TA-NR1の写真
SONY TA-NR1
MONAURAL POWER AMPLIFIER ¥500,000

1989年にソニーが発売したモノラルパワーアンプ。「ESPRIT」ブランドの製品が消えて以来,久しぶりのソニー製
高級コンポーネントして発売された,超弩級ともいえる大型のモノラルパワーアンプでした。ソニーブランドで発売さ
れ,CDのオリジネーターであるソニーがデジタル時代のパワーアンプとして発売した力作でした。

TA-NR1の回路構成は,初段FET差動入力,カスコードブートストラップ・カレントミラー負荷,2段目カスコードブート
ストラップ,終段ダーリントン接続というもので,クロスオーバーひずみやスイッチングひずみが原理的に発生しないピ
ュアAクラス動作の出力段となっていました。低インピーダンス駆動能力を高めるために,コレクタ損失200W最大許
容電流17AのHi-fTパワートランジスターを20個,10パラレルプッシュプルで構成していました。ゆとりのある電流
供給能力をもたせることで,1Ω負荷連続ドライブも可能にしていました。帰還量も最低限に抑えられていました。純
A級動作の発熱に対しては,ベース厚18ミリのアルミダイキャストによるヒートシンクを使用し,ファンを用いない自然
空冷としていました。フロントパネルには,バックライト付のアナログ式テンプメーターが装備され,ウォームアップ時か
らパワーアンプの動作温度を監視できるようになっていました。

TA-NR1の内部ハイカーボン・スチールシャーシ

強力な出力段を支える電源部も強力なものでした。電源容量750VA,重量14kgにおよぶ,トランスコア全体を硬化
充填材で固めた大型のEI型電源トランスと,電極箔を分割・積層することで特性分布の均一化を図り音質を改善した
スタッキング構造の多素子電解コンデンサーを搭載していました。電解コンデンサーは,電圧増幅段用に6,800μF
2本,3,300μF2本,電力増幅段用に22,000μF2本が搭載され,さらに,各段への電力供給を整流回路から
分離し,大出力時の干渉を絶つS.T.D(Spontaneous Twin Drive)方式が採用されていました。また,トランス,コン
デンサーの外装ケースにはベルベット加工が施されていました。これは,極細・短冊のナイロンパイルを静電気の力で
飛ばし,エポキシ樹脂系接着剤とともに塗布したもので,ケース表面をほどよくダンプし外部振動の影響を排除すると
ともに,自身の震動を効果的に抑える働きをするものでした。
これら強力な出力段と電源部により8Ωで100W,4Ωで200W,2Ωで400W,さらに1Ωで550Wという低負荷
連続駆動が可能な高いスピーカー駆動能力を実現していました。

TA-NR1を支えるシャーシは「ハイカーボン・スチールシャーシ」と称する剛性の高いものが使用されていました。これ
は,工作機械の土台として使われる鋳鉄そのものでできたシャーシで,剛性がきわめて高く,振動減衰特性にすぐれ
ているという特徴を持ち,最大部肉厚21ミリ,重量10.5kgに及ぶというもので,重量級の電源トランス,パワーブロ
ックをはじめすべての重量級のセクションをしっかりと支える土台になっていました。
さらに,7ミリ厚のアルミ押し出し材を使用したフロント&リアパネルと,同じくアルミ押し出し材のコーナーポスト,天板
もアルミ押し出し材にガラス繊維強化モールド製の通気孔,側板はウッドと,剛性が高い筐体構造とともに非磁性化が
徹底されていました。底板は,鉄とベークライトのコンビネーションで,聴感とあわせてアコースティックチューンが構造
体に施されていました。そして,パーツ類も信頼性と試聴により厳選されたものが使用されていました。

