Victor SX-V1-M
2WAY SPEAKER SYSTEM(pair)¥150,000
1994年に,ビクターが発売したスピーカーシステム。小型で高品質なスピーカーを目指した
設計のスピーカーで,ビクターならではのすぐれた木工技術をはじめしっかりと物量と技術が
投入された1台でした。
SX-V1-Mの最大の特徴は,高品質なエンクロージャーの採用でした。型番に「M」がつくよ
うに,強靱で響きが美しいマホガニーを無垢材で使用したエンクロージャーでした。マホガニー
は,高級家具やピアノなどに使用されかつては蓄音機のキャビネットにも使用されていたとい
う音響材としてすぐれた素材で,美しい木目の魅力的な素材です。SX-V1-Mのキャビネット
は,音響材としてすぐれた無垢のマホガニーでいったん組みあげた後,新開発の樹脂含浸を
施し,無垢材特有の経年変化をクリアしていました。さらに,すべての稜に丸みを持たせたフ
ラッシュサーフェス化で,音波の回折現象を抑えていました。そして,ビクター伝統の木工技術
を生かして,表面を丹念に磨き接合面をフラットとし,マホガニー独特の木目の美しさをより際
立たせていました。
バッフルは,ウーファーとトゥイーターをできるだけ近づけて配置し,強靱な金属バッフルボード
に直接取り付けることで音像の一体化を目指したユニフレームバッフルボードが採用されてい
ました。このバッフルボードは,剛性が高く,減衰音が美しい真鍮ダイキャストボードを開発して
採用していました。ボードの裏面に共振分散のためのリブを作成し,さらに底部に真鍮製エンド
ピンを採用して,メカニカルアース効果を実現していました。これらにより,微小レベルでの音楽
再現性を高めていました。さらに,エンクロージャー底部にもエンドピンを設けた3ポインテッド・
ベース方式で,設置した際の安定性も高めていました。
ウーファーは,口径14.5cmのコーン型で,軽くて粘りがあり,すぐれた再生音をもつドイツ・
クルトミューラー製のコーンが使用されていました。これを,内磁型アルニコ磁気回路で強力
にドライブし,ファンダメンタル帯域のしっかりしたエネルギーバランスを確保していました。ま
た,SX-500DOLCEで開発された,蝶ダンパーを基本に,コンピューター解析を繰り返して
高精度・高リニアリティを求めた新形状としたスパイダーサスペンションが,小振幅から大振
幅まで高いリニアリティとロングストローク・レスポンスを実現していました。さらに,ユニットハ
ウジングには,非磁性体で高い剛性を持つステンレスを使用し,電気的,磁気的,機械的歪
みを低減していました。
トゥイーターは,2.5cm口径のドーム型で,すぐれた指向特性と微小入力時のすぐれた立ち
上がりを持つ羽二重シルクソフトドームが採用されていました。ウーファーとの時間軸を合わ
せるためにタイムアライメントを持たせ,同時に指向性の改善が図れるショートホーン形状の
フォーカシングダイレクターが採用され,音像の明確化と音場の拡大が実現されていました。
スピーカーターミナルは,強度を増すためにキャビネットにダイレクトマウントされ,入力端子
は,信頼性の高い金メッキ端子を採用し,バナナプラグにも対応していました。
そして,専用のスピーカースタンドLS-V1-M(2本1組・¥40,000)が用意され,デザイン
的にも音質的にもマッチングがとられていました。エンクロージャーと同じく樹脂含浸した無垢
マホガニーで作られ,本体の底部にある3本のエンドピンをスピーカースタンド天面のホルダー
で支え,しかも前2点をユニフレームバッフルボードの真鍮製エンドピンとダイレクト接続し,
バッフルボードをスタンド底部のウェイトでアースする3ポインテッド・ベース方式により,ナチュ
ラルな音場としっかりした低域再生を実現できるようになっていました。
以上のように,SX-V1-Mは,小型ながら非常に高品質な作りで,中高域の微粒子感のある
クリアさとサイズを超えたしっかりした音は,その潜在能力を感じさせるものでした。実際には,
2kHz~6kHzの帯域に大きな谷がある特性となっていましたが,これがかえって優しく柔らか
