Technics ST-G88V
QUARTZ SYSNTHESIZER FM/AM/TV STEREO TUNER ¥64,800
1986年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したFM/AM/TVチューナー。テクニクスは,スピーカーからスタート
したブランドでしたが,バリコンチューナーの時代からチューナーの分野でもすぐれた性能の製品を作っていました。
シンセサイザーチューナーが主流になった1980年代に入り,薄型のスマートなチューナーを次々製品化していきまし
た。そうした中,1983年に,多くの新技術を投入したST-G7を発売し,高い評価を受け,ST-G6T,ST-G5などの
「ST-G・1桁ナンバー」のシリーズが展開していきました。そして,このシリーズは,1986年頃から「ST-G・2桁ナン
バー」のシリーズへと移行していき,その中の最上級機として登場したのがST-G88Vでした。
ST-G88Vは,ST-G7以来のクォーツ制御,DC構成といった技術を継承しつつ設計されていました。そして,フロン
トエンドとMPX回路にクォーツ制御を採用し,ツイン・クォーツ構成となっていました。
フロントエンド部では,クォーツシンセサイザーチューナーとして,希望局の電波をクォーツで正確に水晶精度でロッ
クし,周波数ドリフトのない安定した同調精度が実現されていました。
MPX回路においては,従来の19kHzのパイロット信号を基準とする第1PLL(ループ1)に,クォーツ発振信号を基準
とする第2PLL(ループ2)を加えたダブルPLL構成となっていました。これにより,PLL・MPX回路におけるVCO(電圧
制御発振器)のフリーランニング周波数が第2PLLで常に19kHzにクォーツロックされ,スイッチング信号のクオリティ
が大きく高められ,温度・湿度などの環境変化の影響を受けにくく,安定した高ステレオセパレーションと低歪みが実現
されていました。
MPX回路には,新開発のダイナミック型リニアスイッチング回路が採用されていました。従来のスイッチング回路は二
重平衡型差動方式で,素子構成上非直線性の発生は避けられず,比直線部をコンポジット信号が通過した際に位相
ズレを発生していました。リニアスイッチングMPX回路では,スイッチング部を大幅にシンプル化し,非直線性を廃した
ダイナミック型のスイッチング部を構成することで,リニアリティを大幅に向上させていました。このリニアスイッチング
MPX回路は,テクニクス伝統のFM検波出力とステレオMPXのダイレクトカップリングによる効果をより高め,広ダイナ
ミックレンジ,低歪み化を実現していました。
IF回路は,音質優先で±400kHz離調40dBの高選択度を持つノーマル回路と,±200kHz離調25dBの狭帯域・高
選択度を持ち,隣接妨害に極めて強いスーパーナロウ回路が搭載されており,この2系統の回路を妨害信号の有無・強
弱や入力信号レベルに応じて,マイクロコンピューターが自動的に切換えるオートIFが搭載され,常に最適受信が可能と
なっていました。ノーマル/スーパーナロウは,マニュアル切換えも可能となっていました。
テクニクス自慢のチューナーのDC化もしっかり行われ,RF系を含めたDC増幅,DC検波,DCステレオ復調となってお
り,4Hz~18kHz(+0.2dB,-0.5dB)と,超低域からの平坦な周波数特性,正確な波形再現能力が確保されてい
ました。
出力アンプ部には,セパレートアンプやプリメインアンプに搭載されている「classAA回路」を搭載していました。「class
AA回路」は,通常一つのアンプ内で行われる電圧コントロールと電流ドライブの2つの動作をそれぞれ 独立させ,別個
のアンプに受け持たせたもので,左右合わせて2つの電流ドライブアンプと電圧コントロールアンプで計4個のアンプで
構成され,「VC-4アンプ構成」と称していました。専用の定電流駆動アンプを設けることにより,理想的なAクラス状態で
の電圧増幅を実現し,接続するコードやアンプのボリューム位置によってさえ起こる負荷インピーダンスの微妙な変化
による影響を抑え,すぐれた波形伝送を実現していました。
ST-G88Vは,型番にVが付くように,TV音声(VHF,UHF・地上アナログ)のチューナーも搭載されていました。AV
(オーディオビジュアル)用途にも対応するチューナーとして,TV放送波の音声信号だけを選択し,映像信号とは別に
検波・増幅するセパレートキャリア方式が採用されていました。これにより,映像同期信号の混入を防止し,より高音
質でのTV音声再生を実現していました。さらに,鋭い選択特性と平坦な位相特性を持つSAW(弾性表面波)フィルタ
を,音声/映像それぞれに搭載し,セパレートキャリア方式とあいまって,クリアな信号の再生とダイナミックレンジ96dB
