TRIO Supreme1
MULTI CHANNEL STEREO PREMAIN AMPLIFIER ¥166,000
1966年に,トリオ(現ケンウッド)が発売したプリメインアンプ。トリオは,1946年に春日無線としてスタートし,AM(!)
チューナー,モノラルの真空管アンプなど多くのオーディオ製品を発売していた古くからのオーディオブランドで,トラン
ジスター,ステレオアンプの時代になっても,持ち前の高周波技術,回路技術でFMチューナー,プリメインアンプなど
すぐれた製品を次々と生み出していきました。そんなトリオが発売したマルチチャンネル仕様のプリメインアンプがサプ
リーム1でした。
サプリーム1の最大の特徴は,世界初のマルチチャンネル仕様のプリメインアンプであることでした。通常のオーディオ
システムでは,1台のアンプで1組のマルチウェイスピーカーを駆動することが多く,その際,アンプの出力とスピーカー
の間に信号を各スピーカー(ウーファー,スコーカー,トゥイーター等)に適した周波数に分けるネットワークが入ること
になります。それに対して,マルチチャンネルアンプ方式では,コントロールアンプまたはプリアンプとメインアンプの間
にチャンネルフィルターが入り,各スピーカーユニットにはそれぞれメインアンプが直結されることになります。このよう
なマルチチャンネル・アンプ方式には,「各メインアンプに入る信号帯域を狭くすることで,混変調歪が減少する。」「ス
ピーカーがネットワークを経由せず直結されることにより,ダンピング特性が大幅に改善される。」「ネットワークに起因
する音質劣化が避けられる。」「中高域に加え,低域の特性も自由にコントロールでき,音質の調整範囲が広い。」な
どの特長があり,一つの理想型とも言えます。しかし,マルチチャンネル・アンプ方式には,スピーカーユニットごとにアン
プが必要となり,2ウェイシステムで2台,3ウェイシステムで3台,コスト面でも2倍,3倍となり,非常に大がかりなシス
テムとなってしまいます。サプリーム1は,ソリッドステートアンプであることを生かし,3チャンネル(3帯域)分のステレ
オアンプを1台のプリメインアンプにまとめた画期的な3チャンネル・ステレオ・プリメインアンプでした。
マルチチャンネル・アンプでは,上述のように各メインアンプを通る信号の周波数帯域が狭くなるため,混変調歪が小さ
くなりますが,さらに,これらのメインアンプには,ITL-OTL方式のオール・シリコン・トランジスターによる準コンプリメン
タリー回路が採用され,低歪みが実現されていました。
低音アンプ33W/33W,中音アンプ23W/23W,高音アンプ12W/12Wという構成で,通常に使用においては,
当時のプリメインアンプとして十分余裕のある実効出力が実現され,歪率も,低・中・高音アンプとも0.05%とすぐれた
特性が実現されていました。周波数特性においてもフラットな特性が確保され,特に低音アンプは,フラットアンプとして
使用する場合も考慮され,10Hz〜100kHzにおいてうねりのないフラットな特性が確保されていました。
サプリーム1は,マルチチャンネル・アンプとして,各チャンネルの周波数に分割するチャンネル・フィルターが搭載されて
いました。このチャンネル・フィルターは,どんなスピーカーにもマッチするようにクロスオーバー周波数が自由に選べる
ことが重要であり,さらに3チャンネルのマルチウェイだけでなく,2ウェイにも対応できるようになっている必要があります。
そのため,サプリーム1では,フィルター・ブロックをプラグイン式のプリントボードに組み込み,このプリントボードを差し替
えるだけで任意の周波数が選べるように設計されていました。購入時には,希望のクロスオーバー周波数を指定し,組
み込まれた状態で出荷されており,購入後も別売のプリント・ボードを購入することができるようになっていました。組み
込んだプリントボードにより,クロスオーバー周波数切替で,低・中音は,150,200,300,400,430,500,550,
600,650,800,900,1000Hzの各周波数に,中・高音は,2500,3000,4000,5000,5500,6500,7500
