YAMAHA T-6
NATURAL SOUND AM/FM STEREO TUNER ¥49,800

1980年に,ヤマハが発売したFM/AMチューナー。ヤマハは,1970年代より,チューナーの分野でも頑張りを
見せ,CTシリーズからTシリーズへと移行し,デザイン的にも技術的にも魅力的なチューナーを発売していました。
1970年代後半より,シンセサイザー方式チューナーが登場し始めていましたが,ヤマハは比較的慎重な姿勢で
発売していませんでした。そうした中,1980年代に入り,ヤマハ初のシンセサイザー方式チューナーとして登場し
たのがT-6でした。

回路構成は,3連バラクターダイオードとデュアルゲートMOS FETによるフロントエンド,ヤマハオリジナルのユ
ニレゾナンスセラミックフィルター採用のAUTO DX回路付IF段,ウルトラリニアダイレクトディテクタ,バイポーラ
DC NFB+アンチインタフェアレンスPLL+トラッキングタイプパイロットキャンセル回路からなるリアルタイムデ
コーダーによるFM部とカスコードRF増幅→差動ミキサ→トリプルチューンIFTという音質重視設計のAM部となっ
ていました。さらに,コントロール部に,音質を損なわずに操作性を向上させるため,新開発のSLLデジタルシン
セサイザ回路が採用されていました。

ヤマハ初のデジタルシンセサイザーチューナーとして,新開発し搭載された,クォーツPLLシンセサイザー方式と
は異なるSLL(ステーションロックドループ)シンセサイザー方式が大きな特徴でした。SLLシンセサイザー方式
は,チューニングをとるためのバラクターダイオードに加える電圧をダイレクトに基準電圧源からデジタル合成し
て同調電圧を作り出し,放送を受信するとそのセンター同調点にロックするようにループが形成されていました。
それに対して,クォーツPLLシンセサイザー方式は,クォーツによる基準周波数とローカルオシレーターの分周出
力とデジタル比較し,その出力量を一度電圧に変換して,バラクターダイオードのチューニング電圧(アナログ値)
を維持する仕組みになっていました。


クォーツPLLシンセサイザー方式は,クォーツの基準周波数の非常に正確なローカルオシレーターの周波数が得
られますが,離散的な値(通常は100kHzステップ)にしかコントロールできず,セットそれぞれの微妙な同調点の
違いが吸収できない恐れがありました。また,位相は,デジタル系からのノイズが重畳されSN比が悪くなりやすく,
スペクトラムの純度が低下して近接雑音(側波帯雑音)も増加するため,ノイズによるブロッキング現象から実質的
な感度が低下する恐れがあり,さらにクォーツで発振している基準周波数がFMステレオで使用している帯域内に
あるため,その漏れによるノイズが出る恐れがあるなどの問題点もありました。
それに対して,SLLシンセサイザー方式では,チューニングのためのDC電圧をダイレクトに取り出すために,シン
セサイザー部からチューナー部への妨害がほとんど発生せず,ロックする周波数が受信機の高周波信号系の最
適周波数に正確に合うように設定できるので,諸特性が一番良くなる状態で受信できるシステムとなっていました。
以上のように,クォーツPLLシンセサイザー方式を超えるシンセサイザーチューナーにしようとしたヤマハの意欲が
表れていた方式でした。

T-6のチューニングシステムは,シンセサイザー方式を生かしたもので,UP,DOWNのタッチスイッチによるオー
トチューニングシステムになっていました。スイッチを押すことで,局をサーチしてゆき,局があると自動的にサーチ
を中止し,ロックするとステーションロックインジケーターが点灯し,最適同調点を維持するようになっていました。
IF段のRX MODEをAUTO DXにしておくと電波の弱い局も受信でき,LOCALにしておくと電波の強い局のみ
が受信できるようになっていました。上級機のT-8と異なり,チューニングモード切換はなく,マニュアルチューニン
グはできない仕様となっていました。また,FM5局AM5局計10局のプリセットチューニングができ,プリセットした
局は,コンデンサーによるメモリバックアップ回路により.停電や電源コンセントを抜いた場合でも,2日以内なら,
メモリーの内容は保護されるようになっていました。さらに,最後に受信していた局をメモリーするラストチャンネル
メモリー回路も搭載され,チューナーの電源を一度OFFにしても再びONにすると最後に受信していた局が受信さ
れるようになっていました。

