Accuphase T-103
FM STEREO TUNER ¥150,000
1979年に,ケンソニック(現アキュフェーズ)が発売したFM専用チューナー。前年に発売されたアキュ
フェーズブランドで初のシンセサイザーチューナーT-104の弟機で,すぐれた性能と音質を実現した高
級チューナーとして高い完成度を実現していました。

日本では,1974年にオーレックスとビクターからシンセサイザー方式のチューナーが初めて発売され,
1970年代後半より,各メーカーから少しずつ登場し始めていました。アキュフェーズ自身も1978年に
T-104を発売していました。しかし,当時は,シンセサイザー方式の選局精度,受信の安定度,機能面
でのメリットは認めつつ,技術的には,まだまだバリコン方式のチューナーの方が完成度が高く,音質的
にも有利な面があったため,バリコン方式のチューナーが主流となっていました。
T-103は,完成度の高いバリコン方式と,正確な周波数表示ができるデジタル・ディスプレイの長所を
組み合わせたチューナーで,アキュフェーズ自身「ハイブリッド方式FMチューナー」と称していました。
横行ダイヤル式に代わって,水晶発振器とカウンター回路により,100kHzおきにデジタル表示される
ようになっていました。同調はバリコンによるものなので,受信周波数は連続的に可変でき,0.01MHz
の桁が四捨五入されて表示される仕組みでした。

正確な同調点は,離調周波数を目盛ったセンター指示型の「ゼロ・センター・メーター」で確認できるよう
になっていました。さらに,もう1つのメーターは,「入力信号レベル」の他に,「変調度」,「マルチパス」を
スイッチで切り換えて表示できる多機能メーターになっていました。
また,デジタル・ディスプレイは,パワースイッチを切ると時刻表示となり,時計としての機能を果たすよう
になっていました。そして,受信中でもスイッチにより時刻を表示できるようになっていました。

フロントエンドは,5連FM専用精密バリコンとデュアルゲートMOS型FETを使った高周波増幅段(RF段)
と混合回路(ミキサー段),バッファー付高安定度局部発振回路が組み合わされ,ダイナミックレンジが広
く確保され,スプリアス妨害比100dB,イメージ比120dB,RF相互変調75dBという高性能が実現されて
いました。

中間周波回路(IF段)は,選択度と低歪率の問題を両立させるために,NORMALとNARROWの2段切
換の可変選択度型が採用されていました。高選択度と低歪み率を両立させるために,選択度,群遅延特
性のすぐれたSAWフィルターとLCフィルターの組み合わせが採用されていました。SAWフィルターは,
Surface Accoustic Wave=表面弾性波フィルターのことで,圧電体の上に櫛の波状の電極を対向させ
たものを2組作り,発振側をピエゾ励振し表面振動として発振電極に伝え,再び電気変換するというもので
素材の弾性や電極の形で周波数や帯域幅を決めることができる当時新しいタイプのフィルターで,長期安
定性にもすぐれていました。NARROW時には,さらに使用帯域200kHz以内では0.06μS以内の変化
で歪率に換算すると0.01%という値で,オーディオアンプの歪に相当するほど低歪のバルク・ウェーブ・
フィルターが挿入されるようになっていました。こうしたフィルターを採用したIF回路全体では,0.01%以下
という低歪みを実現していました。

検波器には,90度を中心として周波数に応じて直線的に変化する移相器(位相を偏移させる回路)を通っ
た信号と入力波を掛け算してオーディオ信号を得る「位相変換型検波器」が採用されていました。新たに設
計された広帯域リニアフェーズ移相器により,使用帯域±100kHz内の歪み率は0.005%以内というき
わめて低歪の検波特性が実現されていました。生産ラインでは,一台一台が微分利得直視装置により完
全に調整して出荷されるようになっていました。

コンポジット信号(左右の合成信号)をステレオに復調するMPX回路には,パイロットキャリアを取り除く回
路を内蔵した最新のPLLデモジュレーターが搭載されていました。
以上のリニアフェーズIFフィルターと広帯域検波器,PLLデモジュレーターによって,ステレオセパレーション
は50dB(1kHz),45dB(10kHz),歪率は0.02%以下(ステレオ,1kHz)というすぐれた特性が実現さ
れていました。



