SONY ST-J60
FM STEREO FM/AM TUNER ¥54,800
1978年に,ソニーが発売したFM/AMチューナー。ソニーは,この年,「クリスタルロック・デジタルシンセ
サイザー・チューナ-」の名称で,同社初のシンセサイザーチューナーとしてST-J88を発売し,すぐれた
性能を実現していました。その弟機として,より普及価格帯に近い価格で発売されたのがST-J60でした。

ST-J60は,上述のように,ソニーとして2機種目のシンセサイザー方式のチューナーでした。ソニーは
1976年には,バリコン式チューナーながら,高精度の水晶発振子の発振をもとに,0.1MHzおきに周
波数をロック
する「クリスタル・ロック方式」のチューナーST-A7Bを発売していました。そして,ST-J88
ST-J60では,「クリスタルロック・シンセサイザー方式」が採用されていました。クリスタルロックの名の通
り,
水晶発振子の安定した発振周波数を分周して0.1MHzを作りだし,これを整数倍することにより,安
定した局発を作り
出すという技術で,水晶精度で非常に安定した同調が可能となり,FMチューナーで問
題となる受信中の同調ズレ=ドリフトの問題が解消されていました。

そして,同調操作を純電子化したことにより,メモリー回路を併用して各種の選局操作が可能となり,操
作性が大きく高められていました。
(1)ボタンにワンタッチするだけで,隣の局を自動的に選局できる「両方向オートチューニング」,(2)ボ
タンをワンタッチすると100kHz同調点が動き,押し続けるとデジタル表示が読み取れるスピードで動く
「ステップチューニング(マニュアル)」,(3)メモリースイッチと任意のボタンを同時に押すだけでプリセッ
トできる「FM/AMランダム8局プリセット」,(4)最後まで聴いた局をメモリーしている「ラストステーション
メモリー」などの選局機能が搭載されていました。また,メモリーは,電源を切ってコンセントを抜いても
記憶が消えない永久メモリー(不揮発性メモリー)が搭載されていました。



FMフロントエンドは,4連バリコン相当の4連バリキャップが搭載され,スプリアス妨害比100dBという高
い妨害排除能力を実現していました。電圧で容量を調整するバリキャップは,感度に大きく影響する共振
鋭度=Qが低いという欠点があり,感度の点でバリコンに及ばないことが多いという問題点がありました。
そのため,ソニーは半導体研究部門の力を借りて,従来のバリキャップとは比べものにならないほど高い
Qをもつバリキャップを開発・搭載し,1.8μVという,バリコン方式に遜色ない感度を実現していました。
また,直線性の高いデュアルゲートMOS FETを高周波増幅素子として使用し,電磁誘導を極力排した
ワイヤリング,厳選したパーツの使用などで,混変調妨害を最低限に抑えていました。

IF段は,セラミックフィルター4個によるユニフェイズフィルターが搭載されていました。通常,IF段では,良
好な歪率と高い選択度のどちらをとるかの板挟みで,二者択一になりがちでした。ソニーは独自の半導体
技術を生かして開発したユニフェイズフィルターの採用により,あえて帯域幅切換スイッチを設けず,ステレ
オ歪率0.08%と選択度85dB(400kHz時)を両立させていました。
検波段は,サンヨー製のIC・LA1231によるクオドラチュア検波回路が採用されていました。MPX回路に
は,安定度の高いPLL MPX方式のIC・KB4437が採用され,パイロット信号キャンセル回路の搭載で
高域までフラットな周波数特性とすぐれたセパレーションが実現されていました。

機能的には,上述のシンセサイザー方式ならではのワンタッチの選局機能が特徴で,局名表示も付属し
ていました。シグナルメーターは,5ステップのLEDによるもので,マルチパスインジケーターとしても使え
るようになっていました。その他,50%変調に相当するレベルで400Hzのテストトーンを発生するCAL
TONEスイッチ,選局時の局間ノイズをカットするミューティングスイッチが装備されていました。また,蛍
光管によるデジタル周波数表示は,周囲の明るさに応じて明るさが変わるオートディマーが採用されて
いました。

AM部は,RF段には,2連バリキャップが搭載され,サンヨー製IC・LA1240によるもので,フロントエンド
IF部等,本格的なしっかりした構成となっていました。

以上のように,ST-J60は,ソニーにとって2機種目のシンセサイザーチューナーでしたが,操作性,機
能面,受信性能など,非常に完成度が高く,チューナーにおける同社の技術レベルの高さを示していま
した。そして,この後,ソニーはシンセサイザーチューナーにすぐれた製品を作っていくことになりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



FM多局化へ。
時の流れが求めたチューナーを。
クリスタルロック・デジタルシンセサイザー
J60新登場。

正確で安定な受信のために・・・
クリスタルロック・デジタルシンセサイザー


使いやすさのために・・・
クリスタルロック・デジタルシンセサイザー
a:FM/AMランダム8局プリセット
b:両方向オートチューニング
c:ステップチューニング(マニュアル)
d:ラストステーションメモリー


使いやすいAM部
●4連相当のバリキャップフロントエンドで
 スプリアス妨害比100dB,実用感度1.8μV
●デュアルゲートMOS-FETのRF段で,
 相互混変調妨害を低減。
●ユニフェイズフィルター採用のIF段,
 ステレオひずみ率0.08%,選択度85dB(400Hz)
●PLL-IC採用のMPX部。
●5ステップLEDシグナルインディケーター。
●ワンタッチでマルチパスがチェックできる
 マルチパスインディケーター。
●周囲の明るさに応じてデジタル表示部の
 明るさが変わるオートディマーを採用。
●50%変調に相当するレベルで400Hzの
 テストトーンを発生し,エアチェックのレベル
 調整を便利にするCAL-TONEスイッチ付き。
●選局時の局間ノイズをカットする
 ミューティングスイッチ。 




●主な仕様●





■FMチューナー部■



実用感度
1.8μV(IHF),10.3dBf(新IHF)
SN比
77dB(モノ),72dB(ステレオ)
キャプチャレシオ  1.0dB 
AM抑圧比  60dB 
イメージ妨害比  90dB 
IF妨害比  100dB 
スプリアス妨害比  100dB 
実効選択度  85dB(400kHz),45dB(300kHz) 
高調波ひずみ率
0.06%(モノ),0.08%(ステレオ)
ステレオセパレーション
50dB(1kHz)
出力
750mV/4kΩ





■AMチューナー部■



受信周波数
531kHz~1611kHz(9kHzチャンネルプラン時)
感度
250μV/m(バーアンテナ使用時,1,000kHz)
SN比
50dB(50mV/m)





■総合■



消費電力
12W(AC100V,50/60Hz)
大きさ
430W×80H×325Dmm
重さ
約4.1kg
※本ページに掲載したST-J60の写真,仕様表等は1978年10月の
 SONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権が
 あります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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