T-818の写真
PIONEER T-818
STEREO CASSETTE DECK ¥85,000

1987年に,パイオニアが発売したカセットデッキ。パイオニアは,早くからオープンリールデッキやカセットデッキ
など,テープデッキにおいてもすぐれた技術を見せていたブランドですが,特に,CT-A9,CT-A7では,メカニズ
ムに高い精度を実現し,すぐれた技術力を示しました。その後,デジタル録音のテープデッキDATが各社から発
売され,パイオニアもDATに注力していきました。そんな時期に発売された同社のアナログ録音式カセットデッキ
の最上級機がT-818でした。

走行系は,安定したテープテンションとヘッドタッチを確保するために,デュアルキャプスタン方式が採用されてい
ました。左右のキャプスタン及びピンチローラーの径を変え,ワウ・フラッターのピーク成分の重なりを分散させる
共振分散型のクローズドループ・デュアルキャプスタンとしていました。キャプスタンはサブミクロンオーダーで高精
度に研磨加工されたものを使用し,表面にはテープのスリップを防止するFS(ファイン・ステイブル)処理という特
殊な表面処理が行われていました。そして,コギングが少なく高調波の振動成分も小さいDCサーボモーターによ
るキャプスタンモーター,トルクリップルの小さいDCモーターによるリールモーターが走行系に搭載され,さらにア
シスト用モーターとしてDCモーターが搭載された3モーター構成となっていました。大きな慣性モーメントを有する
高精度なフライホイールと,これを厚肉の高品質な含油メタルで支える支持長の長いダイキャストメタルホルダー
が搭載されていました。これらのメカニズム全体は,剛性が高く平面度にすぐれた1.6mm厚のメカシャーシが支
える構造となっていました。こうした走行系トータルの高い性能・精度を実現した「デュアルキャプスタンリファレン
スメカニズム」により,ワウ・フラッター0.024%(WRMS)という安定した走行精度が実現されていました。

走行メカニズムヘッドブロック

ヘッドはコンビネーション録再ヘッドによる3ヘッド構成で,再生ヘッドには,レーザーアモルファスヘッドが搭載され
コイル巻線には,PCOCC(単結晶状高純度無酸素銅)が使用されていました。録音ヘッドにはハード・パーマロイ
ヘッドが搭載されていました。消去ヘッドには,センダストガード付ダブルギャップ・フェライトヘッドが搭載されてい
ました。これらのヘッドは,チルト/ハイト調整が光学治具によって行われる亜鉛ダイキャストの二重構造,高剛性
高精度ヘッドブロックにより支えられ,高い精度が確保されていました。

さらに,カセットハーフの振動を抑えるために,パイオニア自慢のカセットスタビライザーが搭載されていました。前
モデルのものより効果が一層高められた改良型で,「NEWカセットスタビライザー」と称されていました。カセットハ
ーフの表側に特殊樹脂のスタビライザー(A)を,裏側にカセットハーフ全体を抑える特殊ゴムのスタビライザー(B)
を配置し,カセットハーフを装着すると,モーター駆動のサイドカムギアの回転によりアームがフレームをフックし,
奥へ引き込むようになっていました。これらの動きにより,カセットハーフはスタビライザー(A),(B)によって両面か
らガッチリおさえ込まれるようになっていました。これにより,振動による広帯域におけるワウ・フラッター成分はさ
らに大きく低減され,カセットハーフへの加振テストにおいても,振動減衰の速さは約4倍に高まり,クリアな録音・
再生が実現されていました。

NEWカセットスタビライザーハニカムシャーシ・ハニカムインシュレーター

カセットハーフの防振とともに,デッキ本体の無振動・無共振化も徹底されていました。銅メッキハニカムシャーシ
大型ハニカムインシュレーター,ハニカムセンターステイなど,高剛性で振動減衰特性にすぐれたハニカム構造を
各所に採用していました。振動源となりやすい電源トランスには,高剛性で内部損失が大きく,振動減衰特性にす
ぐれ,共振周波数をほとんど持たない鋳鉄を採用したキャステッドパワートランスが搭載されていました。

