SONY
TA-F777ES
INTEGRATED AMPLIFIER ¥185,000
1983年に,ソニーが発売したプリメインアンプ。前年に発売された
TA-F555ESの上
級機で,当時のソ
ニーのプリメインアンプの最上級機でした。この当時,同社のプリメインアンプは,回路技術は先進的なも
のを見せていたものの,パルス電源等により高効率かつ比較的薄型・軽量のものが多く,そのためか,注
目度はあまり高くありませんでした。しかし,TA-F555ESでは,筐体も薄型でなくなり,新たにブラックパネ
ルを採用し,オーソドックスな電源部としっかりした重量を持ったタイプのプリメインアンプに回帰していまし
た。そして,同社の栄光の型番777を付けられた上級機TA-F777ESは,堂々とした重量級の筐体を持っ
ており,当時の同社のプリメインアンプの中では異色の存在でした。
TA-F777ESの最大の特徴は,「オーディオカレントトランスファ方式」の採用でした。これは,1981年の
TA-AX8で開発されたもので,プリアンプ部とパワーアンプ部の間に,新たにカレント変換アンプを挿入し
て,電圧信号として出てくるプリアンプ部の出力を,いったん電流信号に変換し,その後カレント変換アンプ
終段に設けられた「リニアゲインコントロール方式アッテネーター」により,改めて電圧信号に戻すという回
路方式でした。この方式により,従来のアンプの電圧信号→電圧信号という伝送方式では不可避であった
スイッチやコネクターの接触抵抗,線材の持つ固有インピーダンスなど,音に影響していた要素をほとんど
無視できるようになるということでした。また,パワーアンプ部から見たプリアンプ部の出力インピーダンス
は,ほぼ無限大となり,電気的に見て完全に切り離されたのと同等と見なすことができるというものでした。
TA-F777ESでは,プリアンプ部とパワーアンプ部,そして左右チャンネル間,合計4つのアンプを電気的
に独立させた形となり,実使用時のダイナミックレンジ120dBと100dBのセパレーション特性が実現されて
いました。ボリュームにあたる「リニアゲインコントロール方式アッテネーター」は,「オーディオカレントトラン
スファ方式」により搭載可能となった,通常よりも電流容量が大きく抵抗値が低い可変抵抗器を使ったもの
で,ゲインを下げるほどインピーダンスが低下し,実使用レベルでの,諸特性が改善されていました。
パワーアンプ部には,「レガートリニア方式」が採用されていました。これもTA-AX8で開発され,当時の同
社のプリメインアンプに広く採用された技術でした。パワーアンプ部で問題となるスイッチング歪やクロスオー
バー歪みを防ぐために,この当時,各社でノンスイッチング方式や疑似A級方式など,可変バイアスや電源
電圧値の変動などの手法が多く採用されていました。「レガートリニア方式」は,固定バイアス方式をとりな
がら,高速出力素子Hi-fTトランジスタを極小カットオフ領域で働かせるもので,動作領域が広く,応答スピー
ドが速い素子により,超高域までスイッチング歪やクロスオーバー歪が低減されていました。TA-F777ES
のパワーアンプ部では,4パラレルプッシュプル構成がとられ,広帯域にわたりスイッチング歪,クロスオー
バー歪が激減し,インピーダンス4Ωのスピーカーを接続しても歪みが増加せず,180W+180Wの出力
が実現されていました。
イコライザーアンプ部,カレントトランス部,パワーアンプ部にDCサーボ付きアンプが採用されていました。
さらに,回路,素子の熱変調歪を追放するため,コンスタントPC回路が,イコライザーアンプとパワーアンプ
初段の差動部に採用されていました。
イコライザーアンプ部は,MMカートリッジ,MCカートリッジの両方に対応し,MM:330pF/100pF,MC:
40Ω/3Ωとそれぞれ2ポジションのセレクターが装備されていました。MCカートリッジに対しては,コア材
にアモルファス合金を使用し,特殊充填処理が施された昇圧トランスが内蔵されていました。
プリアンプ部電源には,定電流シャントレギュレーターが採用され,パワーアンプ部には2電源トランス,6巻
線,7電源構成と,余裕ある電源部が搭載されていました。
パーツ等の面でも各部に配慮がなされていました。プリント基板,配線材,電源コードには,純度99.99%
のLC-OFCが用いられていました。シャーシは,カッパータイト(銅メッキ処理)ケースが採用され,構成部品
からも極力磁性体が排除されていました。また,パネル面では,ボリュームが左側にあるのは当時の同社の
アンプによく見られる特徴で,信号の流れに沿った配置を行った結果でした。
機能的には,REC OUTセレクター,DIRECT/ON切替付きトーンコントロール,ベースブースト,サブソニッ
クフィルターなど,オーソドックスなものが装備されていました。
以上のように,TA-F777ESは,ソニーが1980年前後のころの高効率プリメインアンプ路線から舵を切り,
オーソドックスなアンプへと向かっていった走りの高級機で,外観の印象同様に,クールで歪み感の少ない,
物理特性の良さを感じさせる,整った音が特徴でした。そして,これ以降,ソニー製アンプはしっかりと物量を
投入した戦略的モデル
TA-F333ESX等が登場するなど,人気モデルとなっていきました。