SONY TA-3650
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥63,800
1975年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。ソニーは1974年に,国産初(世界初?)のV-FETを出力段に
使用したFETプリメインアンプTA-8650(¥295,000)を発売し,「ES-Ⅱシリーズ」を展開し始めました。同年
には第2弾のTA-4650(¥84,800)を発売し,翌年の1975年には,第3弾のTA-5650(¥99,800)を発
売し,共通したデザインの「ES-Ⅱシリーズ」のラインナップが展開されていきました。そして,その弟機として発売
されたのがTA-3650でした。

パワーアンプ部は,厳選したトランジスターで構成した全段直結ピュア・コンプリメンタリーOCL方式が採用されて
いました。出力段は,上級機のようなV-FETではないものの,コレクタ損失(Pc)の大きいシリコン三重拡散PNP
・NPNペア・パワートランジスターで,広いASO(安全動作)領域での動作に余裕を持たせ,高い信頼性を維持し
ていました。さらに,コンプリメンタリードライバー段から低インピーダンスでダーリントン接続され,すぐれた高域
特性と容量負荷特性を確保していました。ドライバー段は,大入力信号時でもA級動作領域を超えないように定
電流回路が挿入され,ドライバー段のクロスオーバー歪みを抑えていました。初段は,温度バランスの良好な
PNPデュアルトランジスターで差動増幅回路を構成し,パワーアンプ全体の位相特性,低域特性,温度特性を
安定させていました。さらに,定電流回路により電圧変動が抑えられ,プログラムソースの急激なレベル変動に
も歪の発生が抑えられていました。NFBループも局部的な電流帰還をかけ,裸特性を良好にし,大きな時定数
を持たせることで,超低域から超高域まで,すぐれた位相特性と安定度を実現していました。



電源部は,リーケージフラックスが少なくレギュレーションの良い重量級パワートランスを核に,10,000μF
+10,000μFを確実に保証する大容量±2電源用1パッケージ電解コンデンサーを搭載していました。低イ
ンピーダンス電源で電源電圧の変動が少なく,大出力時でも音の飽和感のない再生音と,0.1%の低歪率で
連続実効出力55W+55W(20Hz~20kHz・8Ω)を実現していました。



イコライザーアンプ部は,特性の揃ったデュアルFETによる差動回路構成が採用されていました。ゲート漏れ
電流が少ないデュアルFETを採用したことで,ダイレクトカップル方式とし,低域の時定数を持たないため低
域の位相特性が向上し,コンデンサーの漏れ電流による低域ノイズも解消していました。
電源部は,パワーアンプ部と独立させており,L・R別の安定した定電圧回路で,電源部の相互干渉を抑え,
低域のセパレーションを向上させていました。また,高電圧±2電源を供給した5石直結回路で裸利得を抑え
安定した負帰還をかけ,低歪率0.05%(1V出力時)と許容入力210mV(1kHz)を確保していました。
RIAA素子には,温度特性にすぐれ誤差の少ないスチロールコンデンサーや抵抗を採用し,RIAA偏差±0.5
dB以内の高精度を実現していました。

TA-3650は,プリメインアンプとして,比較的多機能でしたが,TA-8650から始まった「ES-Ⅱシリーズ」に共
通した,ボリューム等の主要操作部分は上部に,それ以外の操作ボタン等は下部の囲みの中にまとめるという
特徴的なデザインにまとめられ,機能的にも分かりやすくなっていました。このデザインイメージは,ペアを想定
されたチューナーST-3950とも揃えられ,専用の木製キャビネットTAC-15(¥2,800)も 別売で用意されて
いました。



入力は,PHONO2系統,TUNER,AUX,TAPE2系統が搭載されていました。TAPE2系統は相互ダビング
が可能となっていました。出力は,TAPE2系統,スピーカー2系統,ヘッドホン端子,PRE OUT1系統が搭
載されていました。また,TAPE2は,フロントパネル上にも出力端子が装備されていました。
ボリュームは,ギャングエラー±0.5dB以内の高精度アッテネータータイプティテントボリュームが採用され,
新開発の印刷抵抗により精度と耐久性を備え,小音量時でも正確な音量調整が可能となっていました。
ボリュームのすぐ横には,-20dBのミューティングスイッチも組み込まれていました。トーンコントロールは,
NF型で,11ステップのクリック付きで,BASS,TREBLEそれぞれ-10dB~+10dBまで確実な調整がで
きるようになっており,BASSでは250Hz/500Hz,TREBLEでは2.5kHz/5kHzのターンオーバー切換
やトーンキャンセル・スイッチも装備されていました。
その他,中音域を約3dB増強するプレゼンススイッチ,ラウドネススイッチ,30Hz以下と10kHz以上をカット
するローカットとハイカット独立のフィルタースイッチなどが装備されていました。

以上のように,TA-3650は,「ES-Ⅱシリーズ」のプリメインアンプの中堅機として,シリーズに共通する機能
的なデザインに,オーソドックスに煮詰められた内容をもった,使いやすいプリメインアンプでした。さわやかな
高音域としっかりとした中低域再生をあわせもつバランスの取れた音の1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