Hzの各周波数に設定できるようになっていました。フィルター回路の回路方式はNF型で,12dB/octの減衰特性を持ち
オールチャンネルをフラットアンプとしても使用できるように,クロスオーバー周波数切替スイッチにFLATポジションも設け
られていました。このステージも,エミッタ・フォロアーによる多量のNFBのおかげで歪み0.05%以下に設計されていまし
た。フィルター回路の特性自身も,LC型ネットワークではどうしても得られない正確なクロスオーバー周波数とスロープ特
性が実現されていました。
プリアンプ部は,ダイナミックレンジを大きくとるため,3段直結増幅回路として,多量のNFBによって0.03%以下という低
歪みと広いダイナミックレンジが実現されていました。イコライザーは,標準カーブに対して±0.2dBという,当時世界最高
レベルの精度が実現されていました。この精度は,超精密測定器により,1台1台全数をチェックし,アジャストメントが行わ
れて確保されていました。また,このイコライザーは,PHONO-2端子が低出力のMCカートリッジにも対応し,入口から出
口までL分(インダクタンス)を完全に取り除くため,低出力カートリッジ用の入力感度0.1mVのダイレクト端子が設けられ
ていました。この回路には,S/Nとダイナミックレンジを確保するため,1こ1こ厳選した超低雑音トランジスターが使用され
ていました。そして,このイコライザー回路は,前面パネル下部のカバー内のスイッチによって普通のレベル(2mV)にも切
り替えられるようになっていました。PHONO-1は2mV感度専用になっていました。
トーンコントロールは,低音コントロール,高音高音コントロール,L・R独立型で,NF型とCR型の両者の長所を取り入れた
NF型となっていました。低音コントロールは,ターンオーバー,ロールオフ周波数可変型で,多様な調整が可能となってい
ました。高音コントロールは,ターンオーバー,ロールオフ周波数を2kHzと5kHzに切替ができるようになっていました。ま
た,トーンコントロール回路を完全にフラットにするフラット・ポジションも装備されていました。
フィルター回路も,ロー・カット・フィルター,ハイ・カット・フィルターが装備されていました。両フィルターとも12dB/octという
きわめてシャープなカットオフ特性を持ち,使用しないときは回路から外れるようになっていました。ローは,40Hz,80Hz
ハイは6kHz,8kHzと,それぞれカットオフ点が2種類に切り替えられるようになっていました。その他,プリアンプ中に位
相反転回路を設け,位相切り換えができるフェイズ・スイッチも装備されていました。さらに,TAPE録音・再生端子,マイク
端子が背面パネルだけでなく,前面のシーリングパネル内にも装備されていました。
以上のように,サプリーム1は,世界初のマルチアンプ方式のプリメインアンプとして,画期的な1台でした。3ウェイ・6チャン
ネル分のパワーアンプとMC型カートリッジにも対応したプリアンプ部を1つの筐体に収めた設計は,集積回路等の少ない
当時としては驚異的なものでした。コントロール部も非常に多機能といえるものでしたが,シーリングパネルも採用し,多機
能のアンプとしてはすっきりしたデザインとなっていました。このデザインはオーディオ評論の分野で有名になる瀬川冬樹氏
がデザインした,まさにインダストリアルデザインと言えるものではなかったかと思います。また,このサプリーム1の発売時,
トリオから社内誌あるいはPR誌として「サプリーム」という雑誌も出たほど話題の1台でした。そして,このサプリーム1の登
場で,マルチアンプ方式が一時代流行を見せることとなりました。しかし,プリメインアンプなどのオーディオコンポーネントとし
てではなく,セットステレオの分野で各社にマルチアンプ方式が登場することとなりました。そのきっかけは,オンキョーがい
ち早くマルチアンプ方式を採用したセットステレオ(いわゆる家具調ステレオ)MAC-2200を発売したことであったようです。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
トリオが世界にさきがけて完成しました