フロントエンドは,3連ツインバラクターダイオードとデュアルゲートMOS FETにバルンタイプのプリセレクターを付
加したローゲインRF増幅,FETバッファ付局部発振回路,バイポーラミキサ回路で構成されていました。

IF段は,各種妨害排除特性とオーディオ特性の両立をハイレベルで実現した低損失ユニレゾナンスセラミックフィ
ルターとカレントリミッタ付き6段差動増幅IFアンプとで構成されていました。さらに,IF回路のモードは,受信局の
電波環境に対応してLOCAL IFとDX IFがあり,RX MODEスイッチの切換はAUTO DXとLOCALが備えられ
ていました。AUTO DXにしておくと,受信電波に対する妨害の有無を電子的に検出し,自動的にIF回路のモー
ド(LOCAL,DX)を選択するようになっていました。
LOCAL IF段は,低損失のユニレゾナンスセラミックフィルター2素子にそれぞれ位相補正回路が付加され,帯域
内の微分利得偏差を極小に抑えながら25dBという通常の使用では十分な選択度が確保されていました。この
モードでは,歪率0.05%(1kHz),ステレオセパレーション55dB(1kHz)というすぐれたオーディオ特性が実現
されていました。
DX IF段は,低損失のユニレゾナンスセラミックフィルター4素子で構成され,実効選択度70dBを確保しつつ歪率
0.5%(1kHz)という特性が実現されていました。

検波段は,上級機T-9と同じくウルトラリニアダイレクトディテクタが搭載されていました。10.7MHzのIF信号を
ダイレクトに広帯域レシオトランスに入力して検波する,従来のヤマハのチューナー「Tシリーズ」に登載されてい
たワイドレンジ・リニアフェイズディテクタをよりワイドレンジ化,高SN化,低歪率化し,さらにDCスタビライザを装
備したもので,ヤマハによると,ダイレクトに検波することで,パルスカウント検波に比べて情報の伝送能力は5〜
10倍,復調周波数特性はDC〜1200kHzと10倍の広帯域を誇るとうたわれていました。

MPX回路には,HighスルーレイトDCアンプを基本にした,ヤマハ独自の高速バイポーラによる平均値復調方式
のスイッチング回路にオーディオアンプ同様にNFBをかけた高速バイポーラ・DC・NFBスイッチング回路が搭載
されていました。サブキャリア発生回路には,入力に妨害除去フィルターを入れたアンチインタフェアレンスPLLシ
ステムが採用され,さらに,パイロット信号がデコーダーに入る前にキャンセルするトラッキングタイプパイロットキャ
ンセル回路が搭載されていました。
MPX部には,さらにAUTO DX回路と連動して作動するAUTO BLEND回路が搭載され,ステレオ放送のノイズ
成分を減少させ,サービスエリアを拡大していました。
その他,機能的には,FMエアチェックの際のレベル合わせに使える,FMモノラル50%変調時に相当する333Hz
信号が出力されるREC CAL(レコーディング・キャリブレーション)スイッチが搭載されていました。

AM部は,2連バリコン相当非同調高周波カスコード増幅段,差動ミキサー段トリプルチューン+シングルチューン
構成IF増幅段,低歪率検波段という構成で,高感度・高ダイナミックレンジと低ノイズ・低歪みが両立されていまし
た。
AM部のアンテナは,T-4以来のローインピーダンスのループアンテナが採用されていました。T-6のループアンテ
ナは,従来のものをさらに改良したHi-Qタイプのローインピーダンスループアンテナが採用され,約10dBの感度
アップが実現されていました。

以上のように,T-6は,ヤマハ初のシンセサイザーチューナーとして,中級機ながら,新しい技術やノウハウが積極
的に投入され,コストパフォーマンスの高い1台となっていました。ヤマハらしい繊細でクリアな音が特徴でした。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



