SONY TA-AX5
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥69,800
1981年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。1979年に同社が発売したユニークな薄型プリメインアンプTA-F55
の後継機と言えるモデルで,基本的な技術を継承しつつ,新たにマイクロコンピューターの技術を投入するなど,より
未来的なアンプとして発売されました。
TA-AX5の最大の特徴は,ASP(Audio Signal Processor)を採用していたことでした。これは,従来アンプ内に
散在していたメカニカルなボリュームやスイッチ類を1カ所にまとめ,オーディオ信号を集中的に制御し,コントロール
の指示は,オーディオ信号の流れの外に配置したマイクロコンピューターからの信号で行うというものでした。この結
果,信号の流れはシンプルでストレートなものとなり,主要部をフェザータッチとしたオールプッシュコントロール,さらに
デジタル・ボリュームや3つの周波数特性カーブをプリセットできるアコースティックフレーバー・メモリーなど,快適でユ
ニークな操作性が実現されていました。
搭載されているASPは,ソニーの半導体技術を駆使したSIPOS(半絶縁性多結晶シリコン)ゲートMOS-FETスイッ
チとポリシリコン抵抗で構成され,その特性は,デジタルボリューム,電子スイッチともに,歪率0.002%以下,SN比
100dB以上の特性が確保され,オーディオ特性と操作性の両立に寄与していました。
TA-AX5は,上述のように,ASPを搭載したマイクロコンピューターによる制御により,ロータリーノブがないオールプッ
シュコントロールとなっており,1dBステップのデジタルボリュームやバランスなどの主要部はフェザータッチ化されてい
ました。また,トーンコントロール(BASS,TREBLE各±5段階),ターンオーバー周波数(BASS,TREBLE各2ポジ
ション),サブソニックフィルター,ハイフィルターの操作,組み合わせ合計1764通りで,周波数特性をコントロールでき
その中からフラットな状態と任意の2つ,合計3つの周波数特性を記憶できるアコースティックフレーバー・メモリーが搭
載されていました。また,TUNERの入力レベルを基準としてPHONO,AUX,TAPE1・2のレベル差を±10dBの範
囲で変化させて記憶させておける電子レベルアジャストも搭載されていました。そして,プリメインアンプながら集中ディ
スプレイが設けられており,デジタル表示のボリューム,バランス,ミューティング,周波数特性のコントロール状態など
が2色蛍光管表示で集中表示されるようになっていました。
入力系は比較的シンプルで,PHONO,TUNER,AUXが各1系統で,TAPEが2系統搭載されていました。TAPEは
1→2の相互ダビングのみが可能という形になっていました。PHONOイコライザー部は,MMだけでなくMCカートリッ
ジにも対応した高SN比のハイゲインイコライザーが搭載されていました。
パワーアンプ部には,「レガートリニア方式」のDCアンプが搭載されていました。これはTA-AX8で開発されたもので,
同社のプリメインアンプに広く採用された技術でした。パワーアンプ部で問題となるスイッチング歪やクロスオーバー歪
みを防ぐために,この当時,各社でノンスイッチング方式や疑似A級方式など,可変バイアスや電源電圧値の変動など
の手法が多く採用されていました。「レガートリニア方式」は,固定バイアス方式をとりながら,高速出力素子Hi-fTトラン
ジスタを極小カットオフ領域で働かせるもので,(1)信号系に追加される非直線性素子が皆無(2)入力信号の大小で
動作条件を変化させない(3)100kHzの超高域までスイッチング歪みが観測されない(4)位相特性を含め安定した動
作を保証,などの特徴を持ち,高速広帯域な特性が実現されていました。
パワーアンプ部に搭載されたHi-fTトランジスターは,高域特性のよい小電力トランジスターを無限大個集積したような
もので,遮断周波数特性が,従来の4MHz程度に対して60〜80MHzと非常に高く,きわめてすぐれた高速応答特性
が実現されていました。
シンプルでストレートな信号伝送のために,上述のAPSの搭載に加え,全体の構成の中でも信号の流れにそって部品
を最短距離に配置し,リード線の交叉,プリントパターンや線材の不要な引き回しをなくし音質劣化の大きな要因となる
静電的な結合を可能な限り排除したシンプル&ストレート伝送が継承されていました。
そのために,宇宙船の熱処理用に考案された,ヒートパイプが引き続き放熱系に採用されていました。これにより,トラン
ジスターの回路基板への直付け,リード線の引き回しの排除が実現されていました。従来,パワートランジスターは,その
放熱のため間隔を離して配置されたり,ヒートシンク自身の位置を回路基板から離していたりしたため,信号経路が長くなっ
てしまう傾向がありました。回路基板上の信号の流れから理想的な位置にパワートランジスターを配置し,それを同型の
金属棒の数百倍という熱伝導率を持つヒートパイプに装着し,熱をいったん回路の外に逃がし,あらためてラジエーターで
放熱するという構造がとられ,この結果,大電流の流れる線材は極少に抑えられ,歪みにつながる磁界の発生も非常に少
なくなっていました。
電源部には,ソニー自慢のパルス電源が搭載されていました。AC100Vをトランスレス整流回路でダイレクトに整流し,
ここで得られた直流(正確には脈流)を20kHzのパルス(方形波)に変換,高周波トランスで変圧し,再び整流してアン
プの電源電圧を得るというものでした。高い周波数のパルスを用いるため高効率で,小型のトランスで,大型のトランス
を用いた電源と同じ電源供給能力を持ち,パルス幅制御定電圧回路によりパルス幅を制御(ロック)しているので出力
の変化に対してもAC電源の電圧の変動にも強く(0〜120Vの間で電圧変動率1%以下),電源電圧の変動がなく安
定し,パルス整流なのでリップル(脈動成分)がほとんどないため,ハムノイズがないなど,優れた特性を持っていまし
た。パルス電源は,小型で高効率という特徴がありますが,スイッチングによる電磁波の影響が,アンプ内部や他の機
器に与える影響を当時は抑えきれなかったといわれています。そのた,一般化しませんでしたが,デジタル技術が進み
デジタルアンプさえも出てきた現在,パルスから出るバズの影響をシールドする技術も進んでいるはずですから,もう一
度見直されてもいい方式かもしれません。
以上のように,TA-AX5は,薄型プリメインアンプTA-F55をより進化させた内容を持ち,デザイン的にも操作感も含め
未来的ともいえるプリメインアンプでした。非常に個性的なデザインながら,実にオーソドックスなバランスのとれた音が
特徴で,その音の個性の少なさと奇抜とも言えるデザインゆえか,オーディオファンに広く人気を得るということにはなり
ませんでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