TA-NR1のリアパネル

スピーカーターミナルは,万力タイプの真鍮削りだし金メッキ仕様の大型のターミナルで,極太ケーブルも接続できる
ものでした。バランス入力トランスには,均質な材料特性により,高い透磁率を誇る大型パーマロイコアを使用し,低
ひずみ化を実現していました。
入力端子は,ピンジャック・アンバランス入力に加えて,XLRターミナル・バランス入力が装備されていました。ピンジ
ャック仕様の正相/逆相入力が併せて装備され,TA-NR1を2台ブリッジ接続することにより,実効出力を8Ω負荷時
100Wから400Wへ,4Ω負荷時200から800Wへパワーアップを図ることができるようになっていました。

以上のように,TA-NR1は,ソニー久々の高級パワーアンプとして力の入った作りで,純A級動作としっかりした物量
最新技術の投入などにより,ソリッドで凝縮された密度の高い音を実現していました。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。

躍動感に富んだ質の高い音。
パワーを生む源泉を,構造面からも
見つめ入念に設計しました。
◎水の流れにも似て,音がスッと引き出される。
 静かな音のチカラを生み出すサイレントSTD電源。
◎台というよりは”塊”。揺るぎない剛性と重量で
 パーツを支えるハイカーボン・スチールシャーシ。
◎リボン/コンデンサー型を含め,内外のスピーカーを
 十分に鳴らしきる低帰還・ピュアAクラス出力段。
◎外来雑音の影響を受けにくい良質な信号伝送。
 XLRターミナル・バランス入力装備。
◎アルミ押しだし材,ウッド採用の非磁性体構造。
 経験的に熟知したものだけを選んだ良質のパーツ。

 
 
●TA-NR1主な仕様●


形式 モノラルパワーアンプ
回路方式 初段 :FET差動入力,カスコードブートストラップ・カレント
    ミラー負荷
2段目:カスコードブートストラップ
終段 :3段ダーリントン接続
実効出力 100W(20Hz〜20,000Hz,8Ω負荷時)
200W(20Hz〜20,000Hz,4Ω負荷時)
400W(1kHz,2Ω負荷時)
550W(1kHz,1Ω負荷時)
全高調波ひずみ率 0.003%(8Ω負荷,10W出力時)
0.05%(8Ω負荷,実効出力時)
0.05%(4Ω負荷,実効出力時)
0.05%(2Ω負荷,実効出力時)
0.05%(1Ω負荷,実効出力時)
混変調ひずみ率
(60Hz:7kHz=4:1)
0.05%(8Ω負荷,10W出力時)
0.05%(4Ω負荷,10W出力時)
0.05%(2Ω負荷,10W出力時)
0.05%(1Ω負荷,10W出力時)
ダンピングファクター 50以上(1kHz,8Ω)
残留雑音 30μV以下(IHF-Aネットワーク)
SN比 120dB以上(IHF-Aネットワーク)
周波数特性 5Hz〜50kHz+0,−3dB
入力感度/インピーダンス UNBALANCED:1.1V/47kΩ
BALANCED  :0.55V/600Ω
電源 AC100V,50/60Hz
消費電力 460W
大きさ 470W×190H×455Dmm
重量 47.5kg

TA-NR10の写真
SONY TA-NR10
MONAURAL POWER AMPLIFIER ¥800,000

1992年,TA-NR1をベースにさらに内容を強化した上級機TA-NR10が発売されました。見た目は筐体の高さが
やや高くなった以外ほとんど違いが分かりませんが,より余裕のあるスケール豊かな音が実現されていました。

TA-NR10では,まず電源部が強化されていました。電源トランスはEIコアから,,コアサイズ直径120ミリ,重量10
kgの巨大な低リーケージフラックスのトロイダルトランスとなっていました。
平滑用コンデンサーには,TA-NR10同様に,スタッキング構造の多素子アルミ電解コンデンサーを採用し,電圧増
幅段には,9,200μF2本,330μF2本,電力増幅段には,22,000μF2本を搭載していました。

