KENWOOD
SW-CX1
SUPER WOOFER ¥400,000
1993年に,ケンウッドが発売したスーパーウーファーシステム。最近では,AV(オーディオビジュアル)用,
ホームシアター用に低音再生を目的とするスーパーウーファー,あるいはサブウーファーが各社から出て
いますが,このSW−CX1は,純オーディオシステム用に開発されたスーパーウーファーで,恐らくケンウッ
ドの歴史を見ても最強のスーパーウーファーであったといってもいいでしょう。
SW-CX1の最大の特徴は,その強靱なエンクロージャーの作りにありました。低音再生を目的とするスー
パーウーファーにおいては,大口径のユニットを駆動するために,エンクロージャーが大きく振動しがちで
音の濁りやカラーレーション(癖)を生じやすくなります。そのため,エンクロージャーには,(1)高弾性,
(2)高密度,(3)大きな内部損失 という条件が求められることになります。そのため,SW-CX1では,通
常エンクロージャーに用いられるパーティクルボードや合板が用いられず,新開発のNFセラミックスが用い
られていました。
NFセラミックスは,NON FIRING CERAMICS(非焼成セラミックス)の名の通り,従来のセラミックス製造の
ような焼成処理をすることなく,水を媒体とした化学結合によって形成される高機能・高性能のセラミックス
系の複合材料のことです。石灰,シリカなどを主成分とし,化学結合によって良質のフィラー(骨材)を欠陥
の極めて少ない結合材で包み込むように複合化しており,減衰機能,強度,弾性率,剛性率及び耐薬品性
においてすぐれた特性を持っていました。また,焼成処理を経ないため,適正価格で大型製品まで製作可
能であり,製作時の低収縮,転写性,振動減衰性,加工性,短納期等を併せ,セラミックスの用途を一段と
拡大し,音響分野等への応用も可能となったという新素材でした。
このNFセラミックスはエンクロージャーに使用した場合,(1)高強度(パーティクルボードの5倍),(2)高密
度(パーティクルボードの3倍,(3)高減衰能力(パーティクルボードの4倍),(4)安定した寸法精度,(5)高
い形状の自由度,(6)高い耐熱・耐水・耐候性 といった特徴となり,音響部材として高い性能を持っていま
した。SW-CX1では,平均30mm厚で成型し,内容積52リットルのエンクロージャーとして仕上げられてい
ました。そして,スーパーウーファーとして不要な共振を防ぎ,ユニットからの定在波の影響を受けず,かつ
ユニットの振動基準点を明確にするために,充分な強度を求めたSW-CX1自体の総重量は126.7kgに
も達していました。NFセラミックスは,特性として形状的な自由度が大きく,従来エンクロージャーに使用さ
れる材料では困難だった3次元曲面も高精度に作り上げることができる素材でした。この成型性の良さを生
かして各部の分割振動を考慮した3ピース構成をとりながらも,積み重ねるだけの無調整で本来の性能が
得られる高精密設計となっていました。
低域の再生方式としては,バスレフ,ダブルバスレフ等の共鳴方式(ヘルムホルツ・レゾネータータイプ)と
直接放射方式(ダイレクト・ラデュエーター・タイプ)があります。共鳴方式は,変換効率が高く小型化がしや
すい反面,極低域再生が難しく位相の回転が大きいという弱点があります。直接放射方式は,効率が劣り
大きな振動面積が必要であり,不要な高域成分が発生しやすいという弱点がある反面,低域再生限界が
低く位相特性にすぐれ,メインスピーカーとのつながりがスムーズであるという特徴があります。SW-CX1
は,これらの特性を考慮した上で直接放射方式がとられていました。
スピーカーユニットには,強力な33cm口径のコーン型ユニットが搭載されていました。振動板は,軽量で
高剛性な3,000フィラ平織り(3000本のカーボン繊維を1本の糸に束ねて平織りして強度を持たせたも
の)の3層構造カーボンファイバーからなるストレートコーンが採用され,同材料からなるチャンバーと併せ,
大入力にも対応できるようになっていました。
磁気回路は,直径140mmのストロンチウムフェライトマグネットにサブとして後ろ側に直径110mmのマグ
ネットを配置したダブルマグネット方式が採用され,さらに,2mm厚のカバーで閉回路とし,磁束密度を上
げるとともに防磁効果も高めた高効率設計となっていました。また,カバー部には鳴きを抑えるためのコー
ティング処理が施されていました。ボイスコイルのボビンにはガラス繊維で強化した耐熱・難焼・高剛性の
ポリイミド材が使用されていました。さらに,ボビンの強度を上げるため,高強度耐熱ポリアリレート新素材
繊維ベクトランを高張力で巻くことで従来より高い強度が確保されていました。そして,ボイスコイルは4層
巻きとして,大入力にも対応できるようにしていました。
ダンパーには,難燃性高分子繊維コーネックスが使用され,さらに高いダンピング性能とアンチローリング
性能の向上を図るためにダブるダンパー方式が採用されていました。
フレームは防振と振動系支持強度の向上のためにアルミダイキャストフレームを採用し,さらにリブを非対
称に配置することで不要振動の排除が図られていました。
エッジには,ウレタン系エラストマーが使用され,リニアリティが高められていました。
SW-CX1は,アンプ内蔵型のスーパーウーファーで,アンプ部には,低インピーダンス駆動とハイゲイン化
対応を考慮した差動2段パラレルプッシュプル回路構成が採用されていました。大容量のトランスと7,500
μFの大型ケミコンも搭載され,150W(6Ω)の出力が確保されていました。また,大出力時の放熱効果を
高めるために黒色アルマイト仕上げと大型のヒートシンクが採用され,筐体は高剛性のダブルブリッジ構造
とされ,振動や外部からの影響を受けにくい構造となっていました。アンプ部とスピーカーユニットとの配線に
は,高純度OFCコードが使用されていました。
機能的には,メインスピーカーとのスムーズなつながりや多彩な使い方が可能となるようにスーパーウーファー
として多機能に仕上げられていました。ターンオーバー周波数は,31.5Hz,50Hz,80Hz,100Hz,125
Hzの5ポイントの設定が可能で,カットオフスロープは−18dB/octに設定されていました。メインスピーカー
との距離や低域再生方式(密閉・バスレフ等)により異なってくる音波の振幅周期を合わせるために,位相を
切換えられるフェイズ切換も装備されていました。スピーカー入力端子は,LOW/HIGHのインプットレベル切
換が設けられ,スピーカーケーブル,オーディオコードの2ウェイでの接続が可能となっていました。また,ライ
ンインプットとともにモノラル・イン/アウトが設けられ,2台以上のアンプで同時にSW-CX1が使えるようになっ
ていました。その他,特に低い帯域のみのレベルを上げられるSSB(スーパー・サブソニック・ベース)やバス
ブーストのスイッチも装備されていました。さらに,リモコンが付属し,電源のON/OFF,ボリューム,ターンオー
バー,フェイズ切換,バスブースト,SSBなど,すべての機能が遠隔操作できるようになっていました。
以上のように,SW-CX1は,オーディオ再生をターゲットとしたスーパーウーファーとして,使いやすさとすぐれ
た低音再生を実現していました。120kgを超える重量には驚かされますが,家庭で使える大きさにまとめた完
成度は,さすがにメーカー製らしいものを感じさせました。