3チャンネル・ステレオ・プリメイン・アンプ
これが《サプリーム1》です
サプリームとは
これ以上のものは無い
スーパー・ハイ・クオリティーのものだけに冠せられる名称です
オール・シリコン・トランジスタを使用し
トリオが誇る最高度の回路設計技術を駆使した《サプリーム1》は
性能,機能ともに最高度のマニアに
必ずやご満足いただけるものと確信しております
《超低歪率メイン・アンプ》
《クロスオーバー周波数を自由に選べるチャンネル・フィルター》
《ステレオ・プリアンプ部》
◎フラット・スイッチ付トーン・コントロール
◎偏差±0.2dBのイコライザー特性
◎低出力カートリッジのための入力端子
◎音質をそこなわない本格的なロー・ハイ・カット・フィルター
◎位相反転回路によるフェイズ・スイッチ
◎より機能的な端子の設置
●サプリーム1定格●
型式 | ソリッド・ステート・マルチ・チャンネル・プリメイン・ステレオ・アンプ(3チャンネル・ステレオ) |
[メイン・アンプ部]
回路方式 | オール・シリコン・トランジスタによる準コンプリメンタリー回路(ITL・OTL方式) |
出力(8Ω負荷) | ミュージックパワー 実効出力(歪0.5%) 低音アンプ 80W 33W/33W 中音アンプ 50W 23W/23W 高音アンプ 30W 12W/12W |
出力帯域特性 (−3dBの周波数帯域,歪1%) |
低音アンプ:10〜90,000c/s 中音アンプ:80〜80,000c/s 高音アンプ:200〜100,000c/s |
周波数特性 | 低音アンプ:10〜100,000c/s(+0,−0.2dB) 中音アンプ:100〜100,000c/s(+0,−0.5dB) 高音アンプ:1,000〜100,000c/s(+0,−0.5dB) |
歪率(1Kc,8Ω負荷) | 低音アンプ:25W/25W 0.07% 20W/20W 0.05% 1W/1W 0.05% 0.1W/0.1W 0.07% 中音アンプ:15W/15W 0.07% 10W/10W 0.05% 0.1W/0.1W 0.07% 0.03W/0.03W0.07% 高音アンプ:10W/10W 0.07% 8W/8W 0.05% 0.1W/0.1W 0.07% 0.03W/0.03W0.07% |
混変調歪率(8Ω負荷) | 低音アンプ:0.2%以下(出力25W/25W) 中音アンプ:0.2%以下(出力15W/15W) 中音アンプ:0.2%以下(出力10W/10W) |
ダンピングファクター (低・中・高音共) |
40(8Ω負荷) 80(16Ω負荷) |
SN比 | 低・中・高音共 90dB以上 |
[フィルター部]
回路方式 | NF型 |
スロープ | 12dB/oct |
歪率 | 低・中・高音共に0.03%以下(出力300mV時) |
SN比 | 低・中・高音共に90dB以上 |
ご希望のクロスオーバー周波数が選べます。
ご註文の際は必ず別表の中からご希望のクロスオーバー周波数
をご指定ください。
[第1表]3チャンネル・ステレオ用・クロスオーバー周波数
クロスオーバー周波数(c/s) | フィルター・ボード型名 | 切替スイッチ位置 | |
低 中音 |
150 | L-150 ・H-150 | LOW/MID A |
200 | L-200 ・H-200 | LOW/MID A | |
300 | L-300 ・H-300 | LOW/MID A | |
400 | L-400 ・H-400 | LOW/MID A | |
430 | L-150 ・H-150 | LOW/MID B | |
500 | L-500 ・H-500 | LOW/MID A | |
550 | L-200 ・H-200 | LOW/MID B | |
600 | L-600 ・H-600 | LOW/MID A | |
650 | L-300 ・H-300 | LOW/MID B | |
800 | L-400 ・H-400 | LOW/MID B | |
900 | L-500 ・H-500 | LOW/MID B | |
1,000 | L-600 ・H-600 | LOW/MID B | |
中 高音 |
2,500 | L-2500・H-2500 | MID/HIGH C |