い耳あたりのよい音となり,音楽を穏やかに聴かせる魅力にもつながっていたように思います。
しかし,このスピーカー,今作ったら,あるいは,海外製ならいったいこの作りでいくらになるこ
とかと考えてしまいます。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
聴覚の温もりにこだわると,
スピーカーはこうなる。
無垢マホガニーと真鍮の
たおやかな音楽性。
◎抑揚を伝える
無垢マホガニーキャビネット。
◎真鍮材採用の,
ユニフレームバッフルボード。
◎フルレンジへのこだわりを
追求したウーハー。
◎フォーカシングダイレクターによる,
明確な音像と音場。
シルクソフトドーム・ツイーター。
◎ダイレクトマウントの
金メッキ入力端子。
◎無垢はマホガニー製の
専用スピーカースタンド。
●主な仕様●
種類 | 2ウェイバスレフ型(防磁型EIAJ) |
スピーカーユニット |
中・低音用:14.5cmクルトミューラーコーン 高音用:2.5cmシルクソフトドーム |
定格入力 | 30W(EIAJ) |
最大入力 | 120W(EIAJ) |
再生周波数帯域 | 55Hz~30,000Hz |
定格インピーダンス | 4Ω |
出力音圧レベル | 87dB/W・m |
クロスオーバー周波数 | 4,000Hz |
寸法 | 200W×343H×263Dmm |
重量 | 8.0kg(1本) |
Victor SX-V1A-M
2WAY SPEAKER SYSTEM(pair)¥158,000
1996年に,SX-V1-Mは,モデルチェンジを受け,SX-V1A-Mとなり,マホガニー無垢材
のエンクロージャー,真鍮製のバッフルボードなど,小型で高品質なスピーカーを目指した
設計はそのまま継承され,各部に改良が施されていました。
ウーファーは,低域のレンジを拡大するために,リニアリティにすぐれ,S/N比のよいクルト
ミューラー・ラバーエッジを採用し,トランジェント向上のためにエッジワイズ巻きのボイスコイ
ルを軽量化していました。さらに,微小信号の再現能力を向上させるために,振動支点が一
点となるようスパイダーサスペンション,ボイスコイル,振動板も改良が行われていました。
2.5cm口径の羽二重シルクソフトドームトゥイーターには,新たにアルニコマグネットを採
用し,磁気回路もポット型ヨークを採用してドライブ力を強化していました。そして,ポール
ピースには,低炭素鋼にアニール処理(歪み等除去のための焼き鈍し等の処理)を施して,
音の粘りを高めていました。
その他,低音ピッチの安定化と弾み感の向上のため,サブバッフルにVDE/2樹脂系高密
度材の採用,裏板の振動モードが最適となるように加工方法の改良が行われていました。
外観も,基本デザインは踏襲しながら,真鍮バッフルは多色発光する鏡面仕上げに変更さ
れていました。
以上のように,SX-V1A-Mは,SX-V1-Mの正常進化ともいえる内容を持ち,小型ながら
本格派という1台として完成度が高められていました。音の面では,2kHz~6kHzの谷が
消え,フラットな特性になり,より癖のない,対応ジャンルの広がったスピーカーとなってい
ました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
感動はより新しく,より深淵に。
無垢のマホガニー,
真鍮ダイキャスト
オールアルニコの饗宴。
◎ふくよかな余韻を表現する
無垢マホガニーキャビネット。
◎素材も接続方法も吟味した
ネットワーク回路。
◎クルトミューラーウーハーが
低音の表現力を向上。
◎アルニコマグネットと
真鍮ベースプレートで高域を
濃密に再現する
シルクソフトドーム・ツィーター。
◎全身無垢マホガニー製の
スピーカースタンド。
●主な仕様●
種類 | 2ウェイバスレフ型(防磁型EIAJ) |
スピーカーユニット |
中・低音用:14.5cmクルトミューラーコーン 高音用:2.5cmシルクソフトドーム |
定格入力 | 30W(EIAJ) |
最大入力 | 120W(EIAJ) |
再生周波数帯域 | 55Hz~30,000Hz |
定格インピーダンス | 4Ω |
