TA-E86の写真
SONY TA-E86
STEREO PREAMPLFIER ¥90,000

1978年に,ソニーが発売したプリアンプ。前年の1977年に発売された高級プリアンプTA-E88
の弟機で,その設計思想を踏襲しつつ,シンプルな回路で高音質をめざしたコストパフォーマンス
にすぐれたプリアンプでした。

TA-E86の設計上の大きな特徴は,信号の流れを最優先して,内部の部品配置等を考え,入力
から出力までを最短距離で配線し,電流の交錯を避けるために,信号系はすべて2次元平面上
つまり,各信号ブロック間のリード線をなくしプリント基板上をストレートに信号が伝送されるような
構造になっていました。また,L・Rチャンネルそれぞれのアンプが前後に2台並べられ,シールド
板で仕切られた構造になっており,完全にツインモノ・コンストラクションになっていました。従来,
L・Rいっしょにフロントパネルに配置され,リード線が必要とされたボリュームやスイッチ類もプリ
ント基板上に直付け配置されていました。ボリュームやバランスは,L・R信号系のシールド板付
近でプリント基板に直付けされ,スイッチ類は,L・R別々の場所に設置され,フロントからシャフト
で連動切換えするようになっていました。そのため,ボリューム,スイッチ類のシールド線が不要
になり排除されていました。そして,信号経路に沿ってボリュームやスイッチが配置されたことで
ソニー独自のボリュームが左側にあるフロントパネルデザインとなり,入力端子,出力端子もスト
レートな信号経路に沿って配置され,右側から入力され,左側に出力される特異な構造となって
いました。左側の出力端子はTA-E88と同様に,アンプ回路と電源部との間(上部パネルのくぼ
みの部分)にあり,出力端子をはさんで両回路がセパレートされる形になっていました

TA-E86の内部

全体の回路構成は,イコライザーアンプ,フラットアンプ,MCヘッドアンプ,ベースブーストアンプ
からなる構成で,アンプとして機能的にもシンプルなものとなっていました。
イコライザーアンプは,初段にはデュアルFETによる差動増幅のカスコード接続が配され,高域
特性の劣化を抑えるとともに,定電流回路との組み合わせでハムなどの外部雑音や,電源変動
による不要成分の混入を抑えていました。次段は,デュアルトランジスタによる差動回路のカスコ
ード接続で,温度ドリフトが少なく,リニアリティ・ひずみ率にすぐれた特性を実現していました。ま
た,入力コンデンサーのないDCアンプとなっており,低域特性の劣化が抑えられていました。
フラットアンプは,イコライザーアンプと全く同等の回路構成のDCアンプで,回路定数の時定数
回路のみが異なるものとなっていました。
MCヘッドアンプは,差動1段及びダーリントン接続の2段直結回路構成で,当時単体ヘッドアン
プとして単売されていたHA-55(¥47,000)とほぼ同等の回路構成となっていました。また,
従来の低雑音トランジスタ10本の並列接続に相当する超低雑音トランジスタを使用しており,
結果として78dB(0.2mV)という高SN比が実現されていました。

電源部は,増幅回路から出力端子をはさんで放して配置され,MCヘッドアンプとイコライザー/
フラットアンプ別々に,FETバッファ電源が配され,低出力インピーダンス特性と入力電圧の
変動の抑圧を実現した高い能力の電源部となっていました。

機能的には,上記したように非常にシンプルで,入力はPHONO,TUNER,AUX各1系統で,
TAPE入出力も1系統のみとで,テープコピースイッチもありませんでした。トーンコントロール
も装備されていませんでしたが,100Hz付近を中心に低域をブーストするベースブーストアン
プは搭載されていました。PHONO入力には5段階の負荷抵抗切換が装備され,レコードの
ソリなどによる超低域有害成分をカットする15Hz・12dB/octのローフィルターも搭載されてい
ました。

使用パーツも厳選され,ボリュームには,新開発の高精度のボリュームを搭載し,重要な個所
にはにはポリプロピレン・フィルムコンデンサーや高精度の金属皮膜抵抗などを使用していまし
た。また,Lチャンネル回路とRチャンネル回路の共通アースには,厚さ1mm,コの字形断面を
した銅板を使用し,抵抗値を下げ低インピーダンス化が図られていました。そして,入出力端子
はすべて金メッキが施されていました。

以上のように,TA-E86は当時のソニーのセパレートアンプのエントリークラスのモデルながら
上級機の技術を巧みに受け継ぎ,かつシンプルな回路構成の良さを発揮した実力派のプリアン
プでした。外観のイメージ同様にすっきりとした音を聴かせてくれる1台でした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



伝統的な設計プロセスを
白紙に戻して
回路,素子,部品配置の
立体的な関係を追求しました。

いい音を伝えるための必然性が
このプリアンプをデザインしました。


◎信号系からリード線を追放しました。
 ●ストレート伝送
 ●ツインモノ構造

◎ファンクションの数を抑えて
 回路構成をシンプルに。

 ●DC-イコライザーアンプ
 ●DC-フラットアンプ
 ●MCヘッドアンプ
 ●ベースブーストアンプ
 ●ローフィルター
 ●FETバッファ電源

◎いい素子・素材を
 おしみなく使っています。

 ●ニュー・ボリューム
 ●ポリプロピレン・フィルム・コンデンサー
 ●金属皮膜抵抗
 ●パワー・バス・アースライン
 ●金メッキ入出力端子




●TA-E86主な規格●

形式
ステレオ プリアンプ
回路方式
低雑音ヘッドアンプ,DC構成NF型イコライザーアンプ
DC構成フラットアンプ,2系統定電圧電源
半導体
FET22個,トランジスタ90個,ダイオード20個
入力端子
       入力感度  入力インピーダンス  入力容量  最大許 容入力  SN比  ネットワーク
                                     (1kHz)           (IHF)
PHONO:  2.5mV  100,50,25kΩ   100pF    250mV    87dB    A
PHONO:0.125mV 100Ω(40Ωポジション)  −     12.5mV   78dB     A 
(HEAD           25Ω(3Ωポジション)                  (0.2mV) 
  AMP)
TUNER:  150mV      50kΩ         −       −      100dB    A
TAPE
AUX
出力端子
           出力電圧       出力インピーダンス
REC OUT:150mV(最大13V)   10kΩ
OUTPUT1:1.5V(最大13V)     100Ω
OUTPUT2:1.5V(最大13V)     100Ω
高調波ひずみ率
0.003%(10V出力時)
混変調ひずみ率
(60Hz:7kHz=4:1)
0.003%(10V出力時)
周波数特性
PHONO:RIAAカーブ±0.2dB
TUNER,AUX,TAPE:5Hz〜500kHz+0,−1dB
ローフィルター(PHONO入力)
12dB/oct(カットオフ周波数15Hz)
残留ノイズ
6μV以下(Aネットワーク,IHF)
ベースブースト
+6dB(120Hz)
電源
100V,50/60Hz
消費電力
15W
補助電源コンセント
SWITCHED(連動):2個
UNSWITCHED(非連動):1個  合計900Wまで
大きさ
480W×80H×366Dmm
重さ
8.2kg

※本ページに掲載したTA-E86の写真,仕様表等は1978年3月のSONY
 のカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があります。したがって
 これらの写真等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられていますので
 ご注意ください。

  
 
 
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