T-818の内部

内部構造には,信号経路の最短化と適正配置化を図る,「ダイレクトコンストラクション」が採用されていました。
電源部,制御部,アンプ部,メカ部,FLメーター部をそれぞれ最短距離で接続できるように配置し,アンプ部は
他のブロックから分離させ,内部での信号干渉を防ぐ構造となっていました。さらに,入力部では,録音レベル
ボリュームと録音バランスボリュームは真鍮シャフトで延長され,配線距離を短くし,信号経路の最短化が徹底
されていました。しかも,入出力のピンジャックは1系統ずつ独立した金メッキ端子を使用し,十分な距離を置い
て配置することで,相互の干渉を防いでいました。また,アンプ系では,録音系,再生系さらにLch,Rchを明確
に分離させ,信号の流れをできるだけストレートに配置することで内部での信号の劣化,干渉などの影響を抑え
ていました。再生ヘッドからの信号は,コンデンサーを介さずにダイレクトにデュアルFETを使用したDC再生ア
ンプに接続され,再生系のアンプから,音質劣化の原因となるコイル類が排除されていました。

電源部は,無酸素銅巻線バイファイラ巻き電源トランス,大容量オーディオ用電解コンデンサー,極性表示付き
の無酸素銅線電源コードなど,高品質パーツで構成されアンプ,制御,FL表示の各ブロック別にトランス巻線か
ら独立し,分離させた専用電源構成がとられていました。そして,アンプ系にはハイスピード・アクティブサーボレ
ギュレーターが採用され,音楽信号によって変動する電源電圧の変動を瞬時に安定させることで,高音質な電
源部を実現していました。

機能的には,オーソドックスなワンウェイデッキとして構成されていました。テープポジションを自動的に切り換え
るオートテープセレクター,テープのモニター−ソースを自動的に切り換えるオートモニター,パワーローディング
パワーイジェクトなど,使いやすい自動化機能も当時の水準レベルで搭載されていました。テープカウンターも,
通常の4桁,経過時間を表示するタイムカウンター,残量を表示するリメインカウンターの3モードタイプが搭載さ
れていました。レベルメーターは,通常時の−35dB〜+12dBまでのワイドレンジモードと,−4dB〜+16dBま
での1dBステップ表示のエクスパンドレンジモードの切換式で,録音レベル調整がしやすくなっていました。ノイズ
リダクションとしては,ドルビーBタイプ,Cタイプが搭載され,さらに高域の特性を改善するドルビーHX PROも搭
載されていました。その他,カウンター0000に巻き戻し,かつ自動的に再生を始めるワンタッチテープリターン&
リターンプレイ,前後15曲の頭出しができるミュージックサーチ,マニュアルでバイアスレベル調整ができるバイ
アス調整機能,ワンタッチで4秒間の無音部がつくれるオートRECミュートなどが装備されていました。

以上のように,T-818は,オーソドックスに練り上げられたワンウェイ3ヘッド構成の,音質重視型のカセットデッ
キでした。前モデルにあたる最上級機CT-A9Dに比べ,外観はオーソドックスなものとなり,各部もシンプル化
はされていましたが,操作フィーリングも良く,実質重視の使いやすいバランスのとれた1台となっていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



いい音で録再。
デッキ不変のテーマを,
最新のコンセプトと技術で追求。
時代が求めていた3ヘッド機T-818。

テープの安定走行。信号経路の最短化。
無振動・無共振化。ドルビーHX PRO。
技術の成果が,デジタルソースを歓迎します。


ありのままの音を目指して
テープ走行の安定性を徹底追求。

◎高精度な駆動方式,デュアルキャプスタン
 リファレンスメカニズム。
◎消去ヘッドにセンダストガード付ダブルギャ
 ップ・フェライトヘッドを採用。録音済テープの
 高域自己減磁作用を大幅に低減。

信号経路の最短化をはかった
ダイレクトコンストラクション。

◎ピュアな音質を目指す,徹底したダイレクト
 コンストラクション。
◎入力ブロックのダイレクトコンストラクション。
◎アンプブロックのダイレクトコンストラクション。
◎ノンインダクティブ・ダイレクトストレートコンス
 トラクション。