マイクロコンピュータ制御のASPを搭載して
シンプル&ストレートの極致を実現。
その音質,機能で,ハイ・フィデリティの
新たな方向性を示しています。

◎フェザータッチコントロール
◎アコースティックフレーバー
◎電子レベルアジャスト
◎集中ディスプレイ
◎レガートリニアDCパワーアンプ
◎ヒートパイプを用いたストレート伝送
◎Hi-fTトランジスタ
◎パルス電源
◎ASP-IC搭載のマイクロコンピュータ制御
◎MCカートリッジ対応ハイゲインEQアンプ
◎1dBステップのデジタルボリューム
◎不揮発性メモリー
◎BASS,TREBLE各2ポジションの
 ターンオーバー周波数セレクター
◎オーディオミューティング,サブソニック,ハイフィルター
◎A/B独立スピーカーセレクター
◎金メッキフォノ端子




●主な仕様●

出力 70W+70W(20〜20,000Hz,両ch,8Ω)
高調波ひずみ率 0.005%(20〜20,000Hz,実効出力時)
SN比 90dB(MM),72dB(MC)
ダンピングファクター 50
大きさ 430W×80H×325Dmm
重さ 4.9kg
消費電力 110W
※本ページに掲載したTA-AX5の写真,仕様表等は,1981年5月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権
 があります。したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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