Technics SU-A808
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥74,800
1999年に,テクニクス(現パナソニック)が発売したプリメインアンプ。テクニクスブランドは家電メーカーな
がら,先進的な技術的アプローチで高性能な機器を次々と発売し,家電ブランドの中でも,最も長く続き,
頑張りを見せていたブランドでした。そんなテクニクスが1993年に,上級のセパレートアンプSU-C7000
SE-A7000等の開発で得られた回路技術,部品技術,構造設計等を用いて開発したプリメインアンプとし
SU-A900を発売しました。その後継機として発売されたのがSU-A808でした。

SU-A808の最大の特徴は,上級のセパレートアンプのプリアンプSU-C3000,SU-C1010で開発され
た「V.G.C.A.」の搭載でした。「V.G.C.A.」は,「Variable Gain Control Amplifier」の略で,従来の入力ボ
リュームで信号を絞り,その後増幅するアンプ構成ではなく,アンプ部のゲインそのものを変える新しい方式
で,増幅が必要な分だけアンプにゲインを持たせ,それ以下のゲインではバッファーアンプとして動作するよ
うになっていました。この結果,S/N比114dB(IHF A S=2V rated output)を実現し,通常使用する音
量,ボリューム位置での,よりS/N比のよいクリアな音を実現していました。この「V.G.C.A.」は,スイッチによ
りONとVIA TONEの切替えがあり,トーンコントロールを使用する際には,「V.G.C.A.」経由ではなくなる構成
でした。



2つ目の大きな特徴は,テクニクス独自の「MOS classAA回路」の搭載でした。これは,通常一つのアンプ
内で行われる電圧コントロールと電流ドライブの2 つの動作をそれぞれ独立させ,別個のアンプに受け持た
せ,左右合わ せて2つの電流ドライブアンプと電圧コントロールアンプで計4個のアンプで構成 された「VC-4
アンプ構成」を採用した「classAA回路」を発展させたものでした。出力イン ピーダンスが無限大の電流ドラ
イブアンプと出力インピーダンスが0の電圧コントロールアンプをパラレルにつなぎ,電流供給から開放され
た電圧コントロールアンプが入力信号に忠実に電圧コントロールし,駆動に必要な電流は電流ドライブアン
プから存分に供給されるというある種理想的な動作方式となっていました。その結果,負荷インピーダンス変
動にも電流/電圧の位相ズレのない 安定した伝送・増幅特性を得るというものでした。
「MOSクラスAA回路」では,A級動作の電圧コントロールアンプの最終段に,入力インピーダンスが高く,リ
ニアリティにすぐれたMOS FETが用いられていました。電流供給アンプの終段には,大出力動作に勝るバ
イポーラが使用され,電流ドライブアンプが電流供給を専任する間に,電流出力=0という理想的な動作状態
ですぐれたリニアリティを発揮するようになっていました。こうしたそれぞれのアンプの利点を最大限に発揮さ
せるクラスAAブリッジ効果により,力強い重低音とクリアな中高音の再生を実現していました。ここで搭載さ
れたMOS FETは,理想的な特性を,より合理的な価格及びボディサイズのもとに活用できるように研究開
発を続けて実現した独自のパワーMOS FETでした。

電源回路には,「バーチャルバッテリーオペレーション」が搭載されていました。従来の電源回路では,家庭用
電源に乗ってくる様々なノイズが基準電電圧発生器を介してオーディオ回路に混入し,また基準電位発生回
路のツェナーダイオードも自らがノイズ源になるなどの問題がありました。「バーチャルバッテリーオペレーショ
ン」では,基準電位発生回路をコンデンサーチャージに使用し,音楽再生中,FET素子のゲートコンデンサー
から電圧が供給されている間,基準電位発生回路が効果的に遮断され,他の回路からのノイズの回り込み
をカットし,オーディオ信号のノイズ汚染を防ぎ,安定した電源供給を実現していました。



電源部の心臓部,電源トランスには,Rコア電源トランスが搭載されていました。一般的に用いられるEIトラン
ス,トロイダルトランスのコアは,角形断面をしており,均一なコイルの巻き付けを妨げ,これが磁束の部分集
中を生み効率を低下させ,磁束の漏洩を発生してしまっていたのに対し,Rコアトランスは,断面が円形のコア
にコイルが緊密に巻かれ,均一な磁束が形成されるため,磁束の漏洩が極めて少なく抑えられていました。
電解コンデンサーには,「竹」混抄セパレーターを採用した「TAKEコンデンサー」の新バージョン「TAKEⅡ」が
搭載されていました。機械的,電気的特性を大きく改善し,さらに,アルミケースの外側にスパイラル形状のコ
イルを装着し,ポリオレフィンスリーブで固定することにより防振対策を施し,不要な付帯音の発生を抑えてい
ました。

