Victor T-X55
FM/AM COMPUTER CONTROLLED STEREO TUNER ¥52,800
1982年に,ビクターが発売したFM/AMチューナー。1974年,オーレックスとともにいち早くシンセサイザー
チューナーJT-V20を出していたビクターは,シンセサイザーチューナーにおいてすぐれた技術を
持っていまし
た。そんなビクターが,コンピューター技術を積極的に
導入し,先進的な内容を持つ主力機として発売したのが
T-X55でした。
T-X55の最大の特徴は,FM電波の状態に応じて大型マイコンが自動的に受信モードを選択するコンピュー
ターコントロールが搭載されていたことでした。電界強度は何dBか,ノイズカットは必要か,希望局の近くに妨
害波はあるかないか,フロントエンドのゲインはどのくらいよいか,IF帯域はナローかノーマルかなど,もっとも
適切な受信条件をチューナー自身が瞬時に判断して動作を切り換えるシステムがコンピューター・コントロール
システムでした。
コンピューター・コントロール・システムは,希望局の電界強度と,上下に隣接する妨害波の有無およびその
電界強度を約200msecの間に1dBステップで精密に検出し,コンピューターの指令にもとづいてFM・SENS
(RFアッテネーター)がDXあるいは−10dB,−25dBへ自動的に切換えられ,IF帯域とQSC(クワイティング・
スロープ・コントロール:
ステレオ受信時に電波の入力レベルが低い場合に高域ノイズを約6dB低減し,実用
感度を約2倍に高める回路で,9.5kHzのビート・ノイズをカットするアンチ・バーディ・フィルターも切換も自動
で行われるようになっていました。)もセットされるようになっていました。そして,これらを記憶して受信局をプリ
セットすることも可能で,手動での切換ももちろんできるようになっていました。
コンピューターによる受信モード等のメモリー機能を機能させる上に重要な受信状態の表示のために,正確
な1dBステップの電界強度の表示が搭載されていました。受信局のシグナル強度を正確な2重積分型アナ
ログ/デジタル変換器でデジタル化してFLディスプレイにdB表示するようになっていました。フロントパネル
のFREQ/dBキーを押すことで,周波数ディスプレイが約5秒間dBモードに変わるようになっていました。FM
では約10〜96dB以上,AMでは約90dBまで電波の強さが正確に表示されるようになっていました。この正
確な電界強度検出にもとづいて,チューナー自身がFM SENS(感度),IF帯域,ステレオQSC等を自動セッ
トするようになっていました。
FMフロントエンドのミキサー段には,通信衛星用に用いられる当時最先端の素子,ガリウムヒ素FETを使用し
ていました。 このガリウムヒ素FETは,従来のシリコンMOS FETに比べて電子の移動速度が6倍と速く,感
度,SN比,妨害排除能力を高めていました。また,同調素子のバリキャップも銅フレームの高耐圧ハイQバリ
キャップが4連で搭載され,実用感度,妨害排除能力が高められていました。
IF回路には,位相特性のすぐれたリニアフェイズ・セラミックフィルターが採用され,検波回路には,クオドラチュ
ア検波回路が搭載されていました。そして,オーディオ部は,すべてDC構成となっていました。
シンセサイザー方式のチューナーの弱点として,デジタルノイズによるSN比の低下があります。 シンセサイザー
方式のチューナーでは,さまざまな表示コントロールのためデジタル信号を用いており,これがノイズの原因とな
っていました。T-X55では,表示系のノイズを排除したスタティック点灯に加え,もうひとつのノイズ原であるマイ
コンのキー入力部までスタティック化し,原理的にノイズ・ゼロのフル・スタティック・シンセサイザー・システムを
完成していました。当時,一般的なシンセサイザーチューナーでは,マイコンが数μsecごとにFMとAMや受信
局の区別など,入力キーのセット状態を確認しながら動作するため,パルス的なノイズを発生します。T-X55で
は,16ビット・コンストラクションの大型マイコンがメモリー機能を持ち,キーの状態を記憶してしまうので,この部
分のノイズは皆無となっており,高S/N比が実現されていました。
選局機能として,コンピューターによるオートチューニング,マニュアルチューニング,FM/AM各8局のプリセット
メモ リーが可能となっていました。プリセット・メモリーは,手動プリセットに加えて,自動スキャンによるオート・メ
モリーも可能となっていました。特に,FMでは,コンピューター・コントロール・システムが最適動作モードを自動
設定してからメモリーされるようになっていました。また,タイマーとテープデッキを併用すれば,FM,AMランダ
ムに6局までのプログラム(番組予約)録音ができるようになっていました。受信周波数その他の表示系は,す
べてフロントパネルに集中表示され,受信状態やコンピューター・コントロール・システムの動作モード,プログラ
ムされた局の順番などが一目で確認できるようになっていました。
その他,録音レベル設定の基準となる333Hzのレコーディング・キャリブレーターが搭載されていました。AM部
はダブルバランス型ミキサーを採用した本格的な回路が搭載され,着脱式のループアンテナが付属していました。
以上のように,T-X55は,比較的手頃な価格の中級クラスながら,ビクターの主力チューナーとして,コンピュー
ターを大幅に導入して,受信性能,機能性を大きく高めた意欲作でした。これ以降も,同社はコストパフォーマン
スにすぐれたシンセサイザーチューナーを発売して評価を得ることとなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



