SONY TC-5350SD
STEREO CASSETTE DECK ¥99,800
1974年に,ソニーが発売したカセットデッキ。ソニーとしては初の正立透視型のメカニズムを採用したカセット
デッキで,後のカセットデッキの主流となる形を確立したといえる1台で,テープデッキの分野で高い技術を持っ
ていたソニーならではのカセットデッキでした。

カセットテープ=コンパクトカセットは,オランダのフィリップス社が開発・提唱した方式で,互換性の厳守を条件
に基本特許を無償で公開したこともあり,事実上,テープレコーダーの標準方式となり,世界中に広まりました。
当初,テープ幅やテープ走行速度からくる性能面での制約から,会話録音などメモ程度のモノラル録音を考え
たものでしたが,日本のオーディオメーカーが先頭に立ち,技術的な研究を重ね,音楽用途に耐えうるものとし
て発展させていったことは周知のことでしょう。
カセットテープのハーフは,もともと横置きにした水平な状態で使うことを前提にしていたため,カセットテープを
用いた録音機器は,当初すべて水平型でした。1968年頃から登場し始めたオーディオ用カセットデッキもすべ
水平型でした。しかし,コンポーネントタイプのステレオシステムが主流になってくる時代になり,前面パネル部
に操作系,表示系,テープ駆動部を集中させたいわゆるコンポ型のカセットデッキが求められるようになり,主流
となっていきました。しかし,当初は,カセットハーフを斜めにセットするスラント型横向きに立ててセットするタ
イプ
などでした。当時,もともと水平駆動のメカニズムからスタートしたカセットテープは,立てて性能を保証でき
るかという技術的な不安があったためでした。そうした中,TC-5350SDは,カセットテープをテープ部を下にし
て立てた状態で駆動する,いわゆる正立透視型を採用していました。当時ソニーは,これを正立ローディング方
式と称していました。また,このころ水平型メカニズムをそのまま立てたような形のカセットデッキもありましたが,
TC-5350SDは,水平型とは別に縦型専用のメカニズムを開発し搭載していました。この正立透視型専用の設
計を採用することで,コンポーネントシステムに組み込みやすい筐体構造を実現するとともに,正立のカセットを
カセットリッドを通して見られるので,カセット面に書かれたインデックスもテープの残量も見やすくなるというメリッ
トも実現していました。

走行系は,1モーター構成のシンプルなもので,電磁振動がきわめて少なく滑らかな回転の6極ヒステリシス・シ
ンクロナス・モーターが搭載されていました。自社工場で,ローターのダイナミックバランスをはじめ,シャフトの真
円度まで1ミクロン単位で精度が追求された高精度な製造で生み出されたモーターで,ワウ・フラッター0.07%
以下という高精度な回転を実現していました。今から見るとカセットデッキ用としては異例に大型のモーターで,
空冷のファンまで装備されていました。
テープ走行の操作は,ピアノキー式が採用され,機械式のロジカル・コントロールの採用により,早送り,巻き戻
しの状態から一気に再生状態に,また,録音,再生状態から直接早送り,巻き戻しへと停止ボタンをとびこえて
自由に,無理なテンションかけずテープを痛めることなく,モード切替えができるようになっていました。
3桁のメカニカルカウンターが装備され,巻き戻し時にカウンター「999」でストップするメモリースイッチも付いて
いました。動作は電子式のオートシャットオフ回路と連動し,確実な動作を実現していました。

ヘッドには,ソニー自慢のF&Fヘッドが録音・再生ヘッドとして搭載されていました。F(フェライト)&F(フェライト)
の名の通り,コア部だけでなく,ガード部にまでフェライトを使用したヘッドで,ギャップのスペーサーとコア部の固
定には,ソニーが独自開発したフェライトと同硬度の無歪みガラスによる融合溶着が行われ,耐摩耗性では,従
来のラミネート型ヘッドの200倍以上というものでした。ギャップの加工も非常に高精度で,ギャップの位置精度
(インライン性)も非常に高められた構造をもっていました。ヘッド前面は,均一のブラックミラー(鏡面)仕上げさ
れ,ヘッドタッチの良さと,ゴミの付着しにくいヘッドを実現し,音質劣化の要因を低減していました。

このヘッドに直結するヘッドアンプ初段には,ソニーの独自開発の高性能低雑音FETを使用していました。再生
ヘッドと初段FETとの間にコンデンサーなどの音質に影響を与える素子がいっさい存在しないダイレクト・カップリ
ング方式を採用することで,ヘッドの微少出力をそのままアンプに伝えることができるため,すぐれたS/N比,低
歪みを実現していました。

