Victor T-X5
FM/AM STEREO TUNER ¥46,800
1979年に,ビクター(現JVCケンウッド)が発売したFM/AMチューナー。ビクターは,バリコン式
チューナーの時代から,自社のアンプとのペアを想定したオーソドックスで使いやすいチューナー
を作り,1974年には,オーレックス とともにいち早くシンセサイザーチューナーJT-V20を出すな
ど,派手ではないもののすぐれた技術をもつブランドでした。そんなビクターが,1980年代に向け
て,自社のシンプルなデザインのアンプとのペアを想定し,薄型のすっきりとした筐体に納められた
チューナーがT-X5でした。
フロントエンドは,4連バリコンが搭載され,アンテナ入力段には,新開発のカスコードJ-FETを並
列で使用し,ノイズを低減しながらゲインを高め,受信性能を向上させていました。ミキサ回路に
はデュアルゲートMOS FETが用いられ,SN比を高め,RF相互変調などの妨害排除信号を排
除していました。
IF段には,新開発の位相直線型セラミックフィルターが2段搭載され,平坦な群遅延特性を確保し
ながら65dBの高選択度を実現していました。
検波段は,T-X5の最大の特徴で,新開発のPTL検波回路が搭載されていました。PTL検波回路
は,「Phase Tracking Loop」の略で,妨害排除能力・選択度と音質の両立を図った回路でし
た。通常,チューナーの妨害排除能力は,フロントエンドとIF回路で決定され,そのあとの検波回
路は選択性を持たないことが常識でした。検波回路に選択性を持たせると検波帯域を狭くする必
要が生じ,音質が低下するためでした。IF回路にも同様に,妨害排除能力を高めるために帯域を
狭くすると音質が低下し,帯域を広げて音質をよくすると選択度が低下するという悩みがありまし
た。PTL検波は,これらの問題を解決する検波方式で,検波回路自身が高い選択性を持ち,フィ
ードバックループによって帯域の狭いフィルターの中心周波数が入力信号のあとを追いかけなが
ら移動し,IF帯域,検波帯域を十分広くとりながらも,受信信号の近くの妨害信号の排除も行える
というものでした。このPTL検波回路は,T-X5に初搭載されたもので,アメリカのIEEE(電子技術
者協会)の1978年度の最優秀賞を受けた技術でした。
MPX段には,PLL・ICを使用したサブキャリア発生回路に オーディオアンプ同様NFB(負帰還)
をかけたNFB・PLL・MPX回路が搭載され,PLL・IC内部で発生する歪みやノイズも抑えられて
いました。このMPX回路には,パイロット信号キャンセラー回路も内蔵されていました。
機能的には,FMステレオ受信の実用感度を上げるためにQSC(クワイティング・スロープ・コント
ロール)が搭載されていました。これは,一種のオートハイブレンドで,ステレオ受信時に電波の入
力レベルが低い場合に,ステレオセパレーションをコントロールし,高域ノイズを約1/2に低減し
実用感度を約2倍に高めるというもので,コンピューターによる自動切換となっており,マニュアル
でのON/OFFもできるようになっていました。
その他,同調をとると数秒後に同調状態をホールドするオートチューニングホールド,エアチェッ
クの録音レベルを合わせる基準レベルの信号を出せるレコーディング・キャリブレーターが搭載
されていました。
AM部は,2連バリコン構成の標準的なものとなっていましたが,バーアンテナの搭載もあり,比
較的高感度での受信が可能となっていました。
T-X5は,それまでのビクターのバリコン式チューナーとは大きくイメージの異なる薄型のすっきり
としたデザインが特徴で,当時のヤマハのチューナーにも似たイメージがありました。シグナルメ
ーター,チューニングメーターなどはすべてLEDで,従来の針式のメーターは搭載されておらず,
これもすっきりとしたデザインイメージにつながっていました。ダイヤルスケールは,細かく精密な
目盛りのFMの表示が正面にあり目立ち,AMの表示は下部の斜めの部分で,少し目立たない
感じになっているため,一見FM専用チューナーを思わせるものがありました。
以上のように,T-X5は,当時のビクターのチューナーの主力モデルとして,新開発のPTL検波を
搭載するなど,しっかりしたオーソドックスな設計がなされ,受信性能と音質のバランスがとられた
使いやすいチューナーでした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
FM多局化時代に
あらためて鋭い感度を求め,
妨害排除能力を高めた
音のよいチューナーです。
◎狙った電波を追いかける
FM受信の常識を変えたPTL
(Phase Tracking Loop)検波。
◎PTL検波とともにステレオ感度をいちだんと改善,
クワイティング・スロープ・コントロール。
◎低雑音J-FET並列使用の
高感度フロントエンド。
◎FMオートチューニングホールド
FM部 | |
受信周波数 | 76~90MHz |
50dBクワイティング感度(75Ω) | 1.5μV 14.8dBf(モノ) 8.7μV 30.0dBf(ステレオ・QSC AUTO) 19μV 36.8dBf(ステレオ・QSC OFF) |
実用感度(75Ω) | 0.95μV 9.8dBf |
SN比(IHF-A) | 82dB(モノ)/78dB(ステレオ) |
全高調波歪率 | モノ 0.08%(100Hz) 0.08%(1kHz) 0.08%(6kHz) ステレオ 0.15%(100Hz) 0.10%(1kHz) 0.15%(6kHz) |
IM(混変調)歪率(IHF) | 0.05%(モノ) 0.08%(ステレオ) |
キャプチャーレシオ(IHF) | 1.0dB |
実効選択度(IHF) | 65dB |
イメージ妨害比(IHF) | 90dB |
IF妨害比(IHF) | 100dB |
スプリアス妨害比 | 100dB |
RF・IM(相互変調)妨害比(IHF) | 72dB |
AM抑圧比(IHF) | 65dB |
ステレオ・セパレーション(1kHz) | 50dB |
周波数特性 | 30Hz~17kHz+0.3,-2.0dB |
サブ・キャリア抑圧比 |
70dB |
ミューティング・スレシホールド・レベル | 3.2μV(21.3dBf) |
QUIETING AUTO動作レベル | 60μV(46.8dBf)以下 |
アンテナ入力インピーダンス | 75Ω不平衡 |
出力信号レベル | バリアブル・アウト:0~1.0V/2.5kΩ フィクスト・アウト:560mV/2.5kΩ |
REC CAL出力レベル | 50%変調相当 |
AM部 | |
受信周波数 | 530kHz~1605kHz |
実用感度 | バーアンテナ:300μV/m 外部アンテナ:50μV |
全高調波歪率 | 0.3% |
SN比 | 50dB |
選択度 | 45dB |
イメージ妨害比 | 45dB |
IF妨害比 | 45dB |
スプリアス妨害比 | 45dB |
出力信号レベル | バリアブル・アウト:0~600mV/2.5kΩ フィクスト・アウト:350mV/2.5kΩ |
電源部その他 | |
電源電圧 |
AC100V 50/60Hz |
定格消費電力 (電気用品取締法) |
10W |
寸法/重量 |
450W×89H×364Dmm/5.0kg |
※本ページに掲載したT-X5の写真,仕様表等は1980年2月の Victor
のカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に著作権があります。
したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じら
れていますのでご注意ください。
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