Panasonic SU-V900
STEREO INTEGRATED AMPLIFIER ¥79,800
1989年に,松下電器がパナソニックブランドで発売したプリメインアンプ。松下電器はオーディ
オブランドとして「テクニクス」を標榜し,多くのすぐれた機器を発売してきていました。しかし,こ
のころセパレートアンプや大型スピーカーなどの高級機に「テクニクス」,それ以外には「パナソ
ニック」と使い分けるようになりました。そんなパナソニックブランドで投入された意欲作ともいえ
るプリメインアンプがSU-V900でした。
SU-V900の最大の特徴は,「0dBパワーアンプ」の採用でした。通常1つのユニットで構成され
ているパワーアンプ部を,電圧増幅度1(0dB)のクラスAAパワーアンプと電圧増幅度30dBの
フラットアンプの2つのユニットで構成していました。
電圧増幅度1(0dB)のパワーアンプは電圧増幅を行わないため,ノイズレベルが小さいことを
はじめ,すぐれた伝送特性が実現できますが,通常のアンプをNFBで単純に増幅度1にすると
動作が不安定になるため実現が難しくなります。これを,テクニクス自慢の「classAA方式」に
より実現していました。
この「classAA方式」は,出力インピーダ ンスが無限大の電流ドライブアンプと出力インピーダ
ンスが0の電圧コントロールアンプをパラレルにつなぎ, 電流供給から開放された電圧コント
ロールアンプが入力信号に忠実に電圧コントロールし,スピーカー 駆動に必要な電流は電流
ドライブアンプから存分に供給されるというある種理想的な動作方式となって いました。その
結果,スピーカーによる負荷インピーダンス変動にも電流/電圧の位相ズレのない安定した
伝送・増幅特性を得るというものでした。そして,この「classAA」とフローティング電源の組み
合わせにより,「0dBアンプ」の安定動作とボリュームミニ マム時に低ノイズレベルを実現して
いました。
また、30dBのフラットアンプをプリアンプ部のシールドケース内にマウントすることで,、パワー
アンプ部出力段の大電流がパワーアンプ部入力段に悪影響を及ぼすのを防いでいました。
プリアンプ部には,ハイゲインイコライザーが搭載され,MMカートリッジのみでなくMCカート
リッジにも対応していました。
電源部は,170VAの電源トランスをL・R独立で搭載し,電解コンデンサーには,新開発の
X-Proツインキャパシタを4本登載した強力なものでした。
この電源トランスは,巻線に無酸素銅線を通常より30%低い磁束密度で使用し,シールド
ケースに樹脂で封入することで,機械振動と磁気輻射を極小に抑えたものが使用されてい
ました。X-Proツインキャパシタは,+側-側の電源用の2個の電解コンデンサーを銅キャッ
プ付きの樹脂ケース内に封入し,振動吸収材を詰めることで機械的振動と電磁輻射を低減
させたもので,L・Rそれぞれに搭載され,計4個の高品質電解コンデンサーが一体化されて
搭載されていました。
内部の構造は,セパレートアンプのパワーアンプを思わせるほどのすごいものとなってお
り,798クラスのプリメインアンプとは到底信じられないものとなっていました。パワーアン
プ部は電源トランスを含め,左右を独立させたツインモノラル構成として,分離して配置さ
れていました。このことは,左右に大きく離れて配置されたスピーカー端子にも表れていま
した。フラットアンプを含めたプリアンプ部はシールドケース内にマウントされ,パワーアン
プ部の大電流が悪影響を及ぼすのを防ぐようになっていました。また,左右のパワーアン
プを2mm厚の高剛性鉄板折り曲げシャーシに別々にマウントし,前板と後面板を2本の
センターアングルで固定するなど,振動しにくいシャーシ構造がとられていました。さらに
入力部には,厳重なシールド板が取り付けられ,電気,磁気ノイズに対応していました。
ツマミ類もすべてプレスではなく剛性の高いムクとなっており,ここでも振動対策がなされ
ていました。
入力は,PHONO,TUNER,CD,DAT,TAPE1,TAPE2,POWER AMP DIRECT
が装備され,出力は,DAT,TAPE1,TAPE2が装備されていました。DAT,TAPE1,
TAPE2は相互ダビングが可能となっていました。また,RECORDING SELECTORに
よりINPUT SELECTORとは独立してソースの選択が可能となっていました。
さらに,ADAPTOR端子が設けられており,ここにグラフィックイコライザー等を接続する
ことができるようになっていました。
機能的には,オーソドックスな構成で,BASS,TREBLE独立のトーンコントロール,トー
ンディフィートスイッチ,ラウドネススイッチ,A,B2系統のスピーカー出力,ヘッドホン端子
そして,特徴的なものとしてパワーアンプ部に直接ソースを入力するパワーアンプダイレク
トスイッチが装備されていました。
以上のように,SU-V900は,中身の充実したしっかりした作りのプリメインアンプで,この
価格帯では考えられないほどの物量が投入されていました。外観は個性の感じられない
オーソドックスなものでしたが,力強さと繊細さを併せもった音は,価格を超えたものでし
た。あまりにオーソドックスなデザイン故か,パナソニックブランドでは高級感が感じられ
なかったせいか,単体セパレートアンプのパワーアンプ並の内容を持つにもかかわらず
内容ほどの評価を得られていなかった実力派の1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
ツインモノラル構成,強力電源採用の
インテグレーテッドアンプ。
◎”クラスAA”0dBパワーアンプ。
◎高品質パーツ採用の強力電源部。
◎新開発X-Proツインキャパシタ採用。
◎L/Rチャンネル間の相互干渉を
最小限に抑えるツインモノラル構成。
◎2mm厚高剛性セパレートシャーシの
採用など,徹底した防振設計。
◎パワーアンプダイレクト機能。
■パワーアンプ部■
実効出力 | 100W+100W(20Hz~20kHz,THD0.007%,6Ω) |
全高調波歪率 | 0.003%(20Hz~20kHz,-3dB,8Ω) |
ダンピングファクター | 110(8Ω),55(4Ω) |
■プリアンプ部■
周波数特性 | Phono:RIAA標準カーブ±0.2dB tuner,CD,tape1,tape2,DAT,adapter 0.8Hz~120kHz(+0dB,-3dB) 20Hz~20kHz(+0dB,-0.2dB) |
入力感度/入力インピーダンス | Phono MM:2.5mV/47kΩ MC:170μV/220Ω tuner,CD,tape1,tape2,DAT:150mV/47kΩ Power Amp Direct:1V/22kΩ |
SN比 | Phono MM:88dB(IHF’66) MC:72dB,250μV入力(IHF’66) tuner,CD,tape1,tape2,DAT:104dB(IHF’66) Power Amp Direct:115dB(IHF’66) |
最大許容入力 | Phono MM:160mV MC:10mV |
トーンコントロール | bass:50Hz±10dB treble:20kHz±10dB |
■総合■
消費電力 | 235W |
電源 | AC100V 50/60Hz |
外形寸法 | 430W×186H×438Dmm |
重量 | 21kg |
※本ページに掲載したSU-V900の写真,仕様表等は1990年6月の
Panasonic/Technicsのカタログより抜粋したもので,松下電器産
業株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で
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