ベースの音階を大切に,
ハイパワー55W+55Wの
プリメインアンプ。

◎20Hz~20kHzで55W+55Wをギャランティ
◎高調波歪率,混変調歪率ともに0.1%以下
 (定格出力時)
◎周波数特性3Hz~100kHz
◎厳選された素子を十分に生かし余裕ある
 回路で構成した信号回路と電源回路
◎大容量10,000μF+10,000μFの
 1パッケージ電解コンデンサーを搭載
◎高級機に迫る定電流回路
◎パワーアンプ初段にデュアル・トランジスタ
 を採用し回路の安定度が向上
◎プリ部はパワー部と切離した定電圧回路
 で低歪率を実現
◎イコライザーアンプは厳選されたデュアル
 FETにより入力と直結するダイレクトカップ
 リング方式で低域の音質を飛躍的に改善
◎ギャングエラー0.5dB以内の高精度ディテ
 ントボリューム採用
◎ターンオーバー周波数切換スイッチつき
 トーンコントロール
◎信頼性に優れたプロテクション回路
◎臨場感を増すプレゼンス回路内蔵
◎ローカット,ハイカットフィルター付き
◎ラウドネススイッチ付き
◎テープコピースイッチ付き




●主な規格●

型式  ステレオプリメインアンプ 
回路方式  プリアンプ:FET差動増幅回路によるダイレクトカップリング
       方式イコライザーアンプ
       2段直結フラットアンプ
       NF型トーンコントロールアンプ
パワーアンプ:デュアルトランジスタ採用,全段直結純コンプ
         リメンタリーシンメトリーSEPP回路 
半導体  FET 4石(デュアルFET 2石を含む)
トランジスタ42石(デュアルトランジスタ2石を含む)
ダイオード28個 



<パワーアンプ部>

出力
(高調波歪率0.1%) 
実効出力(両チャンネル動作時)
 20Hz~20kHz:55W+55W/8Ω
 1kHz:60W+60W/8Ω
      70W+70W/4Ω
 ダイナミックパワー(IHF,定電圧供給法)
     170W/8Ω 
出力帯域幅  5Hz~40kHz(8Ω,IHF) 
ダンピングファクター  35(1kHz,8Ω) 
高調波歪率  0.1%以下(定格出力時)
0.03%以下(1W出力時) 
混変調歪率
(60Hz:7kHz=4:1) 
0.03%以下(1W出力時) 
残留雑音  0.008μW以下(8Ω) 
SN比  110dB以上(クローズドサーキット) 
周波数特性  3Hz~100kHz+0,-2dB 
入力端子  POWER INPUT
 入力感度:1V(定格出力時)
 入力インピーダンス:47kΩ 
出力端子 SPEAKER:4~16Ωのスピーカーに適合
HEADPHONES:8Ω以上 



<プリアンプ部>

入力端子            入力感度    入力インピーダンス
PHONO 1・2:2.5mV       50kΩ
TUNER   
TAPE 1・2  :150mV       100kΩ
AUX
SN比           最大許容入力(歪0.1%,1kHz)210mV 
PHONO1・2:70dB(Bネットワーク使用)
TUNER
TAPE1・2  :90dB(Aネットワーク使用)
AUX
出力端子            出力電圧   出力インピーダンス
REC OUT 1・2:150mV     10kΩ
PRE OUT    :1V        1.8kΩ 
高調波歪  0.05%以下(1V出力時) 
混変調歪
(60Hz:7kHz=4:1) 
0.05%以下(1V出力時) 
周波数特性  PHONO 1・2:RIAAカーブ±0.5dB
TUNER,TAPE 1・2,AUX:
       10Hz~100kHz+0,-2dB 
トーンコントロール  BASS
 ±10dB(100Hz,ターンオーバー周波数500Hz)
 ±10dB(50Hz,ターンオーバー周波数250Hz)
TREBLE
 ±10dB(10kHz,ターンオーバー周波数2.5kHz)
 ±10dB(20kHz,ターンオーバー周波数5kHz) 
フィルター  HIGH:10kHz以上 6dB/oct
LOW:30Hz以下  6dB/oct 
ラウドネスコントロール
(ボリューム減衰量30dB) 
+10dB(50Hz),+3dB(10kHz) 
プレゼンスコントロール
(ボリューム減衰量30dB)  
+2.5dB(1kHz)



<電源部・その他>

電源  100V,50/60Hz 
消費電力  150W 
電源コンセント  SWITCHED(電源スイッチと連動):1個 50W
UNSWITCHED(電源スイッチと非連動):2個 合計120W 
大きさ  430W×168H×323Dmm 
重さ  11.1kg 
付属品  ショートプラグ2個 
※本ページに掲載したTA-3650の写真,仕様表等は,
1975年10月のSONYのカタログより抜粋したもので,
ソニー株式会社に著作権があります。したがってこれら
の写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じ
られていますのでご注意ください。

 

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