テープセレクターは,バイアス(NORMAL,HIGH),イコライザー(NORMAL,Fe-Cr,CrO2)独立の切換方式
で,新開発のデュアド(フェリクローム)カセットにも対応していました。ノイズリダクションとしてドルビーNRが採用
され,ヒスノイズの低減を可能としていました。

録音入力は,LINEとMICが装備され,それぞれ独立した録音レベルボリュームが備えられミキシング録音も可
能となっていました。また,リミッタースイッチが装備され,ONにすると,不意の過大入力時のみリミッター回路が
働くようになっていました。フロントパネルにも標準ジャックによるLINE入力が備えられ,ソース機器の一時的な
接続に便利となっていました。出力(LINE OUT)はボリュームにより可変となっており,ヘッドホン端子も装備さ
れていました。
レベルメーターとして左右独立の大型のVUメーターが装備され,中央にはオーバーレベルを表示するLEDを使
用したピークレベルインジケーターが設けられていました。



以上のように,TC-5350SDは,ソニー初の(おそらく世界初の)正立透視型メカニズムを搭載したカセットデッ
キとして高い完成度を実現し,ソニーのすぐれたテープデッキ技術を示していました。カセットテープのハーフを
そのまま透視できる窓を備えたカセットホルダーを兼ねたカセットドアにテープ部を下にそのままセットして使え
るカセットデッキの形はこれ以降主流となっていきますが,ハーフの文字やテープの残量などを見ることができ
る使い勝手の良さやコンポーネントシステムに組み込めるオーディオ機器としての魅力を初めて示した1台とし
ても画期的ではなかったかと思います。音の方もソニーらしい明るくクリアな音で,カセットテープデッキのオー
ディオ機器としての魅力を発揮していたと思います。


以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。



カセット面の正立文字を直接透視できます。
コンポルッキングの利点を生かしきった
タテ使用専用設計。

◎フェライト&フェライトヘッド装備。
◎FETダイレクト・カップリング・アンプ。中高域
 のノイズが減少しています。
◎<デュアド>フェリ・クロームカセットテープが
 使えるEQ,バイアス独立のテープセレクタ
◎テープヒスを追放。ドルビーNRシステム内蔵
◎不意の大入力による歪を防止。<ソニーリミッ
 ター録音>方式
◎連続留守録音/目覚まし再生が可能です
◎正確な3桁のメモリーつきテープカウンター
◎テープが巻き終わると,メカが解除されるオート
 シャットオフ機構
◎超精密ヒステリシス・シンクロナス・モータを採用




●主な規格●

電源
AC100V 50/60Hz
消費電力 28W 
テープ速度
4.8cm/sec
録音時間
C-120で往復120分
トランジスタ等
FET2個,トランジスタ48石,ダイオード44個
IC2個,発光ダイオード1個
トラック方式
4トラック2チャンネルステレオ
総合S/N
ドルビーNRスイッチOFFにて
(フェリクロームカセット,クロミカセット)
 55dB(ピークレベルにて再生イコライザ70μs)
(一般カセット)
 53dB(ピークレベルにて再生イコライザ120μs)
ドルビーNRスイッチONにてS/N改善量は
5dB(1kHz),10dB(5kHz以上)
総合歪率
1.7%
周波数特性
20~17,000Hz(フェリクロームカセット,クロミカセット)
20~15,000Hz(一般カセット)
ワウ・フラッター
0.07%
入力端子
マイクジャック(標準ジャック2)
 最小入力レベル 0.2mV(-72dB)
 ローインピーダンスマイク用
ライン入力ジャック(ピンジャック2)
           (バイノーラルジャック1)
 最小入力レベル 0.06V(-22dB)
 入力インピーダンス 100kΩ
出力端子
ライン出力ジャック(ピンジャック2)
 基準出力0.775V(0dB)100kΩ負荷時
 負荷インピーダンス 10kΩ以上
ヘッドホンジャック
 負荷インピーダンス8Ω
録再コネクター  入力インピーダンス 10kΩ以下
出力インピーダンス 10kΩ以下
大きさ  430W×170H×310Dmm 
重さ  12kg 
※本ページに掲載したTC-5350SDの写真,仕様表等は1975年の
 SONYのカタログより抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権が
 あります。したがって,これらの写真等を無断で転載・引用等すること
 は法律で禁じられていますのでご注意ください。
 
   
 
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