SONY ST-S555ES
FM STEREO TUNER ¥65,000
1982年に,ソニーが発売したFM専用チューナー。プリメインアンプの新しいシリーズに合わせた形で,新たにブラッ
クパネルが採用され,それまでのソニーのチューナーとイメージが大きく変わっていました。内容的には1980年発
売で高い評価を得ていた中級機の主力機ST-J75,1981年発売のST-JX8等の技術を継承・改良した形になっ
ていました。
1978年発売のST-J88以来,ソニーは,次々にシンセサイザーチューナーを展開していきました。従来のバリコンに
代わり,VOC(電圧制御発振器)を使用した局部発振回路を採用し,加える電圧の大小によってFMは100kHz(0.1
MHz)ステップで発振周波数が変化する選局を採用しており,この発振周波数を基準信号と位相比較して制御するPLL
方式を採用したPLLシンセサイザー方式となっていました。基準信号に高い安定度を持つ水晶発振子を用いているた
め,従来,ソニーは「クリスタルロック・シンセサイザー方式」と称していました。このモデルあたりから他社と揃えたのか
「クォーツシンセサイザー方式」と称するようになっていました。
さらに,ST-S555ESには,ST-J75で開発された「ダイレクトコンパレーター」の技術を搭載していました。これは,シ
ンセサイザーチューナーの弱点を解消する技術でした。シンセサイザーチューナーでは,フロントエンドの局部発振周
波数を分周した比較周波数と,水晶発振子で発振させた基準周波数を比較し,そのズレを検出して送り出す一種の
サーボ機能があり,安定した受信を実現していますが,通常,この周波数を比較するためのPLL ICの処理限界から
25kHzなど音声信号に近い低い周波数が比較周波数として使われてきました。このため,19kHzのパイロット信号
と干渉を起こし,ノイズやビートの原因となるおそれがありました。そこで,「ダイレクトコンパレーター」では,220MHz
という高い周波数まで扱えるPLL IC(CX−778A)を搭載し,これにより,比較周波数を日本のFM局の置局間隔と
同じ100kHzまで上げていました。この結果,19kHzのパイロット信号だけでなく,38kHzのサブキャリアとも十分に
離すことができ,ビートやノイズを大幅に低減することができていました。
フロントエンドには,5段バリキャップが搭載され,デュアルゲートMOS FETによるRFアンプとFETバランスミキサー
により高感度が実現されていました。
IF段は,高い選択度と高水準のオーディオ特性を両立させたもので,WIDE/NARROWのIF帯域切換が搭載されて
いました。初段にFETバッファーアンプが搭載され,4個のユニフェイズフィルターと10段相当のの差動アンプにより,
通過帯域のすぐれた位相特性と帯域外の急激な減衰を両立させていました。この結果,WIDE0.04%,NARROW
0.06%の低歪率と,60dB(WIDE)のセパレーション特性を実現していました。
検波回路には,広帯域レシオ検波(コイルとコンデンサとを結合することによって位相差を設け、ベクトル的な復調を行
う回路方式で,バリコン式のチューナーに伝統的に搭載されていた方式ですが,きちんと調整されたものは性能が高く
ズレに対してもアナログ的な特性を持っており,急激な歪みの増加等も少ないといわれています。)が採用され,専用
検波ドライバーICを採用することで,より性能を高めていました。
さらに,この出力をDCコンポジットアンプに直結して検波トランスの前後をガッチリ抑え込む形とし,高SN比と広ダイナ
ミックレンジ化を実現していました。
MPX部には,PLL MPX ICが搭載され,3ポール・リニアフェイズ・フィルターの採用とともにに,低歪率化が図られて
いました。
オーディオ回路は,DCアンプ構成が採用され,さらに,同社のアンプで採用されているオーディオ・カレント・トランスファ
の技術を生かし,電流伝送の増幅系が採用され,L・Rチャンネル間の相互干渉,信号系の線材などによる外乱の影響
を抑えていました。オーディオ出力は,専用の4ピン出力となっており,通常のRCAピンの出力端子は搭載されていませ
んでした。そのため,途中に無極性電解コンデンサーと抵抗器から構成されたI→V(電流→電圧)変換回路が搭載され
た専用のケーブルが付属し,このケーブルを使ってアンプと接続するようになっていました。
ST-S555ESは,多局化時代に備えたのか,アンテナ端子がA,B2系統装備され,フロントパネルのスイッチにより
切り換えることができるようになっていました。これにより方向の違う局にも対応できるようになっていました。また,B
端子には,強電界局に対応して−20dBのアッテネーターが装備されていました。
機能的には,オーソドックスながら,しっかりと機能が搭載されていました。上述のアンテナ切換,アンテナアッテネーター
の他,IF帯域切換,ミューティング,ハイブレンド,CAL-TONE(400Hz,50%変調)等も搭載され,パネル中央部に
受信周波数,信号レベルだけでなく,様々な機能状態の表示ができる総合ディスプレイが搭載されていました。
選局機能は,自動的に局を探すクィックサーチ(オート),ゆっくり周波数が変わるスイープ・チューン,ワンタッチするた
びに100kHzずつ周波数が変わるステップ・チューンに加え,8局プリセット機構が搭載されていました。このプリセット
機構は,局の周波数だけでなく,STEREO/MONOのMODE,ミューティングON/OFF,WIDE/NARROW・IF帯域
ハイブレンド,アンテナ選択(ゲイン切替)までの情報をメモリーできるようになったマルチプロセスメモリーとなっていま
した。このメモリーは,電源を切っても半永久的にメモリーできる不揮発性メモリーが採用されていました。
さらに,電源スイッチのON/OFFに連動して,指定したプリセット局を次々に呼び出せるプログラムメモリー機能が搭載
され,タイマーによる留守録音で2局以上4局までまたがった録音が可能でした。
以上のように,ST-S555ESは,当時のソニーのチューナーの主力モデルとして,それまでソニーが培ってきたシンセサ
イザーチューナーの技術がしっかり投入され,FM専用機として,性能と機能のバランスのとれた高い完成度を実現して
いました。すぐれた受信性能としっかりした音をもつ使いやすい1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



