TA-F555ESLの写真
SONY  TA-F555ESL
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥138,000

1990年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。1986年,TA-F333ESXで,クラスを無視したかのような物量
投入の戦略モデルとして798クラスのプリメインアンプに衝撃を与えたソニーは,その上級機 TA-F555ESXで
も,クラス最大の物量投入を行い,強力なモデルを作り上げました。その後,TA-F555ESX→TA-F555ESXU
→TA−F555ESR→TA−F555ESGとモデルチェンジしながら改良が行われていきましたが,1990年に発売さ
れたTA-F555ESLでは,デザイン的にも内容的にも一新され,次代のTA−F555ESA→TA−F555ESJのベー
スモデルとなった1台でした。

TA-F555ESLの最大の改良点は,パワー素子として新たにパワーMOS FETを採用していたことでした。MOS
FET(電界効果型トランジスター)は高周波特性が良好で,高集積化できるという特長から,小信号を扱う回路に幅
広く用いられてきましたが,その良好な高周波特性は,広帯域化,大出力化を進めていく上で,パワー素子としても
優れた資質となっていました。(1)原理的に温度係数が負であり熱的安定度が高く安全動作領域(ASO=Area Safe
Operation)が広い。(2)多数キャリアディバイスであるため大電流でも高速スイッチングが可能。(3)入力抵抗が大
きいため,パワー用に用いた場合,電圧増幅段(Aクラス段)と電力増幅段(Bクラス段)が電気的に分離できる。など
の特長がありましたが,反面,ON値抵抗が大きくパワーロスが大きめで,出力を上げるには,大きな素子と大きな
電源部が必要となるという問題点もありました。しかし,この頃になるとMOS FET自体の改良が進み,旧タイプのも
のに比べ,ON値抵抗が下がったことで,パワーロスが減少し,従来に比べて大出力が得やすいようになっていまし
た。TA-F555ESLでは,チャンネルあたりパラレルプッシュプルで2ペア,計8個のMOS FETが使用されていまし
た。MOS FET使用に合わせ,回路基板もパターンが完全に設計し直された新しいものとなり,基板の材料も,従
来のフェノール基板から強度の高いガラスエポキシ基板に変更されていました。

MOS FET

TA−F555ESLには,ソニー自慢の「Gシャーシ」と呼ぶ頑丈なベースシャーシが採用されていました。この「Gシャー
シ」は,「アコースティカル・チューンド・G(ジブラルタル)・シャーシ」の略称で,スペインの最南端の小半島で自然の
要塞と呼ばれる「ジブラルタルの岩」にちなんで,堅く重い岩のようなシャーシということで名付けられた名称で,TA
-F555ESX以来継承されてきたものでした。大理石の主成分である炭酸カルシウムを不飽和ポリエステルに加え,
グラスファイバーで強化した素材を一体成形したもので,クラス最大級の重量と鉄板シャーシに比べ格段に優れた剛
性を誇りました。非磁性体,非金属であるため,磁気的な歪みも発生せず,熱にも極めて強いため温度変化による
経時変化もほとんどないという優れたベースシャーシでした。形状も部分振動や分割共振を排除するために,振動
しやすい突起した部分をなくし,厚さを十分にとり,縦横にリブを走らせて剛性を高めていました。そのリブの厚みや
間隔もランダムなものとして特定の共振モードを持たないようにされていました。

GシャーシTA-F555ESLの内部

この音響的にチューニングされた「Gシャーシ」をベースに各パーツの実装時に一段と剛体化する構造がとられてい
ました。オーディオ回路のプリント基板や電源トランスなどの主要パーツは,Gシャーシに直付けして強固に固定され
ヒートシンクは,パワートランジスター取付部付近の厚さ20mmにもおよぶ大型アルミ押し出し材が採用されていま
した。さらに,フロントシャーシ,端子パネル,ケースを「Gシャーシ」上に,要所要所に連結アングルを入れ,相互に
補強し合うように取り付けることで,より強固なシャーシ構造が実現され,不要振動による音の汚れを抑えていました。

電源部は,S.T.D(Spontaneous Twin Drive)電源と名付けられた強力な電源部を搭載していました。これは,A
クラス段とパワー段に独立して整流回路を設け,独立して電源供給を行うことでAクラス段へのパワー段の干渉を防
ぎ,安定した動作と音の透明度をねらったものでした。そして,電流供給を行う電源トランスと,それを受け止める電
解コンデンサーの容量バランスにも配慮され,電源部全体としての能力が高められていました。また,電解コンデン
サーには,ケース内部で小型のコンデンサーを数個パラレルに接続したスタッキングタイプが採用され,これにより
瞬時の電流供給能力が高められると同時に,巻箔によるコイル成分も減少して自然な音が実現されていました。
フラックスの影響も避けるために,Bクラス段用のコンデンサーとAクラス段用のコンデンサーは分散して配置され
容量の大きいBクラス段用のコンデンサーは,バイブレーションプルーフプラットフォームで強固に固定され,防振性
がより高められていました。電源トランスは,316VAの容量で,磁気シールドケースにコンパウンド充填してがっちり
固めたうえでGシャーシに強固に固定され,不要な振動が抑えられていました。

