SONY TC-2200
STEREO CASSETTE DECK ¥44,800
1970年に,ソニーが発売したカセットデッキ。カセットテープはもともとオランダのフィリップス
社が開発したもので,音楽用ではなく,モノラル録音のメモ程度の用途が考えられていたもの
でした。そして,ライセンスをフィリップス社が開放したことでオープンリールにない便利さもあり
広く普及していきました。そうした中,1968年頃から日本のメーカーは,音楽録音用としてのカ
セットデッキを開発していきました。そして,このTC-2200は,高度な技術を投入し,カセットデッ
キの性能を大きく飛躍させた画期的な1台でした。
TC-2200の最大の特徴は,「クローズド・ループ・デュアル・キャプスタン」を採用していたことで
した。2個のキャプスタンの間にヘッドを置くこの方式は,テープが走行中に起こす振動やテンシ
ョンむらが締め出されるため,テープの走行安定性が飛躍的に高まるというメリットがありました。
しかし,高精度が求められるため,この当時オープンリールデッキでも採用がまだ少ない状況で
した。そのような中,TC-2200は,カセットデッキ初の「クローズド・ループ・デュアル・キャプスタ
ン」の採用を実現していました。そして,この結果,ワウ・フラッターは0.1%に抑えられ,変調雑
音や速度変動も非常に低く抑えられ,テープ速度が遅い故に難しさのあったカセットデッキの走
行系に大きな進展をもたらしていました。
ヘッドには,これもまたカセットデッキ初のフェライトヘッドが搭載されていました。超ナローギャッ
プ1.5μに設定されたフェライトヘッドと,85kHzと当時としては高いバイアス周波数の設定に
より,高SN比とすぐれた高域特性を実現していました。フェライトは,高硬度で耐摩耗性にすぐ
れるとともに,高域特性においても従来のパーマロイ材等よりもすぐれているなど,当時理想の
コア材といわれながら加工の難しさもあり,まだまだ採用が少なかったヘッド材料でした。また,
このフェライトヘッドの採用は,当時,アメリカで登場して話題になり始めた「高性能カセットテー
プ」つまり「クロームテープ」の日本での発売に備えていたもので,それに対応したテープセレク
ター(NORMAL/SPECIAL)も装備されていました。
この高性能なフェライトヘッドを生かすために,これもまたカセットデッキでは初のFETプリアン
プを搭載していました。初段にリニアリティと高域特性がすぐれ,かつ低雑音のFETを2石使用
し,その他の16石のトランジスタも,低雑音,高利得タイプのシリコントランジスターが使用され
ていました。また,発振回路はプッシュプル回路が搭載され,非常にきれいな発振波形が実現
し,ノイズやビートの発生も著しく少なくなっていました。
高性能プリアンプとフェライトヘッドの組み合わせにより,4.8cm/sというテープ速度の限界を
持つカセットデッキとして大きく限界を超えた総合周波数特性20〜15,000Hz(NORMAL)
20〜18,000Hz(SPECIAL)を実現していました。
カセットテープは,コーティング層が薄いことからダイナミックレンジが狭く,録音レベルが過大
になると急激に歪んでしまうため,レベルセッティングの難しさも問題になっていました。ソニー
は同社のカセットデッキ第1号TC-2120(1968年)では自動設定のソニオマチック方式を採
用していましたが,ハイファイ録音からは少し外れていました。そして,TC-2130(1970年)
では,マニュアルで録音レベルを調整した後で,リミッタースイッチを入れておくと,オーバーレ
ベルにはリミッターをかける「ソニーリミッター録音方式」を採用し,TC-2200にも採用してい
ました。
テープ走行の操作ボタンは,ピアノキー式ですが,STOPボタンとPAUSEボタンは形を変えて
分かりやすくし,録音ボタンとEJECTボタンには色を付けて目立つようにするなど,操作系へ
の工夫もされていました。また,テープ走行状態を示すテープパイロットランプや,録音状態に
あることを示すインジケーターも装備されていました。レベルメーターは,トランジスター2石,ダ
イオード2石からなる専用アンプを備えたL・R独立の高精度なVUメーターが搭載されていまし
た。その他,L・R独立のマイク端子,専用アンプを備えたヘッドホン端子(レベル2段階可変)
も装備されていました。
以上のように,TC-2200は,高精度な技術を投入してカセットデッキの性能の限界を大きく
高めた,画期的な1台で,ソニーのテープデッキ技術の高さを示した名機だったと思います。
このデッキ以降,カセットデッキの高性能化がさらに進んでいくこととなりました。