SONY TA-F555ESJ
STEREO PRE-MAIN AMPLIFIER ¥150,000
1992年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。ソニーは,1986年に,TA-F333ESXを発売し,クラス最大
の物量を投入した設計が高い評価を得ました。そして,上級機としてTA-F555ESXも発売され,こちらも,当
時クラス最大の物量投入が行われていました。555の型番は,この後TA-F555ESXⅡ→TA-F555ESR→
TA-F555ESG→TA-F555ESL→TA-F555ESAとモデルチェンジされ,TA-F555ESJへと続きました。
TA-F555ESJの出力段素子には,新開発のオーディオ専用・非磁性パワーMOS FETを採用していました。
パワーMOS FET(メタルオキサイドセミコンダクター・フィールドエフェクトトランジスタ)は,もともと小信号のス
イッチング素子として開発されたMOS FETをもとに,すぐれた高周波特性,スイッチング速度をそのままに,
大電力増幅を可能にしたものでした。しかも,入力インピーダンスが高いため,ドライバー段の負担が少なく,比
較的シンプルな回路構成で高音質が得られることや,二乗特性の伝達関数を持つため,歪みが偶数次のもの
が主体で音質への悪影響が少ないこと,ゲートが絶縁された電圧制御素子であるため,ドライバー段と出力段
を電気的に分離でき,互いの干渉をなくせることなど,多くのすぐれた特徴を持っていました。
出力段は,チャンネルあたりパラレルプッシュプルで2ペア,計8個のパワーMOS FETを使用したもので,6Ω
負荷で140W+140Wの出力を実現していました。さらに,電圧増幅段(Aクラス段),およびドライバー段にも
MOS FETを採用し,555シリーズでは初めて,入力から出力までのオールFETアンプ構成としていました。
さらに,出力段には,「S.L.L.(スーパーレガートリニア)方式」が採用されていました。これは,スイッチング歪や
やクロスオーバー歪を防ぐために,通常用いられる可変バイアスや電源電圧値の変動などの手法を用いずに
固定バイアス方式をとりながら,高速出力素子であるパワーMOS FETを極小カットオフ領域で働かせるもの
で,実効出力時ばかりではなく,実使用再生レベルでの低歪化を実現していました。
フォノ入力に対しては,高性能ローノイズFETを採用したフォノイコライザーが搭載され,全体として,フォノイコ
ライザーアンプとパワーアンプからなるシンプルな2アンプ構成となっていました。
TA-F555ESJは,ソニー自慢の「Gシャーシ」と呼ぶ頑丈なベースシャーシが採用されていました。「Gシャー
シ」は,「アコースティカル・チューンド・G(ジブラルタル)・シャーシ」の略称で,スペインの最南端の小半島で自
然の要塞と呼ばれる「ジブラルタルの岩」にちなんで,堅く重い岩のようなシャーシということで名付けられた名
称で,TA-F555ESX以来継承されてきたものでした。Gシャーシは,大理石の主成分である炭酸カルシウム
を不飽和ポリエステルに加え,グラスファイバー(ガラス繊維)で強化したもので,高い強度を有しながらも,金
属に比べて内部損失が大きく,すぐれた振動減衰特性をもっていました。また,Gシャーシは非磁性・非金属
であることから,電源トランスやコンデンサーなどから誘発される電磁歪,渦電流の発生がないというメリット
ももっていました。さらに,TA-F555ESJでは,天板にもGシャーシと同じ素材によるGルーフを採用し,アン
プ本体の剛性をより高めていました。
各パーツのGシャーシへの実装についても,オーディオ回路基板,電源トランスを直付けにして固定し,フロン
トパネル,端子パネル,ケースは,Gシャーシの上に連結アングルを入れて固定するなど,より強固に剛体化
されていました。ヒートシンクには,厚さ20mmのアルミ押し出し材を採用し,クラスを上回る放熱容量を実現
するとともに,出力段素子の鳴きを抑える高い強度を確保していました。
電源部は,S.T.D(Spontaneous Twin Drive)電源と名付けられた強力な電源部を搭載していました。これ
は,Aクラス段とBクラス段に独立して整流回路を設け,独立して電源供給を行うことでAクラス段へのBクラス
段の干渉を防ぎ,安定した動作と音の透明度をねらったものでした。また,電源トランスには,内部のコア材
や充填材に至るまでヒアリング繰り返して選定した,シールドケース入りの大容量電源トランスを採用し,コン
デンサーには,オーディオ用アルミ電解コンデンサーを採用していました。そして,コンデンサーは,Aクラス段
とBクラス段のコンデンサーは分離配置され,さらに,Bクラス段のコンデンサーは振動・共振の発生を防ぐた
め,バイブレーションプラットホームに国定されていました。このほか,電源回路及びオーディオ回路には,
モールディング電解コンデンサー,銅クラッド電解コンデンサーなど,吟味されたパーツを要所に投入していま
した。また,ACラインからのノイズ混入を防ぐESフィルターも搭載されていました。
内部レイアウトにおいては,シンプル&ストレート伝送を追求していました。余裕をもたせた大容量シャーシ
に,入力端子からスピーカー端子まで,信号の流れに沿って回路基板,電源トランスなどを合理的にレイア
ウトし,回路構成,内部レイアウトをシンプル化することで,スムーズなオーディオ信号の流れを実現してい
ました。
ボリュームには,低歪の印刷抵抗,非磁性・金メッキ処理の摺動子ブラシを採用した新開発の高音質ボ