いつまでも色あせない技術を,クオリティを。
ソニー”ES”

         Extreme High Standard

ビート,ノイズを激減する「ダイレクトコンパレーター」や,
最新アンプ技術「オーディオ・カレント・トランスファ」の導入。
さらに,2系統のアンテナ端子の設置など,
FM多局化・高音質を迎えうつ性能を妥協せず求めました。

◎92dBの高SN比とワイドダイナミックレンジ
 を実現させた,ダイレクトコンパレータ。
◎IF帯域切替えとユニフェイズ・フィルター
 による高選択度と低ひずみ率の両立。
◎オーディオ・カレント・トランスファ出力の採用で,
 高音質化をさらに進めたオーディオ回路。
◎2局以上の局を最適状態で受信できる
 2系統アンテナ端子。
◎マルチプロセスメモリーによる,
 ワンタッチ選局の8局プリセット。
◎2局以上にまたがる留守録音を可能に
 する,タイマー対応4局プログラムメモリー。
◎受信状態の総合情報を集中ディスプレイ。

●電波状態が悪いときに聴感上の感度をアップする
 ハイブレンド回路
●FETバランスミキサー採用の5連相当フロントエンド
●局名表示機能
●CAL-TONEスイッチ(400Hz,50%変調)
●銅メッキ処理のカッパータイトケース
●極性表示つき無酸素銅電源コード




●ST-S555ESの主な仕様●

回路方式 PLLデジタル周波数シンセサイザー,
クォーツロック方式,スーパーへテロダイン
FMチューナー
受信周波数 76MHz〜90MHz
アンテナ端子 75Ω不平衡(2系統入力)
中間周波数 10.7MHz
SN比50dB感度 モノ   :1.8μV(IHF),16.8dBf(新IHF)
ステレオ:22.5μV(IHF),37.9dBf(新IHF)
実用感度 0.9μV(IHF),10.3dBf(新IHF)
SN比 92dB(モノ),86dB(ステレオ)
高調波ひずみ率           モノ            ステレオ
       WIDE  NARROW  WIDE  NARROW
100Hz:0.03%  0.05%   0.05%  0.07%
 1kHz:0.03%  0.05%   0.04%  0.06%
10kHz:0.03%  0.05%   0.12%  0.15%
混変調ひずみ率
モノ   :0.03%(WIDE),0.05%(NARROW)
ステレオ:0.04%(WIDE),0.06%(NARROW)
ステレオセパレーション 55dB(100Hz),60dB(1kHz),45dB (10kHz)
周波数特性 30Hz〜15kHz+0.2,−0.5dB
実効選択度 60dB(WIDE,400kHz),90dB(NARROW,400kHz)
キャプチュアレシオ 1.0dB
AM抑圧比 65dB
イメージ妨害比 120dB
IF妨害比 120dB
スプリアス妨害比 120dB
RF相互変調妨害比 88dB(IHF),105dB(2.4MHz)
キャリアリーク抑圧比 78dB
ミューティングレベル 25dBf
オートチューニングレベル 25dBf
出力 750mV,620Ω(付属ACTケーブルにより電圧変換後)
電源 AC100V,50/60Hz
消費電力 23W
大きさ 430W×80H×340Dmm
重さ 4.8kg
付属品 FMリボンアンテナ,F型アンテナコネクター
アンテナコネクターEAC-25(300→75Ω)
局名表示ラベル,ACTケーブル
※本ページに掲載したST-S555ESの写真,仕様表等は1982年10月の
 SONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。
 

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