SONY TA-F5
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥59,800
1977年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。ソニーはこの年,新たな高効率電源パルスロック電源を搭載し
たプリメインアンプTA-F6Bを発売しました。それに続き,より手頃な価格帯に投入され,パルスロック電源の
基本方式であるパルス電源を搭載して発売された,当時のソニーのプリメインアンプの主力モデルがTA-F5で
した。

TA-F5に搭載されたパルス電源は,従来の大型の電源トランスと整流回路という電源方式とは異なる電源トラ
ンスを使わない電源方式でした。AC100Vをそのまま整流し,ここで得られた直流(正確には脈流)を、パワー
オシレーター(発振器)で可聴帯域外の高周波のパルス(方形波)に変換し,これを高周波トランスで絶縁,変圧
した後,再び整流してアンプの電源電圧を得るというものでした。高い周波数のパルスでエネルギーを伝えるた
め高効率で,大型のトランスを用いた電源と同じ電源供給能力を持っていました。また,普通の正弦波の整流と
異なり,整流しただけでほぼ直流状態が得られるため,すぐれたレギュレーションが容易に得られ,さらに,AC
100Vを直接整流するためハム雑音の発生がほとんどないという特徴もありました。さらに,ほぼ電子回路で構
成されるため,形状は小さく自由に変えられ,軽量という利点もありました。



反面,パルス電源は高周波を扱っているために,電磁波が周囲のアンプ回路に与える影響の問題がありました。
そのため,厳重な電磁シールドを施した密閉構造が取られていました。パルス電源と同様の方式の高効率電源
は「スイッチング電源」「デジタル電源」等とも呼ばれ,他社では,ビクターが試作機を発表したりしていましたが,
実用化され,製品として出していたのは,サンヨーぐらいで,限られていました。よく似た方式としてサイリスタを利
用してAC電源をスイッチング制御,小型トランスで整流するヤマハの「X電源」がありました。パルス電源は,後に
NECの名機 A-10の初代機で「リザーブ電源」に使われていましたが,それ以外にはあまり一般的には使われて
いません。これは,スイッチングによる電磁波の影響が,アンプ内部や他の機器に与える影響を抑えきれなかった
ためといわれています。しかし,デジタル技術が進み,デジタルアンプさえも出てきた現在,パルスから出るバズの
影響をシールドする技術も進んでいるはずですから,もう一度見直されてもいい方式かもしれません。実際,海外
製の高級アンプ(ジェフロウランドDGなど)でも,スイッチング電源がその電源供給の安定性に着目されて新たに
搭載されている例もあります。

イコライザーアンプの基本回路はA級ピュアコンプリメンタリーSEPPで,RIAA帰還回路とは別にFETを用いたDC
帰還回路を設け,動作点を安定させていました。また,RIAA素子には,厳選されたポリプロピレンコンデンサーや
高精度抵抗を使用し,RIAA偏差を±0.2dB以内に抑えていました。
また,パルス電源によりハムの信号系への影響を抑えることができており,低雑音トランジスターを3本パラレルに
接続し,等価雑音抵抗を下げていました。こうして低雑音設計のイコライザーアンプのゲインを上げることによりヘッ
ドアンプ内蔵と同様の働きをもたせ,MC PHONO入力にも対応していました。

パワーアンプ部は,ソニーオリジナルのオーディオ用モノリシックIC・CX-171が搭載されていました。差動入力か
らドライバー段までがこのICに集約され,動作の安定化,信頼性向上が図られていました。終段は,リニアリティ
の良いパワートランジスターでピュアコンプリメンタリーSEPP回路のDC構成で,強力なパルス電源にも支えられ
70W+70Wの出力を実現していました。

機能的には,プリメインアンプとしてオーソドックスにまとめられていました。ボリュームは,小音量時のSN比を改善
した高精度の4連ボリュームが搭載され,41ステップ・クリックストップ付きのツマミが搭載されていました。
トーンコントロールは,BASS,TREBLE独立式で,センターポジションにツマミをセットすると,トーン回路が自動的
にディフィートになるセルフディフィート・トーンコントロールとなっていました。トーンアンプはNF型で,厳選された素
子が使用されていました。フィルターは,9kHz(6dB/oct)のハイ・フィルターと15Hz(6dB/oct)のロー・フィルター
が搭載されていました。
入力は,PHONO2系統,AUX,TUNER,TAPE2系統が搭載されていました。PHONOは,スイッチでMMとMC
の双方に対応したゲイン切換が可能でした。TAPEは,アンプ本体の再生ソースとは独立して相互ダビングが可能
となっていました。スピーカー出力はA,B2系統が装備され,切換スイッチが前面に搭載されていました。
その他,REVERSE,STEREO,MONOの3ポジションのMODEスイッチ,外観上の特徴となる,パワーメーター
が搭載されていました。パワーメーターは,針式で,8Ω負荷時の出力を直読できるようになっていました。

以上のように,TA-F5は,ソニーが中級機の売れ筋のクラスに投入した主力モデルでした。新技術のパルス電源を
核にしつつも,オーソドックスに性能を高めた1台でした。クリアで低音の力強さももつ音は,ソニーの半導体アンプ
技術を示したものでした。
そして,TA--F5には,弟機としてTA-F4が発売されていました。出力が55W+55Wとなり,PHONO入力が1系
統でMCに対応していない,MODEスイッチがない等の他は,基本的な構成はほぼ同一で,コストパフォーマンスの
高い1台となっていました。


SONY TA-F4
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥49,800




また,TA-F5,TA-F4は,当時のソニーのプリメインアンプの売れ筋の主力モデルとでした。同社のコンポーネ
ント・ステレオシステム 「BASIC COMPONENT」のシステムの中核のアンプとして組み合わせに使用される
など,当時のソニーにとっても重要なモデルであったといえると思います。



以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



電子回路技術を駆使したパルス電源で,
アンプのクオリティとパワーを一挙に高めました。

パルス電源により,DCイコライザーアンプにMC PHONO入力,DCパワーアンプで
70W+70Wのハイパワーを実現したDCプリメインアンプ。




●主な規格●

   TA-F5  TA-F4
実効出力
(20Hz~20kHz,両ch,8Ω)
70W+70W  55W+55W
出力帯域幅(IHF,8Ω)  5Hz~35kHz  5Hz~35kHz  
高調波ひずみ率
(20Hz~20kHz,実効出力時) 
0.04%  0.05% 
混変調ひずみ率(実効出力時)  0.01%  0.01% 
ダンピングファクター(1kHz,8Ω)  40  40 
PHONO入力感度  2.5mV  2.5mV 
PHONO最大許容入力(1kHz)  250mV  250mV 
トーンコントロール  BASS:60Hz±10dB(ターンオーバー300Hz)
TREBLE:25kHz±10dB(ターンオーバー5kHz) 
BASS:60Hz±10dB(ターンオーバー300Hz)
TREBLE:25kHz±10dB(ターンオーバー5kHz)  
フィルター  LOW:6dB/oct(15Hz以下)
HIGH:6dB/oct(9kHz以上) 
LOW:6dB/oct(15Hz以下)
HIGH:6dB/oct(9kHz以上)  
大きさ  410W×145H×370Dmm  410W×145H×370Dmm 
重さ  7.2kg  6.8kg 
消費電力  160W  100W 
※本ページに掲載したTA-F5,TA-F4の写真,仕様表等は,1977年11月
 のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権がありま
 す。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等することは
法律で禁じ
 られていますのでご注意ください。                                         

 

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