SONY TC-2300
STEREO CASSETTE DECK ¥59,800
1971年に,ソニーが発売したカセットデッキ。カセットテープはもともとオランダのフィリップス
社が開発したもので,音楽用ではなく,モノラル録音のメモ程度の用途が考えられていたもの
でした。そして,ライセンスをフィリップス社が開放したことでオープンリールにない便利さもあり
広く普及していきました。そうした中,1968年頃から日本のメーカーは,音楽録音用としてのカ
セットデッキを開発していきました。ソニーも1968年に,TC-2120からステレオカセットデッキ
をスタートし,オープンリールデッキ時代からのすぐれた技術を発揮していました。そして,初の
オートリバース機能付きのカセットデッキとして発売されたのがTC-2300でした。

カセットテープは,取り扱いのしやすさから次第にオープンリールに代わってテープデッキに主
流となっていきましたが,オートリバース機能の搭載という点においては,コンパクトなカセット
ハーフという規格がネックとなって,オープンリールに比べ設計が難しく,各社苦心していました。
オープンリールデッキでは,テープローディングの自由度が大きく,ヘッド周りに余裕があり,正
方向,逆方向それぞれ専用のヘッドを設けることができ,テープ走行の反転のみで,性能面で
もワンウェイ機にそれほど劣らないものが作りやすいのに対し,カセットデッキではそれが不可
能であったためでした。

TC-2300は,カセットハーフの制約の中で往復両方向のヘッドを実現するために,ひとつの
ヘッドにL・R2チャンネル,往復2チャンネルの合計4機能を備えた4トラック・インライン型が
搭載されていました。これにより正・逆両方向で録音・再生が可能となっていました。



走行系は,クローズドループ・デュアル・キャプスタン方式が採用されていました。2個のキャプスタン
の間にヘッドを置くこの方式は,テープが走行中に起こす振動やテンションむらが締め出されるため
テープの走行安定性が飛躍的に高まるというメリットがありました。しかし,高精度が求められるため
この当時オープンリールデッキでも採用がまだ少ない状況でしたが,ソニーは1970年にTC-2200
でカセットデッキ初のクローズドループ・デュアル・キャプスタンの採用を実現していました。TC-2300
は,これを受けついだものでした。この結果,ワウ・フラッターは0.1%に抑えられ,変調雑音や速度
変動も非常に低く抑えられ,テープ速度が遅い故に難しさのあったカセットデッキの走行系に大きな
進展をもたらしていました。さらに,クローズドループ・デュアル・キャプスタン方式のメカニズムが,左
右全くの対称形であって,正逆いずれに回転させてもその特性が同じである特徴を巧みに利用して
オートリバースを実現させていました。ロータリースイッチと13石のトランジスターで構成される検出
回路でテープの走行状態を監視し,テープが終わると,この回路がプランジャーを介して接点を切り
換え,モーターを逆転させ,予め指定された自動反転,自動反復,自動停止の操作を行う,純電気
的なロータリーセンサー方式となっていました。こうして,テープ逆転のために複雑なメカニズムを用
いず,ヘッドとテープの位置関係についても誤差を生じにくくなっており,高い信頼性と耐久性を実現
していました。

テープ走行のファンクションレバーは,オートリバース,オートリピート,オートストップの3ポジションが
設けられ,最大連続2時間(C-120テープで)の長時間録音・再生,ずっと再生し続けられるリピート
再生,テープ終端でのオートストップが可能となっていました。また,正・逆自由に切り換えられるマニュ
アル操作ボタンがSTOPキーを挟んで設けられ,ファンクションレバーの位置に関係なく,テープの走
行方向を自由に切り換えられるようになっていました。
カセットテープの誤消去防止は,カセットの爪を折ることで検出する仕組みになっていますが,通常の
カセットデッキでは,片側のみのため,正方向のみに有効で逆方向(リバース時)には有効でなくなっ
てしまいます。そこで,TC-2300では,A,B両面用に検知するレバーをそれぞれ計2個搭載し,各レ
バーはマイクロスイッチを介して検出回路に接続されており,A面,B面独立して検出し,誤消去を完
全に防ぐ仕組みとなっていました。

