SV-MD1の写真
Technics SV-MD1
PORTABLE DIGITAL AUDIO TAPE RECORDER ¥279,000

1988年にテクニクス(パナソニック)が発売したDATデッキ。同社初のポータブルタイプのDATで
ソニーのTCD-D10に続いて2番目に発売されたポータブルDATでした。TCD-D10に対し体積
比で1/2という大幅な小型化が実現されているなど,テクニクスの実力を見せた1台でした。

SV-MD1の大幅な小型化には,メカニズム部そのものの小型化が大きく寄与していました。心臓
部には直径15mmという専用の精密超小型シリンダが新開発され,メカニズム部の小型化のキー
となっていました。この超小型シリンダは,松下が数多くのVTR開発・生産で培ってきた技術が生か
されたもので,アモルファス・フェライト複合小型ヘッド,超小型・高精度シャフトベアリング等が搭載
されていました。
また,モーターには超小型ブラシレスDDモーターが新開発され,搭載されていました。サーボには
PG(位相センサー)及びFG(回転センサー)に光方式が採用され,電気信号系との相互干渉のな
い安定したサーボコントロールが実現していました。
さらに,トラッキング精度に大きな影響を及ぼすテープのヘッドタッチを最適の状態に保つため,精
密ダイキャストシャーシや新テンションレギュレータが採用され,高い走行精度とトラッキング精度が
実現されていました。

SV-MD1のメカニズム部SV-MD1のシリンダー

メカニズム部の小型化に加え,全体の小型化のために,記録・再生アンプ,モータードライブICをは
じめ,全面的にLSI化が図られ,11個の新開発LSIが搭載されていました。さらに,徹底した高性能
・小型化を果たした各電子パーツを,高密度多層配線の7層セラミック基板に配置し,さらに,くし型
機能別モジュールによる高密度立体構造を採用して極めてコンパクトな構成を実現し,全体の小型
化を行っていました。

7層セラミック基板SV-MD1の高密度立体構造

マイクアンプなどからの音声信号をデジタル変換するADコンバーターには,MASH(Multi-Stage
Noise Shaping=多段量子化雑音抑圧AD変換技術)を駆使し,録音系に64倍オーバーサンプリ
ングAD変換方式のADコンバーターと高性能デジタルフィルタを1チップ化して搭載していました。
1ビット量子化器を3段以上の多段に従属接続することにより発振の問題を解消したMASHにより,
16ビット以上で約90dBの高SN比を実現し,Lch/Rchそれぞれ専用にADコンバーターを配するこ
とで,録音時のチャンネル間の位相差を解消していました。さらに,高精度デジタルフィルタと3次ア
ナログフォーパスフィルターの採用により,位相の乱れの少ない高音質のAD変換を実現していまし
た。

MASH型ADコンバーター

アナログオーディオ回路には,新開発の省電力・低歪率の録音系オーディオ入力ICと再生系オーデ
ィオ出力ICが搭載されていました。新開発のオーディオ用電解コンデンサPシリーズを採用するなど
厳選されたパーツが使用され,高音質が追求されていました。さらに,電源回路はデジタル系とアナ
ログ系を分離することにより,回路間の干渉を排除していました。
マイク入力は,L/R独立のディスクリート構成の専用マイクプリアンプが搭載されていました。幅広い
サウンドソースに対応するためのパッド(レベル切換え)やリミッター機能も装備されていました。
録音ボリュームは,抵抗体を鏡面加工した高品質なものが搭載され,一層の低歪・低雑音が実現さ
れていました。

SV-MD1の内部

入力系は,LINE(RCAピン),MIC(標準)のアナログ入力が備えられ,デジタル入力は備えられて
いませんでした。また出力系は,アナログ出力(RCAピン)以外に,同軸デジタル出力が備えられ,
デジタル入力を備えた他のデジタル録音機器と接続してデジタルtoデジタルの編集ができるように
なっていました。

SV-MD1には,DATとして,録音時に曲番を自動記録する(検出レベル−40dB/−60dB切換可)
オートプログラムナンバリングキー,録音されている部分の終端を自動検出するエンドサーチキー
前後曲へのスキップサーチ,ダイレクト選曲,プログラム予約による選曲などの機能が装備されて
いました。レベルメーター(16セグメント),テープカウンター,曲番ディスプレイなど,消費電力の少
ない液晶による多機能ディスプレイも装備され,操作部とともに全て前面に集中配置されていました。
筐体は,アルミダイキャスト製フロントパネルとアルミ板で構成されたキャビネットとなっており,携帯
時の不意のショックに備えて随所にラバープロテクタが装備されていました。また,基本シャーシは
金属フレームで構成して剛性を増し,高質量構造として不要な振動を排除する構造となっていまし
た。
電源は,鉛シールバッテリー(2.5時間連続録音可能),ACアダプター使用によるAC電源,別売
カーバッテリーアダプターによるDC6Vに対応し,野外での使用,室内での使用,自動車での使用
が可能となっていました。

以上のように,SV-MD1は,テクニクスが持ち前のオーディオ技術,半導体技術,ビデオ技術を生
かして開発した小型・高性能を誇るDATデッキでした。メカニズム部から始まり,筐体全体の高密度
高精度な設計は,当時としては大幅な小型化を実現し,ソニーのデジタルデンスケにもまさる小型化
は,テクニクスの高い実力を知らしめたものでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ハイスペック,
10〜22kHz,SN比90dB以上。
ハイクオリティ・ポータブルDAT。