回路構成は,フォノ・イコライザーアンプとパワーアンプのシンプルな2アンプ構成として,シンプルな回路構成の中に
高品質なパーツや素材を投入する設計でした。パワー段は,高速出力素子Hi-fγトランジスタを極小カットオフ領域
で動作させ,スイッチング歪みやクロスオーバー歪みを低減させる「スーパー・レガート・リニア方式」が継承されてい
ました。イコライザーアンプには,高域応答性に優れTIM歪みのないローノイズHi-gmFETが採用されていました。

TA-F555ESLのシーリングパネル内部

機能的には,プリメインアンプとして標準的ながら,音質重視の十分な機能を実現したものでした。トーンコントロール
は,ボリューム位置によって効果量が変化せず,低インピーダンス設計が可能なCR型の回路が採用され,アッテネー
ターにも小音量時のSN比が改善できる低インピーダンス型(120kΩ→30kΩ)が採用されていました。
CDなどのハイレベル入力に対応して,トーンコントロール,サブソニックフィルター,バランス,モードスイッチなどの
回路をジャンプして,より鮮度の高い音質が期待できる,ソースダイレクトスイッチや,さらにインプットセレクターをも
経由せず,最小限の経路で接続できるダイレクトイン端子もリアパネルに装備されていました。

通常使用する,電源スイッチ,ボリューム,インプットセレクター等を除くスイッチ,ツマミ類は,下部のシーリングポケ
ット内に収納されたデザインが採用され,機能の割にシンプルなフロントパネルが実現されていました。さらに,通常
の音量調整やインプットセレクターなどが操作できるリモコンもシリーズ中初めて装備されていました。このリモコンは
音質への影響を抑えるため,電子スイッチや電子ボリュームではなく,マイコン制御の小型モーターにより内部でロー
タリースイッチを回転させるインプットセレクターやボリュームを回転させる方式がとられ,操作後はマイコンを自動停
止させるようになっていました。

CD,DAT,映像機器等,音楽ソースの多様化,デジタル化が進んできた1990年代のプリメインアンプとして,入出
力端子の充実もなされていました。CD,PHONO,TUNERに加えて,DAT/TAPE端子が3系統設けられていた他
グラフィックイコライザーやサラウンドプロセッサー等の接続に便利なアダプター端子も設けられ,アダプター使用と
ノーマルの切替は,フロントのシーリングポケット内のスイッチでできるようになっていました。

以上のように,TA-F555ESLは,ESシリーズのアンプとして,大幅に改良された新世代のトップモデルとして技術的
にも物量的にも力の入った設計となっていました。音質の面でも,繊細さクリアさをもちながら,耳あたりの良いバラン
スのとれた音が実現され,MOS FETの良さも評価された1台でした。そして,このTA-F555ESLをもとに次代のES
シリーズが展開されていくこととなりました。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



さらに艶やかで高純度な
サウンドをめざして−。
新フォルムに身をつつんだ
ESアンプの最高位モデル。


【ニューフォルム・リファレンス】

◎あらゆる角度から無振動・無共振設計を追求。
 音の透明感,解像度を大きく向上させるGシャーシ。
◎広ダイナミックレンジ再生と,躍動感あふれる
 重低音の再生を可能にする新開発S.T.D.電源。
◎デジタルソースの音の純度を限りなくピュアに伝えるため,
 さらに徹底したソニー伝統のシンプル&ストレート伝送。
◎大出力かつ広帯域の再現能力を両立させるため
 ファイナルトランジスターにパワーMOS-FET採用。




●TA-F555ESLの主な仕様●

実効出力
(20〜20,000Hz)
170W+170W(4Ω) 
140W+140W(6Ω) 
120W+120W(8Ω)
出力帯域幅 10Hz〜100kHz(60W出力,高調波歪率0.02%,8Ω)
高調波ひずみ率 0.001%(10W出力,8Ω)
混変調ひずみ率 0.004%(定格出力時,8Ω,60Hz:7kHz=4:1)
周波数特性 PHONO  RIAAカーブ±0.2dB(MM)
LINE系   2Hz〜200kHz(+0,−3dB)
SN比 PHONO 87dB(MM),70dB(MC) 
LINE系  105dB
入力感度および 
入力インピーダンス
PHONO,MM 2.5mV/50kΩ 
MC(40Ω)  170μV/1kΩ 
MC(3Ω)   170μV/100Ω 
LINE系     150mV/30kΩ
出力電圧および 
出力インピーダンス
REC OUT 150mV/1kΩ 
HEAD PHONE 25mW/8Ω
適合スピーカーインピーダンス 4〜16Ω 
トーンコントロール BASS(100Hz)  ±7dB
TREBLE(10kHz) ±6dB
サブソニックフィルター 15Hz以下,6dB/oct
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 300W
大きさ 470(幅)×170(高さ)×435(奥行)mm 
 ※サイドウッド取りはずし時430(幅)mm
重量 24kg


※本ページに掲載したTA-F555ESLの写真,仕様表等 は,1990年
 10月のSONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作
 権があります。したがってこれらの写真等を無断で転載・引用等する
 ことは法律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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