機能的には,ステレオ受信時のノイズを低減する「ノイズ・フィルター」,ステレオ放送をモノフォニックに切
り替える「モード・スイッチ」,局間ノイズをカットする「ミューティング・スイッチ」,周波数表示のデジタル・ディ
スプレイを減光する「ディマースイッチ」等が搭載されていました。また,時刻合わせのための「時」「分」「チェ
ック」の3つのスイッチがフロントパネルに備えられていました。

以上のように,T-103は,当時,いくつかのメーカーからも発売されていた,シンセサイザー方式への過渡
期的なチューナーの形をもったものでしたが,バリコン方式のチューナーとして高い性能を実現しつつ,操
作性にもすぐれた1台でした。受信性能と音質を両立させた,高周波技術にもすぐれた技術とノウハウを持
っていたアキュフェーズらしいチューナーではなかったかと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



◎受信周波数と時刻のデジタル表示
◎混信障害を徹底的に排除した
 5連バリコン・フロントエンド
◎SAWフィルターとLCフィルターの組み合わせ
 による位相直性型IF回路
◎低ひずみ率・位相直線型FM検波器
◎パイロットキャリア・キャンセラ-付
 PLLデモジュレーター
◎多用途名なメーター
◎別売ローズウッド・キャビネット




●T-103保証特性●

●モノフォニック特性●

感度 実用感度     11.2dBf(2.0μV)
S/N50dB感度 17.3dBf(4.0μV)
定在波比 1.5
S/N
65dBf(1mV)入力 
77dB
高調波ひずみ率
65dBf(1mV)入力
100Hz 0.03%以下
1kHz  0.03%以下
6kHz  0.03%以下
10kHz 0.04%以下
(SELECTIVITY スイッチ NORMAL時)
IMひずみ率 0.01%
(アンテナ入力65dBf(1mV),100%変調,14kHz:15kHz=1:1)
周波数特性 20~15,000Hz(+0,-0.5dB)
二信号選択度
45dBf(100μV)入力
妨害波  SELECTIVITY NORMAL   SELECTIVITY NARROW
400kHz       50dB                100dB
200kHz        6dB                 20dB 
キャプチャー・レシオ 1.5dB
RF相互変調 75dB
スプリアス妨害比 120dB
イメージ比 120dB
IF/2スプリアス・レスポンス 100dB
AM抑圧比
65dBf(1mV)入力
80dB
サブキャリア抑圧比 80dB
SCA妨害比 80dB
出力電圧
(100%変調)
1.5V


●ステレオ特性●

感度 S/N40dB感度   28.8dBf(15μV)
S/N50dB感度   37.3dBf(40μV)
S/N
65dBf(1mV)入力
75dB
高調波ひずみ率
65dBf(1mV)入力
100Hz 0.03%以下
1kHz  0.03%以下
6kHz  0.05%以下
10kHz 0.1%以下
IMひずみ率 0.03%以下
(アンテナ入力65dBf(1mV),ステレオ,100%変調,9kHz:10kHz=1:1)
周波数特性 20~15,000Hz(+0,-0.5dB)
ステレオ分離度 100Hz 50dB
1kHz  50dB
10kHz 45dB
ステレオ切替入力電圧 19.2dBf(5.0μV)


●その他●

受信周波数 76.0MHz~90.0MHz 連続可変
同調方式 精密5連バリコン
周波数安定度 ±30kHz以内 
出力インピーダンス 固定出力端子 200Ω
可変出力端子 2.5kΩ
アンテナ入力インピーダンス 300Ωバランス,75Ωアンバランス 
メーター 2個
 信号強度計/マルチパス/モジュレーション切替式
 センター・チューニング
ディジタル時計 水晶発振式 精度:20℃にて月差±15秒以内 
電源及び消費電力 100V 50/60Hz  消費電力25W
使用半導体 24Tr,5FET,13IC,25Di,
寸法・重量 445W×128H×370Dmm  10.0kg

※本ページに掲載したT-103の写真,仕様表等は1979年の
 Accuphaseのカタログより抜粋したもので,アキュフェーズ
 株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
 を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますの
 でご注意ください。

 

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