3,000 | L-3000・H-3000 | MID/HIGH C | |
4,000 | L-4000・H4000 | MID/HIGH C | |
5,000 | L-2500・H-2500 | MID/HIGH D | |
5,500 | L-3000・H-3000 | MID/HIGH D | |
6,500 | L-4000・H-4000 | MID/HIGH D | |
7,500 | L-5000・H-5000 | MID/HIGH D |
[第2表]2チャンネル・ステレオの時のクロスオーバー周波数
クロスオーバー周波数(c/s) | フィルター・ボード型名 | 切替スイッチ位置 |
600 | L-600 ・H-650 | LOW/MID A |
650 | L-300 ・H-300 | LOW/MID B |
800 | L-400 ・H-400 | LOW/MID B |
900 | L-500 ・H-500 | LOW/MID B |
1,000 | L-600 ・H-600 | LOW/MID B |
2,500 | L-2500・H-2500 | LOW/MID A |
3,000 | L-3000・H-3000 | LOW/MID A |
4,000 | L-4000・H-4000 | LOW/MID A |
5,000 | L-5000 ・H-5000 | LOW/MID A |
(注)・高音スピーカーは中音アンプの出力MIDに接続 ・MID/HIGHスイッチはFLATの位置 |
チャンネルフィルターは別売もいたします。
[コントロール・アンプ部]
トーン・コントロール回路方式 | NF型 |
低音コントロール | 左右独立型 増減ともに6dB/oct 800c/s以下ターン・オーバー,ロール・オフ点連続可変 |
高音コントロール | 左右独立型 ターンオーバー,ロール・オフ共に2Kc,5Kcスイッチ切替 可変範囲 ±12dB(10Kc,ターン・オーバー,ロール・オフ点2Kcのとき) |
トーン・フラット・スイッチ | 低・高音共に,左右連動式 |
ロー・フィルター | 12dB/oct 40,80c/s切替 |
ハイ・フィルター | 12dB/oct 6Kc,8Kc切替 |
入力利得 (VR:MAX,定格出力に必要な入力電圧) |
PHONO-1 :2mV PHONO-2 :0.1mV(スイッチ”LOW”) 2mV(スイッチ”HIGH”) TAPE HD :2mV MIC :2mV TUNER,AUX:200mV |
入出力端子 | PHONO-1,PHONO-2,TAPEHD MIC(フロント・パネル),TUNER,AUX TAPE PLAY(リアー及びフロント・パネル) TAPE REC(リアー及びフロント・パネル) DIN規格ソケット,PREAMP OUT |
SN比 | PHONO-1,PHONO-2(スイッチ”HIGH”):70dB PHONO-2(スイッチ”LOW”):50dB TAPE HD:70dB MIC:70dB TUNER,AUX,TAPE PLAY:90dB |
周波数特性 | 20〜50,000c/s(±0.2dB) (AUX→コントロール・アンプ出力) |
イコライザー回路方式 | 3段直結型 |
イコライザー・カーブ | RIAA,NAB |
イコライザー偏差 | 標準カーブに対し±0.2dB以内 |
位相切替スイッチ | TRによる位相反転方式 |
[その他]
ACアウトレット | スイッチ連動 1ヶ アン・スイッチド 3ヶ |
電源 | 100/117V 50/60c/s 45W(無信号時),200W(最大出力時) |
寸法 | 428W×162H×355Dmm |
重量 | 16.5kg |
※ 本ページに掲載したサプリーム1写真,仕様表等は1966年のTRIO
のカタログより抜粋したもので,ケンウッド株式会社に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じ
られていますのでご注意ください。
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