Victor T-X500
FM/AM COMPUTER CONTROLLED STEREO TUNER
¥39,800
1984年に,ビクター(現JVCケンウッド)が発売したFM/AMチューナー。国内ではいち早くシンセサイ
ザーチューナーを発売し,優れた技術を持っていビクターが1983年に,A-X1000,A-X900などの
プリメインアンプとのペアを想定して発売したT-X900の弟機として発売したのがT-X500でした。
受信性能を左右するFMフロントエンドは,基本的に上級機のT-X900とほぼ同じ構成となっていまし
た。RFアンプには,通信衛星用に用いられる当時最先端の素子,ガリウムヒ素FETを使用していまし
た。このガリウムヒ素FETは,従来のシリコンMOS FETに比べて電子の移動速度が6倍と速く,弱入
力時のSN比を大きく改善し,実用感度を高めていました。同調素子には,銅フレームの高耐圧ハイQ
バリキャップを5連で搭載し,独自の回路構成とし,妨害排除能力等の特性を大きく高めていました。
そして,ローカルオシレーター部の低歪率化やフロントエンド全体の厳重なシールドを施し,実使用時
の受信性能を高めていました。
IF回路には,位相特性のすぐれたリニアフェイズ・セラミックフィルターが採用され,検波回路には,ク
オドラチュア検波回路が搭載されていました。
そして,ステレオ復調を行うMPX回路には,セラミック共振子によってステレオ復調の安定性を向上
させたセラロックPLL方式MPX・ICが採用されていました。ステレオスイッチング信号のもとになる発
振器の発振周波数がきわめて正確で,温度ドリフトや経時変化がほとんどないため,通過帯域の狭
いフィルターで不要信号の混入を防ぎ,ビート妨害によるMPX段の歪を低減していました。また,不
要となったステレオパイロット信号やスイッチング信号などをカットするローパスフィルターには,高性
能なアクティブ型フィルターを採用し,歪やノイズを抑えていました。
デジタル選局のシンセサイザー方式の弱点として,デジタルノイズによるSN比の低下がありました。
シンセサイザー方式のチューナーでは,さまざまな表示コントロールのためデジタル信号を用いてお
り,これがノイズの原因となっていました。T-X500では,フル・スタティックシンセサイザー方式を採
用してこのデジタルノイズを抑えていました。通常の方式では,マイコンがたえず入力キーに質問して
動作するためデジタル・ノイズが避けられませんでしたが,フル・スタティックシンセサイザー方式では,
専用のオリジナルLSIと大型マイコンの搭載により,キーの状態を記憶して動作し,信号線には,1本
に1つの信号を送るだけにしているため,デジタル・ノイズが少ない動作となっていました。
さらに,この大型マイコンにより,機能面でも,16局のメモリー選局とFM/AMランダム6局までのプ
ログラム・メモリー(番組予約,電源のON/OFFごとに違う局を選局可能となるため,タイマーと組み
合わせると,6番組までのタイマー録音が可能)が実現されていました。
フロントパネルのディスプレイは,デジタルの受信周波数表示だけでなく,FREQ/dBキーを押すと,
数秒間アンテナ端子の入力レベルを数値で表示するようになっていました。応答スピードが速く,分
解能にすぐれたA/D変換によって,正確な1dBステップで瞬時のレベル変化も測定して表示するこ
とができ,T-X900同様のビクター独自の機能でした。
さらに,T-X900と同じくFMステレオ受信の実用感度を上げるためにQSC(クワイティング・スロー
プ・コントロール)が搭載されていました。これは,ステレオ受信時に電波の入力レベルが低い場合
に高域ノイズを約6dB低減し,実用感度を約2倍に高めるというもので,コンピューターによる自動
切換となっており,一種のハイブレンド機能ともいえるものでした。
以上のように,T-X500は,手ごろな価格のエントリーモデルともいえるチューナーながら,上級機
の技術を巧みに継承し,すぐれた受信性能と機能性を実現していました。コストパフォーマンスの
高い使いやすい1台でした。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
音がいい,感度がいい,
そして未来派マイコン制御。
GaAs(ガリウムヒ素)FET採用の
5連型フロントエンドなど,
全回路Hi-Fi設計。
◎先端技術の未来素子GaAs・FETを
採用した5連型フロントエンドで
基本の受信性能を徹底追求。
◎セラロックPLL方式の新MPX・ICで
ステレオ時のビート歪を低減。
◎独自の大型マイコンを駆使した
高S/Nフル・スタティック
シンセサイザー・システム
◎FM8局,AM8局,
合計16局のオート・メモリーと,
プログラム・メモリー。
◎正確な1dBステップの
アンテナ入力レベル表示機能。
◎FMオートQSC方式によって
ステレオ実用感度が2倍に向上。
●半導体コンデンサーやソフト・リカバ
リー・ダイオードなどパーツも音質重視。
●フル・スタティック・シンセサイザー・
システムとバランス型ミキサー回路に
よってAM放送もハイクオリティ受信。
●T-X500の仕様●
■FM部■
受信周波数 | 76MHz~90MHz |
50dBクワイティング感度(75Ω) | 1.8μV 16.4dBf(モノ) 9.8μV 31.0dBf(ステレオ・QSC AUTO) |
実用感度(75Ω) | 0.95μV 10.8dBf |
SN比(IHF-A) | 88dB(モノ)/82dB(ステレオ) |
全高調波歪率(1kHz) | 0.08%(モノ)/0.08%(ステレオ) |
キャプチャーレシオ(IHF) | 1.0dB |
実効選択度(IHF) | 65dB |
イメージ妨害比(IHF) | 80dB |
IF妨害比(IHF) | 110dB |
AM抑圧比(IHF) | 70dB |
ステレオ・セパレーション(1kHz) | 50dB |
周波数特性 | 30Hz~15kHz+0.3,-2.0dB |
アンテナ入力インピーダンス | 75Ω不平衡 300Ω平衡 |
出力信号レベル(フィクスト・アウト) | 600mV/2.2kΩ |
■AM部■
受信周波数 | 522~1,611kHz |
実用感度 | 20μV(外部アンテナ),350μV/m(ループ・アンテナ) |
SN比 | 50dB |
全高調波歪率 | 0.3% |
選択度 | 30dB(±9kHz) |
イメージ妨害比 | 40dB |
出力信号レベル(フィクスト・アウト) | 200mV/2.2kΩ(30%変調時) |
■電源部その他■
電源電圧 | AC100V(50/60Hz両用) |
定格消費電力(電気用品取締法基準) | POWER ON時9W,OFF時2W |
寸法 | 435W×77H×295Dmm |
重量 | 3.0kg |
※本ページに掲載したT-X500の写真,仕様表等は1984年10月の
Victorのカタログより抜粋したもので,JVCケンウッド株式会社に
著作権があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用
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