SONY TA-F60
INTEGRATED STEREO AMPLIFIER ¥69,800
1978年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。ソニーは,1977年にTA-F6Bでパルス電源を開発
搭載し,話題を集め,パルス電源搭載アンプをプリメインアンプ,セパレートアンプへと展開していきま
した。そんなパルス電源を搭載したTA-F80を最上級機とするプリメインアンプの第2世代の売れ筋価
格帯の機種として発売されたのがTA-F60でした。

TA-F60の大きな特徴は,ストレート伝送をめざしたコンストラクションでした。信号の流れに沿った最
短距離の部品配置を徹底し,背面の入力端子からフロントパネルのイコライザーアンプへの信号の経
路は,その間のワイヤリングに容量の大きなシールド線の使用を避け,プリントパターンを用いて信号
の劣化を防いでいました。また,プリアンプ部は,フロントパネルそのものをシャーシ化し,信号の流れ
に沿ってスイッチ類を配した構造となっていました。さらに,プリ部とパワー部をはっきりと分けるため,
シールド板ではっきりと分けた構造として,相互干渉を低減していました。

パワー部のパワートランジスタには,バイポーラ型トランジスタながら,動作領域の広帯域化が図られ
たHi-fTトランジスタが使用されていました。通常のバイポーラトランジスタでは,大電力を扱うものほど
高域の信号に対する応答性が悪く,過渡混変調歪が発生していました。これを防ぐために,遮断周波
数(fT)を伸ばしたHi-fTトランジスタが採用されていましたが,大電力に対する強度の問題もありまし
た。そのために,ソニーは細かいライン状のパターンをとったHi-fTトランジスタを開発・搭載していま
した。このHi-fTトランジスターは,高域特性のよい小電力トランジスターを無限大個集積したようなも
ので,大電力に対しても十分な安全動作をするとともに,動作領域の広帯域化を実現していました。

そして,通常パワートランジスタをヒートシンクの放熱を考えて,間隔を離して配置したり,ヒートシンク
自身の位置を回路基板から離して配置する必要があり,必然的に線材の長さを増やし,大きな磁界
発生源となって音質の劣化につながる可能性が高くなっていました。その対策として,減圧した銅パイ
プの中に特殊な液体を封入し,液化・気化を連続的に行うことでパイプの端から端へ瞬時に熱を伝え
る同径の金属棒の数百倍という熱伝導率をもつヒートパイプという技術を使用していました。ソニーは
宇宙船で開発された技術・ヒートパイプをオーディオ用として初めて利用したブランドでした。ヒートパイ
プでいったん熱を回路の外に逃がし,あらためてラジエーターで放熱するという構造をとることで,パ
ワートランジスタやパーツの配置の自由度が増し,信号の流れに沿った配置が可能となるとともに,大
電流の流れる線材が少なくなり,磁界の発生が抑えられていました。

電源部には,ソニーが当時,積極的に推し進めていたパルス電源を搭載していました。パルス電源は
従来の大型の電源トランスと整流回路という電源方式とは異なる電源トランスを使わない電源方式で
した。AC100Vをそのまま整流し,ここで得られた直流(正確には脈流)を、パワーオシレーター(発振
器)で可聴帯域外の高周波のパルス(方形波)に変換し,これを高周波トランスで絶縁,変圧した後,
再び整流してアンプの電源電圧を得るというものでした。高い周波数のパルスでエネルギーを伝えるた
め高効率で,大型のトランスを用いた電源と同じ電源供給能力を持っていました。また,普通の正弦波
の整流と異なり,整流しただけでほぼ直流状態が得られるため,すぐれたレギュレーションが容易に得
られ,さらに,AC100Vを直接整流するためハム雑音の発生がほとんどないという特徴もありました。
さらに,ほぼ電子回路で構成されるため,形状は小さく自由に変えられ,軽量という利点もありました。
反面,パルス電源は高周波を扱っているために,電磁波が周囲のアンプ回路に与える影響の問題が
ありました。そのため,厳重な電磁シールドを施した密閉構造が取られていました。パルス電源と同様
の方式の高効率電源は「スイッチング電源」「デジタル電源」等とも呼ばれ,他社では,ビクターが試作
機を発表したりしていましたが,実用化され,製品として出していたのは,サンヨーぐらいで,限られてい
ました。パルス電源は,後にNECの名機 A-10の初代機で「リザーブ電源」に使われていましたが,そ
れ以外にはあまり一般的には使われていませんでした。これは,スイッチングによる電磁波の影響が,
アンプ内部や他の機器に与える影響を抑えきれなかったためといわれています。しかし,デジタル技術
が進み,デジタルアンプさえも出てきた後の時代になり,海外製の高級アンプ(ジェフロウランドDGなど)
でも,スイッチング電源がその電源供給の安定性に着目されて新たに搭載されている例も出てきました。

