SONY ST-JX5
FM STEREO/FM・AM TUNER ¥53,000
1981年に,ソニーが発売したFM/AMチューナー。ソニーは1978年に高級チューナーST-J88
さらに,同年に中級機のST-J60(¥54,800),1979年にST-J55(¥49,000)と,クォーツ
ロック・シンセサイザーチューナーの名称で,シンセサイザーチューナーを発売し,高い技術を示し
ていました。そして,1980年に,技術的により高められ,受信性能と音質のより高度なバランスを
実現したST-J75(¥67,000)を発売し,高い評価を受けました。そして,ST-J75の設計思想
や技術を継承して発売されたのがST-JX5でした。
ST-JX5には,ST-J88以来の「クォーツロック・シンセサイザー方式」が採用され,安定した受信
が可能となっていました。シンセサイザーチューナーとしてVOC(電圧制御発振器)を使用した局部
発振回路を採用し,加える電圧の大小によってFMは100kHz(0.1MHz),AMは9kHzステップ
で発振周波数が変化するようになっており,この発振周波数を基準信号と位相比較して制御する
PLL方式を採用したPLLシンセサイザー方式となっていました。基準信号に高い安定度を持つ水
晶発振子を用いているため,「クォーツロック・シンセサイザー方式」と称していました。この方式に
より,水晶精度で非常に安定した同調が可能になっていました。
さらに,ST-J75で開発された「ダイレクトコンパレーター」の技術を搭載していました。これは,シン
セサイザーチューナーの弱点を解消する技術のひとつでした。シンセサイザーチューナーでは,フ
ロントエンドの局部発振周波数を分周した比較周波数と,水晶発振子で発振させた基準周波数を
比較し,そのズレを検出して送り出す一種のサーボ機能があり,安定した受信を実現していますが
通常,この周波数を比較するためのPLL ICの処理限界から,25kHzなど低い周波数が比較周
波数として使われてきました。このため,19kHzのパイロット信号と干渉を起こし,ノイズやビート
の原因となるおそれがありました。そこで,「ダイレクトコンパレーター」では,FM波の動作時間よ
り速く動作(約2億分の1秒)する超高速PLL ICを開発し,これにより,比較周波数を日本のFM
局の置局間隔と同じ100kHzまで上げていました。この結果,19kHzのパイロット信号だけでなく
38kHzのサブキャリアとも十分に離すことができ,ビートやノイズを大幅に低減することができてい
ました。特性的にはSN比88dBを確保していました。
また,マイクロプロセッサーにより,同調のコントロールが行われ,7セグメント白色蛍光表示管を
使用した周波数表示と合わせ,オールフェザータッチによる軽快で正確な選局操作が実現されて
いました。
選局機構として,FM,AMの区別なく,どの位置にでも8局までプリセットできるFM/AMダイレクト・
ランダム8局プリセットが搭載されていました。このプリセットは,周波数だけでなく,各局ごとにFM/
AMのバンド,ミューティング(ON/OFF),FMモード(STEREO/MONO),SENS(ON/OFF)の
セッティング状態まで記憶するマルチプロセスメモリーが採用され,ワンタッチで希望局を最適な受
信状態でダイレクトに呼び出せるようになっていました。さらに,電源スイッチのON/OFFに連動し
て,最大4局まで,指定したプリセット局を順番通りに次々と呼び出せるタイマー対応4局プログラ
ムメモリー機能も搭載され,2つ以上の局にまたがる留守録音も行えるようになっていました。
また,メモリーICには,バックアップ電源をいっさい必要としないソニー独自の不揮発性メモリーIC
M・MOSが搭載され,長期間にわたる留守録音や停電時にもメモリーが解除されるトラブルが起
きないようになっていました。
ダイレクト・ランダムプリセット選局に加えて、隣接局を自動選局するクイック・サーチ(オート),ゆっ
くりと周波数が変わるスイープ(マニュアル),ワンタッチごとにFM100kHz、AM9kHzステップで変
化するステップ(マニュアル)のチューニング・システムが搭載されていました。
その他,機能としてエアチェック(死語?)の録音レベル調整に便利なCAL-TONEも搭載されていま
した。
フロントエンドには,4段バリキャップが搭載され,デュアルゲートMOS FETによるRFアンプとの
組み合わせで,高感度とともにすぐれたRF相互変調妨害特性を確保し,安定した受信性能が実
現されていました。
IF段は,2素子1パッケージのユニフェイズフィルターを4個搭載し,90dB(400kHz),60dB(300
kHz)という高い選択度をステレオひずみ率0.08%と,音質の低下を抑えたうえで実現し,IF段
での帯域切替を不要としていました。
MPX段には,パイロットキャンセル内蔵のPLL MPX・ICを搭載し,ステレオセパレーション50dB
という特性を実現していました。
また,オーディオ段には,本格的なDCアンプ,高品質オーディオパーツが投入されていました。
AM部は,フロントエンドが2連バリコン相当で,IF部には,帯域切替が搭載されていました。
また,FM,AM部とも,実用上の感度アップができるSENSスイッチが装備されていました。
以上のように,ST-JX5は,ソニーのシンセサイザーチューナーの中級機として,ここまで積み上
げてきた技術のエッセンスをしっかり投入しつつ,コストパフォーマンスが高められていました。
ペアを想定したTA-AX5のイメージをもったタッチスイッチの並んだカラフルなデザインは,未来的
ともいえるもので,当時のソニーのステレオシステムのイメージを体現していました。しかし,その
デザインから受けるイメージとは異なりオーソドックスに使いやすい操作系と性能をもっていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
音質と受信性能のクオリティを
同時につきつめ,
さらに,コンピュータ制御で
多彩な機能を実現した
クォーツロック・
シンセサイザーチューナー。
◎クォーツロック・デジタルシンセサイザー方式
◎クリスタルからの比較周波数を100kHzにした
ダイレクトコンパレーター
◎フロントエンドに4段バリキャップ,
デュアルゲートMOS-FET使用のRFアンプ
◎タイマー対応のプログラム機能
◎FM/AMともに感度アップのセンス・スイッチ
◎IF帯域切替えによる高忠実度再生設計のAM部
◎局ごとにモード/ミューティング/SENSを記憶する
マルチプロセスメモリー
◎メモリーICには電源コンセントを抜いても記憶が
解除されない不揮発性メモリー
◎プリセットメモリースキャン機能
◎CAL TONE
◎3ポイントLEDシグナルインジケーター
●主な仕様●
実用感度 | 1.8μV(IHF),10.3dBf(新IHF) |
ステレオひずみ率 | 0.08% |
実効選択度 | 90dB(400kHz),60dB(300kHz) |
スプリアス妨害比 | 100dB |
セパレーション | 55dB |
大きさ | 430W×H55×330Dmm |
重さ | 3.6kg |
消費電力 | 15W |
その他 | 局名表示カード付属 |
※本ページに掲載したST-JX5の写真,仕様表等は1981年
5月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社
に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
転載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意
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