無振動・無共振化を徹底し,
音のにごりを追放。

◎振動を抑える効果をさらに高めた,NEWカ
 セットスタビライザー。
◎銅メッキハニカムシャーシ,キャステッドパワ
 ートランスなどの防振設計。

デジタルソースのクオリティを
生かしきる録音・再生。

◎高域の周波数特性とダイナミックレンジを
  改善。ドルビーHX PRO。
◎電源部の強化により,低域再生能力をい
  ちだんと向上。

カセットデッキの基本に立って
使いやすさを徹底して追求。

◎より良いレコーディングのために,メーター
レンジ切換機能。




●主な仕様●

トラック形式 4トラック2チャンネルステレオ
ヘッド コンビネーション型×1
 ハードパーマロイ録音ヘッド
 レーザーアモルファス再生ヘッド
消去ヘッド
 センダストガード付ダブルギャップ・フェライト×1
モーター キャプスタン用DCサーボモーター×1
リール用DCモーター×1
アシスト用DCモーター×1
ワウ・フラッター 0.024%(WRMS・JIS)・±0.04%(W・Peak,EIAJ)
早巻き時間 約80秒(C−60)
周波数特性(EIAJ) メタルテープ−20dB録音   20〜21,000Hz±3dB
メタルテープ0dB録音      20〜16,500Hz
クロームテープ−20dB録音 20〜20,000Hz±3dB
クロームテープ0dB録音    20〜12,000Hz
ノーマルテープ−20dB録音 20〜20,000Hz±3dB
ノーマルテープ0dB録音    20〜12,000Hz
SN比 57dB(EIAJ/ピーク録音レベル,メタルテープ,聴感補正)
60dB以上(ドルビーNR OFF,第3次高調波歪率3%,聴感補正)
10dB低減(ドルビーBタイプNR ON at 5kHz)  
19dB低減(ドルビーCタイプNR ON at 5kHz)
ひずみ率 0.6%(EIAJ/1kHz,第3次高調波歪率,メタルテープ)
入力端子 ライン 67mV(入力インピーダンス50kΩ)
出力端子 ライン 316mV(出力インピーダンス1.4kΩ)
ヘッドホン  0.8mW(負荷インピーダンス8Ω,ヘッドホンVR MAX)
消費電力
AC100V,50/60Hz 20W
外形寸法 420W×133.5H×372Dmm
重量 9.6kg
付属機能 ●ドルビーHX PRO●ドルビーBタイプ/CタイプNR●MPXフィルターON/PFF
●バイアスアジャスト●オートモニター ●ピークホールド付FLレベルメーター(16セグメント)
●メーターレンジ切換(ワイドレンジ/エクスパンドレンジ)●ヘッドホン(ボリウム付)
●ワンタッチテープリターン/リターンプレイ●オートスペースRECミュート
●オートテープセレクター●ミュージックサーチ(前後15曲)●4桁電子カウンター
(テープカウンター/タイム/リメイン)●パワーイジェクト(オープン/クローズ)
●タイマー録音・再生


T-838の写真
PIONEER T-838
STEREO CASSETTE DECK ¥75,800

1989年に,パイオニアが発売したカセットデッキ。1987年発売のT-818をベースに各部に改良を加えたモデ
ルで,価格も下げられ,コストパフォーマンスの高いモデルとなっていました。

ヘッドは,再生ヘッドに加え録音ヘッドもレーザーアモルファスヘッドが採用され,オールアモルファスの録再コン
ビネーションヘッドが新たに搭載されていました。そしてセンダストガード付ダブルギャップフェライトヘッド,亜鉛
ダイキャスト二重構造による高剛性・高精度ヘッドブロックは継承され,安定したテープ走行,振動低減が実現
されていました。走行系のメカニズムも基本的にT-818から継承され,新たに「NEW Zメカニズム」と称されて
いました。T-838では,モーターによる振動の問題を解決するために,新たにM・V・I(Motor Vibration Ins-
uration)機構が搭載されていました。これは,モーターとシャーシの間に,内部に気泡を持つ特殊強化樹脂製
のモーターブラケットを新設し,モーターブラケットとメカシャーシとの間にも無反発ゴムを使ったインシュレーター
を設置したもので,モーターから発生する振動エネルギーを構造と材質の両面で効果的に吸収し,メカ部に伝え
ない機構でした。