コンピューターが最適受信モードを自動設定。
技術の粋を集めたハイクオリティ・チューナーです。

◎電界強度や隣接妨害の有無を
 瞬時に検出して最適動作モードを
 自動的に選び出す。
 コンピューター・コントロール・システム。
◎使いやすさを高めるオート・メモリー
 6局ランダム・プログラムや
 受信状態がひと目でわかる
 集中表示ゾーン・システム。
◎高S/Nフル・スタティック
 シンセサイザー・システム。
◎ガリウム・ヒ素FETなどの
 優秀素子を駆使した高性能回路。
◎受信局の電界強度を
 1dBステップでディジタル表示。

●333Hzレコーディング・キャリブレーター
 内蔵。
●ダブル・バランス型ミキサーなどの高性能
 回路でAMもハイクオリティ受信。
●便利な着脱式のAM用ループ・アンテナ。
●新感覚のクリスタル調プリセット・ステー
 ション・ボタン。




●T-X55の仕様●


■FM部■

 

受信周波数 76.0〜90.0MHz
50dBクワイティング感度(75Ω) 1.8μV 16.4dBf(モノ)
9.8μV 31.0dBf(ステレオ・QSC AUTO)
実用感度(75Ω) 0.95μV 10.8dBf
SN比(IHF-A) 88dB(モノ)/82dB(ステレオ)
全高調波歪率(1kHz) 0.06%(モノ)/0.06%(ステレオ)
キャプチャーレシオ(IHF) 1.0dB
実効選択度(IHF) 55dB(NORMAL)/80dB(NARROW)
イメージ妨害比(IHF) 85dB
IF妨害比(IHF) 110dB
AM抑圧比(IHF) 67dB
ステレオ・セパレーション(1kHz) 56dB
周波数特性 20Hz〜15kHz+0.3,−0.6dB
アンテナ入力インピーダンス 75Ω不平衡 300Ω平衡
出力信号レベル(フィクスト・アウト) 600mV/2.2kΩ
REC CAL出力レベル FMの約50%変調相当(約333Hz)

 

■AM部■


 
受信周波数 522〜1,611kHz
実用感度(外部アンテナ) 20μV
SN比 55dB
全高調波歪率 0.3%
選択度 30dB(±9kHz)
イメージ妨害比 40dB
IF妨害比 65dB
出力信号レベル(フィクスト・アウト) 200mV/2.4kΩ(30%変調時)

 

■電源部その他■


 
電源電圧 AC100V 50/60Hz
定格消費電力(電気用品取締法基準) 10W,スタンバイ時2W
寸法 435W×77H×300Dmm
重量 3.7kg
※本ページに掲載したT-X55の写真,仕様表等は1982年4月のVictor
 のカタログより抜粋したもので,日本ビクター株式会社に著作権があり
 ます。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは法
 律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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