プリアンプは,23石のシリコントランジスターで構成され,特に低雑音・高利得のものが厳選使用され
ていました。発振回路は,プッシュプル回路で,きれいな発振波形で,ノイズやビートの発生も抑えら
れていました。
ナローギャップに設定されたヘッドと,85kHzと当時としては高いバイアス周波数の設定により,30~
14,000Hzの総合周波数特性と49dBという高SN比,2.0%以下という低歪率を実現していました。
当時,アメリカで登場して話題になり始めた「高性能カセットテープ」つまり「クロームテープ」に対応した
テープセレクター(NORMAL/SPECIAL)も装備されていました。SPCIALポジションで,高性能テープ
(つまりクロームテープ)使用時には,30~17,000Hzという周波数特性が実現されていました。

ダイナミックレンジが狭く,レベルセッティングの難しいカセットテープに対応し,ソニーは同社のカセッ
トデッキ第1号TC-2120(1968年)では自動設定のソニオマチック方式を採用していましたが,ハイ
ファイ録音からは少し外れていました。そして,TC-2130(1970年)には,マニュアルで録音レベル
を調整した後で,リミッタースイッチを入れておくと,オーバーレベルにはリミッターをかける「ソニーリミ
ッター録音方式」を採用し,TC-2300にも採用していました。
テープ走行の操作ボタンは,ピアノキー式ですが,STOPボタンとPAUSEボタンは形を変えて分かり
やすくし,録音ボタンとEJECTボタンには色を付けて目立つようにするなど,操作系への工夫もされて
いました。レベルメーターは,トランジスター2石,ダイオード2石からなる専用アンプを備えたL・R独立
の高精度なVUメーターが搭載されていました。その他,L・R独立のマイク端子,専用アンプを備えた
ヘッドホン端子(レベル2段階可変)も装備されていました。

以上のように,TC-2300は,ソニー初のオートリバース機能搭載のカセットデッキとして画期的な1台
でした。走行メカニズム,ヘッドなどにもソニーのすぐれたデッキ技術が生かされていました。デザイン
面,操作性でも高い完成度を示した1台だったと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



純電気的ロータリー・センサー
方式による
オートリバース オートリピート
最高級カセットデッキ

◎純電気的ロータリー・センサー方式による
 オートリバース オートリピート
 オートストップ機構です
◎プロ用機のメカ
 クローズドループ デュアル キャプスタン方式
◎大入力にも歪まない理想の録音方式
 <ソニーリミッター録音>
◎ヘッドは4イン1タイプです
◎プリアンプは
 徹底した低歪率,高S/N設計です
◎完ぺきな誤消去防止装置つきです
◎わかりやすい表示ボタンにより
 マニュアル操作もできます
◎高性能テープ用
 テープセレクタースイッチつきです
◎テープが終わると,メカが解放される
 メカニカル・シャットオフ機構つき
◎専用アンプつきヘッドホン端子
◎3桁のテープカウンター
◎ストロークの長いスライドボリューム
◎テープ装填が確実にできるイジェクトボタン
◎人間工学的に深く配慮された操作ボタン
◎左右独立した本格的VUメーター
◎コマーシャルカットができるポーズボタン




●TC-2300の概略仕様●

外形寸法
400W×127H×276Dmm
重さ
7kg
電源
AC100V 50Hz 60Hz
トラック形式
4トラック2チャンネル
テープ速度
4.8cm/s
トランジスタ
36石
ダイオード
30個
録音バイアス
85kHz
入力
マイク用:ミニジャック×2 600Ω
      最小入力レベル-72dBs(0.2mV)
補助入力用:ピンジャック×2 100kΩ
        最小入力レベル-22dBs(0.06V)
出力
ライン用:ピンジャック×2 10kΩ以上 規定出力0dBs
ヘッドホン用:バイノーラルジャック×1 負荷インピーダンス8Ω
録再コネクター
入力インピーダンス 2.2kΩ
出力インピーダンス 7kΩ
ワウ・フラッター
0.1%WRMS
周波数特性
30~14,000Hz(一般テープにて)
30~17,000Hz(高性能テープにて)
総合歪率
2.0%
総合S/N
49dB
早送り巻戻し時間
C-60テープにて 約80秒
付属品
接続コードRK-74×2
ヘッドクリーニング棒 1組
※本ページに掲載したTC-2300の写真,仕様表等は1971年の
 SONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権
 があります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等
 することは法律で禁じられていますのでご注意ください。

   
 
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