プリ部のイコライザーアンプは,ハイゲインイコライザーで,MMだけでなく,ゲイン切換によりMCカート
リッジをダイレクトに入力できるようになっていました。イコライザーアンプには,LECトランジスタを使用
していました。LEC(Low Emitter Concentration=エミッタ濃度が低い)トランジスターは,当時ソ
ニーの技術陣によって開発された素子で,電流増幅率をアップしても,特性制御の不安定,雑音の増
加がないというすぐれた特性を持つ素子でした。こうしたLECトランジスターの低雑音特性により,MC
カートリッジ使用時にも,SN比75dB(0.25mV入力)を実現していました。また,PHONO端子には
金メッキ端子が採用されていました。
そして,パワーアンプ部は,低域位相回転を抑え,原音波形の揺れを防ぐDCパワーアンプとなってお
り,電圧変動率7%以下という,パルス電源の高い安定性が安定した動作を確保し,75W+75W
(8Ω負荷・両チャンネル駆動,高調波歪率0.01%,20Hz~20kHz)の出力を実現していました。
また,フロントパネル上部には,LEDによる13ステップデジタルピークパワーインジケーターが搭載さ
れ,0.005W~100Wのパワーが直読できるようになっていました。

機能的には,プリメインアンプとしてオーソドックスで,BASS,TREBLE独立のトーンコントロール,ラ
ウドネススイッチ,15Hz,-6dB/octのLOWフィルター,STEREO/REVERSEのモードスイッチなど
が搭載されていました。入力は,PHONO,TUNER,AUX,TAPE2系統が装備され,TAPEは相互
ダビングが可能となっていました。

以上のように,TA-F60は,当時のソニーのプリメインアンプの売れ筋価格帯の主力機として,サンス
イをはじめとするプリメインアンプの人気ブランドに対抗しようと,パルス電源,Hi-fTトランジスタなど
先進的な技術を投入した意欲的な設計がなされた1台でした。一見オーソドックスなデザインで,見た
目よりも軽量ながら,しっかりとしたクリアな音が聴ける実力派のアンプでした。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



75W+75W
ひずみ率0.01%以下
凝縮された価値を求めた
高級プリメインアンプです。

◎ストレート伝送
◎プリ/パワーセパレート構造
◎ヒートパイプ
◎Hi-fTトランジスタ採用
◎パルス電源
◎MCカートリッジダイレクト入力
◎DCパワーアンプ

●13ステップデジタルピークパワーインディケーター
●LOWフィルター
●2系統テープモニタースイッチ
●両方向テープコピースイッチ
●スピーカーAB切換えスイッチ
●スピーカー端子はプレート圧着型




●主な仕様●


実効出力 75W+75W(8Ω負荷両チャンネル駆動時に,高調波ひずみ率
     0.007%で20Hz~20kHzの帯域内で得られるRMS出力)
出力帯域幅 5Hz~30kHz(37.5W,8Ω高調波ひずみ率0.01%IHF)
高調波ひずみ率 実効出力時:0.01%20Hz~20kHz)
10W出力時:0.008%(20Hz~20kHz)
混変調ひずみ率
0.01%:実効出力(等価正弦波出力)時,60Hz:7kHz=4:1
残留雑音
150μV(8Ω,Aネットワーク)
ダンピングファクター 40(1kHz,8Ω)
入力感度および入力インピーダンス
 入力端子       感度    入力インピーダンス  SN比(Aネットワーク)
PHONO(MM)   2.5mV      50kΩ        88dB
PHONO(MC)  0.25mV      100Ω        75dB
TUNER,AUX                50kΩ      100dB
TAPE 1,2
PHONO最大許容入力 PHONO(MM) 250mV
PHONO(MC)  25mV(1kHz) 
周波数特性
PHONO RIAA偏差±0.2dB 
消費電力 110W(100V,50/60Hz)
大きさ 430(幅)×160(高さ)×340(奥行)mm 
重量 6.7kg

※本ページに掲載したTA-F60の写真,仕様表等は,
 1978年10月のSONYのカタログより抜粋したもの
 で,ソニー株式会社に著作権があります。したがって
 これらの写真等を無断で転載・引用等することは法
 律で禁じられていますのでご注意ください。

 

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