厳密に最適同調点を保持するヤマハ独自のSLLシンセサイザ方式
ウルトラリニアダイレクトディテクタ,高速DC NFBスイッチングMPX
秀れた音質と快適な操作性を両立させたヤマハのデジタルチューナ



●T-6の主な規格●


■FMチューナーセクション■


受信周波数 76〜90MHz
50dB SN感度 MONO(DX)   4μV(17.3dBf)
STEREO(DX) 27μV(33.9dBf)
実用感度
(IHF MONO 84MHz)
300Ω 2μV(11.2dBf)
75Ω  1μV(11.2dBf)
イメージ妨害比(84MHz) 62dB
IF妨害比(84MHz) 100dB
スプリアス妨害比(84MHz) 100dB
AM抑圧比(IHF) 50dB
実効選択度 LOCAL 25dB
DX    70dB
キャプチュアレシオ(IHF) LOCAL 1.5dB
DX    2.2dB
SN比(IHF) MONO   82dB
STEREO  79dB
全高調波歪率               (LOCAL)   (DX)
MONO   100Hz  0.50%    0.1%
         1kHz   0.05%    0.3%
         6kHz   0.08%    0.7%
        10kHz   0.05%    0.1%
STEREO 100Hz   0.05%    0.1%
         1kHz   0.05%    0.5%
         6kHz   0.08%    0.8%
        10kHz    0.1%    1.5%
IM(混変調)歪率               (LOCAL)   (DX)
MONO          0.05%    0.5%
STEREO         0.08%    1.0%
ステレオセパレーション           (LOCAL)
1kHz       55dB
50Hz〜1kHz  45dB
周波数特性 50Hz〜10kHz±0.3dB
30Hz〜15kHz±0.5dB
10Hz〜18kHz+0.5,−3.0dB
サブキャリア抑圧比 52dB
AUTO-DX動作レベル ステレオ時妨害レベル約−50dBにて
DX MODEに自動切換



■AMチューナーセクション■

受信周波数 525〜1605kHz
実用感度(IHF) 15μV
選択度 26dB(1000kHz±10kHz)
SN比 46dB
イメージ妨害比 40dB(1000kHz)
スプリアス妨害比 50dB(1000kHz)
全高調波歪率 0.5%



■オーディオセクション■

出力レベル/インピーダンス
 
   FM100%変調 1kHz 500mV/2.4kΩ
   AM30%変調 1kHz 150mV/2.4kΩ
   REC CAL信号 333Hz FM時の50%変調に相当 250mV/2.4kΩ



■総合■

使用半導体 IC10,トランジスタ40,FET3,ダイオード21
ツェナーダイオード6,7セグメントLED1,LED14
定格電源電圧・周波数 100V・50Hz/60Hz
定格消費電力 9W
ACアウトレット 300Wmax
寸法・重量 435W×72H×262.5Dmm・3.1kg


YAMAHA T-6a
NATURAL SOUND AM/FM STEREO TUNER ¥44,800

1981年,T-6は,T-6aにモデルチェンジされました。T-6から基本的な部分は継承しつつ各部が改良されてい
ました。基本的な回路構成は,3連ツインバラクターダイオードとMOS FETによるRF段,FETバッファ付ローカ
ルオシレーター,バイポーラミキサによるフロントエンド→高性能セラミックフィルターによるAUTO DX回路+カ
レントリミッタ付6段差動増幅回路のIF段→バイポーラDC・NFBスイッチングタイプRXデコーダによるFM部とな
っていました。AM部は,2連バリコン相当高耐圧バラクターダイオードやハイゲインIF・ICを採用していました。
そして,T-6aでは,新たに回路全体をCSL方式でコントロールしていました。

