヤーでの長い経験を持つCECが,持ち前の
技術を投入して作り上げた,こだわりのアナログプレーヤーでした。
フォノモーターは,3相ブラシレスFGサーボモーターが搭載されていました。このフォノモーターは,ステー
ターのコイルを不均一に分布させた画期的な構造を持つモーターで,モーターの磁力を弱めることなく回
転時の合成コギングを減少させ,かつコギング周期を極端に短くすることで,力強いトルクと滑らかな回
転を実現していました。フォノモーター単体では,ワウ・フラッター0.005%以下という高精度な回転を
実現していました。また,33・1/3rpm,45rpmだけでなく78rpmにも対応していました。
ターンテーブルは,直径320mm,重量2kgのアルミダイカスト製で,その慣性質量により安定した回転
を確保していました。ターンテーブルの裏側には,金属板に張り付けることですぐれた制振性を発揮する
新素材LRダンーパーシートが装着され,レコードの振幅に起因する振動や,それにともなって発生する
回転系のごくわずかな振動を抑えていました。
無振動を追求するために,モーターをメインシャフトから分離したCECのお家芸のベルトドライブ方式を
採用していました。さらに,ターンテーブルの超研磨シャフトの軸受けには,オイルレスメタル入りの大型
軸受けを採用していました。
ターンテーブルシートには,ステンレスや銀,銅などの金属繊維を配合し最新の素材を採用していまし
た。導電性にすぐれているため静電気を抑えることができ,40mmの長繊維の使用により高い防塵性
をもっていました。また,通常のシートの上に,レコード盤外周の凸部およびレコードラベルを避けるド
ーナツ状のシートを重ねたダブルシート形状が採用され,レコードとの密着性が高められるとともに,ク
ッション性も高まり,制振性の向上も図られていました。
また,AC電源の整流と,操作機能を受け持つ電源コントロール部も本体から分離され,回転系の妨害
振動,電源部が及ぼす駆動メカニズムへの悪影響をシャットアウトしていました。
ST930は,振動や共振を抑えるために,ダブルサスペンション構造が採用されていました。これは,発
泡CRで支えられたSUS304ステンレス(いわゆる18−8ステンレス)製スプリング,これを包むクロロ
プレン(いわゆる合成ゴム)製ラバーの3層構造からなる一時ショックアブソーバーをアルミダイカストボ
ードとアンダーボードの間に,二次ショックアブソーバーとしてアンダーボードに大型ラバーインシュレー
ターを装着した構造でした。上部のアルミダイカストボードは,3.5kgの重量を持つ高い剛性を持つボー
ドで,さらに,内部メカニズムからの振動を抑制するLRダンパーシートが裏側に装着されていました。
トーンアームは,高精度なジンバルサポート方式で支えられたロングストレートアームCST9021が搭
載されていました。トーンアームの垂直軸は,その上部に配置された高精度マイクロベアリングを支点と
して,重量バランスを下部でとる一点支持方式が採用されていました。さらに,その揺れを最小にするた
めに,支点から最遠点でバランスを保持するように設計され,支点ベアリングが適度な重力で下方向に
押しつけられ,円滑な動作をガタツキ極小の状態で実現していました。また,水平軸も特殊固定スクリュー
を用いてピボットベアリングに適切な圧力が加えられ,ガタツキのもととなる隙間ができないようになって
いました。さらに,極小なギャップを吸収する,特殊粘度のシリコンオイルによるオイルダンプ方式がとら
上げられていました。ストレートアーム先端には一体化されたアルミ合金製ダイカストヘッドシェルが装着
れていました。トーンアーム本体は,カートリッジに合わせて高さ調整も可能になっていました。
また,S字アームCSS9012を搭載したモデルや,SME製トーンアームに対応したアームレスモデルも
用意されていました。
以上のように,ST930は,アナログプレーヤーに長い歴史と優れた技術を持つCECが作り上げた使い
易くバランスの取れたベルトドライブプレーヤーでした。海外製なら価格が数倍するであろう,すぐれた内
容を持つコストパフォーマンスの高いモデルでもありました。しかし,残念ながら、部品メーカーのこの業
界からの全面撤退により,2000年9月で、11年間の生産・販売が終了してしまいました。