外観デザインは,同時期発売されていたプリアンプSU-C1010,MDデッキSJ-MD150等と共通のイメージ
を持つもので,トーンコントロールやバランスツマミ等を収めた下部は,茶色の透明な扉になっていて,デュア
ル・フェイス・パネルと称されていました。こうしたデザインは,同社が,1980年頃にセパレートアンプやプリメ
インアンプSU-V9,チューナーST-G7などで採用していたものと共通のイメージをもつものでした。

以上のように,SU-A808は,テクニクスらしく,技術的に性能を正攻法に追求し,「サイレンス・テクノロジー」
と称していたように,非常にS/N感にすぐれ,バランスのとれたしなやかな音を実現していました。テクニクス
ブランドでの本格的オーディオアンプはこれ以降しばらく途絶えることとなり,第1期のテクニクス最後のプリメ
インアンプとなってしまいました。(テクニクスブランドは2014年に再始動したのはご存じの通りです。)
また,弟機として,回路構成等ほぼ同一のSU-A707も発売され,エントリーモデルとして高いコストパフォーマ
ンスの1台となっていました。


Technics SU-A707
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥54,800


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ローノイズアンプ「V.G.C.A.」搭載の
インテグレーテッドアンプ

◎S/N比114dB(IHF A S=2V rated output)
 を実現したV.G.C.A.搭載。
◎入力ソースの全てを高純度再生。
 MOS ClassAA回路搭載。
◎電源ノイズを抑えるバーチャル・
 バッテリー・オペレーション回路搭載。
◎磁界によるノイズ発生を抑える
 Rコア電源トランス採用。
◎よりクリアに,パワフルに。
 「TAKEⅡ」電解コンデンサー。

●金メッキRCA端子を装備。
●バナナプラグ対応のスピーカー端子。
●当社のDVDプレーヤーやCDプレーヤー
 チューナー,カセットデッキの操作もできる
 システムリモコンを装備。




●SU-A808/SU-A707主な定格●

   SU-A808  SU-A707
定格出力 70W+70W(20Hz~20kHz,0.03%,6Ω)
60W+60W(20Hz~20kHz,0.03%,8Ω)
50W+50W(20Hz~20kHz,0.03%,6Ω)
40W+40W(20Hz~20kHz,0.03%,8Ω) 
全高調波歪率 0.03%(20Hz~20kHz,定格出力-3dB,8Ω) 0.03%(20Hz~20kHz,定格出力-3dB,8Ω) 
ダンピングファクター 60(8Ω) 60(8Ω) 
負荷インピーダンス 4~16Ω(A,B)
8~16Ω(A+B)
4~16Ω(A,B)
8~16Ω(A+B) 
周波数特性 tuner,CD,DVD,aux,tape1,tape2/MD:
   20Hz~20kHz(+0dB,-0.3dB)
   3Hz~100kHz(+0dB,-3dB)
tuner,CD,DVD,aux,tape1,tape2/MD:
   20Hz~20kHz(+0dB,-0.3dB)
   3Hz~100kHz(+0dB,-3dB) 
入力感度/インピーダンス tuner,CD,DVD,aux,tape1,tape2/MD:150mV/22kΩ
phono MM:2.5mV/47kΩ
tuner,CD,DVD,aux,tape1,tape2/MD:150mV/22kΩ
phono MM:2.5mV/47kΩ 
S/N比 tuner,CD,DVD,aux,tape1,tape2/MD:
         98dB(JEITA),114dB(S=2V 定格出力時IHF’A)
phono MM:80dB(JEITA)/76dB(IHF’66)
tuner,CD,DVD,aux,tape1,tape2/MD:
         98dB(JEITA),114dB(S=2V 定格出力時IHF’A)
phono MM:80dB(JEITA)/76dB(IHF’66) 
定格出力電圧 tape1,tape2/MD,REC OUT:150mV  tape1,tape2/MD,REC OUT:150mV  
消費電力 160W 130W 
電源 AC100V,50/60Hz AC100V,50/60Hz 
外形寸法 430W×136H×368Dmm 430W×136H×368Dmm 
重量 8.3kg 7.4kg 
※本ページに掲載したSU-A808,SU-A707の写真,仕様表等は,
 2001年9月のTechnicsのカタログより抜粋したもので,パナソニック
 株式会社に著作権があります。したがってこれらの写真等を無断で転
 載・引用等することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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