出力音圧レベル | 87.5dB/W・m |
クロスオーバー周波数 | 4,000Hz |
寸法 | 200W×343H×263Dmm |
重量 | 8.3kg(1本) |
Victor SX-V1X-M
2WAY SPEAKER SYSTEM (pair)¥175,000
1997年に,SX-V1A-Mは,SX-V1X-Mへとモデルチェンジされました。3代目のモデル
として,ユニットをはじめ,各部に改良・強化が施され,SX-1シリーズの最終形として完成
されていました。
無垢マホガニーのエンクロージャーは,より高密度なマホガニー材が採用され,新構造の
導入によって,強固に組み固められ,剛性が強化されていました。専用スタンドも,エンク
ロージャーの強化に合わせ,新たにLS-V1X-M(2本1組・¥40,000)が用意されてい
ました。基本構造は同じながら,高さが30mm高くなり
奥行きは67mm浅くなっていました。真鍮バッフルボードによるユニフレームバッフル構造
は継承されていました。
ウーファーは,同じ14.5cm口径のコーン型ながら,新たにビクター独自の「ダイナミック
バランスド・オブリコーン」が採用されていました。駆動点をオフセンターに配置し,高域に
共振による鋭いピークやディップが出やすい通常のコーン形状に対し,中高域の共振を
分散して,複数の小さなピークやディップとすることで,よりなめらかな特性を実現してい
ました。コーン自体は,ドイツクルトミューラー社製で,斜めに成型したのではなく,大きめ
のコーンを斜めにカットして搭載していたそうです。クルトミューラー・ラバーエッジ,軽量化
されたエッジワイズボイスコイル,スパイダーサスペンションなどは継承されていました。
トゥイーターは,超高域への帯域拡大をねらって,1.9cm口径のハードドーム型に変更
されていました。振動板は1.9cm純アルミドームで,自然な音色をねらって純金プレー
ティングが採用されていました。そして超高域に至る輻射が滑らかなものとなるように,
エッジイコライザーやフレーム形状の最適化とともに,三次元形状のスーパーソニック・
ディフューザーが装備されていました。特性的にも,ハイエンドが30kHzから50kHzに
高められていました。
以上のように,SX-V1X-Mは,「SX-1シリーズ」の最終形として大幅に改良・強化が行
われ,高品質な小型スピーカーシステムとして,1つの完成形に達していました。癖が少
なく広いジャンルに対応し,繊細で美しい音は,高い評価を受けていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
豊かな音楽表現へ。
このこだわりが,
すべての新技術の
原動力でした。
◎新開発高密度無垢マホガニー
キャビネット。
◎一元音像を追求した
ユニフレームバッフル構造。
◎立体反射仕上げフロントパネル。
◎ダイナミックバランスド・オブリコーン。
◎純金プレーティング・
アルミドーム・ツィーター。
◎ネットワーク純度を高め,
緻密な音場。
◎音へのこだわりを
スタンドにも追求。
●主な仕様●
種類 | 2ウェイバスレフ型(防磁型EIAJ) |
スピーカーユニット |
中・低音用:14.5cmクルトミューラーコーン 高音用:1.9cm純金プレーティング・ピュア・アルミドーム |
定格入力 | 30W(EIAJ) |
最大入力 | 120W(EIAJ) |
再生周波数帯域 | 55Hz~50,000Hz |
定格インピーダンス | 4Ω |
出力音圧レベル | 87.5dB/W・m |
クロスオーバー周波数 | 4,000Hz |
寸法 | 200W×343H×263Dmm |
重量 | 8.9kg(1本) |
※本ページに掲載したSX-V1-M,SX-V1A-M,SX-V1X-M
の写真,仕様表等は1995年5月,1996年12月,1999年
12月のVictorのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等を
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