リュームが採用されていました。回路基板には,銅箔70μm厚のOFC回路基板が採用され,背面の端子
には真鍮削り出し金メッキピンジャック端子や金メッキスピーカー端子が搭載されていました。
機能的には,プリメインアンプとして標準的ながら,十分な機能を実現したものでした。通常使用する,電源
スイッチ,ボリューム,インプットセレクター等を除く,BASS,TREBLE独立のトーンコントロール,サブソ
ニックフィルター,MODEスイッチ,レックアウトセレクター,スピーカー切替,バランス,カートリッジロードな
どのスイッチ,ツマミ類は,下部のシーリングポケット内に収納されたデザインが採用され,機能の割にシン
プルなフロントパネルが実現されていました。さらに,通常の音量調整やインプットセレクターなどが操作で
きるリモコンも装備されていました。
CDなどのハイレベル入力に対応して,トーンコントロール,サブソニックフィルター,バランス,モードスイッチ
などの回路をジャンプして,より鮮度の高い音質が期待できる,ソースダイレクトスイッチや,さらにインプット
セレクターをも経由せず,最小限の経路で接続できるダイレクトイン端子,サラウンドプロセッサー等の機器
を接続できるアダプター入出力端子もリアパネルに装備されていました。
以上のように,TA-F555ESJは,ソニーの当時のプリメインアンプの最上級機として,各部にしっかりと物
量と技術を投入したしっかりとした作りのアンプでした。MOS FETを全面的に採用し,高域に向かっての
華やかさと厚みもしっかりある音が実現されていました。
SONY TA-F333ESJ
STEREO RRE-MAIN AMPLIFIER ¥90,000
TA-F555EJには,弟機としてTA-F333ESJがありました。外観もGルーフの分パネルの高さが少し
低い以外,ほぼ同一で,回路構成等もほぼ継承された内容を持っていました。
TA-F555ESJと比べ,出力がやや小さくなり,OFC回路基板,Gルーフ,真鍮削り出し金メッキジャック
金メッキスピーカー端子等が省略されていました。しかし,音の傾向はほぼ同じで,コストパフォーマンス
が大きく高められていました。
以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
Sony AMPLIFIER
回路,機構,デバイスの3要素を突きつめる中から生まれるESアンプ。
オールFETアンプ構成の採用など,音質をさらにブラッシュアップしました。
TA-F555ESJ
オールFETアンプ構成,
非磁性パワーMOS FET出力段採用。
細部にわたって音質を磨きあげた
リファレンスESアンプ。
TA-F333ESJ
透明度の高い,みずみずしい音。
オールFETアンプ構成,
非磁性パワーMOS FET出力段採用の
スタンダードESアンプ。
TA-F555ESJ | TA-F333ESJ | |
実効出力 (20~20,000Hz) |
170W+170W(4Ω)
140W+140W(6Ω) 120W+120W(8Ω) |
140W+140W(4Ω) 120W+120W(6Ω) 100W+100W(8Ω) |
高調波ひずみ率 | 0.004%(10W出力,8Ω) | 0.004%(10W出力,8Ω) |
混変調ひずみ率 | 0.004%(実効出力,8Ω,60Hz:7kHz=4:1) | 0.004%(実効出力,8Ω,60Hz:7kHz=4:1) |
周波数特性 | PHONO MM:20Hz~20kHz±0.2dB LINE系 2Hz~200kHz+0,-3dB |
PHONO MM:20Hz~20kHz±0.2dB LINE系 2Hz~200kHz+0,-3dB |
SN比 | PHONO 87dB(MM),70dB(MC)
LINE系 105dB |
PHONO 87dB(MM),68dB(MC) LINE系 105dB |
入力感度/インピーダンス | PHONO MC(3Ω):170μV/100Ω PHONO MC(40Ω):170μV/1kΩ PHONO MM:2.5mV/50kΩ LINE系:150mV/20kΩ |
PHONO MC(3Ω):170μV/100Ω PHONO MC(40Ω):170μV/1kΩ PHONO MM:2.5mV/50kΩ LINE系:150mV/20kΩ |
出力レベル/インピーダンス | REC OUT 150mV/1kΩ HEAD PHONE 25mW/8Ω |
REC OUT 150mV/1kΩ HEAD PHONE 25mW/8Ω |
トーンコントロール | BASS(100Hz) ±7dB TREBLE(10kHz) ±6dB |
BASS(100Hz) ±7dB TREBLE(10kHz) ±6dB |
電源 | AC100V 50/60Hz | AC100V 50/60Hz |
消費電力 | 300W | 260W |
大きさ | 470(幅)×170(高さ)×435(奥行)mm
※サイドウッド取りはずし時430(幅)mm |
470(幅)×165(高さ)×435(奥行)mm ※サイドウッド取りはずし時430(幅)mm |
重量 | 24.6kg | 21.3kg |
※本ページに掲載したTA-F555ESJ,TA-F333ESJの写真
仕様表等は,1992年10月のSONYのカタログより抜粋した
もので,ソニー株式会社に著作権があります。したがってこれら
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