◎ハイフィデリティを存分に発揮する
 アウトドア用のヘビーデューティー設計。
◎野外での操作性を考えた
 集中操作パネル,高輝度ディスプレイ。
◎自動曲番記録,ワイドレンジレベル
 メータなど,充実の機能。
◎デジタルフィルタ内蔵,
 MASH型ADコンバータを新搭載。
◎幅210×高さ40×奥行122mm
 のボディを実現した超小型メカニズム。
◎超高精度7層セラミック基板,
 11個のLSI新開発で高密度実装。
◎デジタル系/アナログ系
 徹底分離の電源回路。
◎L/R独立ディスクリート構成の
 専用マイクプリアンプ採用。
◎デジタル出力装備。
 信号劣化のないデジタル編集が可能。



SV-MD11の写真
Technics SV-MD11
PORTABLE DIGITAL AUDIO TAPE RECORDER ¥334,000

SV-MD1の業務用仕様として,1989年にはSV-MD11が発売されました。業務用ポータブルレ
コーダーとして使うために,SV-MD1とはいくつかの違いがありました。

入力系は,MIC/LINE兼用(スイッチによる切換)のXLR3タイプバランス入力のキャノンコネクタ
が搭載されていました。トランスレス・電子バランス回路の内蔵で,ケーブルの引き回しによるノイ
ズも拾うことなくプロ使用基準レベルに対応していました。
入力アンプには,正負2電源回路が採用され,+28dBの高耐入力を可能としていました。ベース
機SV-MD1では1チップ構成であった入力アンプの初段アンプ部を独立させ,最大入力レベルの
向上と高SN比を実現していました。マイクリミッターも,アタックリカバリータイムの短縮化を図った
左右独立リミッターが搭載されていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



MD1のスペックをさらに強化,
キャノン端子装備のプロユース仕様機。


◎プロ機器との接続を考えた
 キャノン入力端子採用。
◎よりハイクオリティな録音を実現する
 ローノイズアンプ搭載。
◎過大入力にも鮮やかに対応。
 高性能マイクリミッター回路。
◎自動曲番記録,ワイドレンジレベル
 メータなど,充実の機能。




●主な定格●

 
SV-MD1
SV-MD11
テープ記録方式
回転ヘッド方式DAT
回転ヘッド方式DAT
標本化周波数
録音時:48kHz
再生時:48kHz,44.1kHz(自動切替)
録音時:48kHz
再生時:48kHz,44.1kHz(自動切替
周波数特性
10Hz〜22kHz(−0.5dB,−1.0dB)
10Hz〜22kHz(−0.5dB,−1.0dB)
ダイナミックレンジ
90dB以上(録音/再生)
90dB以上(録音/再生)
SN比
90dB以上(録音/再生) 90dB以上(録音/再生)
全高調波歪率
0.008%以下(高調波歪率,1kHz,0dB)
0.008%以下
ワウ・フラッタ
測定限界以下
測定限界以下
アナログ入力レベル
 /入力インピーダンス
500mV(0dB,rec level最大時)/47kΩ
+4dB(PAD SW ON時),
 −10dB(PAD SW OFF時)/10kΩ
アナログ出力レベル
 /出力インピーダンス
1.4V(0dB)/1.2kΩ

1.4V(0dB)/1.2kΩ
−60dB(PAD SW ON時),
 −74dB(PAD SW OFF時)/10kΩ
デジタル出力端子
同軸/75Ω(付属コード使用)
0.5Vp-p(付属コード使用)
ヘッドホン出力
30mW/16Ω(可変)
30mW/16Ω(可変)
ヘッド
アモルファス・フェライト複合型
アモルファス・フェライト複合型
シリンダ直径
15mm
15mm
シリンダ回転数
2000r.p.m.(録音,再生時)
2000r.p.m.(録音,再生時)
テープ速度
8.15mm/sec
8.15mm/sec
電源・消費電力
AC100V,50/60Hz・20VA
 (付属充電器兼ACアダプタ使用時)
DC6V,3.9W
 (付属充電電池使用時)
DC IN6V
 (別売カーバッテリーアダプタ使用時)
AC100V,50/60Hz・20W
 (付属充電器兼ACアダプタ使用時)
DC6V,4.3W
 (付属充電電池使用時)
DC IN6V
 (別売カーバッテリーアダプタ使用時)
電池持続時間
(連続録音時)
約2.5時間(付属充電電池8時間充電時)
約2.2時間(付属充電電池4時間充電時)
約2.2時間(付属充電電池8時間充電時)
外形寸法
228W×137D×44Hmm(最大)
228W×137D×44Hmm(最大)
重量
1.45kg(充電電池含む)
1.08kg(充電電池含まず)
1.45kg(充電電池含む)

※本ページに掲載したSV-MD1,SV-MD11の写真,仕様表等は1988年4月の
 Technicsのカタログより抜粋したもので,松下電器産業株式会社に著作権があり
 ます。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられ
 ていますのでご注意ください。
      
  
 
 
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