ONKYO T-411
X’TAL LOCKED FM STEREO TUNER ¥200,000
1974年に,オンキョーが発売したFM専用チューナー。オンキョーは,前年の1973年に,プリメインアンプの
最高級機としてA-711を発売し,すぐれた性能を実現していました。そして,ペアを想定したFMチューナーの
高級機として当時の最新技術を投入したT-411を発売しました。

T-411の最大の特徴は,「X’TAL LOCKED」と称していたとおり,水晶発振子を用いた「クリスタルロック」
の技術をFMチューナーにとり入れていたことでした。「クリスタルロック」は「クォーツロック」とも呼ばれ,水晶
発振子の基準信号を元にしたPLL(Phase Locked Loop=位相同期)回路のことで,入力された信号を元
にフィードバック制御を加え,別の発振器から同期した信号を送り出す働きをするもので,オーディオ機器では
アナログプレーヤーの回転数制御などにも使われていたことは周知のことですが,無線通信機などでも早くか
ら発振器の制御に使われていました。その意味では,FM受信機であるFMチューナーへの搭載も自然な流れ
であったといえます。オンキョーがその採用にいち早く踏みきったのがT-411でした。

クォーツ=水晶発振子の精度は,±0.001%以内と,従来のコイルとコンデンサーによるLC発振回路に比
べて桁違いに高く,温度・湿度変化等にも強く,これを局部発振回路に採用し,IF(中間周波数=10.7MHz)
を精密に保持することができるようになり,局部発振周波数偏移0.005%以内という高精度を実現していま
した。これにより,従来のAFC等に比べ,桁違いの受信安定度を実現し,受信中の同調ズレに対しても,高精
度なフィードバックにより,ドリフトのない安定した受信が可能となっていました。
T-411では,局部発振回路に「クォーツロック」を初搭載した際,分周回路が大規模となり,多くのICを搭載す
ることとなり,コスト的にもかなり高くなっていたといわれています。

フロントエンドは,初段とミキサーに低雑音デュアルゲートMOS型FETを採用し,新型の5連精密バリコンを搭
載しており,1.6μV(IHF)という高感度と,イメージ比110dBというすぐれた妨害排除能力を実現していまし
た。ダイヤル目盛は,250mmの大型スケールで,200kHzの等間隔目盛を採用していました。

IF段には,1ブロック6極の超リニアフェイズ型IFフィルターを3ブロック,計18極搭載し,85dBという高選択度
と0.2%(STEREO)という低歪率を実現していました。
検波回路には,広帯域レシオ検波回路を搭載し,広い帯域にわたってリニアな特性を確保していました。
MPX回路には,パイロット信号のレベル変動や過入力にも安定な低歪率・高安定度の2重平衡型復調器を採
用していました。
オーディオ部には,2電源方式の3段直結出力回路が搭載され,本格的なプリアンプ並みの構成となっていま
した。

機能的には,比較的シンプルなチューナーでした。歪み最少点に容易に同調でき,安定度の高い「クリスタル
ロック」により,センターチューニングメーターは省かれ,20dB~80dBを直読できる信号強度メーターのみが
搭載されていました。そのほか,局間の雑音を抑えるLOCAL/DISTANCEの2段切換のミューティング,ノイ
ズフィルター,MONO/AUTO/STEREO-ONLYのモードをもつファンクションスイッチなどが装備されていま
した。STEREO-ONLYは,放送がステレオの時だけ自動的にステレオ出力を送り出し,モノに変わるとストッ
プするという機能で,ステレオ放送中の局のみ探すことができる機能でした。また,ヘッドホン端子が装備され
ており,音声出力のOUTPUT LEVELとは別に専用のボリュームが搭載されていました。

以上のように,T-411は,当時のオンキョーの最高級チューナーとして,いち早く「クリスタルロック=クォーツ
ロック」を投入するなど,技術的な挑戦をした意欲作でした。ウッドキャビネットをまとった落ち着いた外観デザ
インにも通じる,落ち着いた暖かい音を聴かせてくれる1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



歪最少点に完全に同調できる画期的な
クリスタル・ロック方式をはじめ,音質改善
のための新技術を豊富に盛り込んだ
最高級チューナーです。




●主な定格●

受信周波数 76MHz~90MHz 
感度(S/N30dB)  1.6μV 
イメージ比(83MHz)  110dB 
IF妨害比(83MHz)  110dB 
S/N(IHF)  75dB 
2信号選択度  85dB 
AM抑圧比  56dB 
キャプチュアレシオ  1.5dB 
歪率(STEREO 400Hz)  0.2% 
ステレオセパレーション
400Hz(100Hz~10kHz) 
46dB(40dB) 
周波数特性  20Hz~15kHz+0,-1dB 
寸法  490W×183H×373Dmm 
重量  11kg 
※本ページに掲載したT-411の写真,仕様表等は1974年3月のONKYO
 のカタログより抜粋したもので,オンキョー株式会社に著作権があります。
 したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
 れていますのでご注意ください。

 

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