NEW ZメカニズムM・V・I機構
アイソレーテッドドアアイソレーテッドドアNEWカセットスタビライザ−


カセットハーフの振動を抑える「NEW カセットスタビライザ−」は,大型高速コンピュータとNASTRAN(NASA
が開発した大型汎用プログラム=NASA Structure Analysis Program)による振動解析での改良が施さ
れ,共振を起こしやすい「ツボ」のような部位を特殊無反発ゴムと剛性の高い部材で効果的にダンピングするよ
うになっていました。さらに,スピーカーからの音圧による振動をハーフに伝えない新機構として「アイソレーテッド
ドア」が新たに採用されていました。これは,ドア部とカセットポケット部を物理的に分離して,外部からの振動を
ドア部で遮断する機構でした。

デッキ本体の振動対策,銅メッキハニカムシャーシ,大型ハニカムインシュレーター,ハニカムシールドケースな
ど,各部に投入されたハニカム構造や,電源部,制御部,アンプ部,メカ部,FLメーター部をそれぞれ最短距離
で接続できるように配置し,配線距離の最短化が図られたダイレクトコンストラクションも継承されていました。さ
らに,録音時にバランス調整を必要としないソースの場合は,バランスボリュームをバイパスして,より最短距離
で信号を録音アンプへと送るラインストレート機能が追加されていました。
また,バイアス発振周波数を従来の2倍の210kHzにシフトアップしたハイバイアスが新たに採用され,高調波と
バイアス電流との干渉が低減されていました。

機能的にもいくつか追加されたものがありました。レベルメーターは,レンジ切換に加え,新たにピークレベルキャ
リブレーション機能が搭載されていました。これは,録音ソースのピークレベルをホールドすることができ,いった
んホールドしておけば,録音ボリュームの上げ下げに応じてホールドされたピークレベルがメーター上を移動して
表示され,録音レベルの調整を助ける機能でした。また,録音レベルセット後など,レベルメーター等の表示が必
要ないときには,FL部からのノイズの発生を抑えるためにディスプレイを消灯することができるディスプレイOFF
スイッチも装備されていました。
キャリブレーション機能として,従来のバイアス微調整に加えて,レコーディングレベル調整と調整用のオシレーター
も装備され,より正確な調整ができるRECキャリブレーション機能が搭載されていました。
その他,同社のCDプレーヤーの対応機種とのコンビネーションでワンタッチシンクロ録音やスタート,オートトラッ
クバック録音など,多彩なオート連携動作による編集録音ができるCD-DECKシンクロ対応機能も新たに搭載
されていました。
また,ノイズリダクションとしてドルビーB,Cが搭載されていましたが,ドルビーHX-PROは外されていました。
外観上は,操作系等よく似た感じでしたが,新たにサイドウッドが追加され,高級感が高められていました。そし
て,新たに基本的な操作が可能なワイヤレスリモコンが付属していました。

以上のように,T-838は,T-818をベースに各部に改良が施され,機能的にもより充実が図られていました。
しっかりした走行系等に支えられ,バランスのとれた録音・再生音が実現されていました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



録音と再生の一致だけを想い。
技術の粋をこらした,
3ヘッド・ハイクオリティマスターデッキ
T-838。

NEWカセットスタビライザー採用。
M・V・I機構搭載。
先進の制振テクノロジーが,
音の透明度をさらに深くしました。


◎原音に忠実な録音・再生を支える
  高性能NEW・Zメカニズム。
◎広大なダイナミックレンジを実現する
  レーザーアモルファスヘッド採用。
◎カセットハーフの振動を
  根本的に排除する新技術を搭載。

●NEWカセットスタビライザーを新開発。
●新技術M・V・I(Motor Vibration Insuration)
  機構搭載。
●新設計アイソレーテッドドア。

◎無振動・無共振化を徹底し,
  音のにごりを追放。
◎デジタルソースのサウンドクオリティを
  生かす210kHzハイバイアス採用。
◎信号径路の最短化を図った
  ダイレクトコンストラクション設計。
◎低域再生能力をいちだんと高めた
  ハイパワー電源。
◎より快適なレコーディングのための
  高性能を満載しました。