T-8で開発されたCSL方式は,Computr Servo Lockedの略で,CSLデジタルシンセサイザ方式は,基本的
には,0.01MHzの桁まで制御する高分解能PLLシンセサイザと,高忠実度・高妨害排除特性を両立したFMア
ナログサーボチューニングシステムとを,受信状態に応じて,コンピュータがコントロールする方式でした。CSLシ
ステムでは,ステップ選局とプリセット選局時の呼び出し時にはPLL動作で非常に正確な呼び出しが行われ,ま
た,わずかでも入力信号があればアナログサーボ動作に切換り,IF帯域の中心点にロックされるようになってい
ました。そして,そのときには,PLL動作が停止するので低周波数部・高周波部への妨害はほとんどゼロになると
いうもので,アナログチューニング方式とデジタル方式の良い点を組み合わせようとした方式でした。

機能的にも改良が行われ,プリセット機能は,AM/FMにかかわらずランダムに10局メモリーできるプリセット機
能となり,フロントパネル上にもプリセットボタンが10個並ぶ形になりました。そして,バックライティングによる局
名表示窓が新たに装備されていました。また,チューニングはオートサーチ選局に加え,マニュアルステップ選局
の機能も加えられていました。

以上のように,T-6aは,T-6の技術,機能を受け継ぎつつ,より充実が図られ,価格も抑えられ,コストパフォーマ
ンスがより高められていました。ヤマハらしい繊細なデザインとイメージの一致した音をもつ,使いやすい1台でした。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。




ワンタッチ精密・最適チューニングを約束する
CSLシンセサイザ方式・・・・THE COMPUTER TUNER

◎ヤマハチューナー技術による高度な回路構成
◎精密受信のCSLシンセサイザシステム
◎10局ランダムプリセットなど快適な操作性

●AM/FM合計10局の便利なランダムプリセットが可能
●高速オートサーチ選局とマニュアルステップ選局が選択可能
●留守録音・目覚し放送に便利なイニシャルステーションセット
●見やすいバックライティングによる放送局名表示窓付
●受信状態がひと目でわかるシグナルクオリティインジケータ




●T-6aの規格●


■FMチューナー部■

50dB SN感度 MONO       3.5μV(15.1dBf)
STEREO     40μV(10.3dBf)
実用感度
(30dB Quieting)
300Ω 1.8μV(10.3dBf)
75Ω  0.9μV(10.3dBf)
イメージ妨害比 70dB
IF妨害比 80dB
スプリアス妨害比 80dB
AM抑圧比 60dB
実効選択度 LOCAL 40dB
DX    90dB
キャプチュアレシオ LOCAL 1.2dB
DX    2.5dB
SN比 MONO   88dB
STEREO  84dB
全高調波歪率(LOCAL)        (mono)    (stereo)
100Hz  0.05%    0.05%
 1kHz   0.05%    0.05%
 6kHz   0.08%    0.08%
混変調歪率(IHF・LOCAL) 0.05%(mono)
ステレオセパレーション(IHF・LOCAL) 100Hz      60dB
1kHz       58dB
周波数特性 50Hz〜10,000Hz±0.5dB
30Hz〜15,000Hz+0.3,−1.0dB
サブキャリア抑圧比 50dB
AUTO-DX動作レベル 40μV(37.3dBf)



■AMチューナー部■

実用感度(IHF) 10μV(48dB/m)
選択度 25dB(1000kHz±10kHz)
SN比 50dB
イメージ妨害比 40dB
スプリアス妨害比 50dB
全高調波歪率(400Hz) 0.4%



■オーディオ部・他■

出力レベル/インピーダンス(1kHz) 500mV/5kΩ(FM100%変調1kHz)
150mV/5kΩ(AM30%変調1kHz)
250mV/5kΩ(REC CAL・333Hz)
付属機構 AM/FM10局ランダムプリセット
イニシャルステーションセット
AUTO・DX−LOCAL切換
REC CAL
定格電源電圧・周波数 AC100V・50Hz/60Hz
定格消費電力 12W
ACアウトレット UNSWITCHED 300Wmax
寸法・重量 435W×72H×318.5Dmm・3.8kg
※本ページに掲載したT-6,T-6aの写真,仕様表等は1980年
 9月の,1982年5月のYAMAHAのカタログより抜粋したもので,
 ヤマハ株式会社に著作権があります。したがって,これらの写真
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