出力段には,新たにパワーMOS FETが採用され,コンプリメンタリリー・ペアで使用して,微少レベルまで高いリニ
アリティを実現していました。TA-NR10には,耐圧200V,最大ドレイン電流12Aの大容量で,取付ベースとリードに
非磁性金メッキを施したカスタムメイド・パワーMOS FETを新開発して搭載していました。TA-NR10の出力段は,ピ
ュアAクラス動作による10パラレル・プッシュプル構成で,ゆとりある電流供給能力により,ロード切替なく1Ω負荷連
続ドライブを可能にしていました。このすぐれた出力段により,裸特性が高められ,NFBはわずか6dBに抑えられていま
した。また,ヒートシンクには新しく純銅ブロックを用いていました。アルミに比べて,熱伝導率約1.6倍の純銅をベース
肉厚18ミリ,1個10kgの重量級ヒートシンクとして,自然空冷のまま使用できる放熱特性と,出力素子の鳴きを抑える
制振性を実現していました。

MOS FET
TA-NR10の内部

パーツ類も新たに厳選され,抵抗1本,コンデンサー1本に至るまで試聴のうえ選択されていました。電圧増幅段
電力増幅段の各回路基板には,制振性を高めたOFC圧延・銅箔70ミクロン厚のガラスサンドイッチ基板が用いら
れていました。スピーカーターミナルは,万力タイプの真鍮削りだし金メッキ仕様の大型のターミナルに加えて,バナ
ナジャックも設けられていました。脚部には,鋳鉄製インシュレーターが採用され,フロアとの接触面には無反発ゴ
ムが使用されていました。

TA-NR10のリアパネル

以上のように,TA-NR1を母体により内容を充実強化したTA-NR10は,重量62kgにも達する超重量級アンプと
なり,低音まで豊かでしなやかさのある音を持った上級機として高い評価を得ました。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。
 
 

緑風にそよぐ枝葉のしなやかさ。
やさしさ,安らぎを包む
大樹の息吹きを体現したい。
◎とうとうと湧きあがる,ゆとりのパワーサプライ。
 静かな音のチカラを生みだすサイレントS.T.D.電源。
◎台というよりは”塊”。揺るぎない剛性と重量で
 パーツを支えるハイカーボン・スチールシャーシ。
◎純銅ブロック・ヒートシンクを採用。低帰還・
 ピュアAクラス動作のパワーMOS FET出力段。
◎外来雑音の影響を受けにくい良質の信号伝送。
 XLRターミナル・バランス入力装備。
◎アコースティック・チューンを施した構造体。
 経験的に熟知したものだけを選びぬいた良質のパーツ。


●TA-NR10主な仕様●


形式 モノラルパワーアンプ
回路方式 電圧増幅段
 初段 :FET差動入力,カスコードブートストラップ・カレント
     ミラー負荷
 2段目:カスコードブートストラップ
 終段 :コンプリメンタリー3段ダーリントンSEPP
電力増幅段
 パワーMOS FET・10パラレルプッシュプル 
実効出力 100W(20Hz〜20,000Hz,8Ω負荷時)
200W(20Hz〜20,000Hz,4Ω負荷時)
400W(1kHz,2Ω負荷時)
全高調波ひずみ率 0.005%(8Ω負荷,10W出力時)
0.05%(8Ω負荷,実効出力時)
0.08%(4Ω負荷,実効出力時)
混変調ひずみ率
(60Hz:7kHz=4:1)
0.05%(8Ω負荷,実効出力時)
ダンピングファクター 100以上(1kHz,8Ω)
残留雑音 30μV以下(IHF-Aネットワーク)
SN比 120dB以上(IHF-Aネットワーク)
周波数特性 5Hz〜100kHz+0,−3dB
入力感度/インピーダンス UNBALANCED:1.1V/47kΩ
BALANCED  :1.1/600Ω
適合インピーダンス 1〜16Ω
電源 AC100V,50/60Hz
消費電力 460W
大きさ 470W×220H×455Dmm
重量 62kg
※本ページに掲載したTA-NR1,TA-NR10の写真,仕様表等は
 1992年10月,1994年10月のSONYのカタログより抜粋した
 もので,ソニー株式会社に著作権があります。したがってこれらの
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 すのでご注意ください。

 
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