●ピークキャリブレーション機能。
●RECキャリブレーション機能。
●CD-DECKシンクロ対応機能。





●主な仕様●

トラック形式 4トラック2チャンネルステレオ
ヘッド コンビネーション型×1
 レーザーアモルファス録音ヘッド
 レーザーアモルファス再生ヘッド
消去ヘッド
 センダストガード付ダブルギャップ・フェライト×1
モーター キャプスタン用DCサーボモーター×1
リール用DCモーター×1
アシスト用DCモーター×1
ワウ・フラッター 0.024%(WRMS・JIS)・±0.04%(W・Peak,EIAJ)
早巻き時間 約80秒(C−60)
周波数特性(EIAJ) メタルテープ−20dB録音   15Hz〜21kHz±3dB
クロームテープ−20dB録音 15Hz〜20kHz±3dB
ノーマルテープ−20dB録音 15Hz〜20kHz±3dB
SN比 57dB(EIAJ/ピーク録音レベル,メタルテープ,聴感補正)
61dB以上(ドルビーNR OFF,第3次高調波歪率3%,聴感補正)
10dB低減(ドルビーBタイプNR ON at 5kHz)  
19dB低減(ドルビーCタイプNR ON at 5kHz)
ひずみ率 0.6%(EIAJ/1kHz,第3次高調波歪率,メタルテープ)
入力端子 ライン 60mV(入力インピーダンス47kΩ)
出力端子 ライン 316mV(出力インピーダンス2.4kΩ)
ヘッドホン  1.6mW(負荷インピーダンス8Ω,ヘッドホンVR MAX)
消費電力
AC100V,50/60Hz 20W
外形寸法 459W×136H×370Dmm
重量 9.1kg
付属機能 ●CD-DECKシンクロ機能●ハイバイアス●ピークレベルキャリブレーション
●レコレベルキャリブレーション(オシレーター内蔵)●MPXフィルターON/PFF
●バイアス&レベルアジャスト●オートモニター●ピークホールド付FLレベルメーター
(12セグメント)●メーターレンジ切換(ワイドレンジ/エクスパンドレンジ)
●ヘッドホン端子(ボリウム付)●ワンタッチテープリターン/リターンプレイ)
●オートスペースRECミュート●オートテープセレクター●ミュージックサーチ(前後15曲)
●4桁電子カウンター(テープカウンター/タイム/リメイン)●パワーイジェクト(オープン/クローズ)
●タイマー録音・再生●カセットイルミネーション●ワイヤレスリモコン付属


T-858の写真
PIONEER T-858
STEREO CASSETTE DECK ¥79,800

1990年に,T-838の後継機T-858が発売されました。ツマミの配置等パネル面のデザインは大きく変わ
っていないものの,シャンペンゴールドのパネルになり,サイドウッドもなくなり,イメージはかなり変わりまし
た。内容的にはT-838から多くを継承し,さらに改良・変更がいくつか加えられていました。

最大の改良点は,FLAT SYSTEMの搭載でした。FLAT SYSTEM(Frequency Responce and 
Level Auto Tuning System)は,オートキャリブレーションシステムで,従来の同様のシステムが,低
域と高域の2ポイントで補正をしていたのに対して,このシステムでは,低域(400Hz),中高域(3kHz),高
域(15kHz)の3ポイントを監視して,キャリブレーションを行い,よりフラットな周波数特性をめざしたもので
した。バイアスは7bit相当,レベルは5bit,イコライザーは中高域が4bit,超高域が2bitの分解能を有する
マイクロプロセッサーにより,テープにあったデータを高精度に短時間にサーチし,調整するようになってい
ました。バイアス調整には電動ボリュームが搭載され,調整中は電動ボリュームが動き,調整終了後にも
好みに合わせてのマニュアル調整が可能となっていました。

走行系にも改良が施されていました。NEW Zメカが継承され,キャプスタンシャフトの回転精度の改善のた
めに,シャフトを支える軸受け部を延長し,キャプスタンシャフトとピンチローラーとの間の圧着力によるモー
メント荷重を低減することで,より滑らかな回転が確保されていました。高精度なキャプスタンシャフトの処理
バランス管理された大慣性モーメントのフライホイールなども継承され,ワウフラッター0.022%(WRMS)
というトップレベルの回転精度が実現されていました。
さらに,リールトルクをマイクロプロセッサーでコントロールするデジタルテンションサーボが,カセットデッキと
しては初めて搭載されていました。巻き径の大きさに応じてマイクロプロセッサーがリールモーター電圧をコン
トロールしながら適正なテープテンションで巻き取りを行うもので,不安定になりがちなテープの巻き始めの
ワウフラッターが改善されるとともに,ワンタッチテープリターン時には,カウンター0000に向かって高速→
中速→低速とトルクを調整して停止させたり,早送り時間が短縮化(約10%のスピードアップ)するなどの効
果が生まれていました。