という高SN比を実現していました。そして,モニターに接続できる映像出力も装備されていました。
ST-G88Vには,クォーツ・プログラムタイマーが内蔵されていました。マイクロコンピューターが,FM/AM/TV受信
局と電源on/off時刻をコントロールするエアチェックに便利な機能でした。タイマーの動作モードは毎日動作(every)
1通り,1回動作(once)1通りで,1日2回のタイマー設定が可能となっていました。時刻セットは,up/downの2キー
で時・分が各々独立してセットできるようになっていました。また,clockボタンを押せば放送をリスニング中でも瞬時
に現在時刻表示になり,メモリーを保持しながらプログラム動作を一時的に停止するstandby/offボタンも独立して
装備されていました。
その他,ST-G88Vには,マイクロコンピューター搭載による多彩な機能が搭載されていました。チューニングは,最
近辺の局を捜し出して自動的にクォーツロックするオートスキャンチューニング,up/downキーによるマニュアル同調
局を捜してボタン一つで順次メモリーしていけるオートメモリー,FM/AM/TV各10局,合計30局までプリセットできる
プリセットメモリーが搭載されていました。オートスキャンのスキャンニングレベルは,10dBステップで30dBから50dB
まで3段階の設定が可能となっていました。また,受信局の信号強度を2dBステップで54dBまでデジタル表示するシグ
ナルストレングスリードアウト,精度99.999%の333Hz基準信号を出力し,テープデッキの録音レベル設定に使え
るクォーツレベルチェックも搭載されていました。
以上のように,ST-G88Vは,テクニクスのシンセサイザーチューナーの技術の蓄積の中で生まれたチューナーで,す
ぐれた特性をハイコストパフォーマンスで実現していました。総合家電メーカーであった松下電器ならではの1台であっ
たと思います。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
TV音多&映像出力も内蔵のAVチューナー。
◎優れたセパレーションと高精度受信を誇る
ツインクォーツDC構成のFMチューナー部。
◎出力ポストアンプ部にclassAA回路搭載。
実使用時にもスペック通りの高性能を発揮。
◎TVチューナー部はツインSAWフィルタ構成,
音質重視のセパレートキャリア方式を採用。
◎毎日動作の可能なプログラムタイマーなど,
使い勝手も優れた,多機能チューナー。
●TV/FM/AM各10局プリセット。
●隣接局の妨害を自動排除するオートIF。
●オートスキャンチューニング&オートメモリー。
●SPECIFICATIONS●
(FMチューナー部)
受信周波数帯 | 76.1~89.9MHz |
実用感度 | 10.3dBf,0.9μV(IHF’58) |
50dB(S/N)感度 | モノラル 18.1dBf,2.2μV(IHF’58)
ステレオ 38.1dBf,22μV(IHF’58) |
全高調波歪率 | モノラル 0.009% ステレオ 0.015% |
ダイナミックレンジ | 106dB |
周波数特性 | 4Hz~18kHz +0.2dB,-0.5dB |
実効選択度 | normal 40dB(±400kHz) super narrow 25dB(±200kHz) |
キャプチュアレシオ | 1.0dB |
イメージ妨害比 | 90dB(83MHz) |
IF妨害比 | 105dB(83MHz) |
スプリアス妨害比 | 110dB(83MHz) |
AM抑圧比 | 55dB |
ステレオセパレーション | 1kHz 65dB 10kHz 50dB |
リークキャリア | -70dB(19kHz) |
(AMチューナー部)
受信周波数帯 | 522~1629kHz |
実用感度 | 290μV/m,20μV(SN=20dB) |
選択度 | 50dB |
イメージ妨害比 | 40dB |
IF妨害比 | 60dB |
(TVチューナー部)
受信チャンネル | VHF:1~12ch UHF:13~62ch |
実用感度 | 20.8dBf(3.0μV IHF’58) |
全高調波歪率 | 0.2%(mono),0.3%(stereo) |
ダイナミックレンジ | 96dB |
ステレオセパレーション | 45dB(1kHz) |
(総合)
消費電力 | 14W |
電源 | AC100V 50/60Hz |
外形寸法 | 430W×64H×241Dmm |
重量 | 2.8kg |
※本ページに掲載したST-G88Vの写真,仕様表等は1986年9月の
Technicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック株式会社に著
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