Aurex SY-Λ90
STEREO PREAMPLIFIER ¥150,000
1982年にオーレックス(東芝)が発売したプリアンプ。1982年はCD元年といわれ,CDの市販
がこの年開始されました。そして,各社からCDプレーヤーの第1号機が発売され,デジタルオー
ディオ時代の幕開けとして,オーディオ界は盛り上がりを見せていました。そんな中,オーレックス
がCDプレーヤー第1号機
XR-Z90と同じ90の型番を付けて発売したセパレートアンプのペアが
ありました。そのペアのプリアンプがこのSY-Λ90でした。
イコライザーアンプは,
SY-Λ88Uにも採用されていたデュアルFET2SK146にデュアルトラン
ジスターをカスコード接続した初段とし,2段目の差動アンプはカスコードブートストラップ接続した
3段直結DCアンプとしていました。
デュアルFET,デュアルトランジスタは熱平衡にすぐれ,カスコード接続により初段,2段目の発熱
を低く抑えてあり,この結果DCドリフトが小さくなり,シンプルなDCアンプの実現により,クオリティ
の高い音質が確保されていました。また,カスコードブートストラップ接続により,ゲインが高くなる
2段目のリニアリティを高め,低歪みと,入力信号のインピーダンス変化に対する歪率特性も改善
していました。MM/MCの切換はゲイン切換方式がとられ,回路の接点数の減少と操作性の向上
が図られていました。
フラットアンプには,残留ノイズがわずか4μVという低ノイズの,シンプルな構成のDCフラットアン
プが搭載されていました。出力インピーダンスは,A級動作のSEPP(Single Ended Push Pull)
回路の採用により低く抑えられ,接続コードの容量等の影響も受けにくくなっていました。
ボリュームは,新開発のスライドボリュームが搭載されていました。薄型のデザインにマッチしたボ
リュームで,軽いタッチでガタのない滑らかなフィーリングの高品質なものが搭載されていました。
音質面でも,従来,内部接続に使われる銀ペイントパターンと鉄端子が異種金属の接触となって
音質劣化原因になっていたのに対して,銅箔パターンと銅端子という構成がとられていました。さら
に接触部のマルチ端子化やグリスの選別など音質への配慮もしっかりと行われていました。また
パターンが平行にとれるため,通常の丸ボリュームに特有のパターンでの電流集中による音質劣
化も避けることができていました。このスライドボリュームは同一直線上にミューティングスイッチが
配置され,操作性のさらなる向上が図られていました。
トーンコントロールは,トーン素子をアンプから分離したシンプルな構成のCR型が搭載され,音質
劣化は最小限に抑えられていました。
電源部は,「スーパーΛ電源」と称する余裕のある電源部が搭載されていました。電源トランスに
は,すぐれた特性の変形トロイダルトランスが搭載され,ローノイズツェナーダイオード,リカバリー
タイムの小さい高速整流素子をパラレル使用することで,徹底したローノイズ化,低インピーダン
ス化が図られていました。
回路全体を通してのローノイズ化,低インピーダンス化も徹底され,パラレル接続が積極的に取
り入れられていました。電源スイッチを大容量とし,整流器,新開発の電解コンデンサー,各種フィ
ルムコンデンサーをパラレル使用することで,ローインピーダンス化を実現していました。電源回
路には,新開発の電解コンデンサーとuΛ-U形Λコンデンサーを,イコライザーアンプには,上
級機SY-Λ88Uと同じ銅箔スチロールコンデンサーを使用していました。
以上のように,SY-Λ90は,オーレックスらしく高品質なパーツの開発と搭載によりすぐれた性能
を実現したプリアンプでした。薄型の筐体にスモークドパネルのフロントパネルを持ち,上部にスラ
イド型のボリュームとミューティングスイッチ,下部に電源と入力切換のプッシュスイッチを備え,
それ以外のスイッチや表示部をスモークドパネルになったシーリングポケットに収めた個性的で未
来的なデザインは,「90シリーズ」に共通するイメージを持つもので,当時のグッドデザイン賞も受
賞したものでした。色付けの少ないストレートな音が特徴でしたが,オーレックスのブランド力や音
の個性が強くないことゆえか広く人気を得るには至りませんでした。そして,オーレックスブランド最
後の本格的セパレートアンプのプリアンプとなってしまいました。しかし,実力機であったことは確か
だと思います。