その他,ヘッド回り,各部の防振対策,電源部などの音質対策,各種の機能はほぼ踏襲されていましたが,
T-838では省かれていたドルビーHX PROが再び搭載されていました。

以上のように,T-858は,T-8*8系列の最終型となりましたが,それだけに完成度の高さを見せていたと
思います。T-818,T-838,T-858という系譜は,他社と比較してもオーソドックスなデザイン,性能的特徴
などのためか,特徴をアピールしにくく,地味な存在となってしまったきらいはありました。しかし,音質的にも
機能的にもしっかりしたカセットデッキであったことは間違いないと思います。そして,これ以降,パイオニアは
センターメカのカセットデッキの系列へと移行していくことになりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



録再の周波数特性をフラットに保つ
FLAT SYSTEMを搭載。
テープの高性能化に呼応した
新技術を結集しました。


◎高性能テープの周波数特性をフラットに
 保つFLAT SYSTEM搭載。
◎テープの巻き取りトルクを自動的に調整
 するデジタルテンションサーボ内蔵。
◎ワウ・フラッター0.022%を達成した
 NEW Zメカニズム搭載。
◎高性能レーザーアモルファスヘッドが
 ワイドダイナミックレンジを実現。
◎最先端の振動解析データをもとに
 設計されたカセットスタビライザー採用。
◎モーターによる振動を抑制するM・V・I
 (Motor  Vibration Insuration)機構。
◎外部からの振動を遮断する
  アイソレーテッドドアを使用。
◎無振動・無共振化を細部にまで徹底し,
  音の濁りを排除。
◎オーバーバイアスを防ぎ高域特性の
  向上を図るドルビーHX PRO内蔵。
◎信号径路の最短化で伝送ロスやノイズの
  混入を防ぐラインストレート機能を搭載。
◎低域再生能力を高め音質向上を図る
  ハイパワー電源。
◎デジタルソースのサウンドクオリティを
  生かす210kHzハイバイアス採用。
◎録音適正レベルを簡単にセットできる
  ピークレベルキャリブレーション。
◎快適なレコーディングのために
  使いやすさを徹底追求。






●主な仕様●

トラック形式 4トラック2チャンネルステレオ
ヘッド 録音再生ヘッド
コンビネーション型×1
 PC-OCC巻線レーザーアモルファス録音ヘッド
 PC-OCC巻線レーザーアモルファス再生ヘッド
消去ヘッド
 センダストガード付ダブルギャップ・フェライト×1
モーター キャプスタン用DCサーボモーター×1
リール用DCモーター×1
アシスト用DCモーター×1
ワウ・フラッター 0.022%(WRMS・JIS)・±0.04%(W・Peak,EIAJ)
早巻き時間 約75秒(C−60)
周波数特性(EIAJ) メタルテープ−20dB録音   15Hz〜22kHz±3dB
クロームテープ−20dB録音 15Hz〜20kHz±3dB
ノーマルテープ−20dB録音 15Hz〜20kHz±3dB
SN比 57dB(EIAJ/ピーク録音レベル,メタルテープ,聴感補正)
76dB(ドルビーNR C-TYPE,第3次高調波歪率3%,メタルテープ,聴感補正)
ひずみ率 0.5%(EIAJ/1kHz,第3次高調波歪率,メタルテープ)
入力端子 ライン 60mV(入力インピーダンス47kΩ)
出力端子 ライン 316mV(出力インピーダンス1.8kΩ)
ヘッドホン  2.3mW(負荷インピーダンス8Ω,ヘッドホンVR MAX)
消費電力
AC100V,50/60Hz 17W
外形寸法 420W×135H×370Dmm
重量 8.1kg


※本ページに掲載したT-818,T-838,T-858の写真,仕様表等
 は1988年11月, 1989年9月,1990年11月のPIONEERの
 カタログより抜粋したもので,パイオニア株式会社に著作権があり
 ます。したがって,これらの写真等を無断で 転載・引用等すること
 は法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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