Accuphase T-105
PULSE TUNING FM STEREO TUNER ¥120,000
1980年に,ケンソニック(現アキュフェーズ)が発売したFM専用シンセサイザーチューナー。1978年に,アキュ
フェーズは同社初のシンセサイザー・チューナーを発売し,その高い完成度で評価を得ました。T-105は,それに
次ぐシンセサイザーチューナーの2号機として,2年間の技術的進歩もあり,よりコストパフォーマンスが高められ
た1台となっていました。
T-105は,T-104以来の,水晶発振子で基準周波数を作り,必要な受信周波数をプリセットするプログラム・ディ
バイダーとPLL回路の組み合わせにより,電子的にフロントエンドを希望信号に正確に同調させる「クォーツロック
周波数シンセサイザー方式」が採用されていました。100kHz間隔で正確に受信周波数をロックし,常に歪み最小
点で受信することができるようになっており,周波数精度は,水晶発振子により,±0.002%という高精度が実現
されていました。
シンセサイザー・チューナーの選局は,ボタンによる周波数スイープやメモリー・チューニングが主体になり,バリコ
ンを回転させる必要がなく電子的に同調させるため,回転するチューニングツマミがないものが普通ですが,T-105
では,従来のバリコン式チューナーのフィーリングの手動式選局の感覚を残すため,T-104で開発された「パルス・
チューニング方式」が採用されていました。これは,回転ノブの内部に取り付けられた光学的パルス発生器によって
パルス信号を発生し,これでシンセサイザーをコントロールして受信周波数を変えるという方式でした。もちろんシン
セサイザー・チューナーですから,希望局をあらかじめ記憶させておき,ワンタッチで呼び出せるメモリーチューニング
方式では,6局までのメモリーが可能となっており,さらに,受信周波数をスピーディーにスイープさせるスキャニング
方式も搭載されていました。
フロントエンドは,PLL回路と組み合わされた4個のバラクター素子を使った純電子コントロール方式で,2段複同調
方式と同調バッファーの構成により,RF相互変調を大幅に改善していました。
中間周波回路(IF回路)には,高選択度特性と低歪率を両立させるために,選択度と群遅延特性のすぐれた最新の
バルク・ウェーブ・フィルターが搭載されていました。このフィルターは,使用帯域200kHz以内では0.06μS以内
の変化で歪率に換算すると0.01%という値で,オーディオアンプの歪に相当するほど低歪を確保していました。
T-105には,選択度を2段階に切替えられるSELECTIVITYスイッチが装備され,NORMALでは,2素子リニア
フェイズ・バルク・フィルターが3段,NARROWでは,さらに,2段追加の5段構成となるようになっており,高選択度
と低歪率の両立が図られていました。
検波器には,90度を中心として周波数に応じて直線的に変化する移相器(位相を偏移させる回路)を通った信号
と入力波を掛け算してオーディオ信号を得る「位相変換型検波器」が採用されていました。新たに設計された広帯
域リニアフェーズ移相器により,きわめて低歪の検波特性が実現されていました。
コンポジット信号(左右の合成信号)をステレオに復調するMPX回路には,パイロットキャリアを取り除く回路を内蔵
した最新のPLLデモジュレーターが搭載されていました。
以上のリニアフェーズIFフィルターと広帯域検波器,PLLデモジュレーターによって,ステレオセパレーションは50dB
(1kHz),45dB(10kHz),歪率は0.04%(ステレオ,1kHz)というすぐれた特性が実現されていました。
メーターは1基だけしか搭載されていませんが,切替えスイッチにより「入力信号レベル」,「ピーク指示変調度」,「マ
ルチパス」のチェックができるようになっていました。
その他機能的には,ステレオ受信時のノイズを低減する「ノイズ・フィルター」,ステレオ放送をモノフォニックに切り替
える「モード・スイッチ」,局間ノイズをカットする「ミューティング・スイッチ」,出力レベルを合わせる「出力レベル・コン
トロール」が装備されていました。
以上のように,T-105は,アキュフェーズのシンセサイザーチューナーの第2弾として,受信性能と音質のバランス
がとられた高い完成度が実現されていました。トリオから独立したケンソニック(現アキュフェーズ)のすぐれた高周
波関係の技術を示した1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
◎クォーツロック周波数シンセサイザー方式
◎選局は「メモリー」「パルス」「スキャンニング」の3方式
◎妨害・混信障害を徹底的に排除した複同調フロントエンド
◎バルク・ウェーブ・フィルターによる位相直線型IF
◎低ひずみ率,位相直線型FM検波器
◎パイロットキャリア・キャンセラー付PLLデモジュレーター
◎多用途のメーター
◎別売ローズウッドキャビネット
●T-105保証特性●
●モノフォニック●
感度 | 実用感度 11.2dBf(2.0μV) S/N50dB感度 17.3dBf(4.0μV) |
定在波比 | 1.5 |
S/N 65dBf(1mV)入力 |
80dB |
高調波ひずみ率
65dBf(1mV)入力 ±75kHz偏移 |
100Hz 0.04% 1kHz 0.04% 6kHz 0.08% 10kHz 0.04% |
IMひずみ率 | 0.01% (アンテナ入力65dBf(1mV),±75kHz偏移,14kHz:15kHz=1:1) |
周波数特性 | 10~16,000Hz(+0,-0.5dB) |
二信号選択度
45dBf(100μV)入力 |
妨害波 SELECTIVITY NORMAL SELECTIVITY NARROW 400kHz 60dB 100dB 200kHz 8dB 22dB |
キャプチャー・レシオ | 1.5dB |
RF相互変調 | 80dB |
スプリアス妨害比 | 120dB |
イメージ比 | 120dB |
IF/2スプリアス・レスポンス | 100dB |
AM抑圧比
65dBf(1mV)入力 |
70dB |
サブキャリア抑圧比 | 70dB |
SCA妨害比 | 80dB |
出力電圧
(±75kHz偏移) |
1.0V |
●ステレオ●
感度 | S/N40dB感度 28.8dBf(15μV) S/N50dB感度 37.3dBf(40μV) |
S/N 65dBf(1mV)入力 |
75dB |
高調波ひずみ率
65dBf(1mV)入力 ±75kHz偏移 |
100Hz 0.04% 1kHz 0.04% 6kHz 0.08% 10kHz 0.08% |
IMひずみ率 | 0.03% (アンテナ入力65dBf(1mV),±75kHz偏移),9kHz:10kHz=1:1 |
周波数特性 | 10~16,000Hz(+0,-0.5dB) |
ステレオ分離度 | 100Hz 50dB 1kHz 50dB 10kHz 45dB |
ステレオ切替入力電圧 | 19.2dBf(5.0μV) |
●その他●
受信周波数 | 76.1MHz~89.9MHz |
同調方式 | クォーツロック・フリケンシー・シンセサイザー方式 マニュアル:パルスチューニング メモリー:6局 |
周波数確度 | ±0.002% |
出力インピーダンス | 固定出力端子 200Ω
可変出力端子 1.25kΩmax |
アンテナ入力インピーダンス | 75Ωアンバランス |
メーター | 信号強度/マルチパス/モジュレーション 切替式 |
電源及び消費電力 | 100V 50/60Hz 消費電力25W |
使用半導体 | 26Tr,3FET,24IC,73Di,2Opto-coupler |
寸法・重量 | 445W×128H×370Dmm 8.4kg |
※本ページに掲載したT-105の写真,仕様表等は1980年の
Accuphaseのカタログより抜粋したもので,アキュフェーズ
株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真等
を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますの
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